こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。

みなさまは、歯槽膿漏という病気はご存じですか。

もしかすると、歯科医院に行ったときや歯ブラシや歯磨き粉のCMなどでこの言葉を目にした方もいるかもしれません。

しかし虫歯ほど注目されておらず、実際にどのような症状のことをいうのか詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。

歯槽膿漏は歯の磨き残しが原因で起こる歯ぐきの炎症性の疾患で、歯周病の一つです。
歯肉炎が進行した歯周炎のステージのかなり悪化した状態のことを言いいます。

「歯も痛くないし、自分には関係ない」
と思う方もいるかもしれません。

しかし、歯槽膿漏を含む歯周病は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれ、症状がなく進行が静かにすすむ病気です。

気づいたときには手遅れになり、歯を支えている骨が溶け、歯が抜け落ちてしまう…なんてことも。

また、歯医者に通っている方であれば、歯ぐきの検査を1度は受けたことがあるのではないでしょうか。

筆者も以前、子ども歯科検診のついでに自分の歯の状態を診てもらったことがあるのですが「奥歯の歯ぐきが歯周病になりかけている」と指摘を受けて驚いた記憶があります。

そんな歯槽膿漏ですが、自宅で予防できる方法はあるのでしょうか。

「臭いはするのだろうか」
「治療法は?」
「自宅でできる治し方はあるのだろうか」
など気になる点がいろいろありますよね。

今回は、歯槽膿漏について症状や自分でできるセルフチェック方法や予防法について解説したいと思います。

1.歯槽膿漏とは? 歯周病との関係

歯槽膿漏

歯周病とは、歯肉炎・歯周炎の総称です。歯槽膿漏とは、歯周炎の末期的な状態で、口の中の細菌により歯と歯を囲む骨などの組織を巻き込んで引き起こされる炎症性の疾患です。

この炎症が歯ぐきのみに限定される軽症の場合を「歯肉炎」と呼び、それ以上悪化した場合を歯周炎、さらに歯周炎が重度になったものを歯槽膿漏と呼びます。

歯槽膿漏は、文字通り「膿が漏れる」状態にまで悪化した、重度歯周炎のことを指します。歯槽膿漏は、歯を失う最終段階と捉えましょう。

2.歯槽膿漏が起こる理由と症状

歯ぐきとは、歯の周りを取り囲む粘膜の組織です。

歯と歯ぐきの間には、深さ1~2mm程度の歯肉溝とよばれる溝があります。

歯周病は、この溝にプラーク(歯垢)が溜まることで引き起こされます。

プラーク(歯垢)とは、歯の磨き残しなどで溜まる細菌が繁殖した塊です。

このプラークとよばれる細菌の塊は放置することで歯ぐきの奥深くまで繁殖し、炎症を引き起こします。

炎症が歯ぐきに限定される「歯肉炎」の段階では、痛みもほとんどなく気が付く方はあまりいません。この段階でも歯ぐきの腫れや出血はみられます。

しかし、放置することで炎症がだんだん強くなり、歯ぐきだけでなく、歯を支える骨などの支持組織にまで炎症が及ぶと、歯周炎と呼ばれる段階になります。

進行すると、歯の揺れ・歯肉からの排膿などの症状もみられるようになります。
最終的には、細菌が産生する毒素によって、歯を支えている骨が溶けはじめ、歯が抜け落ちることがある病気です。

歯茎の状態チェック

3.歯槽膿漏を悪化させる危険因子

歯槽膿漏(歯周病)を悪化させる危険因子がいくつかあります。

とくに喫煙は、歯ぐきの血流を悪化させ、歯の周囲の組織の病原菌に対する抵抗力を弱めるため注意が必要です。

歯槽膿漏にかかりやすくなる上に、治療をしても傷の治り具合が遅くなることが知られています。

・糖尿病を指摘されている
・その他の生活習慣病がある
・喫煙
・歯ぎしり、くいしばり
・不適合な義歯
・不規則な食生活
・ストレスのかかる生活
・不適切な口腔ケア
・骨粗鬆症、ホルモン異常などの既往歴がある
・特定の薬剤(ある種の高血圧薬、てんかん、自己免疫疾患等、ピルなど)の長期服用(※)
・部分的に歯がない
・鼻呼吸ではなく、口呼吸を行う

(※)特定の薬剤を服用中で、歯槽膿漏を指摘されたからといって、自己判断で薬をやめることは大変危険なのでやめましょう。気になる薬を服用中の場合は、まず主治医に相談することをお勧めします。

4.歯槽膿漏はなぜ怖い?

歯槽膿漏をはじめとした歯周病の怖いところは、口の中の病気に留まらず、全身に影響を及ぼすところです。

歯槽膿漏になると、歯周病の原因となる歯周病菌が腫れた歯ぐきから血管内に侵入し、全身のあらゆる部分に毒素(内毒素とよばれます)をまき散らします。

歯周病菌と関連が深い代表的な疾患には、動脈硬化性疾患(狭心症・心筋梗塞・脳梗塞・大動脈瘤など)、糖尿病・アルツハイマー型認知症などがあります。

救急車

4-1.心疾患(狭心症・心筋梗塞)

歯周病菌の刺激によって血管内のプラークが生成され、動脈硬化が起こり、狭心症を誘発します。

4-2.脳梗塞

脳血管内でプラークが詰まったり、生成されたプラークが剥がれて脳の血管で詰まったりして脳梗塞が起こります。

4-3.糖尿病

歯周病菌により産生された毒素は、体の血糖値を下げるために必要なインスリンと呼ばれるホルモンの効きを弱め、糖尿病の悪化を引き起こします。

歯周病はそのほかにも、肺炎・早産・低体重児・骨粗鬆症・バージャー病(※)、また最近では消化管を通じて食道がん、大腸がんや潰瘍性大腸炎を引き起こす関連因子とされており、注意が必要です。

発症する程度によっては今後の生活に影響がでるものもあり、歯周病の対策が生活上いかに大切であるかということがわかります。

(※)バージャー病…手足の動脈の壁に炎症が起こり、血管が細くなるあるいは血のかたまりである血栓ができて、血管が詰まってしまう病気。

5.歯周病セルフチェック

歯槽膿漏チェック

歯槽膿漏(歯周病)は、歯を失う大きな原因です。

さらに3章で解説したとおり、ほかの全身疾患を引き起こす原因になることもあります。

食べたり話したり…生活上、失うとダメージが大きい歯。

早期発見・早期治療を行うためにも、まずはこの歯周病のセルフチェックを行い、心当たりがないか確認してみましょう。

・歯ぐきに赤く腫れた部分がある
・口臭が気になる
・歯ぐきが痩せてきた気がする
・歯のすき間に食べ物がつまる
・歯を磨くときに歯ぐきが出血する
・歯と歯の間の歯ぐきが、三角形ではなくブヨブヨしている
・歯が浮いた感じがある
・歯を触ると歯がぐらつく
・歯ぐきから膿が出たことがある

<判定>
チェックが0個…これからもきちんと口腔ケアを行い、年に1回は歯科検診を受けましょう。歯磨きだけでは不十分ですので歯間ケアの方法も指導を受けましょう。

チェックが1~2個…歯周病の可能性があります。まずご自身の口腔ケアの仕方を見直しましょう。かかりつけの歯科医院で歯周病でないかどうか、口腔ケアの仕方が適切かを確認してもらうことをおすすめします。

チェックが3~5個以上…初期あるいは中等度歯周炎以上に歯周病が進行している危険性があります。早めに歯科医師に相談しましょう。

参考)公益財団法人 8020推進財団
https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/poster/8020check.pdf

6.歯槽膿漏の検査

歯槽膿漏をはじめ歯周病であるか確認するためには、以下のような部分をチェックし、総合的にみて進行度を判断します。

・歯周ポケットの深さ
・歯ぐきからの出血の有無
・歯石や歯垢の付着量
・歯のぐらつきの程度
・X線写真による歯をささえる骨の状態 

7.歯槽膿漏の治療法

歯槽膿漏の治療

歯槽膿漏の治療では、原因となっていた不適切な歯磨き方法を見直し、改善する必要があります。

磨き残しのない正しい口腔ケア指導を行い、ブラッシングだけで取り切れない歯間ケアの方法を実践した上で、セルフケアでは除去しきれなかった歯垢を歯科で除去し、歯にいる歯周病菌を取り除くことが基本になります。

7-1.プラークコントロール(正しい口腔ケアの指導)

正しい歯磨きは、きちんと行うだけでも、歯ぐきの炎症を軽減させ、出血しやすかった歯ぐきも引き締まりやすくなるため重要です。

さらにきちんと歯磨きを行うと、歯ぐきの中の歯石も見えやすくなり、効率的に歯石を取り除くことができます。
歯石がつく前にプラークを予防することが大切ですが、これには歯磨きだけでは不十分です。

デンタルフロスや歯間ブラシは必須ですが、最適なサイズのケア用品でなければ逆に歯間を広げてしまいます。予防歯科に指導を受けましょう。

7-2.歯表面や歯周ポケットの歯石を除去する

セルフケアで落とし切れない歯垢や歯石は、機械を用いて取り除きます。

歯ぐきの奥まで入りこんでいる歯石を取り除くことで、歯石の表面や内部にいた細菌を取り除き、炎症を抑えます。

さらに症状が進行している場合、外科的治療を行うこともありますが、いずれも治療後はメンテナンスを行い、歯ぐきが安定した状態になるように維持します。 

8.歯槽膿漏の予防法

歯槽膿漏の予防で大切なことは、原因である歯垢を溜め込まないことです。

そのためには、日頃から正しい歯の口腔ケアを心がけ、定期的に歯のクリーニングに通うことがおすすめです。 

8-1.正しい口腔ケアを行う

口腔ケアグッズ

歯槽膿漏にならないためには、プラークがたまらないように毎日の口腔ケアを正しく行うことが大切です。

まずは正しい口腔ケアが行えているか、一度歯科医院でみてもらうのもおすすめです。

うっかり歯磨きをせず寝てしまった、などがないように歯を磨く習慣をしっかりつけることは当然ですが、毎日歯間ケアもすることが歯槽膿漏を予防する第一歩です。

1.歯間ケア

正しいブラッシングを行えたとしても、プラークを全て落とせるわけではありません。

ブラッシング後は歯間ブラシやデンタルフロスを用いて、歯間ケア(フロッシング)を忘れずに行いましょう。

歯間ケアのアイテムには、ヒモ状のものからブラシ状のものまで、さまざまなタイプがあるので、ご自身の歯間に合ったサイズを選択することがポイントです。

2.イリゲーション(水流洗浄)

さらに、歯間ケアにはイリゲーション(水流洗浄)を取り入れることがおすすめです。

口腔内をすみずみまで水流で洗浄する機械は、家電量販店で一般向けに販売されています。

イリゲーションは、ブラッシングでもフロッシングでも届かなかった歯と歯ぐきの間の歯周ポケットにアプローチし、汚れを洗い流すことができます。

歯間ケアの新習慣として、是非取り入れましょう。

8-2.歯科医院でのメンテナンス

歯科検診

毎日の正しい口腔ケアを心がけていても、歯垢は必ず溜まってしまいます。

そのため、3か月に1度(健康な歯の場合)は定期的に歯科医院を受診し、歯科衛生士による専門的な歯のクリーニングを受けることがおすすめです。

定期的に口の中をチェックしてもらうことで、歯の状態に変わりがないかを確認してもらい、歯槽膿漏にならないように歯周病の早期発見・早期治療に努めましょう。

8-3.生活習慣を整える・ストレスを減らす・禁煙する

歯槽膿漏の原因ともいわれる、食生活の乱れやストレスを軽減させるためにも生活習慣を整えることは大切です。

1日3食、バランスのとれた食事は健康的な体づくりの基本となります。

規則正しい食生活は、歯周病の予防だけではなく、生活習慣病の予防や心身の健康維持のために大切です。間食やお酒の飲みすぎにも気を付けましょう。

また、ストレスは自律神経の働きと密接な関係があるとされています。

そのため毎日の生活習慣を整え、自律神経のバランスを整え、ストレスに対する抵抗力をつけることが大切です。

まずは毎日同じ時間に起きるなど、規則正しい生活が行えているのか見直してみましょう。

7~8時間の十分な睡眠や、睡眠の質を上げることも大切です。夕食を就寝の3時間以上前までにすませ、携帯やパソコンなどの使用は控えましょう。

また、喫煙は歯周病を歯槽膿漏にまで進行させる危険な因子です。喫煙している方は、まず禁煙することをおすすめします。

8-4.定期的に健康診断を受ける

糖尿病を代表とする生活習慣病や、骨粗鬆症・ホルモン異常などの全身疾患は、歯周病を引き起こすリスク因子の一つです。

歯周病だからと口の中にだけに気をとられず、体の全身に病気が隠れていないか、定期的に健康診断を受けることが大切です。

8-5.歯周菌サプリメントによる歯周予防

サプリメント

歯周病対策には、乳酸菌の力を利用した歯周病菌サプリメントも有効です。(※)

私たちの歯の表面には、バイオフィルムと呼ばれる細菌の膜があります。

バイオフィルムは、虫歯や歯周病菌の住みかとなっており、歯ブラシで落としきることができません。

このバイオフィルムに対抗できるように体の内側から治療する方法が「バクテリアセラピー」です。

「バクテリアセラピー」において、プロバイオティクスであるL.ロイテリ菌をはじめとした乳酸菌の一種が有効であることが、近年の研究結果により明らかになりました。

日本でも、この乳酸菌(プロバイオティクス)の力を利用した歯周予防に力を入れたクリニックが増えつつあり、今後もプロバイオティクスを含むサプリメントによる歯周病予防が期待されています。

(※)ヨーグルトに含まれる乳酸菌が口腔内環境を直接整えるわけではありません。

▼40代で歯がぐらぐらする人が急増! 歯周病対策には丁寧な歯磨きと乳酸菌が重要

https://wellmethod.jp/periodontal-disease/

9.歯槽膿漏の予防は毎日の積み重ねが大切です

歯槽膿漏を予防する女性

歯槽膿漏は正しい歯磨きを行うことで進行を遅らせることができます。

しかし、自己流の口腔ケアは、正しくできていると思っていても意外とできていないことがあります。

また、生活習慣やストレスと密接な関係があるなど、歯槽膿漏は他人事ではありません。 

まずは毎日の正しい歯のブラッシング方法、生活習慣の見直しなどを行いましょう。

また、定期的な検診も大切です。
お口の中をみてもらうだけでも気が引き締まり、口腔ケアをちゃんとしよう、と思うようになりますよね。

みなさまの中でも歯科医院に長く通われてないようでしたら、一度チェックしてみてもらうのもおすすめです。

これからも毎日を健やかに輝く日々を送るためにも、お口の中にも気を配っていきましょう。

この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか

和重 景

【ライター】

主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。

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