女性も注意!医師が教える家族の「ニオイ問題」傾向と対策|体臭編
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
新型コロナウイルスの感染拡大で続くこの自粛生活・在宅生活をポジティブに捉え、これまでの不健康や無駄をリセットしてライフスタイルを一新するための知恵と技をお伝えしたいと思います。
在宅生活が長くなると、気になってくるのは家族の体臭や口臭ではないでしょうか?
ご主人の枕臭や加齢臭に「本当におやじ臭くて嫌だわ!」と眉をひそめる奥様、ご自身も無関係ではありません。
女性は、ライフステージと共に加齢臭が発生しやすくなりますし、口臭については、むしろ女性の方がリスキーだったりします。
自粛生活が明け、人と会うシーンが増える前に家族内の「ニオイ問題」を解決しておくと安心ですね。
今日は、体臭編です。
1.気になる家族の体臭の傾向と対策
1-1.体臭とは何か?
1-1-1.体臭に影響する要因とは?
体臭とは、あなたの個性や生き様を表現する天然のフレグランスのようなものです。
年齢や性別はもちろんのこと、
・普段どんなものを食べているか
・腸内の常在菌はどんなバランスか
・皮膚の常在菌や皮膚のコンディションはどうか
・内臓の働きはどうか
・体温を上げる習慣はあるか
・日常のストレス度や耐性はどうか などなど
こうした自分自身にまつわる体質や気質、習慣、状況などが複合的に作用して、皮膚から発生する揮発性のガスとして、周囲に拡散します。
皮脂腺から分泌される皮脂。血液が濾過されて汗腺から分泌される汗。それら自体に含まれるニオイ成分や、皮脂や汗の中の成分を皮膚の常在細菌が分解することで発生するニオイ成分があります。
1-1-2.体臭はネガティブか?
「体臭」と言えば、「くさい!」「あってはならない!」と思いがちですが、その発想はぜひやめたいもの。
自然界に、無臭などあり得ません。
動植物、自然の風景、人の営みにまつわる風景には、必ず何かしらのニオイがつきものです。
本来の体臭は、自分の個性を表現するもので、異性を惹きつけるセクシャルなフレグランスにもなります。
無臭化を試みることは、そもそもがナンセンスと言いたいのです。
1-1-3.「年齢のせい」だけでなく生活習慣臭と捉える
ただし、自分自身の本来の体臭が何かしら悪臭化したときが、注意すべきときです。
腸内環境や体内環境、そして内臓の働きなど、これらが食生活を含むライフスタイルやメンタルの状態などによって、何かしらのネガティブな変化を起こしたときに、体臭の変化として現れます。
もちろん、自然に年齢を重ねることでも加齢臭などの年齢に伴う体臭は発生しますが、「年齢のせい」と片付けないようにしたいのです。
加齢に伴い体の機能が低下することで体臭は変化しますが、これを後押しするのが、生活「悪」習慣です。
生活「悪」習慣に伴うニオイを「生活習慣臭」と捉えて、自分の生活習慣を見直して頂きたいと思います。
名前の通り、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病があれば、体臭は悪臭化します。
1-1-4.男女の体臭の違いはなぜ生まれる?
体臭といえば「おじさんのもの」というイメージが先行していますが、これは男性差別的です。程度の差こそあれ、女性にも体臭の悪臭化は起こりますし、生活習慣が悪い女性では男性よりも強い臭いになるかも知れません。
要するに、夫婦の場合は「お互い様」と言ったところです。
一方で、皮脂が原因の体臭については、男性の方が発生しやすくニオイが発生しやすいのは事実です。女性は、30代をピークに皮脂分泌がなだらかに減少していく反面、男性は20代から高齢者になるまでほとんど皮脂分泌は低下しません。
そのため、40代をピークに発生するミドル脂臭が原因である枕臭は、男性に発生しやすいのです。
また、女性ホルモン・エストロゲンには、皮脂の酸化を抑制する働きがあります。加齢臭は皮脂の酸化が原因になります。
更年期以前の女性であれば、男性と比較して加齢臭が発生しにくいと言えます。
更年期を経て閉経を迎えるとエストロゲンの働きが低下するために、女性であっても加齢臭は発生します。
皮脂分泌量自体が男性よりも少ないために、男性と比べるとニオイは強くない傾向ではありますが、自分自身を比較すると明らかに体臭は変化します。
2.生活習慣臭としての体臭と対策
2-1.汗臭|汗をかかない方がニオイやすい
汗臭は、全年齢に男女問わず関連します。
全身からかく汗は、アポクリン汗腺から分泌され、体温調節のために、体に熱がこもらないように熱を逃がす為にかくものです。
ですから、これからが本番です。
ワキガ体質は、日本人には少ない遺伝性の体質です。こちらは、アポクリン汗腺という毛穴に開口する汗の管から分泌される粘っこく栄養豊富な汗で、常在菌を増やしやすい為に独特のニオイになります。
2-1-1.汗臭の原因は?
エクリン汗腺は、通常99%が水分でほとんどニオイません。
ただ、時間が経つことで、汗の中の成分を、皮膚の常在菌が酢酸(お酢)に変化させるので、健康な人であっても酸っぱいニオイがします。
また、運動や発汗などで汗をかかない生活をしていると、汗の中に塩分などのミネラル分が多くなりベタベタした汗になります。
特に、冬場に汗をかかなかった人では、春先に暖かくなり急に汗をかき出すとベタベタ汗となり、ミネラル分が皮膚の常在菌を増やす為にニオイやすくなります。
2-1-2.汗臭対策
・1日1回しっかり汗をかく
・放置しない
・速乾性・消臭インナーを活用する
・制汗剤はポイント使いに
汗臭の対策としては、逆説的ですが、汗をしっかりかくほうがサラサラのニオイにくい汗になります。
1日1回は、ゆったりした入浴や有酸素運動で汗をかくことです。
また、放置するとニオイの原因になりますし、衣服が蒸れることもよくありません。
汗をかいたらこまめにふき取ったり、速乾性・消臭インナーを活用するのもいいでしょう。
そして、制汗剤ですが、汗は体温調節のためにかくので、全身に使うと上手に汗をかくことができなくなりオススメしません。また、殺菌作用のある製品を全身に使うと、皮膚を守る常在菌を弱らせてしまうので、こちらもNG。
制汗剤を使うなら、脇や足など発汗の多い部分にポイント使いしましょう。
2-2.加齢臭|早期は20代から50代以降まで
加齢臭といえば、シニアのニオイというイメージかも知れませんが、いわゆる加齢臭だけではなく、20代から発生リスクがある早期加齢臭があります。
2-2-1.加齢臭の原因は?
加齢臭の発生は、皮脂の中の脂肪酸という成分が、酸化することで、ニオイの原因になるのです。
早期加齢臭のニオイの原因は、ペラルゴン酸といい、30代をピークに発生する使い古した油のようなニオイです。
加工食品やインスタント食品、ファストフードなどに含まれる酸化した油の摂り過ぎ、中性脂肪に変わりやすい血糖値が上がる砂糖や炭水化物の摂り過ぎ。
また、ストレスの蓄積による体の酸化も原因になります。
加齢臭のニオイの原因は、ノネナールといい、50代をピークに発生します。こちらは、ペラルゴン酸とは違い、「枯れ草」「古本」などと表現されたやや枯れたニオイで、年齢を感じさせます。
加齢現象だけでなく、早期加齢臭と同じ原因で発生しやすくなります。
女性の場合は、閉経により女性ホルモン・エストロゲンの激減が原因になります。
2-2-2.加齢臭の対策は?
早期加齢臭・加齢臭共通の対策としては、
・加工食品・インスタント食品・ファストフードなど酸化した油を摂り過ぎない
・活性酸素を消去する抗酸化食品をしっかり摂る
・砂糖たっぷりの甘いもの・炭水化物ばかりのご飯を控える
・ストレスリリースを適度に行う
酸化した油を控える一方で、抗酸化食品をしっかり摂りたいものです。
特に油の酸化を防ぐビタミンEは、ナッツ類や種子類、アボカドなどに豊富です。また、野菜の色や香りの成分・ファイトケミカルは、いずれも抗酸化作用があります。
有名なところでは、カカオ豆やベリー類、りんごなどに含まれるポリフェノールやお茶のカテキン、大豆や小豆のイソフラボンなどです。
在宅生活に食生活を整えることはとても重要です。
こちらの記事もご参照ください。
女性の加齢臭対策としては、
・更年期障害対策を行う
基本的には、女性の加齢臭については女性ホルモンの低下が関連しているため、更年期障害の対策が役に立ちます。
更年期対策については、以下の記事をご参照ください。
https://wellmethod.jp/category/kounenki/
2-3.ミドル脂臭|枕臭は男性だけではない
ミドル脂臭は、主に後頭部を中心に発生する、汗と皮脂の混合臭です。
40代をピークに、主に男性に発生するもので、世の中の奥様を悩ませる枕臭の原因ですが、実は、測定すると女性にも発生しています。
2-3-1.ミドル脂臭の原因は?
ミドル脂臭は、汗の中の乳酸を皮膚の上の常在菌がジアセチルという物質に変え、それが皮脂の中の中鎖脂肪酸と合体して、独特の油臭いニオイになります。
汗が増えても、皮脂が増えても発生しやすくなりますが、頭は髪の毛で覆われているために高温多湿になり、汗も皮脂も多いのです。
2-3-2.ミドル脂臭の対策は?
ミドル脂臭の対策としては、皮脂のコントロールが重要になります。
・皮脂の原料となる中性脂肪を増やす油ものや砂糖、炭水化物を摂り過ぎない
・頭は1日1回程度洗う。しかし、洗い過ぎない
・頭皮用の制汗剤を活用する
皮脂のコントロールのためには、加齢臭と同じような食事のコントロールが有効です。
また、頭の洗い方も重要です。頭は、洗い過ぎてもダメ、洗わな過ぎてもダメ。
頭皮の皮脂は、洗髪後に24時間で回復しますので、1日1回程度洗髪するのが適度です。ただし、洗い過ぎて皮脂が落ち過ぎて乾燥すると、今度は自助作用として皮脂分泌が高まりますので、注意が必要です。
皮脂を落とし過ぎない洗髪料としては、アミノ酸系シャンプーがオススメです。
また、これからの時期、特に頭はたくさん汗をかきます。最近は、頭皮用の制汗剤も発売されていますので、活用するのも一考です。
2-4.ストレス臭|ネギ臭さが漂う
ストレスフルな今、ストレス臭リスクにも晒されているかも知れません。
ストレスフルな会議室で、独特のニオイがこもった経験はないでしょうか?それが、ストレス臭です。
2-4-1.ストレス臭の原因は?
ストレス臭の原因には、いくつかあります。
まず、汗の中にSTチオジメタンという「ネギ臭」とも表現される独特のツンとしたニオイ成分が混ざるようになります。さらに、ストレスに敏感に反応して、汗の中にアンモニアも発生します。手足に汗をかきやすくなるので、足臭も発生します。さらに、慢性的なストレスは、ストレスホルモンの影響で体を酸化させるので、皮脂の酸化を引き起こしやすくもなります。
ストレスは何も良いことがありませんね。
2-4-2.ストレス臭対策は?
ストレス臭対策は、もちろん、ストレスリリースが重要です。
社会全体がストレスフルな今こそ、勤めてリラックスするように努めることです。
・有酸素運動
・ヨガ・メディテーション(瞑想)
・睡眠の質と量の確保
・心地よいと感じる温度で入浴する:暑いと感じるとストレスに
・笑いのある生活:笑うと一瞬でストレスレベルが減少
・愛のあるスキンシップ
・ペットを愛でる
・好きなアロマを嗅ぐ
考えられるストレスリリースは色々ありますから、日々好みの方法で実践ください。
3.家族間で指摘し合う文化を
ニオイの話は、とても繊細です。
特に、他人に対して「あなた臭いですよ」などと正面から指摘しようものなら、絶縁を言い渡すようなものとも言えます。
恥ずかしさを伴いますし、「外」の世界ではなかなか口にすることができません。
ですから、「内」の世界で解決し、「外」の世界に出た時に恥ずかしくないように、家族で指摘し合うことを家庭内の文化にしてはどうでしょう?
エチケットだけでなく、体臭の変化は、何かしらの体の内側の不健康を反映している可能性もあります。ニオイをきっかけに、体調を気遣うことで、ヘルスケアへのモチベーションにもなります。
我が家は、夫のニオイ問題がきっかけとなり、私自身が「日本人はなぜ臭いと言われるのか〜体臭と口臭の科学」(光文社新書)を発売した頃から、ニオイについては指摘し合っています。
ある程度の年齢になると、ニオイ問題はお互い様ですから、ありがたいものです。
家族と向き合う時間が長い今こそ、ニオイ問題対策からヘルスケアに取り組んでみてくださいね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか