前回は、低用量ピルの使い方や更年期障害の治療としてのホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、エクオール の3種類の選択肢についてお聞きしました。

更年期障害の治療として、この3つに加えて、高尾先生がもう1つ大切と考えて患者さんにお勧めているものは?
そして、今、できるシンプルなこととは?

第3回目は、未来の自分を作るために、体と心への向き合い方や、マインドセットなどについて、じっくりお伺いしました。

1.更年期治療には4つの選択肢

高尾美穂先生
▲(写真右から)高尾美穂先生、桐村里紗先生

 

桐村:ホルモン補充療法(HRT)以外に、セカンドチョイスとしてお勧めしているものとしては、漢方薬とエクオール の2つでしょうか。

高尾先生:もう1つ、絶対に大切なものがあります!運動です!

桐村:あぁ、それはとても大切ですね。

高尾先生:なので、4つくらいの選択肢があり、これらの組み合わせをおすすめしていますが、運動は生活習慣の中でベースとして行った上で、何かを足して頂ければ、と思っていますね。

桐村:体を動かすことは、必須になりますね。

高尾先生:そうですね。でも、大事なのに、あまり運動してくれないんですよね。
40代では、運動習慣がある人は20%もいないので、、、。
40、50になってから、いきなり運動習慣を持つっていうのは難しいだろうなとは思っていますけどね。

桐村:先生は、ヨガの指導者でいらっしゃいますが、患者さんにはヨガもお勧めなさっていますか?

高尾先生:ヨガはね、私自身からすごくお勧めすることはないですよ。

桐村:え?先生のところにかかっておられる患者さんは、みんなヨガをなさっているのかと。

高尾先生:最初に受診される理由が、私にかかりたいからという方ばかりではなくて、たまたま、私だったという人は、後から「先生、ヨガも教えてるんですね」ってなるんですよね。

だから、「ヨガもしてみたら?」くらいの感じですけどね(笑)。
基本的には、ヨガじゃなくてもいいと思っていて、自分が好きなもの、合うものでいいと思ってるんですよね。

桐村:それが大事ですね。楽しく続けられることが一番ですね。

高尾先生:例えば、ヨガのプログラムの中でも、私がお勧めするプログラムを実践してくださったら嬉しいですが、そうでなくても、ヨガと出会ったことがきっかけで、運動習慣につながったり、生活習慣の改善に繋がればいいなと思っています。

考え方的にも大抵穏やかになっていくので、そうしたことを総合してみると、「割とお勧めだよ」くらいの感じでしょうかね。

2.40代の運動の始め方や続け方は?

運動

栗本編集長:1つお聞きしても良いですか?40代に必要な運動習慣ってどの程度なのでしょう?

高尾先生:まずね、運動習慣を持っていない人が運動を開始するハードルの高さたるやないですよね。

一同:

高尾先生:1回に30分の運動を週に2回。これを1年以上続けると、厚労省の示す「運動習慣あり」の基準になります。
だから、1回に30分以上を週2回を目標にしましょうと言います。

私みたいに普段から運動をしてる人間からすると、めちゃくちゃ低いハードルですよ。これで運動習慣ありって言っていいの?と言いたいけど、それでもクリアできてないから、まずはここからをおすすめします。

30分の運動を、しっかり心拍数が上がる運動にすることですね。

栗本編集長:私は、パーソナルトレーニングに通っていて、週1回1時間筋トレをする。前後に約30分の道のりを自転車を漕いで通っているんですが。

高尾先生:偉いじゃん!

桐村:30分自転車は結構長いですよね!

高尾先生:それに加えて、パーソナルでやったことを、家で復習すればいいんじゃない?

栗本編集長:そうですよね〜、それがなかなかできていないので、やっていこうと、今お話しお聞きして思いました。ありがとうございます。

高尾先生:パーソナルはめちゃくちゃ値段も高いんだから、パーソナル受けている時間だけと考えたら費用対効果としてもったいないよね。それを思い出して自宅でやってみるとか、トレーナーさんにお願いして動画を撮ってもらうとか。色々できるよね。

桐村:高尾先生が患者さんに対して習慣化のためにアドバイスなさっていること、何かありますか?

高尾先生:そこに行くためのステップをいくつも作らないってことですね。

桐村:あぁ、それは重要ですね。

高尾先生:例えば、私だったら、帰りにジムに行くために、シューズやウェアを仕事に持って来てるっていう状態ね。1回家に帰ってもう1回出てくるって無理じゃない。

桐村:面倒臭いと人間やらないですものね。

高尾先生:ステップをいくつも踏まなくていいような、段取りを事前にしておくこと。
みんなにお勧めしてるのは、家ですぐにマットがひける状態を作っておくことです。
椅子を上げて、これを片付けて、、、といくつもステップがあると、大抵無理なので。

桐村:システムをシンプル化することは大切ですね。常に状態を整えておくことですね。

高尾先生:そうですね、それが習慣化ですよね。ハードルを下げることね。
あとは、目標としたことができないからと言って、そこで終了しないってことかな。
毎日やろうとしていて、1日飛んじゃった場合、そこで終了してしまわないで、じゃあ2日に1回にしよう、みたいな柔軟性が大事かな。

桐村:私自身も色々二日坊主になりやすいので、、あはは(苦笑)

高尾先生:まぁ、世の中の女性は本当に忙しいですから、それくらい柔軟に考えないと続かないよね。役割がいっぱいある方が多いので、なるべくゆるい状況にしておくことだし、「こうしよう」という目標もゆるくしておくこと。
だって、頑張る人って、もう過剰に頑張るじゃないですか。

桐村:そうですね。そんなタイプの方々は、こちらがアドバイスしなくても勝手にやりますものね。

高尾先生:そうそう、放っておいても大丈夫。まぁ、でも運動などを過剰にやり過ぎる方は、抗酸化作用のあるものを摂った方が良いとは思いますけどね。

桐村:修復期間がないままに、休まずに続けてしまう人もいますものね。

高尾先生:どちらかというと、そっちの方が本当は心配よね。
でも、運動したいという思いがある人は、全人口の50%くらいはいると言われているので、潜在的にはたくさんいますよね。

桐村:まず、ハードルを下げてスタートすることですね。

3.健康な人ができることがある

高尾先生は、産婦人科の最前線にいらっしゃりながら、運動やヨガを指導されたり、とても統合的な視点でアドバイスをなさっていますね。

高尾先生:私、実は専門が卵巣がんだったんですね。

桐村:ということは、オペをバリバリやっておられたんですね。

高尾先生:はい、そうなんです。オペも抗癌剤も放射線もやって、緩和ケアもやって亡くなっていくという方をたくさん診てきました。それが、普通にリアルな現場だったんですよね。

桐村:婦人科系は、若い卵巣がんの患者さんとか、本当に辛い現場ですね、、、。

高尾先生:そう、、、。例えば、子宮頸がんが判った妊婦さんとかね、、、。
そういう人たちをたくさん診てくると、できることは何かあるんじゃない?ということを、みんなに考えて欲しいと思うようになったんですね。

桐村:そうなる前に、何かできることを、ということも含めてですね。

高尾先生:そうそう、もちろん、それもそうだし、今の自分の「良い環境」や「健康な体」とか、それが満たされている状態だって知って欲しいということですね。
それが自分自身で分かればいいと思う。
「今の自分の状態って最高だよね!」という人でも、口を尖らせて受診されます。

桐村:自分の体と向き合うこと自体が、人間にとって難しくて、多くの人はできていないのだなと感じます。
がんになる場合、その手前に、自分の体は何かしら悲鳴を上げているはずですが、それを無視し続けた結果、がんとして爆発してしまうことになるのではと考えています。

高尾先生:一番、分かりやすいのは、女性にとって生理なんですよね。重くなったな、とか。量が変わったな、とか。観察してくれてるといいなと思っています。

4.自分を知るには健康診断が大事

健康診断

高尾先生:一番おすすめなのは、健康診断なんですよ。
一年に一回、同じ項目を検査して、何か変化を捉えることができるわけですが、それを無視するっていうのがよくあるケースですよね。
まずは、健康診断を受ける率を高めることが大事だと思っています。

桐村:子宮がん検診は、20歳からが対象となっていますが、WELLMETHODで行ったアンケート調査でも、20代の受診は19%でした。

高尾先生:そうそう、20代は低いです。
全体で35〜40%程度の受診率なので、3人に1人っていうイメージですね。

栗本編集長:私のように、企業に勤める女性は会社からの強制力が働きますけれど、家庭にいる女性の受診はハードルが高いかも知れませんね。

高尾先生:多くの人は、がんって、交通事故に合うのと同じって思ってるんですよね。

桐村:そうですそうです!本当に、、、。

高尾先生:なったら、仕方ないって思っているかも知れない。
当たり前なのですが、検診を受けても、がんの発生率はさがらないんですよ。でも、何が下がるかっていうと死亡率が下がるんですね。

桐村:検診によって、早期発見・早期治療が可能になるわけですね。

高尾先生:そう、早期発見早期治療で、7割死亡率が下がるんです。
そう考えたら、「がんで死ぬのはもったいない時代」って言えるんですよね。
でも、厚労省のアンケートで「なぜ検診を受けないか?」という質問に対して、多くは「病気になったら病院にかかればいい」と答えているんですよ。
それって、間違いなく日本の医療費の安さが原因なんですよね。

桐村:日本的ですね。国民皆保険ですからね。

高尾先生:国民皆保険制度は、高度経済成長の時代に作った制度だから、これをこのまま維持するのは無理なところまで来ていますよね。
この辺りは、検診を受けた上で、異常があった人が、初めて保険診療を受けるというシステムに変わらざるを得なくなってくると思います。
自分の健康を守るというアクションをとった人が、権利として治療や精密検査が保険診療で受けられるという流れに、いずれはなっていくと思います。

桐村:そうですね、そうしないと医療制度は破綻しますね。
特に私は、糖尿病など生活習慣病の方を主に診ていましたが、指導を聞かず、不健康で不摂生をしまくって、何にも努力する気がない人に対して、保険診療を適応するかは議論になっています。
もちろん、線引きは難しいと思いますし、アメリカ型の医療制度にもまた問題がありますが、あまりにも今の日本のシステムはぬるま湯過ぎて、病気を予防しようという意識を持ちにくい土壌になっていますね。

高尾先生:ただ、実際に、今、医師が「運動しましょう」と言っても、それを実際の運動の場までつなげられないですよね。
運動指導が必要な病気はいっぱいありますから、そこと実際の運動の場をマッチングするサービスが必要だと考えています。

桐村:医師が指導しても、実際に患者さんがやってくださるかどうかは、別問題になってしまっていますものね。

栗本編集長:健康効果以外にも、何か得することがあればモチベーションに繋がるかも知れませんね。

高尾先生:健康効果が最高な得なんだけどね!

一同:違いない!本当はそうですね!

栗本編集長:そこのありがたみがなかなか認識できないですね。
企業と地域や行政、医療機関の連携が必要ですね。

高尾先生:運動の指導者と医療が完全に分断されていることが大きな問題ですね。
両方の業界にパイプがあるのは、私くらいよ!
スポーツビジネスの現場と医療の現場を両方知っている人がなかなかいないよね。
スポーツ指導者は、もっと指導したいと思っているし、患者さんも、医師から指導された瞬間は、運動しようと思ってるのよ。

桐村:そうですね、その瞬間はそう感じて下さっているけど、家に帰ると途端にモチベーションが落ちますね。システムが分断されていまってますからね。

高尾先生:その道筋をつけるのが大事でしょうね。

5.主体的に生きて、未来を作る

未来

桐村:最後に、WELLMETHOD世代に、これから更年期を経て、生きていくに当たって、一言、アドバイスを頂けますでしょうか。

高尾先生:「人生は繋がってる」ということをよく伝えています。

私たちが今やっていること、今選択するものが、その先の自分を作るんですよね。
何を食べるか、どれくらい運動するか、どれくらい寝るか、など、本当にシンプルなことなんだけれど。その地道な積み重ねが、私たちの20年後を作るっていうことは間違いがない。
その場その場で困ったことに適当に対処してきた70代と、地道に続けてきた70代では、絶対に見た目も中身も変わってしまいますよね。
だから、自分の20年後をちゃんと見据えて、今何ができるかを考えることが大事なんじゃないかなと思います。

桐村:本当に、シンプルに、地道なことをコツコツと積み重ねていくことが、輝く70代の自分を作るということですね。

高尾先生:私が医者になった頃は、2000年代になったら、すごい技術が出てきて、妊娠や出産に関しても何か画期的なことができるんじゃないかと考えていたんだけれど、実際に21世紀になっても何も変わらなかったじゃない!?

つまり、本当に「チリツモ」の努力しか実らないことは間違いない。
よく、「インスタ映えしない」って言ってます!

一同:笑!本当に!

高尾先生:自分の人生って、自分でしか決められないから、その中で自分で責任を持って選ぶことが大事ですね。選んだことを続けていくことで、自分の人生っていうのは自分で作っていけるんですよね。ということを、心から思っています。

桐村:他力に人生を委ねず、自力で選択していく、ということですね。

高尾先生:他力っていうことすら自覚していない人が多いよね。

桐村:そうですね、仰る通りです。

高尾先生:高校に受かったから行きます。大学もなんとなく受かったから行きます。内定もらったから、この会社に行きます。妊娠したから、産みます。というような受け身の人生を受動的に生きるよりも、主体性を持って、自分の次の選択を決めていくっていうことが大事じゃないかなと思っています。

桐村:人生を生きてく上でも、ヘルスケアを実践する上でも、それが基本となる自分軸ですね。

高尾先生:せっかく、今の時代を生きてるんだからってよく言うんだけど、良いことっていっぱい分かってるわけよね。それを正しく選択して、取り入れて、継続していくと、本当に、間違いなく、未来はいい人生しか待ってないというわけですよ!

一同:大拍手!!!いいお言葉、頂きました!

高尾先生、どうも、ありがとうございました!

▶︎第1回目
https://wellmethod.jp/drtakao_int01/
▶︎第2回目
https://wellmethod.jp/drtakao_int02/

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか