第2回目は、女性ホルモン剤についてです。低用量ピルや更年期障害の治療として使われるホルモン補充療法(HRT)についての疑問についてお聞きします。

1.低用量ピルとホルモン補充療法を区別する

高尾美穂先生と桐村里紗先生
▲(写真右から)高尾美穂先生、桐村里紗先生

 

高尾先生:そもそも、生理が順調にくる年代に使うホルモン剤と、更年期世代に使うホルモン剤は、呼び方も容量も全く違うんですね。
まずはそこを区別する必要がありますね。

「ピル」「低用量ピル」と呼ぶものは、生理が順調にくる年代に使うホルモン剤。
更年期世代に治療目的で使うものは、「ホルモン補充療法(HRT)」と呼びます。

桐村:呼び方を区別しなければならないのですね。

高尾先生:それだけでなく、容量も役割も全く違いますし、リスクも異なります。

2.低用量ピルの歴史や理解

低用量ピル

高尾先生:「低用量ピル」の歴史を紐解くと、日本では、1999年に避妊目的で承認されました。アメリカだと1960年に承認されていて、ここに40年の差があるんです。
ピル自体は、1932年に出来上がっているので、歴史としては80年以上になります。
ただ、日本で使われ始めたのがたった20年前、さらに治療目的で使用が可能になったのが、2006年ですから、約15年前なんです。

桐村:日本では、本当に歴史が浅いんですね。

高尾先生:そうですね、それに加えて、元々避妊目的の薬としてスタートしたことと、日本の精神の根底にある「儒教的」な考えが加わって、おばあちゃん世代や母親世代では、生殖目的以外の性交渉をする時に避妊する、つまり、「自分が楽しむために使うお薬」という認識が、まだまだあるんですね。

桐村:なんと、そんなイメージからのスタートなのですね。

高尾先生:なので、この世代について、ピルについてのイメージを大きく変えるのは難しいでしょうね。

桐村:避妊方法として以外の低用量ピルの使用目的の婦人科的な正解というと、どのようなものになりますか?

高尾先生:まず、保険適応では、子宮内膜症と月経困難症という診断のもとに処方が可能になります。
なので、「生理が重いです」という訴えで受診された方については、第一選択として、痛み止めや低用量ピルを提案します。
産婦人科医にとって、痛み止めと低用量ピルは最初におすすめする治療法です。

ですから、一般的に皆さんが、「痛み止めなら飲んでみようかな」と思うのと同じような感覚で、「低用量ピルを使ってみようかな」と思ってくださって良いと考えているんですね。

でも、一般の認知がそこまで進んでいないですから、どちらかというと私たちがお勧めするよりは、口コミで周りの人からの「使って良かった」という情報を得て、心配事はそこで解決してから、ようやく婦人科に受診されることもあります。

その方が遥かに継続率は高いですし、本人の不安も少ないですね。

桐村:その抵抗感は、やはり副作用についてでしょうか。

高尾先生:まず使うこと自体が良くないんじゃないかというイメージが強いようです。

一方でピルのメリットとしては、他にも、あります。

1. 月経周期がバラバラの方では、自発的ではないにしろ、月経周期を安定させることができること。
2. 月経量が多過ぎる方では、月経量を適正に減らすことができること。
3. 月経前に不調がある方の不調が改善できること。特にメンタル面。
4. ニキビの改善できること。
5. 大腸がんや卵巣がんのリスクが下がること。

このように、おまけのメリットが色々あることが分かっているんだけれども、ピルについて学ぶ機会って、人生で1回もないわけですよ。

桐村:そうですね、保健体育の授業でも教わらないですね。

高尾先生:避妊目的としてのピルが高校の授業で1回出てくるくらいでしょうか。
なので、治療方法としてのピルの認識がないので、理解のギャップに「えっ!?」と躊躇する女性は多いでしょうね。

3.低用量ピルのやめ時は?

桐村里紗先生

桐村:WELLMETHOD世代、つまり40代女性からは、ピルのやめ時が分からないという声も多く寄せられています。

高尾先生:ピルは、閉経まで使えますよ。

桐村:閉経までですか!?

高尾先生:ガイドライン上ではやめ時について2つの記載があって、

1. 閉経まで
2. 50歳まで

50歳までは、わかりやすいですね。
閉経までというのは、ピルを飲み続けている限り月経は起こるので、月経だけ観察していても閉経はわかりません。なので、これは、婦人科で女性ホルモンの検査を行ってみて、血液検査によるホルモンの値をみると閉経のようだから、ピルをやめてみましょうか、と提案することもあります。

桐村:基本的には婦人科受診をしながら、ドクターにやめ時を相談するということですね。

高尾先生:もちろん、そうです。

4.低用量ピルを更年期に続けるメリット

基礎体温

高尾先生:実際、50歳まで続けていると良いことがあるんです。
45歳くらいからが、色々なことが起こるわけですよね。
月経サイクルが乱れて、短く来たりなかなか来なかったり。それから、月経量が少なくなるだけでなく、急に爆発的な量が来たりすることもあります。

桐村:そうなると、かなり振り回されてしまいますよね。

高尾先生:そうですね。しかし、この振り回される状況が、「ピルを飲み続けている人では起こらない」と言えるわけです。一番振り回されやすいこの5年間を、特に大きな問題なくすごしていける5年間にできるんですね。

さらに、低用量ピルには、ホルモン補充療法(HRT)で使用するエストロゲン量の約5〜6倍量の女性ホルモンが含まれると考えられています。
なので、ピルを飲んでいる限りエストロゲン値の低下による更年期症状は起こり得ないと言うことです。

今40代の方で、現状、避妊目的でピルを飲んでいて、特に問題がない場合に、性交渉の頻度が下がって来たから止めようかなと思っている人であれば、私は続けたら良いんじゃない?と言うアドバイスをしています。

桐村:性交渉がなくなり妊娠の可能性がなくなったからと言ってやめてしまうことで、逆に月経による揺らぎや更年期症状が出てしまうこともあるわけですね。

高尾先生:そう。これまで飲み続けていた場合は、楽をできていたわけですよ。月経に振り回されず、何も問題なく過ごしてきたはずなのに、閉経前の更年期にピルを止めることで、最後の最後に辛い症状が出て「えっ!?こんなはずじゃなかった!」となる可能性もあるわけです。

なので、せっかくだったら、閉経まで続けたらいかがですか?とアドバイスしているんです。

5.40歳以降はピルが再開できない

高尾先生:ガイドライン上、低用量ピルは、一度やめてしまうと40歳以降では再開がおすすめできないんですね。
続けてきた方が40歳以降でやめてしまって、「え~!やめなきゃ良かった!」と言うのは、良くあるケースなんですよ。

桐村:病院あるあるですが、実は、急に受診しなくなるとか、自己中断してしまう方もかなりいらっしゃいますよね?

高尾先生:そうですね。
正しい情報を知らないとそうなってしまうこともありますよね。知らないと、簡単に自己中断してしまいますよね。
やめてしまって調子が悪くなってから再受診しても、その時点で40歳以上だと再開できないんですよ。

桐村:知らないで中断してしまって、辛い時期を過ごすことになる場合もあるんですね。

6.更年期症状を緩和するホルモン補充療法(HRT)

問診

桐村:それに引き続く、更年期症状の緩和に対して使用するのが、ホルモン補充療法(HRT)ですね。

高尾先生:この療法では、体の中で作っていたエストロゲン量の約3分の1を足してあげることで、2ヶ月で8割程度の人に更年期症状の改善がみられます。
エストロゲンを足すことで、自律神経とホルモンの両方の中枢である視床下部の働きがうまくいくようになり、汗やほてりを代表とする自律神経失調症状の改善が期待できます。

これは、相当な切れ味なので、すごく効きます。

桐村:となると、ある日突然世界が激変するほどの体調の変化が、治療によって起こりうると言うことですか?

高尾先生:大抵、徐々に症状が悪化して、ホルモン補充療法をすることで徐々に戻っていくと言うイメージですね。

このエストロゲンを足すホルモン補充療法の最大のリスクが、血栓症と乳がんです。
でも、この2つのリスクも、皮膚からの吸収を促す薬剤、シール剤やゲル剤などを選択することでリスクを下げることができます。

リスクの低い方法というのも日々研究されており、世の中に準備されている時代なんですよね。
でも、そこが伝わっていないんですね。

例えば、ヨーロッパだと、対象年齢では使用率40%程度なんですけれど、日本だと2%と言われています。

桐村:圧倒的に落差がありますね。

高尾先生:この原因は、「ホルモン剤を使用すると乳ガンになる」というWHI(Women’s Health Initiative)の報告があり、これがマスコミにたくさん報道されました。そのイメージが大きいんだと思います。
その後、追加の研究がされていますが、追加で発表された安全性に対する報告は報道されていないので、正しく伝わってないんですね。

桐村:そのインパクトは大きかったですね。

(注:米国立衛生研究所(NIH)が2002年にWHI中間報告で、「HRTを5年以上投与した場合、乳がんのリスクが1.26倍になる」と発表し、これがマスコミに大々的に報告されました。

その後の研究では、HRTの乳がんリスクは、非常に小さく、飲酒などのその他の生活習慣リスクと同等か、それ以下であることが報告されています。日本の研究では、5年以上のHRTの使用で乳がんリスクが0.03%上昇する(1万人に対して3.8人)と報告されています(※)。(※)JAMA. 2002 Jul 17;288(3):321-33)

高尾美穂先生

高尾先生:エストロゲンを足すことのメリットは、見た目ではお肌や髪の毛、血液ではコレステロールの値、血管、骨の老化を防ぐこと。それから、関節の滑りを良くする。さらに、メンタル面のメリットもあります。直接的ではないですが、体脂肪量にも関係があると考えられますので、足しておくことのメリットは色々あるんですね。

それから、リスクである血栓症と乳がんについては、しっかりとチェックをしながら使うことも大切です。

桐村:例えばどんなことになりますか?

高尾先生:血液検査で高脂血症のチェックをし、1年に1回は乳がんのチェックをするということで、十分に続けていただくことができるので、お尻は切っていないんです。

桐村:生涯使えるということですね。
どのような患者さんに、ホルモン補充療法(HRT)を選択されますか?

高尾先生:まず、更年期障害の診断方法は、鑑別すべきその他の疾患を除外していく方法で確定する「除外診断」です。
他の病気を否定する必要があります。
一番多いのは、甲状腺ですよね。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)であれば、発汗や動悸が多くなりますし、甲状腺機能低下症(橋本病など)であれば、うつ症状などメンタルの落ち込みが起こります。

また、めまいについても、更年期症状に伴うめまいは、耳の奥の内耳にある耳石(じせき)という石の中のシュウ酸化カルシウム が減ることによる揺らぎによる浮遊性のめまい(フワフワする症状)が多いとされています。
それ以外のめまい症の原因である、メニエール病などを否定する必要があります。

桐村:確定診断のため、様々な疾患を除外する必要があるんですね。

高尾先生:更年期は色々な疾患が起こりやすい年代なんだということを知って、ベースとしてメディカルチェックをして、色々な病気を否定することがまず必要です。
除外診断を進めると同時に、エストロゲンを足す治療を並行して行って初めて、どれくらい症状が改善するのかをみていきます。

桐村:症状の改善も、治療と同時に、診断の一助になるわけですね。

高尾先生:私たちがお勧めするファーストチョイスは、まずホルモン補充療法(HRT)です。
お勧めしてみて、患者さん側から「ホルモン補充療法はちょっと、、、」と言われた場合に、次の選択肢となります。

もちろん、乳がんの既往があったり、脳梗塞のリスクがある人は絶対に勧めませんが。

大豆製品

桐村:セカンドチョイスには何がありますか?

高尾先生:主に、漢方薬とエクオールがあります。
症状がはっきりしていて、更年期症状を改善したいという場合には、漢方薬が選択肢に入ります。体格や証(しょう:東洋医学的な体質)をみて、一番困っている訴えに応じて漢方薬の種類を選びます。

ただし、エビデンス的にはそこまで高くはないので、エクオールは併用しておいても良いのではないかと、その時点でお勧めしています。
患者さんに選択してもらいますが、効果をみる必要があるので、最初からその二つを同時に始めることはありません。
変化をみながら、必要であれば併用していきます。

桐村:先生は、エクオール産生菌が腸内にいて、自身でエクオールを作っている人にも、エクオールをサプリメントで補うことをお勧めしておられますね?

高尾先生:はい、血中濃度を安定させるために、お勧めしていますね。
例えば、毎日、豆乳だったら200mlとか、納豆だったら1パック。それら摂れば、エクオールを腸内でしっかり量産生できる人であれば、効果的な量である10mg/日程度作れるとは思います。

でも、腸の状態によっては、エクオールを安定的に作ることができないこともあるんですよね。

エクオールは特に摂り過ぎて問題があるものでもないので、血中濃度に十分に反映するためには、誰でも1日10mg程度を目安にサプリメントとして補っておけば良いのではないかと思っています。

桐村:他にも何か選択肢としてお勧めしているものはありますか?

高尾先生:植物性エストロゲン、エストロゲン様作用を期待されるものなどがこれまでにもあり、例えば有名なところでは、高麗人参とか、ペルシアザクロ、ローヤルゼリーなど。そういったものが出ては消えていった理由としては、エビデンスが十分になかったからです。
なので、この辺りは、患者さん自身が摂ってみたかったらどうぞ、というスタンスです。

高尾先生:サプリメントっていうのは、医薬品ではないから、本来そこまで効かないものなんですよね。それが、サプリメントという扱いだから。
でも、エクオールだけは、飛び抜けたエビデンスが出てきている。
だから、こうしたきちんとしたものが世の中に届けられればいいと思っています。
効くだけの量と効く成分とが、しっかり整理されたらいいなと思っていますけどね。
逆に、きちんとしたエビデンスがあるものを使い続けると、ちゃんと変化があるよ、と言えるサプリメントがあることはありがたいです。

桐村:適正な量が入っていない場合もありますし、選択する目が必要ですね。

桐村:ホルモン補充療法(HRT)以外に、セカンドチョイスとしてお勧めしているものとしては、漢方薬とエクオール の2つでしょうか。

高尾先生:もう1つ、絶対に大切なものがあります!それは・・・

(つづく)

▶︎第1回目
https://wellmethod.jp/drtakao_int01/
▶︎第3回目
https://wellmethod.jp/drtakao_int03/

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか