【医師解説】「デブ菌」が多いと健康長寿!? 根本からカラダをつくる腸内細菌の育て方
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
腸内細菌のトピックスで、「肥満の人には「デブ菌」が多い」ということが広く知られるようになりました。
ところが、最近では、いわゆる「デブ菌」が多いと肥満になるという考えは、間違いだったということがわかってきました。
実際に腸内フローラ検査をしてみると、健康長寿な人に「デブ菌」に分類される種類の細菌群が多いという結果が出る事がよくあります。
今日は、「デブ菌」「ヤセ菌」について、現状どのように解釈されているのか、お伝えしましょう。
目次
1.「デブ菌」「ヤセ菌」とは何か?
1-1.腸内細菌は複雑多様で完結には語れない
生活者に情報を伝える際に、情報を伝える側は、より簡潔に、分かりやすく、キャッチーにすることがしばしば求められます。
特に、生活者のダイエットへの関心は高いため、それに関わるキーワードは、バズりやすいものです。
腸内フローラの世界は、以前にお伝えしたように、複雑多様で、環境によって振る舞いが変わる腸内細菌が多いため、完全な「善」「悪」には分けられませんが、簡潔にわかりやすくするために「善玉菌」「悪玉菌」のような表現が使われています。
この事例と同様に、肥満者の腸内に多い最近群として、キャッチ―に名付けられた「デブ菌」ですが、この意訳が真実をゆがめてしまったようなのです。
1-2.「デブ菌」の由来はこれ
いわゆる「デブ菌」と呼ばれる細菌は、一般的に「ファーミキューテス門」というグループに属する細菌群のことを指しています。
2006年、ワシントン大学の研究チームが、英国の権威ある科学誌『Nature(ネイチャー)』に発表した、マウスの実験によります。
※Nature 444, 1027-1031 (2006)
肥満マウスと痩せたマウスの腸内細菌を比較したところ、肥満マウスにはファーミキューテス門に分類される細菌群が多く、バクテロイデス門に分類された細菌群が少ないことがわかりました。
無菌状態のマウスに、一方は肥満マウスの腸内細菌叢を与え、もう一方には、痩せたマウスの腸内細菌叢を与え、同じエサで育てたところ、最初のグループは体脂肪が47%も増加し、2つ目のグループは、27%の増加に留まったとのことです。
ファーミキューテス門は、難消化性の食物繊維をエネルギーに変える力があるために、多くの栄養やエネルギーを体内に取り込むと考えられ、これが「デブ菌」と言われるようになりました。
1-3.「太りやすさ診断」F/B比
これを受けて、「デブ菌」である「ファーミキューテス門」が「バクテロイデス門」に対して多いと、「太りやすい」とされるようになりました。
腸内フローラ検査でも、「ファーミキューテス門」と「バクテロイデス門」の比である「F/B比」という指標が、人間の「太りやすさ診断」にも使われるようになりました。
でも、実際に、矛盾が生じるようになりました。
「デブ菌」に分類される細菌群の中にも、代謝をあげる「ヤセ菌」や健康ご長寿に多い「長寿菌」が含まれるため、F/B比が高いことで、健康的に痩せている人も多くいることがわかってきました。
1-4.「長寿菌」は「デブ菌」に分類される
実際に、私が患者さんに腸内フローラ検査を行っても、とても食生活がよく、「長寿菌」が多い人では、F/B比が高く、「太りやすい」と診断されてしまうことがありました。
もちろん、実際には、特に太っておらず、健康な状態です。
「長寿菌」の代表である大便桿菌(フィーカリバクテリウム菌)や大便球菌(コプロコッカス菌)は、ファーミキューテス門に分類されます。
「長寿菌」の記事でご紹介した、健康ご長寿の多い京丹後市でも、ファーミキューテス門が多く、F/B比は高かったのです。
▼【医師解説】若さのヒミツ「長寿菌」は増やせる! 長寿村に学ぶ若さと元気を叶える10の心得
https://wellmethod.jp/longevity/
1-5.「デブ菌」の中にも「ヤセ菌」がいる
デブ菌に分類される長寿菌は、いずれも、短鎖脂肪酸の一種、酪酸を産生する酪酸菌の一種です。それも、大量に分泌します。
短鎖脂肪酸は、人の消化酵素では消化しきれなかった多糖類・プレバイオティクス(特に食物繊維やオリゴ糖、難消化性デンプンなど)を食べた腸内細菌が分泌します。
この短鎖脂肪酸が体内に入ると、様々な働きで肥満を防止します。
1. 交感神経を刺激して基礎代謝を高める
2. 脂肪細胞への脂肪分の取り込みを抑制する
3. 食欲を抑制する
4. 糖代謝・脂肪代謝を改善する
つまり、「デブ菌」に分類される細菌の中にも「ヤセ菌」と言われる細菌が含まれているのですね。
1-6.「デブ菌」の中にも健康に必須の菌がある
短鎖脂肪酸は、これだけでなく人の健康に欠かせない働きをします。
・腸内を弱酸性に保つことにより病原性の細菌の増殖を抑える
・大腸の上皮細胞のエネルギー源になり、防御壁のバリア機能を高める
・ミネラルを体内に吸収しやすくする
・大腸を刺激して蠕動運動を促す
など
ですから、「デブ菌が多い=肥満で不健康」とは言えないのです。
短鎖脂肪酸について、詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
「免疫力低下や肥満を防ぐ! 腸内環境のエース「短鎖脂肪酸」6つの働き」
https://wellmethod.jp/short_chain_fatty_acids/
1-7.「ヤセ菌」と言われる細菌
一般的に「ヤセ菌」と呼ばれるのは、以下の二つの菌です。
1-7-1.バクテロイデス属菌
先ほど、「バクテロイデス門」という分類が出てきましたが、「バクテロイデス属」は、より小さなカテゴリーです。(カテゴリーについては後で詳しく説明します)
これも、酪酸を産生する酪酸菌の一種で、以前にお話しした腸内フローラタイプ「エンテロタイプ」の分類に使われます。
https://wellmethod.jp/enterotype/
1-7-2.アッカーマンシア ・ムニシフィラ
体重、BMI、血中コレステロール値、空腹時血糖値が高い人では、正常な人に比べて、腸内のこの菌が少ないとされています。
肥満や糖尿病との関連があるとされています。
成人の腸内細菌の総数の1~4%を占めているのが正常で、別に、多ければ良いというわけでもありません。
ちなみに、私自身は、腸内フローラ検査の結果、この菌がいませんでしたが、その他の短鎖脂肪酸を分泌する菌が多いためか、特に太っていません。
1-8.細菌業界のカテゴリー
生物界のカテゴリー分類は、少々わかりにくいのですが、理解の補足のために説明します。
生物界には分類階級があります。
例えば、人間は、
・動物界
・脊索動物門
・哺乳綱(こう)
・サル目
・ヒト科
・ヒト属
・サピエンス種
という具合に、「界・門・綱・目・科・属・種」という分類階級でカテゴライズされます。
細菌は、真正細菌界という大きなグループに属しながら、門以下の階級でカテゴライズされます。
例えば、バクテロイデス属菌は、
・真正細菌界
・バクテロイデス門
・バクテロイデス綱(こう)
・バクテロイデス目
・バクテロイデス科
・バクテロイデス属
長寿菌の一種である、フィーカリバクテリウム菌は、
・真正細菌界
・ファーミキューテス門
・クロストリジア綱
・クロストリジア目
・ルミノコッカス科
・フィーカリバクテリウム属
となります。
さらに、属より小さい「種」まで見ないと、その菌が人にとって良い働きをするか、悪い働きをするかまで分からない場合も多いのです。
ですから、大きなグループである「ファーミキューテス門」の中にも、多種多様な菌が含まれているので、これを一概に「デブ菌」と考えることには無理があったようです。
2.実際にどうすれば太らないのか?
2-1.「短鎖脂肪酸」産生菌を育てるシンバイオティクス
いわゆる「ヤセ菌」と呼ばれる酪酸菌やバクテロイデス属菌、アッカーマンシア ・ムニシフィラだけでなく、「短鎖脂肪酸」を分泌する菌は他にもあります。
短鎖脂肪酸である、酪酸・酢酸・プロピオン酸を分泌する腸内細菌は、いずれも大切です。
こうした細菌は、名もなき雑草のように、誰の腸内にも必ず生息しています。
彼らは、エサであるプレバイオティクスをたくさん食べれば、喜んで増えて、酪酸、酢酸、プロピオン酸など、人の体の働きをサポートする短鎖脂肪酸をたくさん分泌してくれます。
さらに、彼らを元気付ける有用菌を含む食品・プロバイオティクス(発酵食品や有用菌を含むサプリメントなど)を口から食べれば、さらに喜んでぐんぐん成長します。
プロバイオティクスとプレバイオティクスを合わせて、シンバイオティクスと言いますが、これらをしっかりと日常的に食べることが大切です。
『腸内細菌が健康を左右する! 腸を整える“シンバイオティクス”という食事法のすすめ』
https://wellmethod.jp/intestinal_bacteria/
2-2.腸内細菌と肥満には関連がありそう
前述のワシントン大学の研究チームが、その後、2013年にこれまた有名な科学誌『Science(サイエンス)』に発表した、人間の双子とマウスを使った研究結果があります。
※Science. 2013 Sep 6; 341(6150)
研究チームは、双子の一方は肥満で、片方は痩せている、遺伝子が似ている一卵性双生児4組を募集しました。
遺伝子の要因を排除した状態で、その二人がなぜ、一方は肥満で、一方は痩せているかを検証しました。
参加者たちの腸内細菌を、無菌のマウスの腸に移植しました。
エサや運動の条件は、全て同じで、違うのは、移植された腸内細菌だけです。
その結果、肥満の人から移植されたマウスは、痩せた人の移植されたマウスより体重が増え、20%多くの脂肪が蓄積しました。
やはり、肥満と腸内細菌には何らかの関連があるに違いありません。
2-3.どうやら多様性が大切のようだ
さらにその後、両方のグループのマウスを同じケージに入れ、お互いのフンを食べる環境を作ったところ、痩せたマウスのフンを食べた肥満マウスは、腸内細菌叢が変化して痩せていきました。
一方で、肥満マウスのフンを食べた痩せたマウスが、太ることはありませんでした。
痩せたマウスは、肥満の腸内細菌に影響されず、肥満のマウスは、痩せの腸内細菌に影響を受けたということです。
これは、どう考えたらいいのでしょう。
痩せた人の腸内細菌叢は、多様性に富んでおり、反対に、肥満者の腸内細菌叢は、多様性が低下している傾向にあることが報告されています。
痩せたマウスの腸内細菌の多様性がクッションとなって、肥満者の多様性が少ない腸内細菌叢が入ってきても、影響を受けず、バランスが保たれたのではと考えられています。
つまり、単一の「ヤセ菌」が痩せた状態を作るというわけではなく、結局は、多種多様な細菌が協力し合いながら暮らすダイバーシティが大切と言えるのではないでしょうか。
健康の鍵は、単一のスター的な「善玉菌」によるものではなく「ダイバーシティ」が大切と言われています。
これを保つ為にも、シンバイオティクス食品を日常的に食べることが大切です。
基本を大切に、ということですね。
『腸内環境改善に最重要!若さと健康のカギは菌の「多様性(ダイバーシティ)」にあり【医師が解説】』
https://wellmethod.jp/diversity/
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか