医師と考える、更年期からのセックスライフ|性交痛を防ぐ
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
「性は、生なり」と言われるように、人間が根源的にもつ性的欲求は、生きることへの欲求と切っても切り離せません。
セックスレス大国と呼ばれる日本ですが、人生100年時代と呼ばれるようになり、生きる意欲としてもセックスライフを充実したいと考える人が以前より増えているようです。
ところが、そこで壁になるのが、女性の閉経です。
閉経は、体に備わった生殖と子孫繁栄のプログラムが終了したことを意味します。
閉経前後の更年期以降、女性器の機能も低下してくると、これまで感じなかった性交痛を感じるようになり、図らずもセックスが遠のいてしまう場合も。
男性は特にこのようなイベントはありませんから、そのギャップからすれ違いの原因になってしまうこともあります。
ただし、野生動物と人間との違いは、人間は、生殖年齢や時期に関わらず、コミュニケーションとしてのセックスを楽しむことができる点です。
いくつになっても、パートナーとの愛あるセックスを楽しみたい方は、年齢と共に少し工夫をしてみましょう。
1.更年期とセックス
1-1.セックスレスは更年期から増加
ジェクス株式会社が、一般社団法人日本家族計画研究センターと行った全国男女5000人を超える大規模な“性”の実態調査『ジャパン・セックスサーベイ2017』。
この調査によると、女性のうち、セックスが「この1年全くない」と回答したのは、30代で25.3%、40代で44.5%であるのに対して、50代では61.7%、60代では62.0%と階段状にセックスレスの割合が増加しているようです。
30代から40代、40代から50〜60代にかけて、約20%ずつの減少がみられています。
50代以降の実に半数以上がセックスレスです。
30代から40代のセックスの減少は、子供が生まれたことで、妊活目的のセックスの意義の喪失や子育ての優先度が高まることなど、ライフステージの変化が大きいと考えられます。
40代から50〜60代にかけては、子育ても一段落してパートナーとの時間が増える時期ですが、ここで女性に訪れるのが更年期と閉経です。
1-2.閉経は女性に備わるプログラム
女性は、生まれながらにして、卵巣に生涯の生殖で使う卵子の素を全て保管しています。
卵子の数は、月経が始まる思春期までがピークであり、そこからは、月に1回、卵子を放出して、どんどんと卵子の貯金を減らし続けていきます。
どこかのタイミングで、上手く精子とドッキングして、受精卵となり、すくすく育つと妊娠、出産に至ります。
そして、また月経が再開されると、卵子の貯金が減り続け、ついに、貯金が底を尽きると閉経に至るのです。
女性は生まれつき備わったプログラムとして、どこかで閉経を迎えざるを得ません。
1-3.更年期から女性のセックスを阻む4つの要因
1-3-1.①女性ホルモン低下による膣萎縮
閉経を迎える前の更年期の時期から、女性の女性らしさ、特に生殖に関わる機能を維持する為に不可欠な女性ホルモンの減少が顕著になります。
すると、膣の細胞の萎縮に伴う膣乾燥やコラーゲンの減少に伴う柔軟性の低下から、性交痛の原因になります。
1-3-2.②自律神経の乱れによる潤い不足
さらに自律神経の乱れもセックスには悪影響です。
更年期障害によく起こるホットフラッシュや動機などの症状は、自律神経のうち交感神経が活発になると起こります。
交感神経は、野生動物で言えば、天敵であるライオンに襲われて逃げなければならないシーンで活発になる神経です。天敵に襲われそうになっているのに、呑気に生殖している場合ではありません。
生殖機能は、リラックスしている時に働くものですから、交感神経が活発になってしまうと機能が衰えてしまいます。
その為、ますます膣がドライになってしまうのです。
1-3-3.③ストレスがますます女性を乾かせる
交感神経を最も刺激するのは、ストレスです。
日々の家事や仕事にまつわるストレスもさることながら、痛みを伴うセックス自体がストレスになると、ますます女性は乾いていきます。
これまで通りの手順で前戯を行なったとしても、更年期以降は潤いづらくなります。さらに、パートナーの不理解で十分な前戯が無いままに挿入しようとすると痛みを伴い、行為自体がストレスになります。
更年期手前であっても、性交痛は女性のセックスへの苦手意識の大きな要因になりますが、これには、挿入前のパートナーとの十分な触れ合いから体と心を解放するプロセスが不可欠です。
男性本位のセックスではなく、女性を慈しむ十分な前戯が不可欠になりますが、ただでさえ乾きやすい更年期以降は、ますますパートナーの理解と愛情が不可欠になります。
1-3-4.④パートナーの衰えは動脈硬化を疑って
一方で、男性側の要因もあります。男性は、生涯にわたり精子をその都度量産できますから、生殖年齢の明確な終わりはありません。
ところが、シニア世代になると「最近、あっちがダメだ」などの弱気な発言を男性からも聞くようになります。
シニア世代の勃起不全の原因として、大きなものは、生活習慣病に伴う動脈硬化です。
脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病は、全身の血管の動脈硬化を引き起こします。細い血管から血流が悪くなってくるのですが、男性において最も細い血管とは、前立腺の海綿体、つまり勃起を起こす為に不可欠な部分の血流を担う血管です。
糖尿病の初期症状として、勃起不全がありますが、シニアにおいて男性機能を衰えさせる最大の要因こそ、動脈硬化なのです。
女性がどんなにやる気があっても、パートナーの衰えがあれば、セックスは成り立ちません。シニア世代において男性機能が低下していることが要因であれば、まず、生活習慣病をコントロールして、動脈硬化を予防することです。
2.更年期以降の性交痛を防ぐ方法
更年期以降も充実したセックスライフを送るためには、性交痛の予防が必要です。
性交痛を防ぐ為の方法をご紹介しましょう。
2-1.膣の弾力を保つコラーゲンの減少を防ぐ
肌の弾力を保つコラーゲンは、膣の弾力も保っています。
年齢と共にコラーゲンがダメージを受けてシワが増えるように、膣のコラーゲンも低下してしまいます。
コラーゲンが失われると、ゴムのような柔軟な弾力が低下して挿入時に痛みが出ることになります。
2-1-1.コラーゲンは口から摂っても意味がない
体のコラーゲンを増やすために、コラーゲン自体を口から摂れば良いと思いがちですし、そう言った健康補助食品やドリンク類もみかけます。
ただし、コラーゲンは、タンパク質です。胃を通過することで、タンパク質は分解されてしまい、もはやコラーゲンとしての機能は失われます。
コラーゲン自体を口から摂ることは、タンパク質補給にはなるものの、そのまま体の中でコラーゲンとして利用されるものではありません。
2-1-2.コラーゲンの合成を促す栄養素を摂る
コラーゲン自体を摂取するよりも、体内でコラーゲンの合成をサポートする栄養素を摂る方が効率的です。
コラーゲンの原材料となるタンパク質、それからコラーゲンの合成をサポートする酵素には、補酵素と補因子として、ビタミンCと鉄が不可欠です。これらの不足は、コラーゲン合成を低下させます。
2-2.膣の萎縮を改善するレーザーも
最近では、膣の萎縮改善に「モナリザタッチ」と呼ばれるレーザーを照射する方法もあります。
膣の上皮細胞の機能が回復することで、膣の乾燥、性交痛だけでなく、痒みやにおい、膣の緩み、排尿障害などの改善も見込むことができます。
女性ホルモン低下に伴う総合的なケアとして、漢方薬やホルモン補充療法などを追加する方が効果的なケースもありますので、信頼できる婦人科にて相談してみるといいでしょう。
2-3.ゼリーを活用する
挿入に痛みを伴うと、リラックスして快感を感じられないばかりか、セックス自体も苦痛になり、段々とセックスが遠のくきっかけになってしまいます。
これまで使用したことがないと購入するのにも抵抗があるかも知れませんが、ドラッグストアや女性用のラブグッズサイトで女性目線の商品も発売されています。
パートナーにも理解を求めて、積極的に活用してみましょう。
2-4.前戯に時間をかけてもらう
これまで以上に、挿入前の前戯に時間をかけてもらうことも大切です。
愛する人と皮膚と皮膚が触れ合うだけでも、愛情ホルモン・オキシトシンが分泌されて、ストレスレベルを下げ、リラックスモードに導くことができます。
ボディマッサージにも併用できるローションやオイルなどを使用して、硬くなった筋肉を優しくほぐしてもらうことも、リラクゼーションに繋がります。
挿入を急ぐ若いセックスではなく、十分に触れ合うことで心を開く、成熟したセックスを探求する段階と捉えてみてはどうでしょうか。
2-5.挿入をゴールにしない
挿入をゴールにしないことも、シニア世代のセックスには大切です。
もちろん、挿入は心と体が繋がる心地よい行為ですが、「挿入できなくても大丈夫」と捉え直すことで心が楽になります。
徐々に年齢を重ねると、お互いに、体の機能が低下して、女性側では性交痛、男性側では勃起不全などが起き、挿入がこれまでよりも難しくなります。
そのため、挿入をゴールにすると、「上手くいかなかった」とか「相手を満足させられなかった」などのネガティブな思考が湧いてしまい、自信をなくし、セックスが遠のいてしまいがちです。
挿入できればラッキー、そうでなくても愛情を確かめあえたと捉えれば、ハードルが下がります。
3.セックスは愛情に必須では無い
さて、諸外国と比較して、セックスレス率が高いとされる日本ですが、パートナーとの関係性において、前戯を含み、セックスをすることは必須ではないのではないでしょうか。
人生100年時代の後半のパートナーシップは、前半のパートナーシップと変化するかも知れません。
どちらかがセックスしたいと強く願うのにできない場合には、その関係性は辛いものですが、セックスがなくても満足し、愛し合っている二人もたくさんいるでしょう。
手を繋いだり、キスをするだけでも満足。
一緒に旅行に行ったり、趣味を楽しむだけでも満足。
もしくは、シンプルに一緒にいるだけでも満足。
多様な価値観が尊重されるこの時代、お互いが満足しているのであれば、パートナーシップの理想型に正解はないと思うのです。
自分たちの幸せのカタチを他人と比較する必要はありません。
その上で、更年期を経てもセックスライフを充実させたいと考える場合は、ぜひ、少しの工夫とパートナーとの協力で苦痛を減らしてみて下さいね。
閉経後のセックスライフについては、こちらの記事もご参考に。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか