デトックスと抗酸化に必須「セレン」とミネラルを補うべき理由【医師解説】
皆さまこんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。
「セレン」と聞いて、ピンと来る方はいますか?
正直言って、医師であっても栄養に対してよほどマニアックでないとピンと来ないマイナーなミネラルです。
でも「必須」の微量ミネラルです。
必須ということは、体内では合成できないので、絶対に口から摂取しなければならないことを意味しています。
この不足は、体内の解毒酵素や抗酸化酵素の働きを弱めて、老化やがんを促進するリスクが。
現代人に不足しがちなミネラルの一種「セレン」についてご紹介しましょう。
目次
1.微量ミネラル「セレン」
必須ミネラルという言葉を聞いたことがあると思いますが、ビタミンに比べてわかりにくいミネラルとはなんでしょう?
1-1.必須ミネラルとは?
必須栄養素とは、健康のために体外から取り入れる必要のある栄養素です。
体内で合成できないため、主に食品から摂取する必要があります。
ミネラルは、特に体内で合成できません。
一般的に、ミネラルとは、鉱物。無機物のことです。
地球上で発見されている118種類の元素のうち、水素 (H) 、炭素 (C) 、窒素 (N) 、酸素 (O) のように、生命のカラダを構成する主要構成成分になるものを除いた、114種類の元素をミネラルと呼んでいます。
生体を構成するミネラルは、環境から取り入れない限り人体では作れません。
生命維持、生理機能の維持・調節に不可欠です。
ミネラルの中で、ヒトの体内に存在し、栄養素として欠かせないことが確定しているものを必須ミネラルといい、現在16種類あります(年々増えています)。
1.主要ミネラル
必須ミネラルのうち、1日の摂取量が概ね100mg以上のものを主要ミネラルと言いいます。
・カルシウム
・リン
・カリウム
・ナトリウム
・塩素
・マグネシウム
・硫黄
2.微量ミネラル
必須ミネラルのうち、1日の摂取量が概ね100mg未満のものを微量ミネラルと言いいます。
・鉄
・亜鉛
・銅
・ヨウ素
・セレン
・マンガン
・コバルト
・クロム
・モリブデン
・ケイ素(シリカ)
です。
意外に思われるかもしれませんが、鉄や亜鉛も微量ミネラルです。
現代的な生活では、概ねミネラルの不足によって様々な不調が起こっていますが、ミネラルは過剰になると毒になります。
摂れば摂るほど良いというのは、勘違いで、過不足なく、至適な量を保つことが望ましいのです。
セレンは、微量ミネラルの一種です。
2.セレンの体内での働き
セレンは、肝臓や腎臓に多く必要とされています。
体内には10mgほどしかないのですが、解毒酵素や抗酸化酵素の合成に必須なので、不足するとこれらの働きが低下してしまいます。
セレンの主な役割は、強力な抗酸化作用をもつ酵素「グルタチオンペルオキシダーゼ」と解毒酵素「グルタチオンSトランスフェラーゼ」の2つの酵素の働きを促進することにあります。
2-1.強力な抗酸化酵素・グルタチオンペルオキシダーゼ
老化や病気の原因となる過酸化物質を分解してくれます。
体内で作られた有害な過酸化物質や過酸化水素などの活性酸素に反応し、分解し、無毒化します。
特に、血管内皮細胞での活性酸素を消去する働きが強く、血管の老化で起こるあらゆる生活習慣病の予防に必須です。
動脈硬化を予防し、血管の若さを保つために必須の酵素になります。
解毒酵素であるグルタチオンSトランスフェラーゼと互いに助け合いながら働いて、活性酸素を消去したり、発癌物質を除去したりします。
2-2.解毒に必須の酵素・グルタチオンSトランスフェラーゼ
この酵素は、有害物質である水銀、ヒ素、カドミウム、鉛などのの重金属やタバコやアルコール、大気汚染物質などの化学物質を解毒するのに必要で、これらの害から細胞を守る働きがあります。
総合的にセレンの働きは、多岐に渡ります。
2-3.セレンの全身への働き
生殖、甲状腺ホルモン代謝、DNA合成、酸化的傷害や感染の予防に重要な役割を果たしています。
・過酸化脂質を分解
・抗酸化酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ)を構成
・甲状腺ホルモンを活性化する酵素を構成
・血圧に関わるホルモンを調整
・重金属や化学物質などを無毒化
・動脈硬化血栓症の予防
・前立腺の健康を維持・精子の生成を維持
3.セレン不足
3-1.セレン不足の症状:不妊や老化を引き起こす
セレンの欠乏は、シミやシワなど皮膚の老化だけでなく、全身の血管の老化を促進します。
さらに、男性不妊にも関連します。
男性の精子は、酸化ストレスや毒素にも弱いのです。
セレンは、抗酸化作用とDNA修復やアポトーシス※などにも関与しているので、その不足は、がんや認知機能低下にも関与していると考えられています。
セレンの不足は、大腸癌、前立腺癌、肺癌、膀胱癌、皮膚癌、食道癌、胃癌のリスクを上げるとされています。
セレン欠乏地域では、心筋症や変形性関節症を引き起こします。
※細胞が構成している組織をより良い状態に保つため、細胞自体にプログラムされた、細胞の能動的な自然死のこと
3-2.セレン不足が起こりやすい現代的食生活や疾患
セレンは微量元素ですから、通常は不足はしないはずです。
でも、現代型食生活では不足する可能性もあります。
特に、清涼飲料水や加工食品、インスタント食品の多食、重金属汚染のあるマグロや金目鯛などの魚の摂取によって消耗してしまう可能性があります。
また、透析患者やHIVウイルス感染者でもセレンは不足しやすくなります。
4.セレンを多く含む食品
18~69歳までの男女のセレンの摂取基準は、
推奨量:男性 30μg/日 女性 25μg/日
耐容上限量:男性 450μg/日 女性 350μg/日
基本的には、穀物や魚介類など様々な食材から摂取できるため、不足は心配ありませんが、上記のように現代的な食生活では不足する可能性があります。
セレンは、タンパク質を一緒に摂取すると吸収が良いため、
カレイ・カツオ・サバ・アジ・さんまなどの魚から摂取するのが効率的です。
マグロもセレンを多く含みますが、重金属が過剰に蓄積しているので、注意が必要です。
5.セレンは過剰症も起こりうる
ミネラルというのは、大抵過剰になると毒性を発揮します。
不足もダメ、過剰もダメですから「適量」が必要なのですが、セレンは必要量と中毒量の差が小さいため、注意が必要です。
5-1.セレン過剰に注意すべきブラジルナッツ
普通の食事で過剰症の心配はありません。
ただし、実は、最近、ヘルシーフードとして注目されているブラジルナッツをご存知でしょうか?
こちらには、セレンが大量に含まれています(68~91 µg/個)。
「ヘルシーなナッツ」として「ギルトフリーなおやつ」と思って、1日4〜5つぶほど摂取すると上限量を超えてしまいます。
このため、定期的に摂取するとセレン過剰症を引き起こす場合があるとされています。
また、サプリメントなどで過剰に摂取する必要もありません。
親切なマルチビタミンミネラルにはセレンも含まれていますが、通常は過剰摂取は起こり得ない量しか含まれていません。
5-2.セレン過剰の症状は?
セレンを慢性的に過剰に摂取すると、
・早期に呼気のニンニク臭や金属味を感じる
・脱毛や爪の形態変化
・胃腸障害
・湿疹
・疲労感
・焦燥感
・神経過敏
・末梢神経障害
セレンをグラム単位で摂取するようなことは起こり得ないでしょうが、もし急性の毒性症状が現れるとすると、重症の胃腸障害、神経障害、心筋梗塞、呼吸不全、腎不全などを引き起こします。
日常生活において、食品から摂取する分には、ブラジルナッツを毎日のおやつにするなどしない限りは、こうした過剰症は起こり得ないと考えてください。
6.まとめ
普段意識していない、マイナーなミネラルであっても、必須ミネラルは体にとって不可欠です。
特に、解毒や抗酸化力は体を健康に、若々しく保つために不可欠です。
バランスの良い食生活であれば、セレンは不足しにくいものの、インスタントな食事では不足するリスクもあります。
セレンだけでなく、鉄や亜鉛などは特に枯渇しやすい微量ミネラルですが、ミネラルは相乗効果で働くため、何かだけ補えば良いというわけでもありません。
ビタミンに比べてマイナーなミネラルですが、全身の万を超える酵素の働き、つまり全身の働きに不可欠です。
しっかりと意識していきましょう。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
- facebook
https://www.facebook.com/drlisakirimura - Instagram
https://www.instagram.com/drlisakirimura/ - twitter
https://twitter.com/drlisakirimura
著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか