お酒好き・胆石持ちは注意が必要な「急性膵炎」とは? 再発しないために控えること
こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。
みなさまは急性膵炎という病気をご存じでしょうか?
あまり聞きなれない病気だなと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
急性膵炎とは、膵臓で起こる急性炎症のことです。
膵臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」といわれており、膵臓で異常が起きていても自覚症状をあまり感じることがありません。
若いときと比べ、40代になると体の不調を感じることが多くなりました。
そのため少しの体調不良であれば「年齢のせいかな」「たまに起こるから大したことはないかな」と油断してしまうことも増えてきました。
実は筆者の職場の上司に「急性膵炎」を患った方がいます。
早めに治療を行うことができたため、いまも一緒に働いています。
しかし急性膵炎はそのまま放置しておくと合併症を引き起こしたり、命に危険を及ぼすこともある怖い病気です。
自分や大切な人が体の不調を訴えたとき、どのように対処したら良いのか判断がつかないことも少なくありません。
だからこそあまり馴染みのない急性膵炎がどんな病気で、どのような初期症状がみられるのか知っておくことが大切です。
今回は急性膵炎とはどのような病気か、初期症状や治療法などについてご紹介いたします。
目次
1.急性膵炎とはどんな病気?
急性膵炎とは膵臓の急性炎症のことです。
急性膵炎は他の臓器にまで影響を及ぼす可能性があります。
疾患の程度は軽度のものから生命を脅かす重症のものまであります。
急性膵炎は再発する可能性がある疾患で、急性膵炎になった原因やその後の治療の有無によって再発率は異なります。
また40代から発症数が増加し、年齢が上がるにつれて死亡率も増加する傾向にあります。
1-1.膵臓ってどんな臓器?
膵臓は胃のうしろ側(背中側)にあり、十二指腸とつながっている長さ15~20cmほどの臓器です。
膵臓の主な働きは2つあります。
一つは膵液という消化液を分泌し食べ物の消化を助ける働きです。
もう一つはインスリンというホルモンを分泌し、血糖値をコントロールする働きがあります。
2.急性膵炎の原因とは?
急性膵炎の原因は生活習慣や疾病によるもの、また原因が特定できないものなどさまざまです。
2-1.アルコール
急性膵炎に罹患した男性の中でもっとも多い原因はアルコールです。
性別問わず過度のアルコール摂取は、急性膵炎のリスクを高めるといえます。
一般的にアルコールを飲み始めて10~20年後に急性膵炎を発症すると考えられていますが、アルコールを飲んでいると必ず急性膵炎になるというわけではありません。
アルコールの摂取量の増加とともにアルコール性急性膵炎を発症するリスクが高まります。
2-2.胆石
胆石は急性膵炎の中でもよく見られる原因の一つです。
胆石の多くは胆汁に含まれるコレステロールが結晶化してできたものです。
胆嚢にできる胆石がなぜ膵臓に影響を及ぼすかというと、胆嚢と膵臓からそれぞれ出ている胆管と膵管はそれぞれ十二指腸へとつながる出口部分で合流することが関係しています。
胆嚢から胆管を通って落ちてきた胆石が膵管との合流部分に詰まることで膵液の流れが滞ってしまい、急性膵炎を引き起こしてしまうのです。
胆石が原因である急性膵炎は急性胆管炎を発症する場合があり、急性膵炎の程度が軽症であっても重症化するリスクがあるため注意が必要です。
胆石がある場合には、治療として、内視鏡を使って胆管に詰まっている結石を取り除きます。
▼【医師解説】〇〇な女性に多い?胆石症|原因・治療法と食事療法
https://wellmethod.jp/cholelithiasis/
2-3.特発性によるもの
特発性によるものとは、急性膵炎の発症の原因が特定できないものをいいます。
2-4.その他
急性膵炎の原因はさまざまであり、上記の3つ以外にも多数の薬剤の服用が原因と考えられる薬剤性のものや脂質異常症などが原因となるものもあります。
その他にも膵臓もしくはその近くの臓器の術後や膵臓疾患の合併症として発症するものもあります。
また、腸内細菌叢の乱れが急性膵炎の重症度を高めるという報告もあり、普段から腸内細菌に優しいライフスタイルを心がけることも重要です。
J Gastroenterol. 2019 Apr;54(4):347-358.
3.急性膵炎の症状とは?
急性膵炎の代表的な症状は痛みです。
しかし痛みの他にもさまざまな症状が現れることがあります。
3-1.上部腹痛
急性膵炎の症状でもっとも多く見られるのが上部腹痛です。
上部腹痛とはみぞおち周辺の痛みのことをいいます。
痛みの程度や痛みが出るタイミングは人によって異なりますが、多くの場合「のたうち回るほどの痛み」といわれるほど強い痛みが突然現れます。
典型的な例では激しい痛みが突然起こり、次第に痛みが強くなり数時間後に痛みのピークを迎えます。
痛みが出現したときにはある程度進行していることが多いため、痛みを感じた際は早めに受診することが大切です。
3-2.背中の痛み
膵臓は胃の裏側(背中側)にあるため、上腹部の背中側に痛みを伴うことが多くみられます。上腹部の背中側の痛みは急性膵炎の特徴的な症状です。
3-3.その他の症状
上腹部や背中の痛みと同時に吐き気や嘔吐・食欲不振・発熱などの症状を伴うことが多く見られます。
急性膵炎は重症の場合、これらの症状以外にショック症状として意識や血圧の低下・頻脈・チアノーゼなどが起こり死に至る危険があります。
4.急性膵炎の診断
急性膵炎は厚生労働省(当時は厚生省)の特定疾患難治性膵疾患調査研究組によって、臨床診断基準が定められています。
1. 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
2. 血中・尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある
3. 画像で膵に急性膵炎に伴う異常所見がある
上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断すると定められています。
そのため症状の聞き取りの他に診断に必要な検査を行います。
4-1.血液検査・尿検査
血液検査や尿検査では、膵酵素が上昇しているか確認します。検査ではアミラーゼ・リパーゼ・エラスターゼなどの酵素の数値を測定します。
4-2.画像検査
急性膵炎が疑われる場合は画像検査を行います。画像検査にはさまざまな種類の検査方法があります。
1.胸部・腹部の単純X線撮影(レントゲン撮影)
レントゲン撮影を行うことも多いですが、この検査のみで急性膵炎と診断することはできません。
症状が膵疾患以外の要因から起こっていることを否定し、疾患を正確に診断するために必要とされている検査です。
2.超音波検査
超音波検査は急性疾患が疑われる場合、最初に行われる検査の一つです。
膵臓の腫脹やその周辺の炎症などの変化を確認することができるため、急性膵炎の診断に有用な検査です。
3.CT検査
CT検査は症状の聞き取りや血液検査・超音波検査を行っても急性膵炎の確定診断が難しい場合や急性膵炎の原因がはっきりしない場合に行われます。
CT検査は消化管に溜まっているガスや腹腔内の脂肪などの影響を受けることなく、客観的な局所画像を撮影できます。
そのため、CT検査は急性膵炎や腹腔内の合併症の診断や今後の治療方針を決定する際に重要とされる検査の一つでもあります。
4.MRI
MRIもCTと同じように画像で膵臓やその周辺の臓器を診断することができます。
X線被爆がないことがメリットではありますが、CT検査と比較すると撮影時間に時間がかかるといったデメリットがあります。
造影剤を使用した造影MRIでは膵の壊死巣を抽出することができます。
5.急性膵炎の治療法
急性膵炎の治療法はさまざまであり、重症度によって異なります。
基本的治療は絶食による膵の安静と、呼吸・循環動態の維持と改善、痛みの除去、膵局所合併症の予防を徹底することです。
また、急性膵炎は軽症・中等症・重症とわけられ、都度重症度判定を行いながら、治療を決定していきます。
5-1.輸液
急性膵炎の治療の基本は輸液を行うことです。
膵の炎症が全身に及ぶと全身の血管内に水分が減少し、臓器に障害をきたす可能性があります。輸液を行い循環動態を維持することが大切です。
5-2.薬物療法
急性膵炎の主な症状に上部腹痛や背中の痛みがあります。
痛みがあると精神的に不安になり、治療経過にも悪影響を及ぼす可能性があるため鎮痛剤を処方し痛みの軽減を図ります。
また合併症が心配される重症例では抗菌薬を予防的に処方されることもあります。
その他にも膵炎を引き起こしている酵素の活性化を抑制する目的で、タンパク質分解酵素阻害薬の点滴投与が行われることがあります。
5-3.手術
膵臓やその周囲組織に壊死が見られる場合や腫瘍や嚢胞がある場合、手術を行います。体の負担を軽減するために内視鏡手術が導入されています。
6.治療後・予防にはバランスの良い食事と生活習慣を見直すことが大切
急性膵炎は、繰り返す可能性が高い病気です。
治療後も、以前と変わらぬ食生活や生活習慣を継続していると、半数近くが再発を招いてしまう危険性があります。
前述しましたように、大量のアルコールを摂取することで、消化酵素の過剰な分泌を招き、膵管内の圧力を上昇させ、急性膵炎を引き起こすリスクが高まります。
ですので治療後は、アルコールや脂肪分の多い食べ物を控え、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
急性膵炎を発症した方だけでなく予防としても、食習慣を見直し、アルコールとの向き合い方を見直すことは健康を維持するためには欠かせません。
▼もしかしてドロドロ血? 怖い病気の危険因子「脂質異常症」の原因と改善法
https://wellmethod.jp/dyslipidemia/
7.気になる症状があるときは、早めに医療機関を受診しましょう
急性膵炎は気づかないうちに徐々に進行していく病気ですが、早期発見・早期治療を行うことで、これまでと同じような生活を送ることができます。
健康的な毎日を送るためには生活習慣を見直すことが大切です。
私たちの体は毎日口にしているものからできているといっても過言ではありません。
筆者は40代になってから生活習慣や食事について改めて考え直すことが多くなり、食生活を変えることにより、体調が良くなったように感じます。
40代・50代だからこそ、自分の体を向き合う時間がより大切です。
体の不調を見逃したり、放置することなく気になることがあれば早めに受診するようにしましょう。
この記事の監修は 医師 城谷 昌彦先生

城谷 昌彦
監修医
消化器病専門医・消化器内視鏡専門医・認定内科医・認定産業医
ルークス芦屋クリニック院長
腸内フローラ移植臨床研究会専務理事
NPOサイモントン療法協会理事
ヒュッゲ・ラボ株式会社代表取締役
主な所属学会
日本内科学会・日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会・日本抗加齢医学会・日本統合医
療学会・日本先制臨床医学会 など
東京医科歯科大学医学部卒業。
神戸大学病院内科、京都大学病院病理部、兵庫県立塚口病院(現・尼崎総合医療センター)消化器科医長、城谷医院院長などを経て、2016年ルークス芦屋クリニック開設。
消化器病専門医でありながら、自ら潰瘍性大腸炎発症によって大腸全摘術を経験。
西洋医学はもとより、東洋医学、心理学、分子栄養学、自然療法等の見地からも腸内環境を健全に保つことの大切さを改めて痛感し、腸内環境改善を柱とした根本治療を目指している。
2017年からは腸内フローラ移植(便移植)による治療を開始。腸内細菌が人体に及ぼす多大な機能改善力に着目し、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患だけでなく、うつ、自閉症、自己免疫疾患、がんなど多岐にわたる疾患の治療を行なっている。
- ルークス芦屋クリニックHP
https://lukesashiya.com - 城谷 昌彦の記事一覧
- facebook
https://m.facebook.com/drmasahiko/
著作・監修一覧
- ・『腸内細菌が喜ぶ生き方』(海竜社)
- ・『骨スープで楽々やせる!病気が治る!』(マキノ出版)
- ・『専門医伝授「アミノ酸豊富!骨だしスープで腸内フローラを再生」』(WEB女性自身)
和重 景
主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。