皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

私自身、どうにもこうにも、ネガティブ思考で、ものすごく忘れっぽいのが悩みです。
前回、腸内細菌がメンタルに影響を与える「サイコバイオティクス」についてお伝えしましたが、実は、これ、腸内細菌による腸タイプ「エンテロタイプ」の影響かも知れません。

微生物と腸と脳は、密接に関連しています。

1.人の3つの腸タイプ「エンテロタイプ」

3色の花

血液型や遺伝子型のように、人のタイプを決める色々な分類があります。

全人類の腸内細菌のタイプは、菌の種類により3タイプに分類されると言われています。
ライフスタイルや人種や地域によって違い、健康状態だけでなく、思考や行動、脳機能にまで影響を与えていることが分かっています。

1-1.B型:バクテロイデス型

バクテロイデス属の細菌が多いタイプです。

欧米人や中国人など動物性たんぱく質や脂肪の摂取が多い民族に多かったのですが、現在日本でも8割程度がこのタイプ(Cykinso調べ)。

これが多ければ、太りにくい体質に関連するとされています。

1-2.P型:プレボテラ型

プレボテラ属の細菌が多いタイプです。

難消化性の食物繊維を分解する能力があり、アンデスや東南アジアなど穀物食を中心とした生活、ベジタリアンに多いタイプ。

日本人では10%程度です。

1-3.R型:ルミノコッカス型

ルミノコッカス属の細菌が多いタイプです。

雑食と関係あり、元々日本人に多かったタイプでしたが、現在ではほとんどこのタイプの人がいません。
増加すると糖や脂肪の吸収を促進し、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなることが報告されています。

1-4.混合型(BP型、BR型、PR型)

R型、B型、P型のうちの2種類の混合型です。
1種類の属の菌が優勢でない場合は、この型に分類されます。食生活によって、どちらかの型に近づく可能性があります。

1-5.WELLMETHOD編集部の腸内フローラタイプは?

腸内細菌

編集部でも、栗本編集長、久徳マネージャー、そして監修医の桐村が腸内フローラ検査を行いました。

栗本編集長は、プレボテラが14%でP型ですが、バクテロイデス菌も10%と2番目に多い為、PB型に近いタイプ。

久徳マネージャーは、バクテロイデスが32%と完全なB型。
そして、桐村は、プレボテラが33%と完全なP型です。

詳細はこちら

https://wellmethod.jp/gut-diversity/team.html

さて、この違いが、性格や記憶力の違いに見事に現れております。

2.思考のネガポジや記憶力と腸内細菌

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究(※)によると、エンテロタイプのうち、B型とP型の違いは、明らかな性格の違いと記憶力の違いを生み、海馬の大きさにまで影響していたことが明らかになっています。

※Psychosomatic Medicine: October 2017 – Volume 79 – Issue 8 – p 905-913

2-1.ネガティブで記憶力の悪いプレボテラ型

40人の女性を被験者に、MRIで脳スキャンを行いながら、各種の画像を見せ、感情の反応を確認しました。

すると、プレボテラ型の女性では、ネガティブな画像を見た時に、苦悩や不安などのネガティブな感情を強く感じたこと。また、感情の制御や短期記憶に関わる海馬などの領域が小さく、活動レベルが低いことなどが分かっています。

2-2.ポジティブで記憶力の良いバクテロイデス型

やる気に溢れた女性

一方で、バクテロイデス型の女性では、ネガティブな画像を見せられても、ネガティブな感情を感じにくいこと。
また、問題解決と情報処理を行う脳の領域・前頭葉と島、そして記憶を保存する中枢である海馬もより大きく、活発に活動していたことなどが報告されています。

つまり、同じストレスフルな状況でも、P型はネガティブになり、苦悩や不安を抱えやすく、B型はネガティブに捉えないでいられるようです。

R型は、特に研究されていません。

2-3.確かに「当てはまっている!」と実感

これについて、編集部の3人を比較すると、見事に一致しています。

P型である私、桐村は、ネガティブ思考であることと記憶力がとんでもなく悪いことを自負しております。今朝のことも覚えていないのに、昨日のことなんて遠い昔のことのようにぼんやりしております。

ところが、B型である久徳マネージャーは、色々なものごとを気にせず、受け流すのが得意でポジティブ思考であることを自負し、さらに「記憶力が良いのが取り柄」と言います。
学生時代から、暗記ものが得意だったとの談。

両方を持ち合わせた栗本編集長は、バランスよく思考し、安定感があります。

私の場合は、前回お伝えしたように「サイコバイオティクス」としてストレスや抑うつを改善するビフィズス菌や乳酸菌の少なさもあり、よりストレスに弱いのだと思います。

https://wellmethod.jp/psychobiotics/

「心に効く腸活」メンタルを強化する「サイコバイオティクス」【医師が解説】

それ以外にも複合的な要因と考えられますが、P型とB型の違いははっきりしていて面白いですね。

2-4.B型は肉食好きなのに太りにくい!?

ステーキ

腸内細菌のバランスは、日々の食事によって変わります。

エンテロタイプを決める腸内細菌は、いずれも「日和見菌」の一種で、腸内環境全体が良い環境であれば、良い働きをし、悪い環境になれば、悪い働きに加担します。

バクテロイデス型は、動物性タンパク質や飽和脂肪酸の摂取、つまり肉食を中心とした欧米型の食事と関連しています。

日本人の食生活の変化が、B型へのシフトをもたらしているようです。

バクテロイデス菌は、肥満を抑制する働きもあります。
食物繊維を分解して、短鎖脂肪酸の一種・酪酸を生むことで、脂肪細胞への脂肪取り込みの抑制作用や筋肉での脂肪燃焼を刺激する作用によって、太りにくく痩せやすい体作りをサポートします。

ただし、食物繊維の摂取が不足するとこの効果は得られないばかりか、大腸内に腐敗菌が増える原因になります。
しっかり野菜や海藻、豆類、キノコ類などももりもり食べましょう。

2-5.P型は食物繊維の恩恵を受けやすい

野菜

プレボテラ菌は、食物繊維を分解して、短鎖脂肪酸である酢酸やプロピオン酸を生み出します。

P型の人は、食物繊維を摂取することで血糖値の上昇を抑える効果が高いこともわかっています。また、パーキンソン病の人では、この腸内細菌が健常な人よりも8割減少するとも報告されています。

一方で、プレボテラ・コプリ菌は、自己免疫疾患である関節リウマチの人で多いことも分かっており、悪い方に触れると炎症を誘発するようです。

2-6.R型は動脈硬化を引き起こしやすい

ルミノコッカス菌は、糖や脂肪の吸収を促進し、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクを招くことがわかっています。
また、ビタミンB群を生み出す力が弱く、栄養が不足しがちになります。

肥満の人では、ルミノコッカス菌が増加し、肥満を抑制するバクテロイデス菌が減少することなども報告されています。

ただし、増えすぎるとよくないのであって、腸内の多様性が保たれた状態であれば、必要な働きもあると考えられています。

2-7.エンテロタイプは変化する

腸内細菌のバランスは、食生活によって変化しますので、エンテロタイプは変わりうるものです。

例えば、栗本編集長のようにプレボテラとバクテロイデスがほとんど同列にいるような場合は、食生活の違いによってどちらかが優勢になりやすい傾向があります。
私や久徳マネージャーのように、何かがとりわけ多く、他の2種類が極めて少ない場合は、よほど大きな食生活の変化がない限り首位が変わることは難しそうです。

いずれのエンテロタイプも、腸内環境全体を健全に保つことで、健康にとって良い方に働きます。

その為に、編集部全員で、日々、食物繊維などの多糖類をもりもり食べるプレバイオティクス、そして発酵食品で不足した乳酸菌をビフィズス菌を補うプロバイオティクス。それらを合わせたシンバイオティクスな食生活を心がけています。

これが、万人の腸内環境を改善する普遍的な方法です。

3.腸内フローラ検査で確認

腸内細菌タイプ

自分の腸タイプ「エンテロタイプ」は、腸内フローラ検査で調べることができます。

以前にご紹介した株式会社サイキンソーの『MykinsoPro』『MykinsoPersonal』、いずれでも結果が出ます。

その他にも、腸の健康に欠かせない多様性や短鎖脂肪酸を産生する能力、アレルギーを抑制する酪酸菌やいわゆる若返り菌(エクオール産生菌)、長寿菌(フェカリバクテリウム属菌)の有無なども分かります。

自分の腸内細菌のバランスは変わりますが、定着している種類は、幼少期までに決まります。

自分がお腹に育成している微生物のことがわかると、育成方法がはっきりします。
自分の生涯のパートナーのことを、知ることができる検査ですので、これを機に一度受けてみてはいかがでしょうか。

https://wellmethod.jp/mykinso/

腸内フローラ検査を医師が完全解説|自分にあった腸活とは?

 

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか