皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

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これまでの医学的には診断が困難であるものの、自分自身は実際につらい不調、不快感や痛みなどに悩まされる病態があります。
機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS)と呼ばれるようになったこの病態の原因と対処法についてお話ししましょう。

1.機能性身体症候群(FSS)

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS)の不調を抱える女性

毎日つらい症状に悩まされているのに、病院では診断がつかず「気にしすぎだ」「原因はありませんから問題ありませんよ」などと言われてしまう。
医師としても、特定の病気として診断ができないから、何かしてあげたいが、何もできない。
当の本人としてはとても辛いのに、対処法もなく、診断もつかない。
こんな状況に陥っていた病態について、近年、機能性身体症候群(FSS)という名前がつきました。

1-1.機能性身体症候群(FSS)の定義

機能性身体症候群(FSS)は、「症状の訴えや、苦痛、障害が、確認できる組織障害の程度に比して大きいという特徴を持つ症候群」と定義されています。
※Ann Intern Med :130 : 910 −921 ,1999

代表的な疾患としては、過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアで、これらは、自律神経の働きによって説明されています。

ストレスへの過敏性や精神症状の合併、また、それぞれの病態が合併することなどから、自律神経の反応に内分泌系や免疫系の反応などが伴い、心身の症状として現れていると考えられています。

1-2.機能性身体症候群(FSS)の病態

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS)の心身の不調を抱える女性

主に、慢性的な身体症状と身体機能の障害があり、本人は明確にそれを自覚しています。
それに、不安や抑うつ、情緒障害、自己肯定感の欠如などを伴っています。

ストレスに対する感受性が高く、症状の誘引として、ストレスが大きく関与しています。
家族関係や対人関係の困難を抱えているケースも多くあります。

1-3.機能性身体症候群(FSS)に分類される疾患

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS)のお腹の不調を抱える女性

過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、月経前症候群、線維筋痛症などは個別の疾患としても定義され、投薬などによって治療もされています。

西洋医学的な診断というには、あまりにも広い概念を含んでおり、機能性身体症候群(FSS)という症候群名を名付けることには、賛否があります。

ただ、各臓器や心身に個別に現れる病態の根底にある原因について考えたり、アプローチをするために、1つの症候群としてこれらの病態を考えることには意味があるという考えには賛成です。

「病名がない」ことに対する患者さんの不安は「病名」がつくことによって解消されるケースもあります。

「自分は病気だ」と考えてしまうことで、余計に意識化されて治らなくなることもあるため、注意が必要ですし、病名がついて安心するのではなく、それをどう根本から解決していくかというその先の前向きな行動に結びつくことが大切です。

・消 化 器 科 : 過敏性腸症候群 ,機能性ディスペプシア
・婦 人 科 : 月経前症候群 ,慢性骨盤痛
・膠 原 病 科 : 線維筋痛症
・循 環 器 科 : 非定型 ・非心臓性胸痛
・呼 吸 器 科 : 過換気症候群
・感 染 症 科 : 慢性疲労症候群
・神 経 内 科 : 緊張型頭痛
・歯 科 口 腔 科 : 顎関節症 ,非定型顔面痛
・耳 鼻 咽 喉 科 : ヒステリー球症候群 (咽喉頭異常感症),めまい症,耳鳴り
・ア レ ル ギー科 : 化学物質過敏症 ,慢性蕁麻疹
※Lancet :354 :936− 939,1999

精神科領域では、身体表現性障害。
心身医学的には、心身症。
それに、医学的には説明がつかない身体症状(Medically unexplained symptom : MUS)と呼ばれる概念も内包しています。

※心身医学:Vol.l53,No.12,2013

1-4.気のせいではない

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS)の心身の不調を抱える女性

この症候群における症状は、決して気のせいではなく、患者さんにとってはつらいのに、診断が難しいために、認められにくいところに苦しみがあります。

医師からも「気のせい」と言われ、家族や周りからは「サボっている」などと言われ、余計に心を病むケースも少なくありません。

心身の不調(未病)から病気となるプロセスは、機能的な問題が持続すると器質的問題として現れてきます。

子宮筋腫やガン、動脈硬化を伴う心筋梗塞などの病態は、器質的疾患です。
病気である部位が明確で、物理的にも細胞レベルで変化が現れます。

一方で、心身のバランスを保ち、健康を保つシステムである、自律神経系に持続的なストレスがかかり、バランスが保てなくなることにより、内分泌系、免疫系、また様々な内臓機能に異常をきたすものの、器質的な問題が見られないのが、機能的な問題です。

機能的な問題が潜在的に存在し、それが心身に現れているのが機能性身体症候群(FSS)ですが、そのままにすることで、器質的な病気として発症してしまうことになります。

1-5.作為的な場合も鑑別は慎重に

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS) ラベンダー

場合によっては、社会的、経済的理由で病気を偽る「詐病(さびょう)」であったり、ストレスや人格障害などが原因で、精神的な問題からあたかも病気のように偽る「作為症(虚偽性障害)」という心の病気も存在しますので、診断には注意が必要です。

人がみてない状況ではけろっと症状が改善したり、治療をして一つの訴えが軽くなると、また別の訴えで治療を求めるなどのケースがありますが、医師であっても、鑑別が難しく、機能性身体症候群(FSS)であるにも関わらず、「詐病」や「作為症(虚偽性障害)」として扱わないように慎重に見極める必要があります。

機能性身体症候群(FSS)の場合、本人は実際に症状に苦しんでいます。

身体的症状が持続している場合、医師は、機能性身体症候群(FSS)の可能性を考えて診断にあたり、症状の現れている部位だけでなく背景にあるストレス要因を探り、どの程度日常生活が送れているが送れているか、QOLが妨げられていないかを把握し、慎重に過剰な検査を避けながら、除外診断をしていきます。

ただし、まだ機能的な異常については一般的な病院では扱いきれない場合が多いため、「この科に行きましょう」とお勧めできないのが現状です。

特定の臓器に症状がある場合は、まずその臓器の専門科に行き、器質的病気がないかを確認した上で、機能性身体症候群(FSS)に詳しい総合診療医や心療内科医(「心身症」として扱っている場合が多い)を受診する流れになると思われます。

2.診療や対処の流れ

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS)の問診

症状がある場合は、疼痛緩和のためには消炎鎮痛剤、めまいがある場合にはめまいに対する薬などを対症療法的に使います。

自律神経がストレスによって、交感神経モードになり、それが持続して心身膠着状態である凍りつきモードになっていることがベースにあります。

交感神経モードの際には、軽度の有酸素運動や気分転換のための外出などを促しても良いですが、重度の凍りつきモードになると、無理な運動で疲労感が増してしまうため、逆効果になることもあります。
概ねの場合は、軽度の有酸素運動は効果的です。

また、ストレスへの過剰な反応の原因を解決するには、心理療法やトラウマセラピーなどに詳しい臨床心理士やメンタルヘルスの専門家との連携が必要になります。
身体的な症状がある場合は、理学療法などを組み合わせる場合もあります。

心身両方からのアプローチが必要になります。

3.まとめ

機能性身体症候群(Functional somatic syndromes : FSS) ハート

なかなか診断も治療も一筋縄ではいかないのが、機能性身体症候群(FSS)です。

WELLMETHODの監修をご夫婦でしてくださっているルークス芦屋クリニックでは、心拍変動(HRV)を測定することで自律神経の失調を診断することができます。
消化器の専門家である城谷昌彦先生と臨床心理士である城谷仁美先生が心理的なアプローチを行っている稀有なクリニックです。

特に、過敏性腸症候群には、腸内フローラの乱れも伴っていますので、消化器系の症状が強い機能性身体症候群(FSS)の方は、ぜひ一度ご相談なさってみてください。

拙著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書) でも、腸内フローラや自律神経、内分泌系の全身のネットワークから来る不調や疾患について詳しくご説明しています。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか