こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。

年齢を重ねるにつれ、胃腸の不調を感じることはないでしょうか。

とくに胃は脂っこいものを食べると痛みが出たりもたれたりして、体の不調を顕著に感じやすい場所です。

そんな胃の不調を代表するものとして「胃下垂」があります。

胃下垂はよく聞く名前ですが、その症状がどのようなものか、詳しく理解している人は少ないかもしれません。

実は筆者は若いころとても痩せていたので、周りから「胃下垂なのでは?」と聞かれることがよくありました。

そのため当時は「胃下垂は痩せている人の胃のことをいうのか?」と漠然と考えていました。

ここでは、胃下垂とはどのような状態なのか、放置しておくと起こるリスクやその治療方法、胃下垂を予防するための生活習慣の改善法についてご紹介します。

1.胃下垂とはどんな病状?

胃

胃下垂は、簡単にいうと胃の位置が正常な場所よりも垂れ下がっている状態をいいます。

そのため胃下垂の人の見た目は、下腹部がややぽっこりしていることも多いです。

胃下垂はそれを発症したからといって命にかかわるようなことはありません。

しかし、胃下垂には、胸焼けや胃もたれ、消化不良、下痢や便秘などのように自律神経失調症によるさまざまな消化器症状を伴うことが多く、その場合は自律神経を整える治療が必要になることもあります。

1-1.胃下垂を放置しておくとどうなる?

胃下垂を放置してもとくに何も起こらず、無症状な人もいます。

そのような場合は基本的に何もしなくても構いません。そのため、西洋医学では胃下垂を病気として取り扱わないケースもあります。

しかし胃下垂は人によって、さまざまな症状が出ることがあります。

胃が骨盤の位置まで落ちてしまうと胃腸の機能が低下し、便秘や下痢を引き起こすことがあります。

また胃痛や胃潰瘍といった胃の不調だけではなく、骨盤臓器である子宮・膀胱・直腸にも影響し、頻尿・尿もれといった症状が出ることもあります。

最近の研究では、これらの症状は胃が下垂しているから起こる症状というよりは、むしろ自律神経の乱れによる症状によるものであることがわかってきました。

1-2.自分が胃下垂かどうか確かめる方法

自分が胃下垂かどうかを確かめるには、病院に行って胃X線検査を行う必要があります。

ただ自分で胃の症状を確かめることで、ある程度胃下垂かどうか確認することも可能です。

以下の症状が一つでも当てはまる場合、胃下垂の可能性があります。

・食事をするとすぐお腹がいっぱいになる
・食後に下腹部が膨らむ
・食後に胃もたれや吐き気がある
・少量の食事でも膨満感が続く
・胃の調子が悪いことが多い
・よく下痢や便秘をする

この他にも食欲不振や吐き気、げっぷなどが多い場合も胃下垂の可能性があります。

胃下垂の確定診断は、バリウムを飲み胃のX線検査をすることでわかります。

そこで胃の折れ曲がる位置を確認し、胃下垂かどうかを判断することが多いです。

2.胃下垂が起こる原因とは

胃下垂は日常生活の習慣によって引き起こされることも多いです。

とくにいわれているのが、姿勢が悪く、猫背になることで内臓が下がり、胃下垂を引き起こしてしまうケースです。

また食事の取り方や睡眠不足、ストレスが原因で胃下垂を引き起こすこともあります。

そして痩せていて身長が高い人も胃下垂になりやすいと考えられています。

2-1.姿勢が悪いと胃下垂になりやすい

猫背の女性

胃下垂は姿勢の悪さから起こることが多いです。

一般的に猫背の人は体が前かがみになってしまうため、上半身の重みにより胃が上部から圧迫を受け、胃が下の方に下がり胃下垂になります。

いまはスマホの利用に伴い、猫背になる人が増えています。

スマホを見るとつい頭が下がり、それによって肩も内側に入って姿勢が悪くなることも多いでしょう。

胃下垂を防ぐためにも常に良い姿勢を心がけ、スマホを見る際も背筋を伸ばすことを意識しましょう。

2-2.食事の取り方にも注意が必要

胃下垂を引き起こす原因は、食事の取り方に問題があることも多いです。

以下のような食事の取り方をしている人は、胃下垂を引き起こすリスクが高いです。

・暴飲暴食をすることが多い
・食事中、かむ回数が少ない
・刺激物・甘いもの・脂っこいものが好き

こうした食事内容は、胃の消化に負担をかけることから、胃下垂を引き起こす原因になります。

普段から腹八分目を心がけ、時間をかけてゆっくり噛む食事方法に変えることで、胃下垂を防ぐことができます。

2-3.体形によって胃下垂になりやすいケースも

スリムな女性の後ろ姿

胃下垂は痩せている人がなりやすい、といったイメージはないでしょうか。

これはおおむね間違ってはおらず、やせ型体形の人は胃下垂になりやすいといわれています。

その理由は、やせ型の人は内臓を固定する靭帯が弱いことがあるからです。

痩せている人は胃を支える筋力が弱かったり、腸壁の脂肪不足や腹圧の低下があったりすることから、内臓下垂が起こりやすいと考えられています。

そのため痩せている人は、日ごろから胃下垂を予防するためにも、腹筋を鍛えて胃を支える筋力をつけることが大切です。

体重を増やして体に適度な脂肪をつけるのも、胃下垂の改善や予防につながることもあります。

3.胃下垂の治し方は? 病院で行う治療とは

胃下垂はとくに困った症状がなければ病院で治療をする必要はありません。

しかし胃痛や食欲不振など、日常で困った症状がある場合は内科や消化器科、胃腸科を受診しましょう。

病院では、胃下垂を治すための手術療法は基本行いません。治療方法は、薬物療法、食事療法、理学療法が中心となります。

3-1.胃下垂に行われる薬物療法とは

飲み薬

胃下垂で胃痛などの症状がひどい場合、病院では制酸剤などの薬物を投与します。

そして吐き気や胸やけのなどの症状が重い場合は、制吐剤(胃排出機能促進剤)や自律神経調整剤などが処方されることも多いです。

また胃下垂におけるお腹の不調は、ストレスなどの心理的要因が関わっていることもあります。

患者の様子に合わせて抗不安薬なども取り入れ、症状を改善させていきます。

3-2.食事療法も効果的

胃下垂は正しい食事療法をすることにより改善できることが多いです。

病院では患者の状態に合わせて適切な食事指導をす行うこともあります。

例えばやせ型で全体的に食事の摂取量が少ない場合、食事の回数を増やして栄養価の高いものを取ることが効果的です。

また胃に負担をかけないよう、消化しやすい調理をしたり、よく噛むことが大切です。

患者によってはアルコールやカフェインを含むコーヒーの摂取量を指導することもあります。

胃下垂の食事療法は食事を制限するのではなく、自分の体に合う食生活を取れるような指導が中心です。

3-3.理学療法

胃下垂の問診

胃下垂を改善するための理学療法を取り入れている病院もあります。

具体的には食後には体の右側を下にして横になるなど、消化吸収を促す姿勢を指導する方法です。

また腹筋の発達を促すためのストレッチや筋トレなどを指導することもあります。

痩せている人はある程度体重を増やして脂肪をつけることで、胃下垂の状態が改善することもあります。

こうして日常的に取り入れられるストレッチや治療体操を指導し、腹筋を鍛えることで胃下垂の改善に期待できます。

4.胃下垂は自分で治せる? 胃下垂にならないための生活習慣とは

胃下垂は体形によって発症しやすいこともありますが、普段の生活習慣を改善すれば治せることもあります。

胃下垂を治したり、予防したりするには「姿勢を正しくする」「インナーマッスルを鍛える」「食事内容を見直す」という3点が重要です。そして、これらは自律神経の乱れを改善させてくれますので、あなたが悩まされている様々な不快な症状を軽減させてくれることにもつながるでしょう。

ここからは、それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。

4-1.普段から猫背にならないよう姿勢を意識する

胃下垂は姿勢の悪い人に起こりやすいです。

猫背になると上半身がつねに前かがみになり、上半身の重みによって胃が上部からの圧力を受け、胃下垂が起きます。

胃下垂の人も、胃下垂を予防するためにも、普段から姿勢を正しくすることが大切です。

また猫背を改善するためには、以下のような肩甲骨を広げる筋トレも有効です。

肩甲骨はがし筋トレ

①立った姿勢で両ひじを肩の高さに上げ、手は鎖骨のあたりで保持する。無理をしない程度にひじを上げ、肩甲骨を上げていく。
②両ひじの位置を下げないようにしながら、5秒かけてゆっくりとひじをうしろに引く。ギュッと肩甲骨を寄せて、肩甲骨をはがすようなイメージで行う。
③肩甲骨を寄せたまま、肘を下げて力を抜き、それを5回繰り返す。

このトレーニングは肩甲骨を動かす筋肉である菱形筋と、肩甲挙筋を鍛える効果があります。

パソコン作業などで長時間同じ姿勢をとっているときに取り入れると、猫背の改善効果にも期待できます。

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4-2.胃下垂の改善効果があるストレッチを実践する

胃下垂はお腹にあるインナーマッスルを鍛えることで改善に期待できます。

インナーマッスルは、わき腹を中心にお腹を引き締めている腹横筋を中心とした筋肉です。

この腹横筋が鍛えられていないと、お腹を引き締めることができず、内臓が下がり胃下垂を起こす原因となります。

インナーマッスルを鍛えるトレーニングはさまざまありますが、代表的なものがプランクです。

寝る前にさっと行うこともできるので、ぜひ以下のトレーニングを毎日続けて行きましょう。

<プランクのやり方>
1. うつ伏せになる
2. 肘を付けて上半身を起こし、腕の角度を90度にキープする
3. 足指を立ててつま先で立ち、おへそに力をいれながらお尻を持ち上げる
4. 目線は真下ではなく数10センチ先の前方を向き、首から背中、足まで一直線になるように維持し、30秒間キープする

プランク

プランクはインナーマッスルを鍛えるだけでなく、体全体を引き締めてくれる効果もあります。

はじめから30秒キープをするのは難しいので、膝を床について同様のポーズをとり、おへそを覗き込むようなやり方から実践していきましょう。

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4-3.食事内容や食べ方に気を付ける

胃下垂は普段の食事内容や、食べ方の影響を受けて発症することも多いです。

アルコールの多量摂取や、脂っこいものばかり食べるような食生活は避けましょう。

また、胃下垂の人も、胃下垂を予防する観点からも、食事を取るときは以下のようにして食べることが重要です。

・よく噛んでゆっくり食べる
・コーヒーや香辛料は少なめにし、取り過ぎないようにする
・胃下垂の人は食事を1日4回以上に分け、栄養価の高いものを少量ずつ食べる
・水分を少なめにし、消化しやすい形に調理して食べる

すでに胃下垂がある場合は、食事を数回に分けて栄養の高いものを食べることが大切です。

また胃に負担をかけないようにするためにも、夕食はなるべく少なくし、朝食をしっかりと食べるようにしましょう。

5.普段から姿勢を意識し、腹筋を鍛えて胃下垂を予防しよう

腹筋運動をする女性

胃下垂は、とくに自覚症状がなければ放っておいても問題はありません。

しかし胃下垂が原因で胃痛や食欲不振などを引き起こしてしまう場合は改善する必要があります。

普段から胃下垂を予防するためにも、まずは日常生活における姿勢に気を付けましょう。

猫背は肩こりや腰痛を引き起こすだけでなく、胃下垂の原因にもなります。

また胃下垂になったお腹は見た目がぽっこりしており、若々しいとはいえません。

ぜひ腹筋を鍛えるトレーニングを日常的に取り入れ、胃下垂の予防と正しい姿勢の両方を目指していきましょう。

この記事の監修は 医師 城谷 昌彦先生

【医師】城谷 昌彦
医師

城谷 昌彦

監修医

消化器病専門医・消化器内視鏡専門医・認定内科医・認定産業医
ルークス芦屋クリニック院長
腸内フローラ移植臨床研究会専務理事
NPOサイモントン療法協会理事
ヒュッゲ・ラボ株式会社代表取締役

主な所属学会

日本内科学会・日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会・日本抗加齢医学会・日本統合医
療学会・日本先制臨床医学会 など

東京医科歯科大学医学部卒業。
神戸大学病院内科、京都大学病院病理部、兵庫県立塚口病院(現・尼崎総合医療センター)消化器科医長、城谷医院院長などを経て、2016年ルークス芦屋クリニック開設。
消化器病専門医でありながら、自ら潰瘍性大腸炎発症によって大腸全摘術を経験。
西洋医学はもとより、東洋医学、心理学、分子栄養学、自然療法等の見地からも腸内環境を健全に保つことの大切さを改めて痛感し、腸内環境改善を柱とした根本治療を目指している。
2017年からは腸内フローラ移植(便移植)による治療を開始。腸内細菌が人体に及ぼす多大な機能改善力に着目し、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患だけでなく、うつ、自閉症、自己免疫疾患、がんなど多岐にわたる疾患の治療を行なっている。

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著作・監修一覧

  • ・『腸内細菌が喜ぶ生き方』(海竜社)
  • ・『骨スープで楽々やせる!病気が治る!』(マキノ出版)
  • ・『専門医伝授「アミノ酸豊富!骨だしスープで腸内フローラを再生」』(WEB女性自身)

和重 景

【ライター】

主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。

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