こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。

みなさんは舌痛症(ぜっつうしょう)という症状をご存じですか?

「舌がピリピリする」
「舌がカーッと熱くなる感じがする」

など、舌痛症は舌に限定された痛みを持つ疾患です。

「舌痛症」という言葉を初めて聞いた人もいるかもしれません。

馴染みのない言葉かもしれませんが、舌痛症と聞いて、以前近所に住んでいた叔母が訪ねてきて「舌がピリピリしていて塩分の強さがわからない。なので、味見をしてほしい」と作った料理を味見したことを思い出しました。

舌痛症は、口の中に炎症や潰瘍などの明らかな原因がないのにもかかわらず舌が痛くなる疾患です。

それゆえ、はたから見ても症状や異常が見られず、他人からは理解を得づらい病気の一つです。まだ原因は明らかにはなっていないものの、更年期以降の女性に多い疾患とされています。

今回は更年期以降の女性に起こりやすい舌痛症について、原因や予防法についてご紹介したいと思います。

1.舌痛症とは

舌を出す猫

舌痛症(ぜっつうしょう)とは、名前の通り舌に痛みが生じる疾患です。

口の中の粘膜に「ピリピリした痛み」などの症状を感じるにもかかわらず、原因を特定できない状態を舌痛症と呼びます。

医学的には、「舌に器質的変化を認めないにもかかわらず神経痛とは異なり、表性かつ自発性疼痛あるいは異常感を訴える症例」を舌痛症と定義されます。(※1)

「器質的変化」とは、物質的、物理的に特定ができる変化という意味です。

舌痛症は、食事中や何か集中しているときには痛みを感じにくくなることから、発症や経過に心理的な因子が影響しているとも考えられており、顔面チック、顎関節症、開口障害、口腔乾燥症、三叉神経症、舌咽神経痛症などの歯科心身症の中の代表的な一つとされています。(※2)

また、舌の痛みに明らかな原因がある場合は、器質的要因のある「二次性舌痛症」と呼ばれます。

※1 参考)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatology1952/38/2/38_2_438/_pdf/-char/ja
※2 参考)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsd1986/2/1/2_1_89/_pdf

1-1.どんな人に多いの?

舌痛症は女性に多くみられ、様々な報告を比較すると、平均年齢は、50代後半の更年期から閉経期にかけての世代が多いとされています。

また、更年期の女性に多いことから更年期自律神経症候群の一つである可能性があるとされており、舌痛症と女性ホルモンの異常との関連が考えられるため、女性患者の年齢によっては婦人科との対診によるホルモン検査などの必要性があると考えられています。

参考)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatology1952/38/2/38_2_438/_pdf/-char/ja

2.明らかな原因はわかっていない

現時点において、舌痛症が起こる明らかな原因はまだわかっていません。

更年期との関係についてもはっきりとしたことは判明していません。

しかし、女性ホルモンの低下が急激に起こることで女性ホルモン作用の水分保持が低下し、この水分保持の低下は口腔内の保湿低下を引き起こし、二次的に口腔内の感染(細菌感染、真菌感染)が発現し、舌痛を引き起こすという考えもあります。

参考)
https://amcor.asahikawa-med.ac.jp/modules/xoonips/download.php/2007291073.pdf?file_id=1159

3.症状は「ピリピリ・ヒリヒリ・ジンジン」

痛みのイメージ

ではその症状は、どのようなものでしょうか?

・痛みは舌の先端から脇に起こる(歯茎や口蓋などに起こることもあり)
・焼けるような持続する痛み(ヒリヒリ・カーっとした)、刺すような痛み(チクチク・ジンジン・ずきずきした)をもつ
・痛みが左右対称に起こる
・舌や歯茎に炎症や潰瘍がみられない

舌痛症の症状は名前の通り「舌が痛む」ことが唯一の症状です。

舌や歯茎に炎症や潰瘍があり、そのため痛みが起こる場合は舌痛症と診断されません。

痛みが起こる部位は一般的に両側性(左右対称に起こる)で、舌の先端から脇にかけて、歯茎や口蓋(口の中の上側)にも起こります。上記のような「ヒリヒリ」「チクチク」「ジンジン」した痛みなど、痛みの感じ方には個人差があり、またその強さも人により異なります。

症状の多くは1日中続くとされており、症状が重い人は仕事が手につかなくなるなど、日常生活に支障がでるケースもあります。

痛みは1日の中でも波があるとされており、とくに食事の間は痛みが楽になるという方が多くみられます。

舌痛症の人の中には自然治癒する人もいるようです。しかし、ほとんどの方は長期にわたって痛みを訴えます。

また、味覚の異常である「味覚障害」を訴える方も多くいるといわれています。

中には睡眠障害を訴える方もいますが、舌痛症の痛みが直接的な原因で睡眠を妨げることは少なく、睡眠障害には心理的な要素が関係していると考えられています。また、痛みの強さには波があり、就寝中に痛みで目が覚めるなどということはありません。

4.どのような検査をするの?

検査用紙を持つ医師

舌痛症は、明らかな原因となる病変を認めない病態です。

つまり、口の中に痛みがある場合に、痛みを生じる可能性のある疾患をすべて排除した場合につけられる病名です。

そのため、他の疾患を除外するための検査を行います。
口の中に痛みを生じうるすべての疾患を除外したあとに診断が下されるものを、「一次性舌痛症」と呼びます。

一方、なんらかの病気が背景にあり、舌痛症と同様の痛みを起こす場合を「二次性舌痛症」と呼びます。二次性舌痛症については、4-2章にてご説明します。

4-1.「一次性舌痛症」診断基準

舌痛症の診断では、主にこの4つが基準となっています。
特に器質的な変化を伴わず、1〜4を満たす場合は「舌痛症」と判断します。

1. 舌に表在性の疼痛あるいは異常感(※1)を訴えるがそれに見合うだけの局所あるいは全身性の病変(※2)が認められない。

2. 疼痛あるいは異常感は、摂食時に軽減ないしは消失し増悪しない。

3. 経過中に以下の3症状のうち少なくとも1症状を伴う。
(1)癌恐怖。
(2)正常舌組織を異常であると意味づける。
(3)舌痛症状を歯あるいは保存補綴物などと関連づけて訴える。

4. うつ病精神分裂病などの内因性精神障害に基づく症状ではない。

※1:ヒリヒリ、ピリピリ、チリチリ、ざらざら、シビレルなどと表現する。
※2:鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏、糖尿病、口腔乾燥症などによる器質的変化がない。

参考)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsd1986/5/1/5_1_9/_pdf/-char/ja

4-2.「二次性舌痛症」診断基準

二次性舌痛症は大きく分けて全身の疾患により生じるものと、口の中でなんらかの影響を受けて生じる局所的な問題の2つに分けられます。

1.全身的な問題

(1)糖尿病
(2)シェーグレン症候群
(3)貧血(鉄欠乏性貧血・悪性貧血(ビタミンB12、 葉酸欠乏症)
(4)微量元素欠乏症(とくに亜鉛)
(5)脳血管障害、脱髄性疾患、ギランバレー症候群などの中枢神経障害
(6)口腔乾燥や神経炎など、口腔痛を来たす薬剤の服用

全身的な問題の疾患では、口の中の感覚を変化させる可能性があり、痛みを感じるケースがあります。

また、内分泌疾患との関係を調べるために、血液検査を行い、栄養素や貧血の有無を調べます。

血液検査

体内の鉄分が欠乏する鉄欠乏性貧血の場合、口の中で炎症が起こることがあります。

また、胃を摘出した患者はビタミンB12の吸収障害が起こり、結果として貧血を起こします。この場合も口の中に痛みを伴うようになります。

2.局所的な問題

(1)不潔な口腔環境
(2)悪習癖(舌を歯に押し当てる、唇をかむ)
(3)不良な(鋭縁のある)補綴物
(4)口呼吸ならびに唾液分泌障害、口腔乾燥症
(5)舌神経・下歯槽神経傷害の既往(歯科治療後、帯状疱疹後神経痛)
(6)放射線治療後
(7)歯科材料アレルギー
(8)扁平苔癬
(9)口腔カンジダ症
(10)単純ヘルペスや帯状疱疹(帯状疱疹後神経痛を含む)など、ウイルス感染症

局所的な問題として、口腔内の不衛生や悪習癖(舌を歯に押し当てる・唇をかむ)などにより口の中に炎症が起こることがあります。

唇を噛む

また、微量元素(亜鉛)が欠乏すると舌や口唇に炎症が起きるとされているため、欠乏していないか血液検査を行います。

口腔カンジダの有無を確認するためには、口腔内の唾液を拭い取り、培養検査することがあります。肉眼的には、舌の粘膜や口腔内の粘膜に白い苔状物がみられます。

口腔カンジタとは、口の中の常在菌がなんらかの理由によりバランスが崩れ、口腔内でカンジタとよばれるカビが過剰に増殖する感染症です。

この口腔カンジタも口の中の粘膜などに炎症を起こすといわれています。

5.舌痛症の治療法

舌に痛みを感じ、舌痛症を疑う場合には、まずは歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を受診し、病気が隠れていないか舌の状態を診てもらってください。

一次性舌痛症の治療では、まだ明らかな原因がわかっていない部分があるので、原因そのものを根治する治療はありません。

症状を軽減させる対症療法になり、まずは日常生活の中で痛みをうまくコントロールできるようにすることが勧められています。

治療法も一定ではありませんが、今回は舌痛症の治療として多くみられる方法をご紹介します。

5-1.口腔内を清潔に保つ

舌痛症の痛みを和らげるために、口腔内を清潔に維持することが大切です。

口腔内を清潔にするために、毎日歯磨きをするだけではなく、虫歯を治療する・禁煙する・義歯の不具合を調節することなども大切であると考えらえています。

歯科検診

また、口腔内の乾燥も痛みや異常な知覚の原因になるため、口腔内の乾燥を防ぐことも大切です。
年齢と共に唾液分泌は減少傾向になり、ドライマウスになりやすくなります。

よく咀嚼して食べること、よく舌を動かすこと、唾液腺マッサージなどで唾液分泌を促します。

5-2.亜鉛を補う

栄養素である微量元素の一つである亜鉛は、不足すると舌や口蓋に炎症が起きることが知られています。

食生活としては、ファストフードやインスタント食品の常食、偏食、少食、ベジタリアン食の人に多くみられます。

そのため、亜鉛の不足が原因の場合には、亜鉛製剤を服用し様子をみます。

5-3.薬物療法(抗けいれん薬)

舌痛症にクロナゼパム(抗けいれん薬)を使用した局所および内服療法も報告がされています。

クロナゼパムは服用すると眠気がでるため錠剤を飲みこまずに口の中に含む方法が推奨されています。

ただし、クロナゼパムは舌痛症の治療薬として承認されていないため、保険適応外としての使用となります。
様々な原因を除外した上で、副作用を上回るベネフィットがあると判断された場合に慎重に投与されるものです。

医師とよく相談した上で、内服を開始することが必要です。

6.舌痛症にならないための予防法

明らかな原因がわかっていない中、舌痛症を起こさない対策として「ストレスをためない」「口の中を清潔に保つ」などの対策が大切です。

6-1.ストレスを溜めない暮らしを心がける

ストレス解消アロマ

舌痛症は原因が解明されていないものの、舌痛症を訴える患者は心理社会的なストレスを抱えていることが多い傾向にあります。

そのため、日々の生活の中でなるべくストレスをためない生活を心がけていくことが大切であると考えられています。

ご自身の生活の中で、ストレスを発散できる機会を持てるように生活習慣を見直してみましょう。

6-2.口腔内の乾燥を防ぐ

口腔内が乾燥すると、痛みや知覚異常の原因になるため、乾燥しないように普段から気をつけることが大切です。

年齢を重ねるとともに唾液分泌は減少する傾向にあり、舌痛症の患者の多くにはドライマウスの症状が見られます。

日常生活において、これらを心がけるようにしましょう。

・喫煙・アルコール・カフェインの量を減らす
・噛み応えのある食材を食事に取り入れ、よく噛んで食べる
(するめ、ゴボウなど繊維質の野菜、昆布など、納豆)
・鼻呼吸を心がける
・ストレスを溜めすぎないよう、リラックスする時間をとる
・規則正しい健康的な生活を意識する
・部屋の中が乾燥しないように気をつける
・なるべく喋ったり歌ったりして、口や顔の筋肉を使う
・唾液腺マッサージをする

それでも口腔内の乾燥が改善されない場合は、一度歯科医院に相談してみましょう。

▼ドライマウスの詳しい解説・唾液腺マッサージの方法はこちら

https://wellmethod.jp/dry-mouth/

7.痛みと上手に付き合い、毎日を健やかにすごしましょう

舌痛症とうまくつきあう女性

舌がジンジンしたりピリピリすると、いままではなんなくこなしていた日常生活の動作でも困難になってしまうことがありますよね。

舌痛症は発症した本人の痛みがすべてとなるため、本人にしかわからない苦しみがあります。

また、なかなか痛みを周りにわかってもらいにくい部分もあり、どうしても気持ち的にもナーバスになったり、塞ぎ込みたくなる時もあるのではないかと思います。

痛みと上手に付き合っていくことは簡単ではありませんが、日常生活まで痛みに支配されないよう、痛みを軽減する工夫を少しずつ積み重ねていくことが大切かと思います。

ストレスをリリースし、毎日規則正しい生活を心がけるだけでも軽快するケースもあります。

口の中を清潔に保つことも大切です。

「忙しくて歯医者になかなか行けなかった」という方もこれを機会に歯科検診に行くのもいいかもしれませんね。

また、舌痛症は更年期以降の女性に多いとされていながらも、まだ解明されていない疾患のであるため、これからの研究報告が期待される疾患の一つでもあります。

毎日を豊かに輝く自分でいられますよう、少しでも自分のケアのための時間をとってあげてくださいね。

この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか

和重 景

【ライター】

主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。

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