お酒を飲まなくてもリスクがある! 肝硬変の治療と日頃からできる予防方法
こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。
突然ですが、みなさまは「肝硬変」と聞くとどのようなイメージがあるでしょうか?
漢字だけを見ると、肝臓が硬く変化する病気というのがわかります。
また、世間一般的なイメージとしては、なんとなくお酒を飲みすぎた人がかかる病気と思うかもしれません。
筆者の周りでは過去に、肝硬変によって亡くなってしまった女性がいました。
しかしその女性はお酒が弱く、毎晩飲んでいたようなことはありませんでした。
つまり、肝硬変は必ずしもお酒が原因で罹患する病気ではないのです。
今回は、肝硬変とは一体どのような病気なのか、その症状や治療方法、日常でできる予防方法などについて紹介します。
目次
1.肝硬変とはどのような病気?
肝硬変とは、いろいろな原因により肝機能障害が進行し、肝臓が硬くなってしまった状態をいいます。
肝硬変になってしまう原因はアルコールの多量摂取といったこともありますが、B型・C型肝炎ウイルスによるもの、また自己免疫肝炎や原発性胆汁性胆管炎などの肝臓の炎症で発症することもあります。
肝硬変になっても、とくにこれといった初期症状はありません。
しかし進行することにより、胃食道静脈瘤や浮腫、腹水、黄疸といった合併症や症状が起き、肝がんへと進行してしまうリスクが高まります。
1-1.肝硬変の病状は大きく2つに分けられる
肝硬変の病状は「代償性肝硬変」と「非代償性肝硬変」の2つに分けられます。
代償性肝硬変は、肝機能が保たれている初期症状です。
この時期は無症状であり、検査などをしない限り自分が肝硬変であると気づくのは難しいでしょう。
ただ、代償性肝硬変であっても、食欲不振や倦怠感、体重の減少などが表れるケースもあります。
そして非代償性肝硬変は、肝硬変の症状が進んだ状態です。
黄疸が出たり、歯茎などから出血したりすることもあります。
また、手のひら首、胸や頬に赤い発疹ができたり、腹水がたまったり手足にむくみが出たりすることもあります。
肝硬変は進行すると、肝臓がんの発症リスクがとても高くなる恐ろしい病気です。
1-2.肝硬変が手遅れになってしまうケースとは
「肝硬変が見つかりもう手遅れだった」そのようなセリフをドラマなどで見たことはないでしょうか。
肝硬変は症状が悪化すると、消化管出血や腹水といった重篤な症状がでます。
またむくみや黄疸などが現れ、さらに症状が悪化すると肝不全や肝臓がんに進行してしまいます。
肝臓が硬く荒廃した状態となっているため、元通りにすることはできません。
そのため、肝硬変は、その手前の肝炎の段階で肝硬変にならないよう予防すること、初期の段階で対処することが非常に重要です。
肝炎の段階で治療し、肝硬変にならないようにすることが重要ですが、肝硬変にまで進行した場合であっても、初期症状であり、肝機能がある程度保たれた代償性肝硬変の段階で対処することが必要です。
原因を取り除き進行を食い止めることで、肝臓の状態を保つことが重要です。
ちなみに肝硬変で硬くなった肝臓が自然に治るといったことはありません。
そのため肝硬変は、肝硬変になる前の肝炎などの段階での早期発見が重要であり、残された肝機能を維持することが重要です。
1-3.肝硬変かどうかを診断するには
肝硬変の診断は、問診、触診、血液検査や超音波検査、CT検査が行われます。
問診では、過去に輸血の経験があるかどうか、普段大量に飲酒をするか、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)による肝硬変のリスクがないかなどを確認します。
通常は、定期的に健康診断を受けていれば、脂肪肝や肝炎の段階で、血液検査において肝機能障害が発見できます。
肝硬変で見つかると言うことは、よほど、検診などの検査を受けておらず、放置していたためと言えるでしょう。
そして触診では、肝臓の箇所を肌の上から触り、硬さはどうか、お腹に水が溜まっていないか、胸にクモが足を広げたような斑点や毛細血管の拡張がないか、お腹の表面に走るような血管はないかチェックします。
また血液検査では肝臓の機能が弱っていないかどうかを調べます。
肝臓には脂質や蛋白を合成したり、有害物質を解毒・体外に排泄させる機能、寿命がきた赤血球を壊すときにできるビリルビンの代謝作用があります。
肝臓の働きが弱くなると蛋白の合成が低下し、血中の総コレステロールの値も減少します。
またアンモニアなどの有害物質が肝臓で代謝されなくなるためアンモニアの血中濃度が上昇します。
肝臓と連続する脾臓が肥大する「脾腫」が起こると、血液中の血液を固める役割がある血小板が減少し、出血しやすくなります。
肝機能をみる酵素の値やビリルビンの血中濃度や肝臓の硬さを示すヒアルロン酸値、血小板などを調べ、肝硬変かどうかを調べます。
そして肝硬変の診察では、CT検査や超音波検査が行われます。
腹部超音波検査では肝臓の形状や内部構造などをチェックし、CTでも同様の検査や腹水の有無、腫れた脾臓がないかどうかをチェックします。
ちなみに肝硬変の初期段階では、自覚症状はありませんが、血液検査や画像検査で判断できます。
そのため、自覚症状はないものの、何かのきっかけで受けた血液検査で異常が出た結果、精密検査としてエコーを受けたり、浮腫や黄疸がきっかけでエコーを受けたことで、やっと肝硬変だとわかるケースもあります。
2.肝硬変になってしまう原因とは
肝硬変を引き起こす原因はさまざまありますが、なかでも多いのが「肝炎ウイルス感染」です。
肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスが中心であり、これらはウイルス感染のおよそ8割近くを占めます。
肝硬変にまで進行するのは、主にC型肝炎ですが、B型肝炎ウイルスでも肝硬変になることもあります。
またアルコールの過剰摂取でも肝臓に大きな負担を与え、肝硬変を引き起こす要因になります。
この他にも自己免疫性肝炎や薬物による肝障害など、肝硬変を引き起こす原因はさまざまです。
そして近年注目されているのが、お酒の量は適切なのに肝硬変を発症してしまう「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」です。
NAFLDは、アルコールを除く様々な原因で起こる脂肪肝の総称です。
そのNAFLDのうち80~90%は脂肪肝のままで、病気はほとんど進行しません。残りの10~20%の人は徐々に悪化して、肝硬変に進行したり、なかには肝がんを発症したりすることもあります。
この脂肪肝から徐々に進行する肝臓病のことを「非アルコール性脂肪肝炎・NASH(ナッシュ)」といいます。
早期発見ができないと重い肝硬変を引き起こしてしまうため注意が必要です。
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3.肝硬変の治療方法
肝硬変になってしまった肝臓は、治療をしても正常な肝臓に完治させることはできません。
とくにひと昔前まででは肝硬変に対する有効な治療がなかったことから、「肝硬変=手遅れ」といった絶望的なイメージもありました。
しかしいまではウイルス性肝炎の治療が進み、肝臓の炎症を抑える治療薬なども開発されています。
肝臓を正常時に戻すことはできなくても、残された肝機能をなるべく維持し、日常生活の影響を減らす治療法が行われています。
3-1.治療薬でウイルス性肝炎を治療する
ここ20年ほどでウイルス性肝炎の治療はとても進歩しています。
ウイルス性肝炎に多いB型肝炎とC型肝炎の治療は次のようにして行われることが多いです。
1.B型肝炎
「核酸アナログ」と呼ばれる内服薬を使うことにより、B型肝炎ウイルスが肝臓で増殖するのを止める作用に期待できます。
これにより肝臓を硬くする原因である線維化を抑制し、肝臓の状態を修復する作用があります。
治療がうまくいくと腹水がたまった状態から無症状になるまで回復することもあります。
また、発がんの抑制にもつながります。
2.C型肝炎
以前はインターフェロンを用いた治療がおこなわれていましたが、現在はほとんどの方がインターフェロンを使わない飲み薬での治療に切り替わっています。
副作用が少ないうえ、画期的なウイルス除去効果を発揮する経口抗ウイルス薬が2014年に誕生しています。
この経口抗ウイルス薬は健康保険で認められているのも大きなメリットです。
8~12週間服用することでC型肝炎ウイルスをほぼ排除することができます。
ただ、経口抗ウイルス薬が使える人は、腎機能がある程度以上保たれていることが条件です。治療可能かどうか、併用薬によっては副作用などもあるので医師と相談が必要です。
このようにウイルス性肝炎の治療は、あらたな治療薬が開発されたことにより病気の進行を食い止めることにも成功しています。
完全に肝臓の状態を回復できるわけではないものの、治療法がなかった時代に比べると画期的な進歩です。
3-2.自己免疫性肝炎の治療方法
自己免疫性肝炎は、とくにお酒を飲むわけでもないのに発症してしまう肝炎です。
中年以降の女性に好発することが特徴です。
原因がはっきりしている肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、および他の自己免疫疾患による肝障害を除外して診断します。
原因は不明ですが、自己抗体が陽性で炎症が起こることから、自己免疫が要因と考えられています。
自己免疫性肝炎の治療方法は、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤といった薬を使って症状を抑えていきます。
また腹水や浮腫といった合併症が出ている場合は、食事を中心とした生活習慣の改善や、利尿薬も併用して治療するケースもあります。
また近年では生活習慣の悪化による肥満を伴った肝硬変も増えています。
肝硬変を発症すると血糖値のコントロールが難しくなり糖尿病を合併してしまうことも多いので、塩分や水分を控えつつ糖尿病の程度にも応じた食事療法が必要です。
いずれにせよ患者の肝臓の状態や年齢、生活環境などを考慮して、一人一人にあった治療を進めていきます。
3-3.肝硬変の治療では分岐鎖アミノ酸補充や肝移植がある
肝炎の症状が進んで肝硬変になった場合には対症療法があります。
肝硬変ではバリン、ロイシン、イソロイシンといった体内における分岐鎖アミノ酸が不足します。
これらを薬で補充することにより、肝臓のタンパク合成機能を改善させる働きに期待ができます。
そして治療によって症状が改善されない場合は、肝移植の選択もあります。
肝移植は健康な人の肝臓の一部を取り出し、肝硬変で苦しむ患者に移植する方法です。
肝硬変の治療をしても、なかなか腹水や黄疸といった症状が改善されない場合は、基準を満たした上で肝移植を受ける方法もあります。
3-4.栄養療法と運動療法も効果的
肝硬変になってしまった場合、症状を抑制するには「栄養療法」と「運動療法」などライフスタイルの改善が必要です。
肝硬変では、必須アミノ酸の一つであるBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシンの総称)を意識的にとること、そして低たんぱくな食事をとることが大切です。
そのためBCAAを含む青魚などをとりつつ、低たんぱく対応の治療食などを取り入れる方法もあります。
その上で野菜や海草類など食物繊維を多く含む食材をとり、腹水や浮腫を防ぐための塩分制限食も重要です。
そして筋力を低下させない上でも、体に負担のない範囲で適度な運動は重要です。
無理をしすぎる運動は厳禁ですが、ウォーキングなどの軽い運動を続け、ある程度体に筋力をつけることも大切です。
4.肝硬変を防ぐために日常でできる予防方法とは
肝硬変になってしまう原因の多くは、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染することです。
これらに感染してしまう原因は、すでにウイルスに感染した人の血液や体液に触れてしまうことです。
B型肝炎は、血液を介する他にも、主に性交渉で感染します。
C型肝炎は、主に血液を介して感染します。
あまり考えにくいのですが、注射器の使いまわしをしたり、不衛生な場所で輸血をしたりすると、ウイルス感染のリスクが高まります。
尿、涙、汗などによって感染することはまず考えられません。したがって、通常の生活では感染しませんし、医療従事者等の血液に触れることがある職場以外では、ほとんど感染するリスクはありません。家族や身近な人が肝炎ウイルスを持っている場合、会話、食事、清潔のな便座の共有などは問題ありませんが、血液の付着を伴う剃刀や歯ブラシなどには注意する必要があります。
B型肝炎の予防には、コンドームの使用が必要です。
また、母親から赤ちゃんにうつることがあるため、ウイルス陽性者は、出産時に適切な予防措置を受ける必要があります。
これらに当てはまる場合は、自分がウイルスに感染していないか、一度病院で確認することが重要です。
4-1.アルコールの飲みすぎには要注意
肝硬変は生活習慣病が原因で発症することもあります。代表的なのがアルコールの過剰摂取です。
肝硬変だけでなく、アルコールの過剰摂取は心身に影響を与え、重篤な病気を引き起こしてしまうことも多いです。
また肝硬変になるまで飲み続けてしまう人は、すでにアルコール依存症になっていることも考えられます。
アルコール依存症の専門病院などに相談し、専門家や家族の協力のもと、生活の立て直しを図る必要があります。
4-2.やはり正しい生活習慣は大事
また「非アルコール性脂肪性肝疾患」は、とくにアルコールの過剰摂取をしていないのに肝炎を引き起こしてしまう病気です。
これは食生活の乱れや運動不足、ストレスなどが原因で肝臓に負担がかかり、肝硬変に至るケースも確認されています。
肝硬変を引き起こさないためにも、毎日の生活習慣の見直しが大切です。以下のような生活を心がけ、日ごろから健康対策を行っていきましょう。
・脂肪分を控えたバランスの良い食事をとる
・適度な運動をする
・なるべくストレスをためない生活を送る
・十分な睡眠をとる
・禁煙する
5.肝硬変予防のために日ごろから日常生活に気を付けよう
肝硬変の主な原因はウイルス性肝炎であり、過去には輸血や血液製剤からの感染が多く社会問題にもなりました。
現在では注射器の使いまわしといったことがない限り、ウイルス性肝炎を引き起こすことは少ないと考えられています。
しかし、アルコールの過剰摂取や、食生活の乱れなどが原因でも肝炎は発症することがわかっています。
しかも早期発見に至らないと肝硬変が進み、最悪の場合肝移植をしないと余命が短くなるケースもあります。
普段から正しい食生活や適度な運動を心がけ、肝硬変だけでなく、病気にならないための生活習慣を心がけましょう。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか
和重 景
主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。