皆さま、こんにちは。

医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

この連載では、究極のウェル・ビーイングとして、心と体の健康だけでなく、パートナーシップ、人生、社会、そして地球全体の健康と幸せを実現する為に、私自身が日々大切に考え、実践していることをお伝えしていきます。

今回は、美しいお肌や若々しい子宮・卵巣など女性にとって大切な臓器を含む全身の細胞を上質に保つ為に、基本となる食べ物の質についてお伝えしたいと思います。

あるものの質が劣化しているから、私たちの細胞が劣化しています。日常のちょっとの自己投資が細胞を蘇らせます。

1. 細胞の質を決める上質な原材料とは

前回は、バランスよく食べることがなぜ、心と体を美しく健康に保つ為の基本になるのかということについてお話しました。

栄養療法の分野では、「You are what you eat.(あなたはあなたの食べたものでできている)」と言われるため、原材料をバランスよく摂ることが大切とお伝えしましたね。

もう一つ、重要なのが、その原材料である食べ物の品質です。

1-1. 上質な服や小物が上質な女性を作る

街には、プチプラなファストファッションが溢れていますが、流行を追ってワンシーズンで使い捨てができてしまうので、生地の質や縫製の良し悪しは二の次です。

若い頃と違って、ある程度年を重ねると、プチプラなファストファッションばかりで身をかためることに、少し抵抗が生まれます。

別に、ハイブランドを身につけるという意味ではなく、どんなブランドであっても上質な生地や丁寧な縫製で長く使えるもの選び、大切に扱い、着こなしている女性は、上質な雰囲気を身にまとっています。

質の良い素材を使って丁寧に作られた服は、長持ちしますし、質の良いものに身を包むことは、自分自身を大切にする心から生まれるものです。

そんな風に、服や小物について考えるのと同じように、自分の体の原材料についても考えてみて頂きたいのです。

1-2.  細胞の質は油の質で決まる

逆に、そのことについて考えずに無意識に食べている結果、細胞が劣化し、不調が起き、老化が早まっているとしたら、すぐに見直したいと思いませんか?

高い美容液やエステにお金をかける前に、まず、その細胞の原材料の質を上質なものに変えて頂きたいのです。

そのために大切なのが、「油」の質です。

オイル

1-3. ノンオイルはナンセンス

少し前は、油は、女性たちに毛嫌いされていました。
「太るから!」「ダイエットの敵だから!」と、「ノンオイル」は、まるで意識が高いかのように勘違いされていました。

そう、「ノンオイルが体にいい」は、勘違いなのです!

なるべく油を控えて、油を使わない調理法のものを選ぶことで女性たちの細胞は潤いを失い、ガピガピになったと言えましょう。

細胞の必須の原材料は、油。
そして、この油の質こそが、細胞の質を決めると言っても過言ではありません。

1-4. 油は必須の原材料

油がなければ、体は作られず、機能しません。

1-4-1. 1:全身の細胞膜の原材料

全身の細胞の質は、細胞の膜の質によって決まっています。
その細胞膜の原材料となるのが、油なのです。

1-4-2. 2:脳の原材料

それに、脳の6割は油でできています。ですから、油が不足すると脳の機能も低下します。

特に、記憶を司る海馬には、通常の脳細胞の2倍の油(DHA)が含まれています。
記憶力や学習能力を維持するためにも、質の良い油が欠かせません。

1-4-3. 3:ホルモンの原材料

女性ホルモン・エストロゲンは、油の一種であるコレステロールでできています。油は女性らしさにとっても不可欠な栄養素です。あまりに脂肪がなく痩せてしまう過激なダイエットは、女性ホルモンを乱して月経を止めてしまうこともあるほどです。

また、ストレスに対応する副腎皮質ホルモンもコレステロールを原材料にしています。ストレスへの対応力にも油は必須です。

1-4-4. 4:脂溶性ビタミンの吸収

さらに、ビタミンの中でも、脂溶性のビタミンA、D、E、Kは、油がないと吸収が悪く、働くことができません。

このように、女性の生涯の美しさと健康に、油は必須なのです。

2. 摂るべき油と控えるべき油

確かに、油は1gあたり9キロカロリーと高カロリーであるのは確かですので、余れば脂肪に変わっておデブの原因になります。

だからと言って、油の「エネルギー源になる」という性質ばかりに気を取られて「ノンオイル」にすることはナンセンスです。

ここでは、油の「体の原材料になる」というもう1つの性質に着目してみたいのです。 

油の中には、脂肪酸という成分が含まれています。
このうち、体の原材料になり、絶対に食事から摂らなければいけないのが「必須脂肪酸」と呼ばれる種類です。

「オメガ3系脂肪酸」を多く含む油は体にいいことが最近注目されていますが、これは、必須脂肪酸のうちの1つです。

もう1種類の必須脂肪酸が、「オメガ6系脂肪酸」ですが、この2つが細胞膜の原材料となり、細胞の質を決める大切な要素になります。

今、私たちの多くが口にする油は、オメガ3系脂肪酸とオメガ6系脂肪酸のバランスが悪く、油の質が劣化していることで、色々なアレルギーを引き起こしたり、細胞の劣化を引き起こしているのです。

要するに、質の劣化したオメガ6系脂肪酸の摂り過ぎで、オメガ3系脂肪酸が少ないことが問題です。

2-1. 摂り過ぎ注意なオメガ6系脂肪酸

私たちが日常に口にするたくさんの食べ物に、油は含まれています。

「いえいえ、私脂っこいもの苦手ですから」
という女性が案外食べているのが、パンやデニッシュ、洋菓子など。
特に、袋入りの加工食品としてスーパーやコンビニなどで売られているこれらの食品の油。

これらの原材料表示を普段から確認しているでしょうか?
動物性の脂であるバターが使われていると思っている人も多いのですが、多くには、植物性油脂・加工油脂・マーガリン・ショートニングなどが使われています。

マーガリン

これこそが、細胞を劣化させるオメガ6系脂肪酸を多く含む油。さらに質の悪いトランス脂肪酸も含まれている可能性があります。

食べてはダメという訳ではないですが、とにかく日常的に、毎日摂取することが問題です。

2-2. 具体的に控えるべき油と使い方

オメガ6系脂肪酸を多く含むのが、いわゆるサラダ油、コーン油、ひまわり油、大豆油、紅花油など。ご家庭でもよく使う油ではないでしょうか。

それに、加工食品に含まれる、植物性油脂・加工油脂・マーガリン・ショートニングなどの油です。

実は、オメガ6系脂肪酸は、酸化・劣化しやすく、加熱には向きません。

ところが、家で揚げ物や炒め物をするならば、これらの油を加熱して使うことが多いのではないでしょうか。

すると、過酸化脂質という酸化・劣化した油に変化してしまいます。油が勿体無いからと取り置きして使い回したりすることはもちろん良くありませんし、加工食品やお惣菜など調理されて時間がたった食品の中の油も、時間が経つにつれて過酸化脂質に変化していきます。

2-3. 悪魔の油と呼ばれるトランス脂肪酸

さらに注意したいのが、トランス脂肪酸です。
こちらは、細胞に必須の油ではないのですが、加工食品に含まれている可能性があります。

袋入りのパンやデニッシュ、洋菓子、またファストフードの調理などに使われるマーガリンやショートニングには、悪魔の油とも呼ばれるトランス脂肪酸という強力に細胞の劣化を促進する脂肪酸が含まれている可能性があります。

アメリカでは、2018年から使用禁止になっているものの、日本では注意喚起のみ。ただし、油脂業界の努力によって、加工食品としての食パンのトランス脂肪酸含有量は、10年前の約4割、マーガリンは1割強の含有量となっているそうです。

ただし、少量は含まれている可能性があるため、毎日食べ続けないに越したことはありません。

2-4. 意識して摂るべきオメガ3系脂肪酸

では、どんな油を意識して摂りたいのか?
現代人に不足しているのは、オメガ3系脂肪酸です。

亜麻仁油やえごま油、麻の実油などのオメガ3系脂肪酸を多く含む植物性の油やEPA、DHAなどの魚の油です。

亜麻仁油

オメガ3系脂肪酸を含む植物性の油は、外食や加工食品、お惣菜などに使われているケースは稀ですし、魚を食べない人も増えているのではないでしょうか。

その結果、必須脂肪酸のうちのオメガ6系脂肪酸ばかり食べて、アンバランスになっているのです。

2-5. オメガ3とオメガ6の理想的バランスとは

オメガ6系脂肪酸を含む油をゼロにしなければいけない訳ではありません。細胞膜の原材料としてに必須の脂肪酸であることには間違いがないので、バランスを摂ることが大切です。

理想的には、オメガ3:オメガ6=1:2〜1:4程度の比率が推奨されていますが、現代人は、1:10〜1:30程度のバランスとも言われています。

オメガ6系脂肪酸は必須の脂肪酸とは言え、酸化・劣化したものを摂り過ぎることで、細胞の劣化・老化、そしてアレルギーや動脈硬化、アルツハイマー病などの発症や悪化の一因になっています。

2-6. 使いづらいオメガ3系オイルの使い方

オメガ3系脂肪酸を多く含む油は、外食ではなかなかお目にかからないので、私自身は亜麻仁油やヘンプシードオイルを家に常備しています。

ただし、オメガ6系脂肪酸と同じで、オメガ3系脂肪酸も加熱によって酸化しやすいために、加熱調理は向かないのが難点です。

だから使いにくいと持て余している人も多いのですが、我が家では、ドレッシングに使ったり、納豆や和え物などに混ぜて使っています。

2-7. 魚は、養殖より天然を

魚の油であるEPAやDHAは、1日に2000mgは摂ることを推奨されているものの、40代未満の世帯ではほとんど魚を食べないために、1日に500mgも摂れていないとされています。

特に青魚に多いので、アジやサンマ、鯖などを意識して食べましょう。私自身は、お寿司といえば、光り物!そればかり食べています。

そして、必ず「天然物」を選んで頂きたいのです。

鯖

魚の油の中のEPAやDHAの由来は、エサとして食べる藻類などの海洋性微生物に含まれる脂肪酸です。これらを餌にする小魚が油の中にEPAやDHAを含み、その小魚を食べる中型〜大型の魚の油にも含まれるようになります。

残念ながら、養殖魚は、穀物系のエサや油かすを与えられます。穀物や油かすには、オメガ6系脂肪酸が多いので、魚の油の質も劣化してしまうのです。

脂ののった天然の魚を選びましょう。

2-8. 加熱調理に向く油はコレ

では、加熱調理には何を使えば良いのでしょう?
必須脂肪酸であるオメガ3系脂肪酸もオメガ6系脂肪酸もいずれも加熱には弱いので、加熱には不向きです。

加熱調理に使えるものは、オメガ9系脂肪酸の多い油です。
これは、いわゆる体の原材料として必須の脂肪酸ではないものの、安定しているので、家に常備する油として便利です。

オメガ9系脂肪酸を多く含むのは、国産なたね油、オリーブオイル、そしてナッツオイルなどです。

ただし、あまりに高温で調理したり、使い回したりすることでこれらの油も品質が劣化しますので、油は鮮度が命と考えてください。

2-9. 油の製法“コールドプレス”を選びたい理由

また、油の製法も重要です。

現在は、大量生産のためにヘキサンという化学溶剤を使って作る製法が一般的ですが、昔ながらの低温圧搾絞り製法(コールドプレス)のものを選ぶと、油の劣化がなく、植物の栄養素や抗酸化力を発揮するフィトケミカルなどの活性が生きています。

こうして作られた油は、無色透明というよりは黄色味を帯びているのが特徴で原材料のにおいがします。

もちろん、少々お値段が張るものですが、食べ物への投資は、自分の細胞へのご褒美です。

生涯若々しく健康でいるために、食事のバランスと共に大切な食事の質についてお伝えしました。
何気ないその一口が、積もり積もって未来の自分を決めています。

ぜひ、毎日の「食べる」をちょっと意識してみてくださいね。

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この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか