【医師解説】〇〇な女性に多い?胆石症|原因・治療法と食事療法
皆さま、こんにちは。
医師で腸のスペシャリストの城谷昌彦です。
皆さんの中に時代劇がお好きな方はいらっしゃいますか?
もしお好きならば、侍が道中でみぞおちの辺りを押さえて座り込み、
「持病の癪(しゃく)が、、、うっ、、」
というようなシーンをご覧になられたことがあるかもしれません。
このシーンを見て私は、「もしかしたら胆石発作?」と思った覚えがあります。
胆石発作の痛む場所は、心窩部(みぞおち)から右季肋部(右上腹部)が多く、通常数時間続きます。一度発作を起こすとその後も発作を繰り返すリスクが高くなるといわれています。
今日は中年以降の女性に多い「胆石症」について取り上げてみます。
目次
1.胆汁、胆管、胆嚢、について
1-1. 胆汁とは?
食器の油汚れに食器用洗剤をたらすと、洗剤が油を乳化するので油が水に溶けるように変化し、汚れが簡単に取り除けますよね。
これと同様のことが小腸でも起こっています。つまり、肝臓で作られた「胆汁」が私たちの食べ物に含まれる脂肪分を水溶性に変化させます。
「あれ?胆汁って、胆嚢で作られるのでは?」と思われた方、実は違います。
胆汁は、肝臓で1日に約600~800mL作られ、十二指腸に排出される黄褐色の消化液で、私たちが食べたものに含まれる脂肪分や脂溶性のビタミンが小腸で消化・吸収するのを助けてくれます。
胆汁がないと、これらの脂肪分は消化されず、脂肪便と呼ばれる水に浮く色の薄い状態の便になります。脂肪分をしっかり消化・吸収し、コレステロールと脂溶性ビタミンA、D、E、およびKを効率よく吸収するためにも胆汁は不可欠なのです。
1-2. 胆管と胆嚢
肝臓から十二指腸にこの胆汁が流れる管を「胆管」、その途中にあり、胆汁を貯留する袋状の臓器を「胆嚢(たんのう)」と呼びます。
胆嚢では、胆汁を貯蔵・濃縮し、食後などの必要な時に胆汁を分泌させるために収縮し、胆嚢を十二指腸に排出します。胆嚢は肝臓の下、ちょうど右の季肋部(肋骨の下、上腹部)あたりに位置します。
2. 胆石症について
2-1. 胆石とは?
胆石は胆汁に含まれる成分が結晶化し、固まったものです。その構成成分によって、「コレステロール結石」と「色素性結石」に大別され、色素性結石は「ビリルビンカルシウム石」と「黒色石」があります。日本人の胆石症の人ではコレステロール結石がおよそ80%を占めます。また、結石ができる部位によって、主に「胆嚢結石」、「胆管結石」に分けられ、胆嚢結石が約80%を占めます。
この胆管や胆嚢にできる石を総称して「胆石」と呼び、この病態を「胆石症」と呼びます。
2-2. 胆石症の症状
胆石症でも2~3割の人はほぼ症状がありません(無症状胆石)。しかし、半数以上の人には「胆道痛」といわれる特徴的な右の季肋部(肋骨の下)や心窩部(みぞおち)、あるいは右肩に放散する痛みを認めます。
特に脂肪分の多い食事の後に痛みが出やすいという特徴がありますが、食事に関係なく痛むこともあります。
胆石が胆管や胆嚢の中で胆汁の流れを妨げると、皮膚や眼球が黄色くなる「黄疸」症状がみられることがあります。黄疸になると皮膚がかゆくなったり、尿が褐色~黒色に変化したりします。
また、胆石により胆汁の流れが妨げられると胆汁の成分が胆嚢や胆管の粘膜を傷つけ、さらに細菌の感染が加わることで炎症が進み、急性胆嚢炎や急性胆管炎を起こすことがあります。この感染した胆汁が血液中に流れ込むと、敗血症と呼ばれる重い病気を引き起こすため、緊急で医学的な処置が必要になります。
2-3.胆石症の危険因子(リスクファクター)は?
胆石症の中で最も頻度の高い「コレステロール結石」ができやすい人の特徴として、次の「5F」がよく知られています。
つまり、
・Fatty(太った)
・Female(女性)
・Forty(40歳代)
・Fair(白人)
・Fecund(多産婦)
の頭文字をとったものです。
しかし白人に限らず、日本人でも食生活の欧米化や高齢化などを背景に胆石を持つ人の割合が年々増加しており、現在では日本人成人の10人に1人は胆石をもっているとされています。
そのほかにも糖尿病の人、高脂肪食をよく食べる人、血中コレステロール値の高い人、ホルモン剤を服用している人、血縁者に胆石症の既往を持つ人なども注意が必要です。
3. 胆石症の治療
3-1.胆石症の治療法(一般的な治療)
胆石症の治療には、薬や手術がよく使われます。
胆石症のうち痛みなどの明らかな症状がないものを「無症状胆石」と呼び、基本的に治療を行わずに定期的に経過観察をします。
1. 手術
胆嚢結石では、痛みなどの症状がある場合には手術で胆嚢ごと摘出する治療が原則です。以前は開腹手術が主に行われていましたが、近年では腹腔鏡による胆嚢摘出術が普及し、治療の第一選択となっています。
2. 薬物療法
コレステロール結石では、胆汁酸製剤(ウルソデオキシコール酸)の溶解効果が認められており、石の大きさが15mm以下・石灰化のないコレステロール結石で、胆嚢の収縮機能が正常な場合に適応となります。年単位で内服を続けると結石は小さくなりますが、内服を中止するとまた大きくなるため、小さくなった後も内服を続ける必要があります。
3. 体外衝撃波
体の外から衝撃波を胆石に照射して胆石を砕く方法(体外衝撃波胆石破砕療法(ESWL)もあります。
4. 胆管結石の場合
胆管結石の場合、放置しておくと胆管の出口(十二指腸乳頭部)に詰まって胆管炎を生じる場合があります。胆管炎が重症化すると敗血症を起こす危険性があるので、原則無症状でも治療を行います。治療法は大きく分けて内視鏡的な方法と外科的な方法がありますが、胆管結石の大きさや数、胆嚢結石の有無などにより方法を決定します。
3-2.胆石症の治療(自然療法)
上記のような一般的な治療のほかに自然療法による治療も紹介しておきましょう。ここに紹介する方法は、一旦できてしまった胆石に対しても有効ですが、むしろ胆石ができる前から予防するために有効な方法として取り入れてください。
(※胆石を持っていて典型的な痛みや黄疸、発熱などがある場合は、緊急処置が必要な場合がありますので早急に主治医にご相談ください)
胆石の危険因子としては先述のように女性、肥満、妊娠回数が多いことなどが指摘されています。また、胆石は生活習慣と密接に関連しており、予防には過食・暴飲暴食を避けることが基本ですが、リスクの高い人は特に下記の食事に気をつけてみましょう。
1.胆汁の流れを刺激する食材
クルクミン(ウコン)、タンポポ、オオアザミ、ショウガなどのように苦味のある植物は、胆汁の流れを刺激して胆石を予防することがよく知られています。
食事に加えたり、サプリメントとして摂取したり、お茶として摂取したりすることができます。
2. 胆石の溶解を促す食材(栄養素)
甜菜、レモン、ペパーミントはいずれも胆石を溶解することが知られています。タウリン、ホスファチジルコリン、ビタミンCなどの栄養素も同様の働きがあります。
3. 胆汁を補充する
脂肪分の消化に問題がある場合、胆汁の流れが回復するまで、牛の胆汁をサプリメントで補給する場合もあります。(現在日本では販売されていませんが、海外から個人輸入で入手は可能です)
4. 胆嚢の機能を改善させる食事
グルテン、加工食品、砂糖などのように「炎症性食品」と呼ばれる食事を避けることで、胆嚢の機能を改善できます。
具体的には、揚げ物、キャンディー、焼き菓子、甘い飲み物、加工肉、ファーストフードなど、炎症を助長する飽和脂肪酸と砂糖を多く含む食品を習慣的に摂取することは避けておくことが良いでしょう。
逆にEPAやDHAなど青魚などに含まれる炎症を抑制する働きのあるオメガ3系不飽和脂肪酸は現代人は不足しがちです。積極的に摂るようにしましょう。
また、プラントベース(植物由来)中心の地中海式の食事も胆嚢の機能を向上させるといわれています。
地中海式の食事は食物繊維が非常に豊富で、飽和脂肪酸が少なく、砂糖も少なく抑えられています。その上、抗酸化物質、ビタミンB群、食物繊維、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどのミネラルが多く含まれており、胆石のみならずその他の病気のリスクを減らすこともできます。
5. 腸内環境を改善させる食事
リーキーガット(腸漏れ)症候群と胆道疾患は密接に関連してることが明らかになってきました。
つまり、腸の炎症は胆汁うっ滞を引き起こし、結果として胆汁の分泌を減少させます。腸の炎症を断ち切るために、ボーンブロス(骨だしスープ)や食物繊維が有効ですし、上記の「炎症性食品」を避けることも大切です。
また、食物繊維はコレステロールの吸収を抑えてくれます。
https://wellmethod.jp/bone-broth/
6. 体重管理
肥満は胆石を発症するリスクを高めます。ですから体重を減らすことは胆石の予防に重要ですが、減量のために非常にカロリーの低い食事療法を行うと、かえって胆石のリスクが高まる可能性があり注意が必要です。減量の際には主治医に相談してから減量計画を立ててください。
7.鍼治療
鍼治療が胆石症に伴う症状を軽減させることが報告されています。
ある研究(1)では、60人の胆嚢炎患者に対する鍼治療の効果を調べたところ、鍼治療は痛みなどの症状を和らげ、腫れた胆嚢の容積を減らすことがわかりましたが、今後さらなる研究が必要です。
(1)Effects of acupuncture of Jianjing (GB 21) on gallbladder volume and symptoms of cholecystitis patients. Feng Yun Wen et al. Zhen Ci Yan Jiu. 2012 Oct;37(5):398-402
4. 腸内細菌と胆石症との関係
最近の研究により、「脳腸相関」に代表されるように腸と多くの臓器がネットワークで繋がっており、双方向の情報のやり取りを行なっていることがわかっています。もちろん腸と胆嚢も双方向性の情報交換を行っていますが、ここに腸内細菌が生み出す信号が大きな役割を果たしています。
腸内細菌のバランスが乱れ、リーキーガット(腸漏れ)が起こると、腸上皮細胞のバリアとしての働きが低下します。すると微生物や毒素が血液に容易に侵入するようになり、炎症性サイトカインという物質が胆石症などの胆嚢疾患を引き起こすことが示唆されています。
また逆に、腸内での胆汁不足がリーキーガットや腸内細菌の変化を引き起こす原因になる可能性も指摘されています。
このサイクルを断ち切るために腸内細菌を整えることが重要と考えられ、特に腸内細菌の多様性を高めることが重要です。
腸内細菌の多様性を高めることは胆石症のみならず、多くの疾患の予防に効果があることが分かっています。現代人の生活は随分と大地から離れてしまいましたが、腸内細菌のためにも土との触れ合いを増やしたいものですね。
参照:
日本消化器病学会ガイドライン
“What are the natural ways to get rid of gallstones?” Medically reviewed by Saurabh Sethi, M.D., MPH
▼腸内環境改善に最重要!若さと健康のカギは菌の「多様性(ダイバーシティ)」にあり【医師が解説】
https://wellmethod.jp/diversity/
この記事の執筆は 医師 城谷 昌彦先生

城谷 昌彦
監修医
消化器病専門医・消化器内視鏡専門医・認定内科医・認定産業医
ルークス芦屋クリニック院長
腸内フローラ移植臨床研究会専務理事
NPOサイモントン療法協会理事
ヒュッゲ・ラボ株式会社代表取締役
主な所属学会
日本内科学会・日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会・日本抗加齢医学会・日本統合医
療学会・日本先制臨床医学会 など
東京医科歯科大学医学部卒業。
神戸大学病院内科、京都大学病院病理部、兵庫県立塚口病院(現・尼崎総合医療センター)消化器科医長、城谷医院院長などを経て、2016年ルークス芦屋クリニック開設。
消化器病専門医でありながら、自ら潰瘍性大腸炎発症によって大腸全摘術を経験。
西洋医学はもとより、東洋医学、心理学、分子栄養学、自然療法等の見地からも腸内環境を健全に保つことの大切さを改めて痛感し、腸内環境改善を柱とした根本治療を目指している。
2017年からは腸内フローラ移植(便移植)による治療を開始。腸内細菌が人体に及ぼす多大な機能改善力に着目し、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患だけでなく、うつ、自閉症、自己免疫疾患、がんなど多岐にわたる疾患の治療を行なっている。
- ルークス芦屋クリニックHP
https://lukesashiya.com - 城谷 昌彦の記事一覧
- facebook
https://m.facebook.com/drmasahiko/
著作・監修一覧
- ・『腸内細菌が喜ぶ生き方』(海竜社)
- ・『骨スープで楽々やせる!病気が治る!』(マキノ出版)
- ・『専門医伝授「アミノ酸豊富!骨だしスープで腸内フローラを再生」』(WEB女性自身)