そのシミや湿疹は放置できない皮膚がんの手前⁉︎ まだ間に合う「日光角化症」とは?
こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。
春です。
紫外線が徐々に強くなってくる季節は、油断大敵です。
日焼けはもちろん、シワやたるみ、それにシミの原因になる紫外線ですが、長年にわたる紫外線の刺激によって、ただのシミと思っていたものが、放置すると皮膚がんになる可能性がある日光角化症についてご紹介します。
紫外線は、短期的には皮膚の日やけを引き起こし、長期的には、シミやシワなどの光老化の原因になります。
美容面の問題も女性にとっては深刻ですが、ただのシミや湿疹と思っていたものが、皮膚がんになるリスクを持っていることもありますから、なかなか侮れないのです。
目次
1.日光角化症とは?
日光角化症は、紫外線を長年浴び続ける紫外線ダメージによって起こる皮膚の疾患です。
老人性角化腫とも呼ばれ、腫瘍の「腫」が付くだけあって、皮膚がんの一種である悪性の有棘細胞がんの前段階(表皮内がん)で、放置すると皮膚の深いところを侵す本格的な皮膚がんになってしまうリスクがあります。
特に、アウトドアで日焼けの機会が多い人ほど起こりやすく、皮膚が黒くなるよりも赤くなりやすい人。黄色人種や黒色人種よりも白色人種に多く発生します。
角化細胞に異常を来して、表皮内で異常増殖し始めることで起こります。
異常な細胞は表皮の中にとどまっており(表皮内がん)、表皮の下の真皮までは侵されていません。これを超えると、有棘細胞がんになります。
人口10万人あたり、100〜120人程度で、50代以降、年齢を重ねるごとに増えてきます。
特に女性に多く、日光活動が活発になっている現代、年々増えているため、注意が必要です。
1-1.日光角化症の皮膚症状
日光角化症の皮膚症状は、薄いシミや湿疹のようにみえます。
痛みやかゆみなどの自覚症状はほとんどありません。
数mm~数cmの境界がぼんやりとした淡い褐色から発赤のあるまだらな斑となります。
表面は、角質の異常増殖のために、カサカサとして乾燥したように見え、場合によっては一部にかさぶたや出血、硬いイボや角質が尖ったツノのようになっていることもあります。
日に当たる顔や頭部、手の甲など、服から露出している部分にできやすいのが特徴で、「シミかな?」「湿疹かな?」と見過ごしがちです。
痒くないのにしつこく治らない小さな湿疹があれば、疑ってみた方が良いと思います。
2.放置すると怖い有棘細胞がんとは?
日光角化症は、進行すると有棘細胞癌となり、皮膚を壊しながら増大し、大きな腫瘍となり、転移をする場合もあります。多発したり、次々に発生することも多いので厄介です。
日光角化症の病変から次第に大きくなります。カサカサとして角化していますが、場合によっては潰瘍になります。
ただれたようになることもありますが、しつこく治ることはありません。
日光角化症の段階で早期の発見、早期治療が必要です。
3.鑑別が必要な疾患
見分けがつきにくいものに、良性の老人性イボ(脂漏性角化症)があります。
3-1.脂漏性角化症
脂漏性角化症と日光角化症は名前が似ていますが、放置してもがん化しない前者に対して、後者はがん化するリスクがありますから、全く違います。
脂漏性角化症は、とても一般的な皮膚の老化現象の一つです。
一般的な平坦なシミ(老人性色素斑)を長年放置することで、だんだん盛り上がり、脂漏性角化症になることもあります。
シミがイボ状になるため、老人性イボ、老人性疣贅(ゆうぜい)と呼ばれますが、ウイルス性ではなく、こちらも紫外線によるダメージで起こります。
日光に当たる部分にできやすいですが、体幹部や陰部、太ももなど、日光の当たらない部分にもできます。
大きさは、数mmから数cmで、1つだけできることも散在するようにたくさんできることもあります。
色は、まだらではなく均一で、褐色から黒褐色です。
赤みは通常ありません。
大きいものでは、たまに痒みが出ることもありますが、通常は痒みはありません。
3-2.その他の皮膚がん
皮膚のシミと間違えやすい皮膚がんの代表として以下のようなものもあります。
1.悪性黒色腫
若年から高齢者まで幅広い年齢で発症し、半数は手足に生じるが、次に顔が多い。
色は茶色から黒褐色で、小さい病変では良性腫瘍と見分けがつきにくいが、大きくなると色がまだらになる。
いびつで不整な形で、出血や潰瘍を伴うこともある。
2.基底細胞がん
顔、特に鼻やその周辺に多い。その他の部位にも発生する。
色は黒っぽいがまだらで均一ではない。縁が隆起して、中心がくぼんでいる傾向がある。
3-3.鑑別が難しい場合の検査
皮膚の病変は、明らかに良性である場合を除いて、皮膚生検をして顕微鏡で細胞をみる病理検査をします。
局所麻酔を打って、穴あけパンチのように丸く皮膚をくり抜く方法が一般的です。
この場合、通常、ひと針縫って、後日抜糸をします。
生検と同時に、病変を全て取り切ってしまうこともあります。
皮膚の病気は、顕微鏡で観察することで、細胞が悪性か良性か、またグレーな細胞かがわかります。
4.日光角化症の治療法は?
日光角化症であれば、切除をしなくても治療ができます。
外科的切除をする場合も、取り切ることができます。
4-1.切除をしない場合
切除をしない場合は、外用薬や液体窒素の凍結療法を行うことが一般的です。
外用薬:抗悪性腫瘍剤の外用
・イミキモド:1日1回、週3回自分で外用できる
・5FU軟膏(フルオロウラシル)
凍結療法:液体窒素で凍結させて皮膚を壊死させる。通院が必要。
4-2.外科的切除をする場合
通常は外来通院で、局所麻酔による日帰り手術が可能です。
病変をメスで切除します。
皮膚病理検査を行い、確定診断をします。
5.日光角化症の予防は紫外線対策
予防は、基本的には紫外線対策です。
生まれた時から積もり積もった紫外線ダメージですから、今更若い頃のことを後悔しても始まりませんが、今からしっかり紫外線対策をすることが重要です。
化粧品メーカーと和歌山県立医科大学皮膚科の共同研究で(2014)で、既に日光角化症になってしまった場合でも、日焼け止め(SPF30、PA+++)を18ヶ月使い続けたところ、皮膚症状が軽快し、病理検査でも、症状が悪化せず進行が抑制されたことがわかっています。また、新規発生も抑制されたとされています。
つまり、「日本人において、日やけ止めの継続使用が日に当たる部位の日光角化症の増加や有棘細胞癌への進展を予防する効果がある」と報告しています。
これから紫外線が強くなる季節には、日焼け止めを塗り、帽子などを被って強い日差しを避けましょう。
6.紫外線から皮膚バリア破壊を守るセラミド
紫外線による光老化は、皮膚のバリア機能に大きなダメージを与えます。
皮膚の外側にある角質は、外部の刺激から皮膚を守る大切な役割を担っています。
紫外線は、皮膚で活性酸素を発生させダメージを与えて、皮膚の細胞や構造を壊してしまいます。
皮膚のバリア機能が低下すると、皮膚の水分保持能力が失われ、乾燥しやすくなります。
日に焼けると、皮膚がガサガサになるのはそのためです。
角質は、角質細胞が何層にも重なっており、そのすき間を「細胞間脂質」が埋めています。
これは、細胞と細胞を繋ぎ止めて、バリアの役割を果たし、皮膚から水分が蒸発しないように保持しています。
特に、細胞間脂質のセラミドは、水分と馴染む特殊な脂質で、「ラメラ構造」というミルフィーユのような構造を作って、しっかりと皮膚に水分を保持します。
セラミドは、外用することでも、内服することでも補うことができます。
冬の乾燥対策だけではなく、紫外線を浴びるこれからの季節に、光老化を防ぐためにおすすめです。
7.まとめ
紫外線を浴び続けることで、シミやしわだけでなく、皮膚がんの前段階である日光角化症のリスクを高めます。
放置することで、一部のものは、厄介な有棘細胞がんに移行してしまうことがあります。
シミや湿疹と勘違いしやすい皮膚病変ですが、皮膚科医でも見た目だけでは診断が確定しづらいため、自己判断は禁物です。
日光角化症であれば、予防も治療もできます。
予防には、紫外線対策が最も効果的ですから、これからの季節にはしっかりと対策していきましょう。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか