アルツハイマー病予防に期待、こんにゃくリサイクル素材の可能性【北海道大学】

世界に先駆けて、高齢化が進む日本。

人生100年時代の「幸福寿命」を考える時、誰もが避けたいと考えるのが、アルツハイマー病ではないでしょうか。

アルツハイマー病は、記憶だけでなく、体の機能、心、そして自分をも失っていく脳の病です。現状は、根本的な治療薬はなく、発症を予防することも、長期的な進行を免れることもできません。

2019年12月19日、北海道大学の研究グループ(大学院先端生命科学研究院産業創出部門・五十嵐靖之招聘客員教授・湯山耕平特任准教授ら)が、アルツハイマー病の発症予防に、植物セラミドが有効な可能性があるという研究結果を発表しました。

アルツハイマー病予防発表会

セラミドといえば、美容に詳しい方は、お肌の潤いを保つ為に、皮膚の構造として重要な役割を担っていることをご存知だと思います。
今回は、アルツハイマー病ということで、耳に新しい話題です。

さらに、その原材料は、日本の伝統食材であるこんにゃく芋。しかも、こんにゃくの製造過程で捨てられてしまう産業廃棄物から抽出されるリサイクル素材だということで、未来の人と地球の健康の為に、希望のあるお話です。

今回、認知症専門の介護施設で、アルツハイマー病さんの訪問診療に従事した経験もある筆者が、臨床医と予防医療的な立場から発表を聞いてきましたので、レポートしたいと思います。

1.「2025年には5人に1人が認知症」の実態

毎年、敬老の日に統計局から発表される日本の高齢者人口は、年々増え続けています。
2019年は、全人口の28.4%が65歳以上の高齢者で、その数、3,588万人になるのだそうです。

平成29年度高齢者白書によると、認知症患者数は、2012年には約460万人で、高齢者人口の15%だったのに対して、2025年には20%、つまり、5人に1人になる見込みで、約700万人と推計されているそうです。

認知症のうちの、半数以上は、アルツハイマー病です。
アルツハイマー病では、ついさっきのことまで忘れてしまう記憶障害だけでなく、脳の広範囲の萎縮から、あらゆる脳機能が衰えていきます。

アルツハイマー病における資料

言葉が上手く出ず、言いたいことが伝えられない。
服を着たり、トイレでお尻を拭いたり、箸を持ってご飯を食べたり、当たり前にできていた日常の作業すらできない。
自分の家で家族と過ごしているにも関わらず、どこか知らない場所で全く知らない赤の他人といるような気がして、不安になり、混乱してしまう。
また、幻覚や妄想にとりつかれる、など。

この世界を正しく認識することができなくなり、適切な言動ができなくなる為に、日常生活、社会生活が送れなくなってしまいます。

しかも、中々常識では理解ができない言動をとってしまう為、経験のない家族は、その変化が理解できません。

頭でも理解するのが難しい上に、突然に拒絶されたり、怒られたりすると、感情的にも受け入れ難くなり、家族であるからこそ、よけいに嫌悪してしまうこともあります。

では、介護施設に入れたら解決するのかというと、そうとも限りません。
人手不足の日本の介護施設のスタッフは、医療・介護の知識のない無資格者であっても働くことができます。
その場合は、やはり病気による言動や症状が十分に理解されず、適切な介護がなされないケースもあるのが現状です。

アルツハイマー病は、どの立場の人間にとっても辛い病気であり、予防法の確立は急務と言えます。

2.アルツハイマーの原因と予防の可能性

アルツマイマー病の要因は、遺伝的要因だけでなく、慢性炎症を引き起こす歯周病などの感染症や食習慣など、生活習慣や環境要因も関連していると考えられています。

それらの複合的な原因で、脳にアミロイドβ(ベータ)というタンパク質がゴミのように溜まり、それが神経を障害して、脳の萎縮を引き起こすことで認知症状を発症させると考えられています。

実は、認知症状が目に見える形で発症する10〜15年ほど前から、アミロイドβの蓄積が脳内で始まっていることがわかっており、この段階で、アミロイドβの蓄積を抑えたり、また除去することできれば、アルツハイマー病の発症を未然に防ぐことができる可能性があります。

アルツハイマー病発症の過程
※Aβ:アミロイドβ

 

その可能性を期待されるのが、今回、北海道大学の研究グループが発表したこんにゃく芋由来の植物セラミドです。

3.植物セラミドが発症のプロセスをいずれも抑制

同研究グループは、モデルマウスにおいて、こんにゃくセラミド(グルコシルセラミド)を1日1mg、2週間投与したところ、脳の海馬と大脳新皮質におけるアミロイドβ濃度の減少を確認したことを報告しました。
この領域は、アルツハイマー病において、記憶や認知機能障害に関わっています。

また、アミロイドβが減少することで、神経障害を引き起こすプロセスのいずれもを抑制することが分かったとしています。
アミロイド斑という脳のシミの蓄積や毒性を持つアミロイドβオリゴマー、炎症などを抑制し、神経障害や短期記憶障害を抑制することも確認されました。

つまり、アミロイドβの蓄積を抑制することで、神経障害を起こすメカニズムの上流にアプローチが可能になる為、それ以降の下流のメカニズムが抑制されると考えられます。

4.植物セラミドが作用するメカニズムを解明

なぜ、グルコシルセラミドがアミロイドβの蓄積を抑制できるかについてのメカニズムは、同研究チームによって解明されています。

実は、アミロイドβを除去する「掃除機」を使って、ゴミを取り除いてしまうのです。

グルコシルセラミドの作用で、神経細胞から、アミロイドβを捕捉するエクソソームという物質の産生が促進します。
これが、アミロイドβをトラップし、脳内の「掃除機」であるミクログリアという細胞に食べさせてしまい、分解・除去させてしまうという訳です。

エクソソーム機能を利用したアルツハイマー病予防
※Aβ:アミロイドβ

 

現段階では、モデルマウスにおいての研究で、人への効果を実証するものではありませんが、ヒト試験は現在進行中で、遠からぬ将来に研究報告が出てくるものと期待します。

5.未来への可能性と今後の課題

今回のグルコシルセラミドによるアルツハイマー病予防の未来への可能性と今後の課題について考えてみたいと思います。

5-1.保健機能食品への応用の可能性

アルツハイマー病の予防については、症状が出る前の潜伏期間である10〜15年前からのアプローチが必要になります。
この段階で、いかにアミロイドβの蓄積を抑えるかが、予防のポイントになります。

ここで活躍できるのは、「薬」ではありません。

健康のためにウォーキングをする女性

医療保険制度の中で、「薬」を「治療」として活用するには、病院で医師の診断により、「アルツハイマー病」と確定診断がつき、保険適応となった薬を処方されなければなりません。

確定診断がつかない潜伏期間の段階では、例え、アミロイドβの蓄積が潜在的に進行していようとも、保険を使った薬として治療ができるものではありません。
予防の段階にまで、医療保険を認めていたら、すでにパンクしている医療保険制度は完全に崩壊してしまう懸念があります。

そこで、求められるのは、それぞれの生活者による病気の予防へのアプローチです。
この段階で活用できるのが、「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」などの保健機能食品です。

保健機能食品とは、「おなかの調子を整える」「脂肪の吸収をおだやかにする」など、特定の保健の目的が期待できる(健康の維持及び増進に役立つ)という食品の機能性を表示することができる食品のことです。

科学的根拠に基づいて、安全性を確保したうえで、消費者庁の認可の元に機能性を表示するのが「トクホ」、事業者の責任において、科学的根拠にもとづきこれらの機能性を表示するのが「機能性表示食品」です。

グルコシルセラミドは、現状「皮膚バリア機能改善」目的の「機能性表示食品」として「肌の潤いを保つ」などの表示がなされていますが、アルツハイマー病予防についての機能性を認められている訳ではありません。

脳機能の改善を訴求する「機能性表示食品」は、n-3系脂肪酸やイチョウ葉エキス由来の成分を機能性関与成分としているものがありますが、いずれもそのメカニズムのおおもとは血流の改善によるもので、今回のセラミドのメカニズムとは異なる点も注目すべきポイントです。

今後の展望として、確かなヒト試験をもとにして、これを保健機能食品として活用することができれば、大いに社会的意義があると考えられます。

5-2.創薬への応用の可能性

また、将来的には、創薬の可能性も期待されます。
グルコシルセラミドについては、現在、アルツハイマー病の発症に関わることが有力視されているアミロイドβを抑制するメカニズムが解明されています。

現在、アミロイドβや毒性の高いオリゴマーを標的とした薬の開発が行われており、同研究グループは、セラミドがこれらと類似の効果が期待できる新素材として、新薬開発に繋がる可能性もあるとしています。

しかし、課題もあります。

セラミドは、全身の細胞の細胞膜の原材料となる、極めて生理的な物質です。肌の潤いを保つ為の細胞間脂質としても重要な役割を担っています。
その為、全身の細胞で利用される可能性がある為、必ずしも摂取したものが脳にだけ働くわけではありません。

マウスレベルの研究の現段階では特に毒性は確認されていないとのことですが、新薬として利用する際には、人において脳の神経細胞への選択的な作用と安全性が確立されることが求められます。

5-3.廃材リサイクルによるサスティナビリティ

産業廃棄物リサイクルによって生まれた新素材であることにも、注目したいと思います。

現代では、持続可能な世界を実現する為に、いかに産業廃棄物をなくして環境の負担を減らすかという世界的な課題があります。

実は、こんにゃくセラミドは、一般的にこんにゃく粉から作られるこんにゃくには含まれません。その製造過程で捨てられる産業廃棄物に含まれているものです。

一般的なこんにゃくは、こんにゃく芋を乾燥させて精粉(せいこ)と呼ばれる粉にしてから加工されます。この製造過程で、飛び粉(とびこ)という粉が出ます。

実は、この飛び粉、臭い上に、えぐみがあるのです。
その刺激臭は、魚のようなニオイともされ、とてもこれだけで食べられたものではない為に、産業廃棄物となって環境の負担になってしまいます。

この産業廃棄物から抽出した、地球にも人間にも嬉しいお宝が、こんにゃくセラミドという訳です。

こんにゃく芋

因みに、「生芋こんにゃく」と表示があるこんにゃくは、こんにゃく芋をすり潰して作られるため、こんにゃくセラミドは捨てられずに残っています。

ただし、吸収率の問題があり、こんにゃくとして加工されることで、食物繊維が邪魔になり、吸収しづらくなってしまうことが分かっています。
調理法の工夫としては、細かく切って、油で炒めたりすることで、吸収率が上がるとされています。

今回は、同研究グループが、長年こんにゃくセラミドを研究素材として用いて来たことから、こんにゃくセラミドによる研究成果となっています。

ただし、セラミドは、動物、植物のあらゆる細胞の構成要素である為に、色々な食品に含まれています。その構造によって100以上の種類がある為、その他の食品由来のセラミドについての効果は、全く同じであるとは限りませんが、今後の研究によって明らかになってくると可能性が拡がります。

6.アルツハイマー病の予防に今日からできること

その他にも、アルツハイマー病の予防の為に、今日からできることがあります。
質の高い睡眠と歯周病ケアです。

6-1.睡眠時間に脳のゴミを排水溝に流すべし

実は、兼ねてより、睡眠の質が低いほどアミロイドβの脳内蓄積が多いことが報告されており、睡眠効率が低いと将来的にアルツハイマー病の発症リスクが高まることが指摘されていました。

ロチェスター大学の研究グループによると、睡眠中に脳内のリンパ管による排水溝システム「グリンパティック・システム」が作動し、睡眠中には脳のアミロイドβの排泄が効率的に行われているということが分かっています。

ベッドで睡眠をとる女性

長く寝れば良いという訳ではなく、質の高い睡眠がポイントのようです。
睡眠は、全ての健康の基本ですね。

6-2.国民病・歯周病がアルツハイマー病のリスクに

実は、重症歯周病の罹患と認知機能低下の間には正相関があることがわかっています。また、歯周病の代表的な原因菌であるジンジバリス菌の毒素がアルツハイマー病患者の脳で検出されたりするなど、歯周病による炎症とアルツハイマー病の関連が注目を集めています。

歯周病なんて、自分には無関係と思う人も多いと思いますが、厚生労働省の調査では、実に35歳以上の8割が何らかの程度の歯周病であることが分かっています。

歯ブラシとフロス

歯周病ケアには、歯ブラシだけでは足りません。
食後のフロスや歯間ブラシなどによる歯間ケア、水流洗浄機による歯周ポケットの洗浄。
そして、歯茎の血流に関わる動脈硬化、つまり生活習慣病を予防することが大切です。

自分の人生を思う存分に生きる為に、家族の幸せの為に、アルツハイマー病を含む病気の予防はとても大切なことです。
新しい可能性に期待しながら、今、できることを一人一人が積み重ねていきたいですね。

SHARE:
Facebook
Twitter
LINE
LINE

『WELLMETHOD』LINE公式アカウントに
友達追加いただいた方に、
最新記事の更新情報をお届けいたします

友達追加する