【医師解説】コーヒーの科学|5つの健康効果とリスクを避ける上手な付き合い方
こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。
皆さん、どんなコーヒーを1日何杯程度飲んでいますか?
コーヒーは、目を覚まさせるため、一日を乗り切るための飲料という意味だけではなく、生活を豊かに彩るための嗜好品です。
エスプレッソをアレンジしたラテなどのブームを超えて、最近では「サードウェーブ」、「フォースウェーブ」として、こだわりの産地や農園のコーヒー豆をブレンドせずにシングルオリジンで提供するロースターも脚光を浴びています。
「浅煎り」で丁寧に入れられるコーヒーは、ワインのように個性的でアロマや風味が特徴的なことから、贅沢な日常の楽しみとして、愛好家が生まれています。
さて、コーヒー好きは、毎日2杯、3杯、もしくはそれ以上のコーヒーを飲んでいると思います。コーヒーの健康効果とリスクについて見てまいりましょう。
目次
1.コーヒーを飲むことのメリット
1-1.中枢作用
コーヒーには、脳内に作用するカフェインが含まれています。脳内では、カフェインは抑制性神経伝達物質であるアデノシンをブロックします。
これによって、ノルエピネフリンやドーパミンのような他の神経伝達物質の量が増加します。
これによって、コーヒーが記憶、気分、エネルギーレベル、精神機能など、脳機能などを改善することが研究されています。
1-2.うつ病リスクの低下
コーヒーはうつ病を発症するリスクを低下させ、自殺のリスクを劇的に低下させる可能性があります。
ハーバード大学の研究では、1日に4杯以上のコーヒーを飲んだ女性は、うつ病になるリスクが20%低くなったと報告しています。
(※rch Intern Med . 2011 Sep 26;171(17):1571-8.)
1-3.エネルギー代謝
カフェインは、アドレナリンレベルを上昇させ、脂肪組織から脂肪酸を放出する可能性があります。また、物理的なパフォーマンスの向上にもつながります。
カフェインの作用で代謝が上がることもわかっていますが、コーヒーを長期間飲む人では慣れてしまいます。
1-4.コーヒーに含まれる必須栄養素
コーヒーにはこれらの栄養素も含まれます。
・リボフラビン(ビタミンB2)
・パントテン酸(ビタミンB5)
・ナイアシン
・ミネラル(マンガン・カリウム・マグネシウム)
1-5.糖尿病のリスク低下
いくつかの観察研究によると、コーヒーを飲む人は2型糖尿病のリスクがはるかに低くなることが報告されています。
18の研究の大規模なレビューによると、1日1杯のコーヒーは2型糖尿病のリスクが7%低下することに関連していたとされています。
(※Arch Intern Med. 2009 Dec 14;169(22):2053-63.)
1-6.アルツハイマー型認知症のリスク低下
コーヒーを飲む人は、世界中の認知症の主な原因であるアルツハイマー病になるリスクがはるかに低くなっているとする報告もあります。
(※J Alzheimers Dis. 2010;20 Suppl 1:S187-204.)
2.カフェイン代謝の個人差
一方で、気になるのは、まずカフェインのことだと思います。
人によって、カフェインがよく効く人、効かない人がいます。
カフェインは、成人では、経口摂取後、速やかに大部分が吸収され、最高血中濃度到達時間(tmax)には個人差があり、30~120 分となっています。
カフェインの代謝スピードには、ほとんどが「CYP1A2」という遺伝子多型が、関わっていることがわかっています。
代謝が早いタイプ:高活性型は、カフェインの摂取により直ぐに覚醒するなどの作用が働く一方で、迅速に代謝されて、効果がなくなります。
代謝が遅いタイプ:このタイプは、カフェインの代謝がゆっくりであるため、長時間体の中に止まり、覚醒や血管収縮などが長引きます。
遅い時間にコーヒーを飲むと不眠になりやすいのはこのタイプです。
カフェインの代謝が遅いタイプの場合、カフェインによって血管が縮み、血液と酸素の流れが悪くなる可能性があります。
その両方の遺伝子の要素を持った中間型もいます。
3.カフェインの利尿作用
カフェインについてよく知られるのは、利尿作用だと思います。
ただし、カフェインの長期摂取による脱水の可能性は低いと考えられています。
水分と一緒に供給されることや、日常的に飲み続けている人ほど、耐性ができ、利尿作用に影響しないことがわかっています。
4.カフェインのネガティブな作用の可能性
・不眠・不安
常識的な量であれば、成人および小児・思春期とも、カフェインの摂取と不安との明確な関係は把握されない。
カフェインの大量摂取は、神経過敏、イライラ感、不安感の上昇と関連します。
・睡眠障害
カフェイン代謝が悪い人が、100mg以上摂取する場合は、睡眠を妨げることがあります。
・血圧上昇
・心機能への影響
カフェイン 200 mg 以上の摂取から 1 時間以内では、虚血性心疾患(心筋梗塞)の発症リスクが高まる。
循環器系に及ぼすカフェインの有害作用は一過性で、日常的な反復摂取で耐性が形成されます。
その他、コーヒーは、緑内障、てんかん、逆流性食道炎などのある人は、カフェイン入りのコーヒーを避けた方が良いとされています。
5.コーヒーの適量は?
これらを踏まえて、コーヒーの適量とはどのくらいなのでしょう?
日常的に常識的な範囲を摂取する場合、有害作用は起こりづらいとされています。
ただし、感受性には個人差があるため、自分自身の体の状態を観察することが大切です。
カフェインの摂取量を 1 日あたりの摂取量は 300 mg(5 mg/kg)以内にとどめることが推奨されています。
150ml(1杯中)のカフェイン含有量は
・コーヒー(エスプレッソ) :140mg
・コーヒー(ドリップ):135mg
・コーヒー(インスタント): 68mg
とされていますので、2~3杯程度までが適量と考えられます。
※Bulletin of Tokyo University and Graduate School of Social Welfare) pp109-125 (2016,3)
適量を守れば、コーヒーには、クロロゲン酸やテオブロミンなど、生理活性物質が含まれており、ベネフィットが得られるものであると考えられます。
ただし、近年問題になっているのは、コーヒーに含まれるカビ毒です。
コーヒーは大変カビやすく、由来がはっきりし、管理がしっかりしたコーヒーを選ばないと、カビ毒を含む可能性も否定できません。
心身の不調になるリスクもあるため、注意が必要です。
その意味でも、産地などがはっきりし、農家ともしっかりとコミュニケーションをとっている顔が見えるロースターでコーヒーを選ぶことは小さな贅沢であると同時に、安心材料になると言えますね。
コーヒーは、生活を豊かにしてくれる楽しみであり、上手に付き合えば多くのメリットがある飲料です。
私は、1日に2〜3杯程度。
カフェインの代謝が悪いため、カフェイン入りは15時くらいまでにとどめ、夜飲みたいときはカフェインのないデカフェタイプをドリップで入れています。
最近は、浅煎りのフレイバーに目覚め、色々と試しています。
皆さんも、自分なりのコーヒーとの付き合い方を見つけてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか