腸内環境改善に最重要!若さと健康のカギは菌の「多様性(ダイバーシティ)」にあり【医師が解説】
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
腸活は、ヘルスケアにおいてもトレンドワードになっていて、「私も腸活やってるわ!」という方もたくさんいらっしゃると思います。
でも、腸内環境の健康を維持する為に、善玉菌とされる「乳酸菌やビフィズス菌が多ければ、すなわち健康」と考えていませんか?
それは、実はそれは間違いなのです。
もちろん、細菌業界のスターである乳酸菌やビフィズス菌の存在は重要ですが、彼らの活躍を影に日向に支える数多の細菌達の存在が不可欠です。
いつまでも、若々しく健康でいる為に、腸内環境の改善に最重要なのが、腸内細菌の多様性(ダイバーシティ)を維持することと考えられています。
今日は、ちょっとふんわりして分かりにくいものの、とても大切な「多様性」を、簡単に理解できるようにしてみましょう。
目次
1.腸内細菌の多様性をTV番組に例えてみる
1-1.業界のスターが乳酸菌やビフィズス菌
TV番組を例えに、視聴者の立場で考えてみましょう。
名司会者、美人アナウンサー、レギュラー陣が、毎週定番で出演しています。
彼らは、視聴者誰もに認知される華やかなスター。
腸内細菌に例えるならば、誰もに名前を知られ、愛されている乳酸菌やビフィズス菌です。
乳酸菌やビフィズス菌も、全員が似ているわけではありません。
番組を構成する出演者は、全員が違った個性を持ちながら、時にとんがったキャラクターの持ち主もいます。
息もぴったりでコミュニケーションが良好だと、場の空気が温まり、良い番組になります。
実際に、乳酸菌やビフィズス菌と一言で言っても、様々な種類があり、それぞれに違う個性を持っています。
あるものは、免疫を高める作用があり、あるものは過剰な免疫を抑える作用がある、というように、全く真逆の働きをする場合もあります。
1-2.食事から摂る有用菌はゲスト出演者
人の腸内に定着できる常在細菌は、だいたい、幼稚園くらいの年代までに種類が決まります。
幼少期の両親との触れ合い、環境の様々なものを口に入れる、食事をする、ペットを飼う、など様々な要因で、100人いたら100通り、定着する腸内細菌の種類とバランスはバラバラです。
それ以降になると、食事から摂取しても、定着することはできず、数日間で腸内を通過していなくなります。生きたまま腸まで届いたら、腸内を通過する際に、腸内の常在細菌と協力し合うことで効果を発揮します。
ヨーグルトなどの発酵食品に含まれ、食事で摂取する有用菌は、その時々に番組に呼ばれるゲスト出演者のようなものです。
レギュラー陣との相性がよければ、場が温まりますし、相性が悪ければしらけてしまうこともあります。
自分の腸内環境に、どの種類の有用菌が合うかどうかは、人それぞれの環境によるので、自分に合うなら続けると良いでしょう。
1-3.全員が大スターだけで番組は構成できない
例え、特定のビフィズス菌が身体に良いからと言って、腸内が全部、そのビフィズス菌だらけになれば良いというわけではありません。
どんなに大スターであっても、TVでは掛け合いがあるから面白いのであって、出演者全員が同一人物と想像したらどうでしょう。
番組は成り立ちませんし、面白くもありません。
このように、ビフィズス菌も数多の細菌の協力によって活躍ができるのです。
腸内の大部分が特定のビフィズス菌になったとしたら、それは、「多様性の低下」という異常事態であり、病気を引き起こします。
1-4.スターの裏に見えないスタッフの活躍があり
視聴者には見えませんが、その裏では、その番組作りを支えるたくさんのスタッフがいます。
プロデューサー、ディレクター、アシスタントディレクターや、現場の音響、照明、映像、編集担当など、あらゆるスタッフの完璧なチームワークによる総合力で番組が成り立っています。
スターが活躍できるのも、そうしたバックグラウンドがあってこそ。
人の腸内には、約100兆個、そして、1000種類以上の腸内細菌が働いています。
腸内で乳酸菌やビフィズス菌が活躍できるのも、名も知られていない多種多様な細菌が絶妙にバランスをとっているからです。
このように、数多の個性が違う細菌がネットワークを作り、互いに協力し合いながらそれぞれの役割を発揮している状態。
これこそが、「腸内細菌の多様性」が維持されている状態で、「健康」な状態なのです。
2.腸内細菌の多様性で太らず超健康に
腸内細菌の多様性を維持することで、どのような健康上のメリットがあるのでしょうか。
2-1.メリット①:人生100年「超健康」でいられる
通常、年齢と共に、腸内細菌の多様性は低下していきます。
ところが、中国とカナダの研究(※)では、「非常に健康」な高齢者は共通して、腸内細菌の多様性が若者並みに高いことがわかりました。
3歳から100歳までの1000人の「非常に健康」とされる中国人を対象にしたこの研究で、全グループに共通した特徴は、特定の善玉菌の種類が多いことではなく、腸内細菌の多様性が高いということだったそうです。
※Americansocietyformicrobiology:mSphere:27Sep,2017
2-2.メリット②:太りにくい
イギリスの双子を対象とした研究(※)によると、長期的な体重の変動に遺伝子が与える影響は半分未満で、腸内細菌の多様性が高いほど、体重が増えづらいことがわかりました。また、食物繊維の摂取が多いと、腸内細菌の多様性が保たれるということもわかっています。
遺伝子検査を行って、「肥満遺伝子」を持っている人が痩せていたり、「痩せ遺伝子」を持っている人が太っていたりすることはよくあります。
人のエネルギー代謝には、人の遺伝子だけでなく、腸内細菌も大いに関わっているのです。
※International Journal of Obesity 2017 Jul;41(7):1099-1105
3.腸内細菌の多様性低下と病気
腸内細菌のバランスが乱れ、多様性が低下する状態を「ディスバイオーシス」と言います。
これまでに関連が分かっている疾患としては、以下のようなものがあります。
・生活習慣病(肥満・動脈硬化・2型糖尿病など)
・大腸がん
・アレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎・気管支喘息・花粉症など)
・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)
・過敏性腸症候群
・抗生物質起因性下痢
・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
・自閉症・神経症など精神疾患
・多発性硬化症 他
※日本静脈経腸栄養学会雑誌 33(5):1099-1104:2018 他
4.腸内細菌の多様性を低下させる要因
腸内細菌の多様性を低下させる要因は様々あります。
4-1.ファストフード連食で40%の腸内細菌が消えた
多様な細菌は、多様な食事の栄養素を餌にしており、偏食は多様性を低下させるリスクになります。
英国ロンドンのキングスカレッジの遺伝疫学教授、ティム・スペクター氏の有名な実験があります。
大学生であった23歳の息子・トムを実験台に、10日間にわたり某有名ファストフードチェーンのセット(ハンバーガー・チキンナゲット・フライドポテト・コーラ、夜はビール)を連日連食食べさせたところ、既に2日目にして腸内細菌の多様性は40%も減少し、1400種類の腸内細菌が失われたとのことです。
研究の途中から、疲労倦怠感、無気力、不眠にも悩まされたそうです。
この非人道的な実験は、家族だからできることであり、大規模にはできないものですが、かなりのインパクトです。
その他にも、以下のような要因が報告されています。
・欧米型の食事(低食物繊維・高脂肪食)
・ストレス
・運動不足
・加齢現象
・化学物質:食品添加物(人工甘味料・乳化剤など)・PM2.5など
・薬剤:抗生物質や胃酸抑制薬など
・細菌感染症:食中毒など
※日本静脈経腸栄養学会雑誌 33(5):1099-1104:2018 他
ストレスを感じると急にお腹を下す過敏性腸症候群では、腸内細菌の多様性が低下していることが分かっていますし、その逆に、ロシアの宇宙飛行士の例では、ストレスが甚大な飛行中は、乳酸菌の一種やビフィズス菌が減少し、増えすぎると炎症を起こす大腸菌やウェルシュ菌が増加することが報告されています。
※Lizko N.N. et al.(1984)Die Nahrung 28: 599-605.
抗生物質を飲んで下痢をしたり便秘になったりした経験がある方もいらっしゃると思いますが、抗生物質は病原性を発揮している一種類の細菌だけでなく、多様な腸内細菌にもダメージを与えていることを忘れないで頂きたいと思います。
5.腸内細菌の多様性を改善する食事
腸内細菌の多様性を回復するには、多様性を低下させる要因を排除することに加えて、積極的に食事で腸内環境を改善することです。
5-1.バラエティ豊かなシンバイオティクス食
食事のポイントは、2つ。
生きた有用菌を含む食品をとる「プロバイオティクス」。こちらは、先に出演したゲスト出演者のイメージですね。
そして、腸内に常在するスターやレギュラー陣やそれをサポートするチームを元気にするエサをとる「プレバイオティクス」。
その2つを合わせて「シンバイオティクス」と言いますが、これを毎日意識することが重要です。
「シン」とは、シンフォニーとかシンパシーという単語にも使われ、「共に」という意味です。常在細菌と仲良くするための食事方法です。
プロバイオティクスは、様々な発酵食品を意味します。
伝統的な発酵食品には、ビフィズス菌・乳酸菌・酢酸菌などの有用菌や麹カビ、酵母などが含まれます。
プレバイオティクスは、食物繊維を含む海藻や野菜、豆類、雑穀類、果物など。それから、小腸で消化されない糖であるオリゴ糖。もちもちしないポソポソのお米やじゃがいも、タピオカなどに含まれるデンプンが冷えてできる難消化性デンプン(レジスタントスターチ)などです。
個性豊かな腸内細菌は、それぞれに好きな食品も違いますから、バラエティ豊かに食べることも忘れずに。
毎日の食事で、個性派が活躍するダイバーシティな腸内環境を作りましょう。
ちなみに、監修医・桐村を初め、WELLMETHODチームは、腸内フローラ検査では、多様性は「A」判定。
(詳しくは、GUT DIVERESITYへ → https://wellmethod.jp/gut-diversity/team.html)
自分自身の腸内フローラの多様性などを詳しく知りたいなら、腸内フローラ検査を受けてみては?
https://wellmethod.jp/mykinso/
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか