皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

新型コロナウイルスの感染拡大で続くこの自粛生活・在宅生活をポジティブに捉え、これまでの不健康や無駄をリセットしてライフスタイルを一新するための知恵と技をお伝えしたいと思います。

在宅生活が長くなると、特に気になる家族の「ニオイ問題」。

前回の体臭編に引き続き、今日は、口臭編です。

口臭は、体臭と比較しても自分自身で気づけなくなってしまうのが厄介です。

その昔、「おじいちゃん、お口臭い」というCMがありましたが、口臭発生は高齢者だけのものではありません。それに、女性の方が口臭リスクは高まりやすい傾向も。
全身の病気にも関連しますから、絶対にケアしておいて損はありません。

1.気になる家族の口臭の傾向と対策

1-1.口臭とは何か?

1-1-1.口臭に影響する要因とは?

口臭対策

口臭とは、口から立ち上る揮発性のガスです。

・口腔内環境の悪化で発生する場合
・体内環境の悪化から血液を通じて肺から呼気として発生する場合

があります。

ほとんどは、口腔内由来です。

1-2.口臭の分類は?

口臭は、2種類に分類されます。

・生理的口臭:子供から大人まで誰にでも発生する可能性あり
・病的口臭:何かしらの病気で発生する

1-2-1.生理的口臭

生理的な口臭は、口が乾けば誰にでも発生します。

口の中には、腸内のように口腔内常在細菌がいます。その数、800種類で、清掃がどんなに行き届いていても数百億個は暮らしています。

「うわぁ、汚い!」と思わないでください。

口腔内の常在菌は、外からやってくる病原性の細菌やウイルスなどから口腔粘膜を守る大切な働きがあります。

すぐに殺菌してしまおうとするのは、早計です。

ただし、口が渇くことで、菌を抑制する効果のある唾液が減り、細菌が増えることで、生理的口臭が発生します。

口の中が唾液で潤っていれば、生理的口臭は発生しません。

その他、ニンニクなどの食べ物でも発生します。

口臭の原因となるにんにく

1-2-2.生理的口臭が増えている

生理的口臭が発生するのは、以下のようなシーンです。

・加齢性
・睡眠時
・空腹時
・ストレス時
・疲労・緊張時
・スマホやPCの使い過ぎ

年齢に伴って、全身のあらゆる機能が低下すると共に、唾液を分泌する働きも低下してきます。ですから、年齢と共に口臭が発生しやすくなります。

また、口呼吸になりやすい睡眠時は、口腔内の細菌数がピークになる時間帯です。
そのため、「朝、口が臭い!」と感じるのですね。

食後は、食べ物と唾液で細菌数が最も減っていて、実は口臭リスクは少ないのですが、空腹時は唾液が減るので、口臭が発生しやすくなります。

現代的なストレスや疲労、スマホなどの使いすぎは、交感神経を刺激して、唾液分泌を低下させてしまいます。

1-2-3.病的口臭

唾液で潤っていようがいまいが、病的口臭は発生します。

・口腔内:歯周病・舌苔・口腔内癌など
・咽頭喉頭:風邪・副鼻腔炎など炎症・癌など
・全身疾患:糖尿病・肝疾患・腎疾患など
・腸内環境の悪化

病的口臭の原因として、8割は歯周病です。

「歯周病なんて、関係ないわ!」と思っている皆さんは、本当に甘い!
実は、日本人では、20代で7割、35歳以上で8割は、何らかの程度の歯周病があるのです(※1)。

これこそが、ある程度の年齢になると男女共に口臭が悪臭化してしまう最大の要因です。

原因は、要するにケア不足。歯ブラシだけしていたら良いのではありません!

歯周病に悩む女性

全身疾患としては、糖尿病は、コントロール不良で体重が減少するほどの時期には「ケトン臭」というちょっと甘酸っぱいニオイが。肝機能が著しく低下すると「ドブ臭」などと称されるちょっとカビ臭いニオイが。腎不全になると「アンモニア臭」が発生することがあります。

また、疾患とは言えないまでも、腸内環境が悪化することで、口臭から「生ゴミ臭」とも称されるジメチルサルファイドというニオイ成分が揮発します。

日々の食生活で健康な腸内環境を保つことも重要ですね。

※1 平成28年歯科疾患実態調査(厚生労働省)

1-3.歯周病は全身疾患を引き起こす

歯周病は、口臭や歯の損失を引き起こすだけではないのが怖いところです。

歯周病に関連する全身疾患は実にたくさんありますので、口腔ケアをしないまま、食事や運動だけで健康管理はできないのです。

・流早産・低出生体重児
・動脈硬化(動脈瘤・脳梗塞・心筋梗塞)
・アルツハイマー型認知症
・糖尿病
・関節リウマチ
・掌蹠膿疱症 
・食道がん・大腸がん

歯周病菌は、歯茎の毛細血管から簡単に体内に侵入して全身の血管に炎症を起こし、LPSという毒素と共に全身に拡散します。

また、歯周病菌の一種であるフソバクテリウム・ヌクレオタムは腸内で、大腸がんの発生から増殖、転移にまで関連していることが明らかになってきています。

歯周病は、本当に侮れない病気なのです。

1-4.歯周病は女性の方がリスクあり

妊娠中の女性

もちろん、清掃不足であれば誰にでも発生する歯周病ですが、女性ホルモンの影響で増えやすい歯周病菌がいます。

プレボテラ・インターメディアという歯周病菌は、女性ホルモン・エストロゲンに反応して増えやすいことが知られています。また、女性ホルモン・プロゲステロンには炎症を誘発する作用があります。

妊娠中は特にプロゲステロンにさらされやすいため、妊娠後期に悪化する妊娠歯周病がひどい炎症を起こすと早産から低出生体重児に繋がりやすいため、しっかりとケアが必要です。

そもそも、歯周病があると炎症が悪影響を及ぼし、妊娠もしづらいものなので、妊娠前からケアが必要です。

1-5.自分の口臭には気づけないから客観的評価を

口臭が強い人ほど、全く気にしていないかのように振舞うことがないでしょうか。

嗅覚は、「順化(順応)」という慣れの現象で、すぐに鼻が利かなくなってしまいます。24時間発生している慢性的な口臭ほど、自分自身では気づきにくいのですね。

ですから、口臭については、客観的に評価するしかありませんね。

・家族に指摘してもらう
・口臭チェッカーでチェックする

人が感じるか感じないかを見極めるために、家族に指摘してもうらうのは、建設的です。

家族であってもダメージですが、しっかりと受け止めましょう。

口臭チェッカーは、いくつかのメーカーから発売されています。スマホ連動型など便利なタイプもありますので、活用を。

2.生活習慣臭としての口臭と対策

体臭編で、汗臭・ミドル脂臭・加齢臭などはいずれも生活習慣に関連する生活習慣臭だとお伝えしました。

https://wellmethod.jp/body_odor/

口臭についても、同じですね。

加齢現象だけのせいにせず、しっかりと生活習慣を整えましょう。

歯磨きをする女性

2-1.生理的口臭対策

生理的な口臭対策としては、唾液をしっかりと分泌させること、口を乾かせないことです。

唾液には殺菌効果がありますので、不足することで、歯周病菌を増やすリスクにもなります。

1. 口呼吸せず鼻呼吸する
2. 食事の際はしっかりと咀嚼する
3. ストレスを適度にリリースする

現代人が唾液分泌を低下させている原因として、口呼吸があります。

姿勢が悪く、口の締まりが悪く、いつもぽかんと口を開けている子供や大人が増えていますが、その1つには、スマホを眺める姿勢の悪さにあるとされています。

首が下を向かないように画面を持ち上げて、なるべく姿勢良く見ることが大切です。
これは、スマホ首にも繋がります。

スマホ首が引き起こす不調とは? 今すぐできるカンタン体操

また、柔らかいものを好む現代人の咀嚼回数は、昭和初期と比べても2分の1に減っていることが指摘されています。

唾液は、咀嚼をすることで分泌されますので、普段から30回は噛むことを意識してみましょう。

ストレスリリースはいうまでもなく、あらゆる現代人の不調を改善する切り札です。

2-2.病的口臭|歯周病対策

歯磨きの指導を受ける女性

病的口臭対策としては、主な原因である歯周病対策についてお伝えしたいと思います。

そもそも、義務教育では、虫歯対策として「歯磨きの仕方」を習った記憶があると思いますが、歯周病対策については習った記憶がありませんね?

これが、問題です。

日本人は、歯周病対策がそもそもできていないのです。

歯周病は、歯磨きだけでは対策できません。

そのポイントは、3つ。

1. ブラッシング:歯磨き
2. フロッシング:歯間ケア
3. イリゲーション:水流洗浄

この3つのプロセスで、歯周病ケアは完成します。

2-3.ブラッシング:歯磨き

歯磨きについては、みなさん概ねできている人が多いのではないでしょうか?

清潔好きな日本人は、歯磨きが好きです。

歯磨きは、ブラシの届くところの汚れやプラーク(歯垢ともいう、細菌の塊で歯周病の原因になる)は落とすことができても、歯間の食べかすや歯間〜歯と歯茎の間の歯周ポケットの汚れやプラークを落とすことは不可能です。

食後に歯磨きをしたところで、歯間の食べかすや歯周ポケットの中のプラークはみがき残しています。

実際に、歯磨きだけでは、4割のプラークをみがき残していることが報告されています(※2)

それに、食後は食事や唾液で細菌が一番少ない時間帯です。

歯間ケア

ここで優先すべきは、歯間ケア。

最も歯磨きをしたい優先時間帯は、唾液が減り細菌が増える就寝時間の前後。
つまり、就寝前と起床時。この2回が必須の歯磨きタイミングです。

※2:日本歯科保存学雑誌48(2):272.2005

2-4.フロッシング:歯間ブラシ・デンタルフロス

食後に必須なのは、歯間ケアです。ここまでやってやっと、プラークの8割が落ちます(※2)。

欧米では、子供の頃からデンタルフロスを親が行う習慣づけがあります。日本でこれを実践しているのは歯科医のご家族くらいでしょう。
みんなできていませんので、どうぞご安心のうえ、今からやりましょう。

様々な種類のデンタルフロス

デンタルフロスと歯間ブラシには、いくつかのタイプがあります。

・デンタルフロス:ヒモ
・完全なヒモ状/ヒモを土台につけたY字フロスなど
・ワックスタイプ/ワックスのないタイプ
・歯間ブラシ:ブラシ状
・毛のタイプ/ゴムタイプ

歯間を広げずに使用することがとても大切なので、サイズ選びが重要です。

歯間にまだ隙間がないうちは、扁平な完全ヒモ状のデンタルフロスが向いています。無理に歯間を広げることも良くありません。

ある程度歯間ができてきたら、Y字型のフロスが便利です。
歯間ブラシが通るようになれば、フロスよりもより洗浄効果が高いので有効です。

いずれも、4S〜2Lまでサイズがあります。
サイズ交換サービスがついた製品もありますので、無理なく歯間に入るものを選びましょう。

歯科に行き、選んでもらうのが理想的です。

2-5.イリゲーション:水流洗浄

水流洗浄は、馴染みがないかも知れませんが、口腔内を水流で洗浄する機械です。電気屋でも一般販売されています。

歯間ケアでも歯が立たないのが、歯と歯茎の間の歯周ポケットの中。

本来、ここが歯周病菌の巣窟なのですが、家庭のケアでここにアプローチ可能な唯一の方法が、水流洗浄機です。

歯周病は、歯周病菌だけでなく、動脈硬化や喫煙による歯茎の血流低下も悪化要因になります。水流洗浄機は、マッサージ効果による血流改善にも最適です。

我が家は、数年来使用しており、全部の歯に6mm以上の歯周ポケットができ、歯茎が腫れ、口を開けば悪臭を放っていた父親にも、父の日にプレゼントしました。

大学病院の歯科に通っており、「劣等生」と言われていた父親ですが、みるみる歯茎が引き締まり、今では「模範生徒」と褒められるほどになっているようです。

2-6.歯科と仲良くする

歯医者に通う女性

ここまでが、日常でできるケアです。これで9割はカバーできるとして、残りの1割残るプラークをケアするのに、歯科との協力関係は欠かせません。

私自身も、歯磨き、歯間ブラシ、水流洗浄機を合わせ技で使っても、左奥歯の裏面だけは絶対に磨くことができません。

歯の側面は平坦ではなく凸凹いていることも多く、この奥歯の凹の部分には何物も到達できないようなのです。

これを放置すると悪臭化してしまい、指摘し合う文化のある我が家では、夫から指摘される羽目に陥ります。

夫であっても、指摘されたら嫌なものです。

それを防ぐためには、絶対に歯でのケアが欠かせません。

虫歯や歯周病が悪化すると、歯科では恐怖の処置が待っています。そのトラウマから歯科と縁遠くなっている人も多いでしょうが、予防の段階から仲良くすれば、怖い目にはありませんし、最近の処置は、案外無痛で済むものも多いものです。

3.ニオイを健康維持のツールに

体臭編と口臭編、2回シリーズでお送りしました。

家族のニオイ問題、いかがでしたでしょうか?

「恥」にもつながるニオイですが、家族内で解決しておけば、外とのお付き合いのシーンで積極的になることができますし、相手にも不快感や妙な気を遣わせないですみます。

その上で、自分自身の本来の個性としてのニオイには、自信を持って頂きたいと思うのです。無臭を目指す必要などありません。ニオイは、あなたの内側を表現するフレグランスです。

もし、本来のニオイが変化して、悪臭化したなら、生活習慣を振り返ってみて頂きたいのです。目に見えない内臓や血液の変化がニオイとして外に現れます。

特に、不摂生なご主人にガミガミと生活習慣について指摘しても無反応で手を焼いている奥様。世の中の男性は、健康についてはスルーでも、自分のニオイについては随分と繊細なものです。

家族の一生の幸せのため、生活習慣をヘルシーな方向に切り替えることは重要です。そのきっかけとして、ニオイを活用してみてはいかがでしょうか?

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか