「食べる」という薬と毒。上質な女性を作る為に必要な栄養素#ドクターLISAのウェル・メソッドvol.5
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
この連載では、究極のウェル・ビーイングとして、心と体の健康だけでなく、パートナーシップ、人生、社会、そして地球全体の健康と幸せを実現する為に、私自身が日々大切に考え、実践していることをお伝えしていきます。
今日は、毎日の「食べる」が薬にも毒にもなるというお話。これは、生理学的にも当たり前なのですが、医療の専門家も一般の人もその基本をよく知らないままに日々食べているのが現状だと思います。
ちょっと知るだけで、毎日の「食べる」が変わります。
目次
1.食べ物が健康を左右するは科学的に正しい
毎日の食べ物って、どれほど意識しているでしょう。
「栄養バランスが大事」とは何となく考えていると思いますが、漠然としてイメージがわかないままに、日々食べていることが多いと思います。
学校の家庭科では、栄養学的なことを習ったような気もしますが、私自身も調理実習で作ったものが美味しかったこと以外は、ほとんど記憶にありません。
それによって、「食べる」ということが人生において抜本的に変わるほどのインパクトはきっとなかったように思います。
1-1.医療従事者は栄養学を知らない
では、私は医者だから、医学部できっと本格的に栄養学を習い、そこで意識を高めたのかといえば、全く違います。
医者を養成する医学部医学科を含め、医学部では、栄養学を習いません。
ですから、彼らのランチの基本メニューは、カップ麺です。
忙しい医療従事者が、一瞬で飲み込める食べ物の代表なので、医局やナースの控え室の極めてスタンダードな常備食は、カップ麺なのです。
むしろ、健康意識の高い一般の人よりも酷いのが現状です。
これは、日本の医学部だけでなく、アメリカでも同じだそうで、栄養学を教える医学部は2割強だそうです。
例えば、生活習慣病について専門的に習う際に、「糖尿病食」だとか「腎臓病食」だとか、疾患ごとの制限食については習うのですが、「人が日々の健康を維持するための当たり前の食事」としての栄養学は、習いません。
だから、体の乱れた代謝を元に戻すには「薬」が必要で、「食べる」とか「栄養素」によって、体が薬や毒として作用することがあるだなんて、「非科学的」とさえ考えられています。
1-2.生化学的に栄養素は健康を左右する
ここではっきりとお伝えしたいのですが、体の全ての構成要素は、100%が食べ物と水でできています。これは、生化学的に明らかなことですから、全く非科学ではありません。
実は、医学部では、1年生や2年生「生化学」の教科書を紐解くと、体内の代謝の難しい図の中に栄養素が散りばめられています。
細胞内のエネルギーを作るミトコンドリアの代謝回路の反応も、栄養素なしには起こりません。
つまり、形を変えて習ってはいるはずなのですが、教える教師側も、習う生徒側も、その視点では考えていないので、食事や栄養と体の代謝が繋がっていないのです。
1-3.あなたは食べたものでできている
栄養学といえば、カロリー計算がどうのとか、病気にならないように、あれを食べてはダメこれは食べてはダメと制限がつきもののようなイメージがあるかも知れませんが、そこはまず置いておきましょう。
まず、栄養学の基本の考え方に「You are what you eat.」(あなたはあなたの食べたものでできている)というものがあります。
「栄養学」と難しく考える必要もありません。
これが全てで、これが当たり前なのです。
水と食べ物は、人の体の構造や働きの全て、そして心にまで左右します。
心身の健康を維持することも、代謝を乱し、精神バランスを崩すことも可能です。
時に、食べ物は、薬にもなり、毒にもなります。
1-4.食べ物はカロリーになるだけにあらず
まず、五大栄養素「糖質」「タンパク質」「脂質」「ビタミン」「ミネラル」。
これらが、
・エネルギー源
・体の構成要素
・体と心の機能
の基本となります。
「カロリー」ばかりが注目され、「ダイエットのために食事を減らさなきゃ!」と考えられる風潮がありますが、この場合、「エネルギー源」としての働きにしか意識が及んでいないのではないでしょうか。
1-5.ビタミンやミネラルはサブではない
骨や筋肉、内臓、脳、肌、そして、全身の細胞など全ての体の形は、栄養素によって維持されていますから、お肌のハリを保つためのコラーゲンを作るにも、タンパク質やビタミンCなどの栄養素が不可欠です。
体のあらゆる内臓の働き、脳の働き、精神の働きは、栄養素を原料にした、ホルモンや神経伝達物質、酵素、免疫物質などによって行われていますので、栄養素がなければ、機能が低下して当たり前です。
特に、ビタミンやミネラルは、サブとしての働きではなく、あらゆる機能に不可欠なメインの栄養素になりますが、糖と脂肪が過剰な現代的な食生活には欠けているものです。
栄養バランスを欠くことで、体が回らなくなるのは当然。
だから、現代人の不調や生活習慣病が増えていると言っても過言ではありません。
「調子が悪いから、病院で薬をもらう」と考える前に、まずは、「食べる」ことがおろそかになっていないか?という基本に立ち返って頂きたいのです。
2.毒にも薬にもなる植物の力
五大栄養素以外にも、植物には、私たちの毒にも薬にもなる成分が含まれています。
「たかだか植物」ではありません。
古くから、生薬やハーブ、また人を暗殺するための毒薬や麻薬としても使われてきたのが植物ですし、これを抽出して精製したのが「薬」の始まりなのですから、薬理効果があって当然です。
2-1.毒にも薬にもなる新しい栄養素
自然界の植物は、厳しい太陽光や虫や野生動物などの外敵に晒されるために、自己防衛のための成分を作り出しています。
これを「ファイトケミカル(phytochemical)」と言い、「ファイト(phyto-)=植物性の」+「ケミカル(chemical)=化合物」として、新しい栄養素として注目されています。
無くては体が回らない必須の五大栄養素とは違い、食べなくても欠乏症を引き起こして代謝を回らなくさせることはないものの、プラスアルファの働きとして体の機能に良くも悪くも影響を与えるものです。
2-2.ファイトケミカルの健康に良い働き
例えば、抗酸化作用を持ち、色々な機能性を持って体に良い働きをするとされて注目されている赤ワインやチョコレートのポリフェノールや緑茶のカテキン、大豆のイソフラボンなどもファイトケミカルの一種です。
野菜の色や香りなどを司る成分で、
・赤=リコピン、カプサイシン
・オレンジ=プロビタミンA
・黄色=フラボノイド、ルテイン
・緑=クロロフィル
・紫=アントシアニン
・白=イソチオシアネート、硫酸アリル(香り成分)
・黒=クロロゲン酸、カテキン
などが代表的で、これらの虹色のような色をバランスよく食卓に取り入れるレインボーフードが推奨されています。
2-3.植物の天然毒は日常に
一方で、植物が外敵から身を守るための毒として働く成分が人間の毒にもなることがあります。
例えば、植物性のアルカロイドは、代表的な植物の天然毒として働きます。
コカの葉からとれるコカインは中枢神経に作用して幻覚作用を発揮しますが、これも植物性アルカロイドの一種。
食用の食べ物であっても、フキノトウのアクの一種は、肝機能を障害したり、ジャガイモの芽に含まれるソラニンは、消化器障害を引き起こしたり、青いトマトに含まれるトマチンも中毒性を発揮します。
2-4.味覚を信じ、伝統の知恵を守ること
草食動物は、敏感に植物由来の天然毒を察知しますから、毒を持つ植物を口にすることはありません。
「渋い!」「苦い!」「痺れる!」など、美味しく感じられない植物は、何らかの毒性がある可能性があるので、動物としての味覚を信じることは大切です。
また、フキノトウであれば、アク抜きをする。ジャガイモは、芽を食べない。トマトは、青いまま食べることはなく赤くなってから食べるなど、伝統的な食べ方を守っていれば、明らかな体の毒になるほどの働きはしません。
危険な植物を何とか食べられるようにする人間の知恵が、今の豊かな食生活の礎になっています。
ただ、日常的に食べている植物であっても、ファイトケミカルとして薬にも毒にもなる作用を少なからず発揮されますので、毎日大量に同じものを食べることで体の害になることがあります。
「偏らず、バランスよく食べる」という当たり前の食養生が、最も理にかなっているのですね。
3.まずは「食べる」を見直して
各栄養素の細かな各論は、おいおいお伝えするとして、まずは、健康の基本である「食べる」ことを総論としてお伝えしました。
このように、日常の「食べる」という行為が、私たちの体と心を作り、薬にも毒にもなります。
当たり前に言われている「バランスよく食べる」ことは、だからこそ一番の基本でありながら、一番大切なことなのですね。
体や心がアンバランスになっている時、まずは、基本的な優先事項として、「食べる」ことを見直してみてくださいね。
次回は、「バランス」と同時に大切な食べ物のの「質」についてお伝えしたいと思います。
上質な女性になるために、上質なものを持ち、上質な服を着るということは素敵なことですが、その前に、上質な体を作る原材料として、上質な食べ物を食べることです。
女性にとって大切な臓器を含むあらゆる細胞を上質にするために重要な原材料とは?
次回、Vol.6にてお伝えしていきます。
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この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか