皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

新型コロナウイルスが世界的に拡大する中、アメリカに渡航しています。『【新型コロナ】春の旅行はどうする?米国の審査は緩かった|空港出入国事情』では、閑散とする羽田空港と予想外に緩いアメリカの入国審査についてお伝えしました。春の渡航の検討材料にして頂ければ幸いです。

さて、こちらはというと、新型コロナウイルスの影響で、3月4日からロサンゼルスで予定されていた巨大な展示会が、なんと開催前々日になって急遽、延期のお知らせが事務局から届くというプチパニックな事態です。

WHOによると、3月3日の時点で新型コロナウイルスの全世界の感染者数は9万人以上、死者は3100人にのぼり、世界規模で多くの人が巻き込まれているウイルスの拡大を受けて、日本からちょっと離れた視野でアメリカの様子をお伝えしたいと思います。

※この記事は3月3日時点での内容です。
新型コロナウイルス についての情報は、日々アップデートされています。
詳しい最新情報や対処法などは、厚生労働省のHPをご参照下さい。

ウイルス対策

1.米西海岸で世界規模のイベント中止に

さて、世界的なメガイベントに参加を予定して渡航した訳ですが、開催前々日の3月2日に延期の決定という、想像できない事態を体験しております。

Natural Product Expo Westという、ナチュラル&オーガニック&ヘルスケアプロダクトの世界最大規模の展示会で、世界中から3600を超える企業が出展し、8万6000人を超える業界関係者が参加するメガイベントです。

既に準備のために前乗りしていた業者を含め、万単位の人間が世界規模で動いていたはず。大会事務局は、ギリギリまで行政や専門家らとミーティングを重ねた結果として、前々日に苦渋の決断となったようです。

参加予定だった日本のヘルスケア関連企業や取材チームも、一部は私のように既に渡航していたものの、急にぽっかりと予定がなくなった組。多くは渡航直前に渡航自体がキャンセルとなり、ホテル代は一部戻っても航空券代は戻らないとぼやく組。

出展業者には、500万ドルの払い戻し基金が準備されているそうですが、メガイベント中止による経済的、人的、時間的な損失は計り知れません。

2.フェイスブックも株主総会を中止に

国際的なイベントの中止は、日本だけでなくアメリカでも相次いでいます。

facebookにログインする様子

アップルやグーグル、フェイスブックをはじめとしたITテック企業が集結するカリフォルニア州シリコンバレーでは、春にはテックイベントが盛んになる時期です。ところが、シリコンバレーを含むベイエリアにおいても28人の感染者が確認されている今期は、多くのイベントが中止や延期となり、開催されたところで、出展取りやめの判断をする企業も多く、例年のように盛会とはいかない様子です。

かのフェイスブックも5月に開催される株主総会を中止にしたほど、異例の対応を迫られています。

3.市中感染が拡大で警戒強まるアメリカ

3月4日の時点で、アメリカで確定診断されている新型コロナウイルス感染者は100人を超えています。

多くは、中国など感染地域への渡航歴があったり、クルーズ船からの帰還者ですが、一部は、こうした歴が一切なく、街中において人から人へと感染したであろう市中感染と考えられており、アメリカにおいても日本のように拡大する段階に入ったと考えられることが警戒を強めるきっかけになっているようです。

4.公衆衛生予算削減のトランプ大統領に批判

世界的に未曾有の危機と言える新型コロナウイルスの拡大を受けて、対応が追いついていないのは世界各国共通と言えます。

アメリカにおいても、公衆衛生の専門家が十分にリーダーシップを発揮することができず、対応は後手後手に回っているようです。

この騒動の最中に、トランプ大統領が、公衆衛生の要であるアメリカ国立衛生研究所(NIH)の予算を30億ドル削る提案をしたことでも「この危機に対して、政治家は口を出すな!公衆衛生の専門家に主導権を!」と批判を集めています。

5.マスクの買い占め価格高騰はアメリカでも

3月3日のニューヨークタイムズによると、アメリカにおいても日本のようなパニック現象が一部には起きているようです。

ブルックリンにあるコストコでは、この週末にストック用のボトルウォーターや缶詰、ウェットティッシュ、風邪薬などを買い求める人が増えているとのこと。

また、街の日用品店では、マスクや抗菌グッズなどの売り切れ現象も発生し、マンハッタンの中国人街のとある商店では、先月までは20ドルで販売されていたマスク1箱が、75ドルに値上がりしていたことなども報じられています。

「パニックになるには早すぎる」と専門家は警告していますが、恐怖心はウイルスよりも速いスピードで市民の心に感染しているようです。

6.一般市民の現状は報道と乖離

一方で報道とは違い、誰かが咳をすると冷ややかな目線が刺さる日本と比較して、私自身が経験しているアメリカは、まだまだ大らかな印象です。

近隣で感染が拡大中のシリコンバレーのアップル本社のほど近くに訪れた際に、カフェで2人が痰が絡む咳をしていました。彼らはマスク着用をしていませんでしたが、特に周囲の人も気にする様子はありませんでした。

レストラン関係者にも取材目的で会いましたが、日本からの訪問者を笑顔と握手で迎えてくれた上に、私服で厨房にまで案内してくれようとしたため、こちらが躊躇して遠慮するほどでした。

7.マスク着用やアルコール常備はなし

国内移動の為にアメリカンエアラインに搭乗しましたが、空港スタッフや客室乗務員など、誰もマスクを着用していません。全員がマスク着用の日本航空とは大違いです。密室でしたが、乗客もマスク着用者を見かけませんでした。

機内では、特に手を洗わずに配布されるウェットティッシュで軽く拭いてスナックをつまむことになります。アルコール除菌を携帯して手に刷り込む人を周囲に2人ほど見かけましたが、その他はそのまま手づかみで口に運んでいました。

混雑するロサンゼルスの空港では、人種を問わず、サージカルマスクやN95という空気感染にも対応可能なマスクをしている人を見かけましたが、全体の1割にも満たないといったところです。

アメリカの空港の様子▲空港内でもマスクをしている人はわずか(撮影:桐村里紗先生)

 

多くの公共施設や店舗の化粧室で消毒剤の設置を見かけることはほとんどなく、自主的な使用に任せているようです。

化粧室
▲日本のように、公共施設のトイレにはアルコール消毒薬の設置無し(撮影:桐村里紗先生)

 

ニュースなどの報道がある一方で、一般市民はどこか「対岸の火事」的に考えている様子も伺われました。

日本のように人口が密集していないための大らかさかも知れませんが、未知のウイルスへの対応については、全世界で無経験だということです。

8.WHO「マスク予防に必要なし」

アメリカでのマスク使用率の低さは、米疾病対策センター(CDC)が「予防目的でマスクを勧めない」という見解を出しているためかも知れません。

マスクの多くは中国製であり輸出がストップしていることと、買占め問題なども手伝って、必要な医療現場にもマスクが不足している世界的なマスク危機と言える状況で、WHOも、「予防目的でのマスクは必要なし」「過度に使用しないように」との見解を出しました。

9.マスクの予防効果の実際

果たして、マスクに予防効果はないのでしょうか。

実は、マスクについては、「予防する」という確たるエビデンスは存在しないのですが、「予防効果がない」ということが証明されている訳ではありません。
ここは、ややトリッキーですが、メカニズムを考えてみましょう。

感染を防ぐ

新型コロナウイルスの感染ルートは、飛沫感染と接触感染です。

感染者のくしゃみなどで飛散する分泌物に含まれるウイルス飛沫を浴びる飛沫感染は、飛沫が飛び散る半径2m以内で感染のリスクがあります。その飛沫は、マスクの網目を通り抜けることはできませんので、ブロックする効果はあると考えられます。

また、接触感染については、感染者の唾液や排泄物に含まれるウイルスが付着した場所。トイレのドアノブや蛇口、テーブルなどを触ることで、手などに付着したウイルスを自分で口に運ぶルートです。
人は、1日のうちに高い頻度で無意識に手で顔や口を触っていますので、マスクをすることでこれを防ぐ効果もあると考えられます。

マスク着用の意義は、基本的に咳などの症状がある人が周囲に感染を拡大しないためのエチケットです。症状がない人においては、咳などの症状がある人が近くにいない、または人が密集する場所に行かない場合に予防でマスクをする意味はあまりないと考えて良いと思います。

10.意識すべき手洗い

それ以上に注意すべきは、洗っていない手を口周りに運ばないように意識すること。食事の際や帰宅時には、手洗いをしっかり行うことです。

手洗いの方法

手洗いについては、殺菌効果のあるソープは特に必要ありません。殺「菌」であり、殺「ウイルス」でないものは、意味がないばかりか、手の表面を病原体から守る常在細菌をも減らしてしまうので、むしろ控えたいものです。

ウイルスは、表面に付着しているものですから、通常の石鹸を使ってしっかり洗うことで流すことができます。

ただし、日常的な手洗いでは、手に付着している菌やウイルスを十分に落とすことができません。 
感染症対策として厚生労働省が勧める方法は、以下の手順です。

1. 流水で手を濡らし、石鹸をつける
2. 手のひらをよくこすり合せる
3. 手の甲を伸ばすようにこする
4. 指先、爪の間を念入りにこする
5. 指の間を洗う
6. 親指と手の平をねじり洗いする
7. 手首も忘れずに洗う

手洗いができない場合には、アルコール消毒剤などを携帯してしっかり手に刷り込み乾かすことでも代用が可能です。

ただし、最近は、消毒剤や除菌シートなども手に入りにくい状況となっています。基本として必須なのは、しっかりと手洗いをすることですので、いつも以上に意識をしましょう。

人類の進化の歴史は、ウイルスとの戦いと共存の歴史と言っても過言ではありません。

今回のように、新たなウイルスが世界的に拡大する未来は、また起こらないとも限りません。その際に、パニックにならないように対応する為に、今回の経験が人類の大きな教訓となり活かされることを願います。

※この記事は3月3日時点での内容です。
新型コロナウイルス についての情報は、日々アップデートされています。
詳しい最新情報や対処法などは、厚生労働省のHPをご参照下さい。

医師

桐村 里紗

【総合監修医】
tenrai株式会社代表取締役医師
愛媛大学医学部医学科卒。
臨床現場において、生活習慣病から在宅医療、分子栄養療法やバイオロジカル医療を用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。「ヘルスケアは、カルチャーへ」というコンセプトを掲げ、ヘルスケアの「意味」を再定義し、様々なメディアでの発信やプロダクト監修を行っている。
ニオイ評論家としてフジテレビ「ホンマでっか!?TV」「とくダネ!」などメディア出演多数。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか~口臭と体臭の化学』(光文社新書)ほか多数。

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