【医師解説】自分の感情が分からない「失感情症」とは?感情を回復する5つのステップ
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
WELLMETHODでは、常々、ヘルスケアのため、人生のため、まず、自分を大切にすることが第一歩とお伝えしています。
心と体の健康を保つウェルメソッドとして、とても大切なことの一つが、自分を素直に表現することです。
他人から、「今、どんな感情か?」と問われて、はっきりと言葉にできますか?
特に、その場で沸いた感情、喜怒哀楽をストレートに表現することはとても大切ですが、それができない人は多いのではないでしょうか?
感情がないわけではなく、それは、感じることができなくなっているだけで、体の中には感情が蓄積しています。
私自身も、怒りの感情が全く認識できないタイプです。
明らかに怒った方が良い場面でも怒りを感じられず、1日遅れくらいで「あ、あの時怒らなければならなかったんだわ」と気づくという鈍感さです。
その分、胃の痛みや不眠となって、身体に現れます。
喜怒哀楽、いずれを押し殺しても、不健康です。
「私は、常にポジティブ!」というタイプも、実はネガティブを無視している可能性があり、危険かも知れません。
自分の感情を押し殺し、感情が湧いていることにすら気づかない「失感情症」は、蓄積した感情が身体の不具合として現れる「心身症」の原因になります。
そろそろ、感情をしっかりアウトプットし、あなた自身を素直に表現してスッキリしませんか?
1.感情がない「失感情症」とは?
人間である限り、100%、喜怒哀楽のいずれの感情もあることが当たり前です。
ところが、その自分の感情をはっきりと認識できず、うまく表現できない人がいます。
日本人には多く、私自身もそうですし、また私の周りにも大勢います。
・何だかよく分からないけど、いつももやもやしている
・違和感を感じるけど、上手く表現できない
・常に心が苦しいけど、それが何なのか分からない
・何があっても常にポジティブ!ネガティブは一切なし!
こんな人は、自分の感情に気づけていないかも知れません。
ポジティブシンキングは、一見、良いことのように思われるかも知れませんが、ネガティブな感情を無視して押し殺しているだけかも知れません。
最近では、ポジティブな感情や思考のみを善として、ネガティブを拒絶することを、英語圏では、「Toxic positivity(有毒なポジティブ思考)」と呼び、むしろ心身にとって不健康であるとされています。
1-2.失感情症(アレキシサイミア)とは?
失感情症とは病気ではなく、性格傾向です。
感情がないわけではなく、あるのですが、自分自身で自覚・認知ができず、言語化が苦手で、自分自身を省みたり、深く掘り下げて理解することが苦手という特徴があります。
自分の感情に気づくことができないということは、自分で自分のことがわからない状態です。
自分の内面の変化を無視し続け、変化があることすら気づけなくなってしまった状態です。
失感情症(アレキシサイミア:a-lexi-thymia)という言葉は、1972年にハーバード大学マサチューセッツ総合病院のシフネオス医師によって提唱されました。
決して、感情を失っているのではなく、その火種のようなものはぼんやりとあるものの、「私は今、怒っている」などのように、はっきりと認識して、表現することができないのです。
認識できないことが大いに問題で、認識できない感情は、アウトプットができません。
だから、マグマのように蓄積し続けます。
普段、大人しいと思われていた人が、急に咳を切ったように怒り出して手がつけられず、全てを破壊するほどの大惨事になることがあります。
一方で、普段から感情的な人ほど、怒ったり泣いたりした後は、ケロっとして忘れてしまいます。
感情は、しっかりと表現しないと、必ず蓄積し、パンパンになってから溢れ出たり、もしくはそれもできないと、身体の不調や病気となって現れてしまいます。
1-2.感情は身体と関連する
感情は、必ず、身体に現れます。
悲しみを感じている時に、胸がキューッと苦しくなったり。
怒りを感じている時に、体がわなわな震えたり。
元々、失感情症という性格傾向は、心のストレスが身体に現れる心身症の人に多いことがわかっています。
感情が認識できない代わりに、身体に表現されてしまう典型例です。
不調としては、
・頭痛・耳鳴り・めまい
・胃痛・腹痛・腹部膨満感・便通異常
・呼吸困難・過換気
・皮膚炎・痒み
・痛み
・筋肉痛・こり
・倦怠感
心身症と呼ばれる病気としては、
・高血圧
・胃十二指腸潰瘍・ストレス性胃炎
・過敏性腸症候群
・アトピー性皮膚炎
・気管支喘息
など、全身の臓器にわたる様々な疾患がありますが、それ以外のあらゆる病気の背景には、認識できていない何かしらの感情があります。
感情と身体の反応は、常にセットで起こっています。
失感情症の人のリハビリは、その身体の変化を無視せずに、その部分から、自分の感情を発見していくことから始まります。
最新の脳科学的には、何かしらの出来事があり、感情や思考が生まれる前には、必ず、身体の反応を伴います。
この身体の反応を、情動と言います。
1-3.身体の反応と感情の関係
情動とは、何かしらの刺激により、脳の大脳辺縁系の反応で起こる生理的な反応です。
神経系(自律神経、脳神経、末梢神経)、内分泌系(様々なホルモン分泌)、代謝、免疫系の反応により、全身の身体に何かしらの変化が起こります。
その身体の変化があった後に、身体から脳に刺激が送られ、身体の変化に応じた感情が沸き起こるとされています。
例えば、誰かに嫌なことをされた場合には、
1)脳が刺激を受け、脳からの指令で体が反応します。顎や肩の筋肉が緊張したり、胃腸がキューッと掴まれるなど、筋肉や内臓に様々な変化が起こります。
2)その身体の反応が、脳にフィードバックされることで、「怒り」という感情がわくという順番です。
失感情症の人も、何かしら、情動として身体の反応は起きていますが、その反応を基に、脳が感情を生み出し、それを認識するというところのプロセスが苦手なのです。
認識ができないので、表現もできませんから、ずっと、そのエネルギーは蓄積し続けます。
1-4.「喜・怒・哀・楽」は、全てあって当たり前
人間である限り、脳のメカニズムとして、100%、喜怒哀楽のいずれの感情もあることが当たり前です。
ポジティブな感情を表現することには抵抗がないかも知れませんが、特に、日本人は、怒りなどのネガティブな感情を押し殺してしまいがちではないかと思います。
沸いていることを自分で認識して、押し殺すのであれば、失感情症には当たりませんが、押し殺し続けているうちに、しまいには怒り自体を感じられなくなり、本当は怒っているはずなのに、それが認識できない失感情の状態になってしまいます。
多くは幼少期の親子関係やしつけ、養育環境に原因があります。
良い子でいなければならない。
他人に迷惑をかけてはならない。
などの刷り込みがあったり、厳しすぎるしつけによって感情を表現することを抑制してしまうと、失感情になりがちです。
例え、ポジティブな感情であっても、楽しくて大笑いしている際に、
「はしたないから、はしゃいではダメだ!」などと怒られながら育つと、「喜び」や「楽しみ」を押し殺しているうちに感じられなくなることもあります。
1-5.共感力や想像力にも乏しい傾向
失感情症の性格傾向の人は、自分の感情を認識することが苦手な一方で、他者への共感力や想像力にも乏しい傾向があるとされています。
私自身も、特に全般的な感情が表現できなかった子供の頃は、他人の感情も上手に想像できなかったために、人とのコミュニケーションが上手くいきませんでした。
感動するはずの映画を観ても、感情自体への認識があまりできないので、共感して感涙することもできませんでした。
全体的に、世界の色彩が薄れていたように思います。
2.感情を感じるリハビリ
感情を感じるためのリハビリは、しっかりと自分と向き合うことから始まります。
無視していた自分をしっかりと見つめることです。
2-1.自分から逃げずに観察する
自分を取り巻く環境の何かしらの刺激があると、必ず、何かしらの感情が発生します。
感じなくても、心の奥底には、湧いているはずです。
特に、人と会う、仕事をする、会話をする、一緒に何かをするなど、他人とコミュニケーションがあるシーンは、チャンスです。
この時に、何かしらのストレスを感じたり、違和感を感じたら、その時に受け流さないこと。
普段は、何事もなかったように自分の内面を無視しているはずですが、そこを無視せずに、自分から逃げない!
ステップについてお伝えしましょう。
2-2.日常で感情を見つけるステップ
1)現在の状況が、自分にとって「快」か「不快」かを感じてみます。
快か不快かは、感情よりももっと野生的な感覚です。
それを手掛かりにしてみます。
快ならば、ポジティブな感情が湧くはずです。
不快ならば、ネガティブな感情が湧くはずです。
2)身体に何かしら変化があるかどうかを観察してみます。
肩こりや頭痛、腹痛、痛みなど。
その部分や反応をメモをするなどしてしっかりと覚えておきましょう。
これは後で、自分で自分の内面を深掘りする際に使えます。
3)快か不快かを手掛かりに、感情を見つけてみます。
見つけると言っても、自分ではっきりと言語化することは難しいと思います。
感情の元となる表現をみて、ピンとくる、ザワッとくる感覚があれば、それが眠っている感情の可能性があります。
基本的な喜・怒・哀・楽で考えてもしっくり来ない場合は、もう少し詳細な感情表現から探してみます。
・喜び
・悲しみ
・悲嘆
・怒り
・安心
・不安
・憂い
・恐れ
・恐怖
・恥じらい
・感動
・歓喜
・驚き
何よりも大切なことは、「気づく」ということです。
大きな発見でなくとも、毎日・毎瞬、淡い感情、小さな感情のサインに気づくことが大切です。
4)感情を表現してみる
何かしらの感情に気づいたら、それを表現してみます。
言葉として表現したり、涙を流したり、シャウトしたり、アウトプットしてみます。
「私は、今、悲しんでいる」
「私は、今、怒っている」
これを発見できたら、すごい進歩です。
蓄積した感情はしっかりとアウトプットすることで昇華されます。
もし、長年鬱積していたマグマのような感情が湧いてきたら、どんどん出してしまいましょう。
泣いてもわめいても構いません。我慢せずに出し切ってしまうことです。
5)再度、身体を感じてみる
そして、感情を表現したら、反応していた身体の部分を改めて観察してみます。
しっかりと感情が出し切れていたら、凝りや痛みなどの症状は解消していくはずです。
2-3.ひとり時間で感情と記憶を見つけるステップ
感情を見つけるステップ2)で、身体の変化がある場所に気がついたら、ひとりの時間にそれを観察して、もっと深掘りしてみることが大切です。
根本的な原因を発見することができるかも知れません。
だいたい、不調や違和感がある身体の場所は、それぞれの人で固定化されていると思います。
その部分には必ず、感情が紐づいていますから、芋づる式に引っ張り出すことができます。
初めは「何にも感じない」と思われると思います。
でも、注意深く、辛抱強く、それを観察することです。
1)身体の違和感がある部分に意識を向ける
肩こりや胸の痛みなど、違和感がある場所に、手を置きます。
少し、圧迫をすると意識しやすいです。
固まっていたら、マッサージなどをして解しても良いです。
感情が握り締められているうちは、筋肉はギュッと凝り固まっていますが、筋肉が解けると感情もリリースできます。
2)身体に意識を向けながら、ゆっくりと腹式呼吸をする
普段は、自分に向いていない意識を、しっかりと自分に向ける訓練です。
手を置いた身体の部分に意識を向けながら、ゆっくりとした呼吸法を実践します。
・まず、胸ではなく、お腹をしっかり凹ませながら、口から息を吐き切ります。
・その後、胸ではなく、下腹を膨らませて、鼻から息を吸います。
・身体の部分に意識を向けながら、考えるのではなく、感じます。
息をすう時間と息を吐く時間は、1:2。
4秒で吸う場合、8秒で吐くという具合です。
3)感情を表現する言葉を見つける
感情を見つけるステップ3)で示した感情表現を頼りに、身体の部分を意識しながら感情を感じてみます。
感情を表す言葉が見つかったら、それを表現してみます。
しっかりと出し切ることが大切です。
4)感情に紐づくエピソードを発見する
感情が生まれるからには、何かしらの出来事があったはずです。
今現在起きた出来事によってストレスを受けているかも知れませんが、それはあくまでも内面に気づくきっかけに過ぎません。
封印している感情の多くは、幼少期の養育環境における親子関係や家族関係、エピソード、もしくはその後であっても何かしら強烈なトラウマ体験が発端になっていることがほとんどです。
それが、今現在の出来事を通して潜在意識の琴線に触れることで、ストレス反応になっています。
その発端となる出来事も最初は封印されていて気づけないものですが、観察しているうちにだんだんと掘り起こされてきます。
例えば、小さい頃に親から繰り返し、「お姉ちゃんなんだから、泣くんじゃないの」と言われ続けていると、悲しくても泣いてはダメだ!と思いこみ、悲しみを封印してしまうようになります。
すると、胸の痛みや苦しみ、呼吸困難などとして身体に表現されるようになります。
5)再度、身体を観察する
発端となるエピソードに気づき、それが認識でき、その時の感情ごと全てアウトプットできれば、身体化された感情が解放され、身体の症状も改善していきます。
3.根気よく少しずつ自分を解放する
コロナ禍の生活様式の変化によって、自分と向き合う時間がたくさん作れるようになったと思います。
自分を大切にする第一歩は、まず、自分が自分を知り、自分を癒し、本来の自分を解放することです。
私自身も、随分長く自分の感情を認識することができませんでしたが、30代の後半から改めて真剣に自分と向き合い直し、数年がかりで少しずつ、感情を認識して、表現することができるようになってきました。
少し根気が入りますが、これから長い人生、ずっとストレスを抱えて生きるよりも、素直に自分を表現して生きる方がよっぽど楽チンです。
気づいた時がチャンスですから、今からでも遅くはありません。
少しずつ、本当の自分を解放していきましょう。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか