アスペルガーの相方が陥る「カサンドラ症候群」とは?アスペと上手に付き合う5つの方法
皆さま、こんにちは。
臨床心理士・公認心理師の城谷仁美です。
皆さんは「カサンドラ症候群」という言葉をご存知でしょうか?
読者の中には、日常生活においてパートナーとの関係性でお悩みをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
「カサンドラ症候群」は、「アスペルガー症候群」を持つパートナーや家族との間で情緒的な関係性を築くことが難しく、それに伴い不安や抑うつ傾向などの症状が出る状態のことを指します。
今回はカサンドラ症候群の特徴のほかに、その原因や傾向、アスペルガー症候群のパートナーとの関係性、また対処方法などについてご紹介します。
目次
1.「もしかして彼はアスペルガー? そして私はカサンドラ?」
1-1.アスペルガー症候群とは?
まず、皆さんは「アスペルガー症候群」はご存知でしょうか?
アスペルガー症候群は発達障害(現在の呼び名は「自閉症スペクトラム障害」)の一つで、社会性やコミュニケーション能力、共感性、イメージ力などの乏しさに加え、こだわりの強さ、様々な感覚過敏などを特徴とし、知能や言語の遅れがないものを指します。
「アスペルガー症候群(AS)」はかつては正式な診断名として使われていましたが、診断基準の変更により今では「自閉症スペクトラム障害」に含まれるようになりました。
しかし一般的にはまだまだよく使われる呼称です。
1-2.カサンドラ症候群とは?
次に「カサンドラ症候群」ですが、家族やパートナーなどがアスペルガー症候群であることにより情緒的な関係性を築くことが難しいため、ストレスにより不安や抑うつ傾向、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの症状を認める状態を指す言葉です。
「カサンドラ症候群」も世界的に広く使われる精神疾患の診断基準「DSM-5」には記載されておらず、正式な名称ではありません。
近年何かと「アスペルガー」が世間で注目されるようになりましたが、密かにアスペルガーのパートナーたちとの関係性に悩む「カサンドラ」の存在にも注目が集まるようになりました。
もともと「カサンドラ」の語源は、ギリシア神話に登場するイリオス(トロイ)の王女の名前からきています。カサンドラは生まれつき予言能力を持っていますが、彼女の言葉を誰も信じず耳を傾けてもらえません。そんな不遇な彼女を「悲劇の予言者」と呼ぶ人もいます。
彼女のように「身近な人間関係での不条理な境遇に置かれ、第三者から理解を得られず、疲弊している」状態を指す言葉として名付けられました。
2.「カサンドラ症候群」が陥りやすい状況
2-1.周囲からも理解を得づらい孤独感。「一緒にいてもひとり」
ASの男性をパートナーに持つ女性は、
「一緒にいてもひとり、、、」
そんな孤独感を感じる人も多いかも知れません。
ASの彼らは結婚するまでは非常に情熱的ですが、結婚した途端に相手に興味を失ってしまうことも少なくないのです。女性にしたら私の何が悪かったの?どうして急に彼は関心を失ったの?と空回りするばかり。
ASに詳しいルディ・シモン氏によるとASのパートナーがいる人は介護や看護などの対人援助職に付いている人が多く先天的に人を育てたり、ケアするなどを得意としていて、共感能力の高い人が多いといいます。
女性たちはAS男性のピュアな少年の心に惹かれていくのですが、やがて付き合いが深まっていくと、期待に反して相手が自分に興味を失っていくことに困惑します。ついには自分がどんなに彼に優しさや配慮を投げかけても返ってこないように感じてしまい、どんどん一人で疲弊していきます。
彼にとって私って何?まるで自分でも自分の価値を感じられず、周囲に相談しても「結婚すれば男性なんてそんなものよ。」と一般論で片付けられてしまい、彼女らは二重の孤独感を感じてしまうのです。
AS男性は能力が高く、論理的な思考に優れている人が多いので、収入や地位の高い仕事や専門職についており、一層周囲から理解されにくいようです。
他方、ASの男性自身は女性に対して恋人時代の関心はないものの、パートナーのことは空気のように、当たり前の存在として心から大事と思っているようなのです。しかしながら、女性は、その態度からは愛されているとは感じられないので、彼女らのフラストレーションと疲労が蓄積していきます。
カサンドラな女性は、物理的にはパートナーと一緒にいるにもかかわらず、
「一緒にいてもひとり、、、」
と感じていることも少なくないのです。
2-2.共感する相手の不在からくる「失感情症」
「共同注視」と言う言葉がありますが、これは子どもが言葉を獲得していく際にその土台となるものです。
例えば、一緒に歩いている親子の前を散歩している犬が通りかかったとします。子どもは犬を指差し、お母さんの顔を見ます。お母さんも一緒に犬を見つめて「そうね、ワンワンだね。」と言います。
このようにお母さんと子どもとの2項関係から、一緒に対象物を共有するという3項関係が登場し、これによって他者の意図や意味の推測ができるようになっていきます。
すなわち誰かと一緒にその場の喜びや感動を分かち合い、そのことがもっとコミュニケーションを取りたいという気持ちに繋がり、言葉やコミュニケーション力の発達を牽引する力にもなるでしょう。
しかし興味関心が「人」よりも「物」に開かれていく場合、幼少期の頃は、例えば、数字や乗り物などの知識は積み上がっていきますが、それを一緒に共有する誰かが不在になってしまうと、自分を映し出す鏡がないので、相手の気持ちが分からないというだけではなく、自分の感情がわからない「アレキシシミア(失感情症)」や、自分の体感がわからない「アレキシソミア(失体感症)」といった状態になってしまう場合もあります。
「自分がない」と言う状態はとても不安定ですから、何か不変の物やルールにこだわることによって、安定を生み出そうとします。
3.カサンドラな私は一体どうしたらいいの?
では、ASをパートナーにもつ人はどうすれば良いのでしょうか。いくつかの対処方法をご紹介しておきましょう。
3-1.アスペルガー症候群の特徴を理解する
一概には言えませんが、ASの人は耳よりも目という視覚的な情報処理に長けていて耳からの短期記憶が弱い場合もあります。
例えば何かお遣いを頼んだとします。何回言っても聞いていないと言う時は、興味がなくて聞いていない場合もありますが、耳からの音声だけの刺激は消えていきますので、メールなど文字で残せるツールで箇条書きにした方が買い忘れはなくなると言えます。コミュニケーションは端的に、具体的に視覚化するとスムーズになることも多いのです。
一方で我々は目に見えないコミュニケーションをかなり多く使っていますから、ASの人にとっては文字化されないやりとりが横行する定型発達の人たちが作った社会では、見通せないことも多く、理解するためにかなり多くのエネルギーを消費してしまいます。
また感覚過敏を持ち合わせている人も多く、人ごみの匂いや話し声や音の洪水、LEDの光、スーツや革靴の硬さなど一つ一つが調節できない感度の良いセンサーが作動しっぱなしなのです。
このように疲れ、見通せない不安は苛立ちにも繋がっていきます。さらにASの人はとても記憶がよく、人は元来生き延びるために危ないことや嫌悪体験はよりクリアーに記憶、記銘されるようになっていますが、ASの場合は嫌な思い出がなかなか消えないと言う事態も起こっていることもあります。そうするとパートナーは意見を言ったり、普通に話しただけなのに、AS男性は攻撃されたと思い、防衛的に怒りが誤作動したり、相手の責任にすることも少なくありません。
3-2.こちらの要望をはっきりと伝えておく
まずはAS男性の特徴や原因が理解できると、今までのほとんど理解しがたい、或いは冷たい、わがままな行動は、実は全く彼には悪意がなかったことがわかります。こういう傾向があると彼もパートナーも理解することがまず第一歩になるでしょう。
AS男性は思考タイプ、そした女性が感情タイプならなかなかコミュニケーションがうまくいきませんから、思考対応にわかるよう、端的に、感情的ならずに、視覚化して(メモや絵、図にする)伝えること。
AS男性は知的な能力の高い人が多いので、こちらの望んでいる対応を新たにインストールしてもらうことはできます。
例えば、パートナーの女性の体調が悪い時、しばしばAS男性は不安になったり、自分のせいと非難されているような気がして怒ったりすることもありますが、
「そういう時は、『どうしたの? 何をして欲しい?』と聞いて欲しい」
と、こちらの要望をはっきりと伝えておき、あらかじめ対応の仕方をインストールしてもらっておくことは可能です。
3-3.グループに参加する
最近ではSNSなどのIT技術が進化し、同じような境遇の人と比較的簡単に繋がることが可能な時代になりました。
同じような境遇の人同士で構成されるSNS上のグループに参加してみるのもいいかもしれません。自分の体験をシェアしたり、相手の状況を聞いたりすることで、それまで感じていた孤独感が軽減する場合もありますし、自分の知らなかった対処の仕方を知ることができるかもしれません。一緒に話しあえる共感しあえる仲間はとても心強いものです。
3-4.専門家に相談する
精神科医や臨床心理士のようにASに詳しい専門家もいますので、相談できる人を作っておくことも大切です。グループが苦手な場合や、専門的な見地からの意見を聞いてみたい場合に相談すると良いでしょう。
3-5.休憩する
そしてしんどい時は向き合いすぎずに、こちらもマイペースに休憩することも必要です。パートナーとのコミュニケーションの質を高めるには、まずは自分の心身がともに満たされていることがとても大切なのですから。
無理しすぎず、時には一人だけの時間を作り、ご自身をしっかり労ってあげてください。
この記事の執筆は 臨床心理士、公認心理師 城谷 仁美先生

城谷 仁美
日本航空国際線客室乗務員を経て、大学院にて国際関係学、心理学を修め、2005年臨床心理士資 格取得。
大学院時代よりがん患者会や子育て支援に携わり、現在ルークス芦屋クリニックや公的機関にて主に心身症、発達の遅れや脆弱性のある児童やその家族支援を行っている。2男1女の母。