【医師解説】感染対策に「口腔ケア」こそまずやるべき理由と3つのステップ
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
手洗いやアルコール消毒にマスクはしっかりと実践している人も多いかも知れませんが、実は、ウイルス感染予防のために、口腔ケア(口腔清掃)も大切だということを忘れていませんか?
歯周病菌の出す強力な酵素は、ウイルス感染を促進するリスクがありますから、常にお口を清潔にしておきたいものです。
私自身も過去に訪問診療を行なっていた高齢者施設で、爆発的に感染した事例を経験したことがありますが、その施設では後から、口腔ケアを全く行なっていなかったことが分かりました。
ウイルスで始まった感染症が重症化する場合、口腔内の細菌による二次感染が原因であることも多くあります。
感染予防に口腔ケアは常識。
いま一度、口腔ケアをしっかりと実践したいものです。
目次
1.不潔なお口はウイルス感染リスク
お口のケア、しっかりできていますか?
口腔内には、病原性のウイルスや細菌から体を守ってくれる常在細菌が暮らしていますが、ケアを怠ってアンバランスになると、むしろウイルス感染を促進する可能性があります。
1-1.ウイルス感染のトリガーに
日本歯科医学会連合は、総合的に考えて新型コロナウイルスに対して口腔ケアが重要と提言しています。
新型コロナウイルスは、細胞内に侵入する際に、プロテアーゼというタンパク質を分解する酵素を必要とします。
これが感染のトリガーになるのですが、実は、代表的な歯周病菌であるジンジバリス菌は、このプロテアーゼを分泌します。
インフルエンザウイルスも感染にあたって必要なヘマグルチン(HA)という糖タンパクを活性化するためにはプロテアーゼを必要とします。
口腔ケアは、インフルエンザ感染予防に有効であることが分かっています。
口腔ケアは、ウイルス感染の水際対策として、とても重要です。
※参照:日本歯科医学会連合「新型コロナウイルス感染症について(COVID-19)国民のみなさまへ」
1-2.重症化リスクも高まる
複数の研究によると、新型コロナウイルスの重症化の約80%、死亡例の約50%は、細菌の二次感染があり、重症化の原因になっていることが報告されています。
歯周病菌として口腔内に存在するP.ジンジバリス菌、F.ヌクレオタム、P.インターメディアなどが唾液に含まれ、それがウイルス感染によってダメージを受けた肺に流れ込むことにより肺炎を引き起こすと考えられています。
※Cell Mol Immune:2020 Ma;17(5)533-535
J.Trans.Med:2020;18,206
1-3.歯周病は自分に無関係ではない
歯周病は自分には関係ないと考えている方も多いと思います。
でも、無関係ではありません。
少しでも歯が腫れたことがある人や、出血した人がある人は、既に歯周病に足を突っ込んでいると考えてください。
先にご紹介した歯周病菌のうち、P.インターメディアは、女性ホルモンに反応して増える歯周病菌で、特に男性よりも女性の方にリスクがあります。
厚生労働省の過去の調査(「歯科疾患実態調査」)によると、「歯肉出血・歯石・歯周ポケット」の何らかの所見が見つかった人は、20歳以上で7割、35歳以上で8割。
歯肉出血がある人は、15歳以上から75歳以上のいずれの年齢も4割程度。
4mm以上の歯周ポケットがある人は、年齢を追うごとに増えていき、35〜44才で4割、45〜54才、55~64才で約5割、65~74才で約6割となります。
無関係と思わずに、しっかりとケアすることが重要です。
※厚生労働省「歯科疾患実態調査」
1-4.マスクで口臭が気になれば要注意
病的な口臭の約8割は、歯周病由来とされています。
でも、口臭は嗅覚の慣れの現象が起こりやすいので、慢性的な口臭ほど自分では気づくことができません。
口臭はセンシティブな問題なので、他人もなかなか指摘してくれません。
辛辣な家族が「口が臭いよ!」と指摘してくれたら、うるさがらずに真摯に耳を傾けてみましょう。
誰にも指摘されなくても、マスクをすることで自分の口臭に気づいた人は、歯周病になっていないか気にしてみましょう。
「マスク口臭」8割はリスクあり?危険なニオイと原因別の対策とは?【医師解説】
https://wellmethod.jp/mask-bad-breath/
2.歯磨きだけでは不足!口腔ケア3ステップ
「歯磨きしているから大丈夫」と考えている人も多いでしょう。
でも、歯周病菌が繁殖するのは、歯と歯茎の間の歯周ポケットです。
この奥にある歯周病の原因となるプラークは、歯ブラシで取り除くことは不可能です。
歯磨きだけでは、4割のプラークをみがき残していることが報告されています。
※日本歯科保存学雑誌48(2):272.2005
2-1.口腔ケア3つのステップ
自宅でできる口腔ケアには3つのステップがあります。
1. ブラッシング:歯磨き
2. フロッシング:歯間ケア
3. イリゲーション:水流洗浄
この3つのプロセスで、歯周病ケアは完成します。
歯ブラシで歯磨きすることで、残るプラークは4割。
デンタルフロスや歯間ブラシを使って歯間ケアすることで、残るプラークは後2割。
そして、水流洗浄機を使って強力な水で洗い流すことで、残るプラークは後1割とされています。
※日本歯科保存学雑誌48(2):272.2005
水流洗浄機は、日本では馴染みはありませんが、高圧洗浄機の様な強力なジェット水流で、歯と歯の間の食べかすや、歯周ポケット内の汚れやプラークを洗い流します。欧米では各家庭で一般的に使われています。
各家庭に1台は欲しいところで、私としても強くお勧めしています。
2-2.ここまでやっても残る1割は歯科で
ここまでやっても、1割を磨き残してしまいます。
私自身も、奥歯の裏側のへっこみのどうしても届かない部分にプラークがたまりやすく、歯科のクリーニングにお世話になっています。
歯医者といえば、あの音と削られる恐怖と痛みでトラウマになってしまい、足が遠のいている人も多いと思いますが、定期検診にいくことで、痛みを伴う治療をする前にケアすることができます。
3〜6ヶ月に1回は検診に行き、クリーニングをしてもらいましょう。
感染対策としても、全身疾患の対策としても、口腔ケアは一番土台になります。
これを機に、日常のルーティーンとして組み込んでいきたいところです。
2-3.歯周病は全身疾患を引き起こす
歯周病は、脳梗塞や心筋梗塞、アルツハイマー型認知症、大腸がんなどの原因にもなります。
歯周病に関連する全身疾患は実にたくさんありますので、口腔ケアをしないまま、食事や運動だけで健康管理はできないのです。
・流早産・低出生体重児
・動脈硬化(動脈瘤・脳梗塞・心筋梗塞)
・アルツハイマー型認知症
・糖尿病
・関節リウマチ
・掌蹠膿疱症
・食道がん・大腸がん
詳しくは
https://wellmethod.jp/bad_breath/
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか