橋本病とは?|原因・症状と日常生活で気をつける3つのこと
こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。
「疲れがとれない」
「やる気が出ない」
「体重が増えてきた」
こんな症状に悩んでいる方はいませんか?
とくに40代以降の女性の方は、こうした症状の原因を年齢や更年期によるものと思われるのではないでしょうか。
実は筆者も40代になった頃から、疲れやすくなったり太りやすくなったりと体調の変化を感じることが多くなりました。
さまざまな不調の原因は、年齢的にも更年期になったのだと思い、婦人科を受診しました。
婦人科で血液検査をした結果、橋本病の疑いがあるといわれ、内分泌系専門のクリニックの受診を勧められた経験があります。
そのときは橋本病というあまり聞いたことのない病名に不安を感じたことを覚えています。
筆者は体の不調を更年期だから仕方ないことと思い込んでしまい、長い間つらい症状を我慢していました。
とくにつらいと感じた症状は抜け毛が多くなり、一日中むくんでいたことです。体重も半年で6キロも増えてしまいました。
夏でも寒さを感じることもあり、長袖を着たりと日常生活に支障が出ることもありました。
そんな経験をしたからこそ、みなさまに橋本病について知っていただきたいと思います。
さまざまな体の変化を感じる年代だからこそ、体の不調のサインをしっかりキャッチし対応することが大切です。
今回は女性に多く見られる橋本病の症状と治療法・妊娠を希望する方や妊娠中の方の注意点についてご紹介します。
1.橋本病とは?
橋本病は、甲状腺機能が低下する自己免疫疾患です。
1912年に橋本策(はかる)博士が世界で初めて発表したことから「橋本病」という病名がつけられました。
20代後半〜40代の女性に発症が多いことが特徴で、甲状腺ホルモンの不足により新陳代謝が悪くなり、さまざまな症状があらわれます。
健康診断などで行う一般的な検査では橋本病であることがわからないため、原因不明の不調として長く悩まれている方も多い病気です。
専門的な検査を受け、適切な治療を行えば正常値に戻るため、症状に心当たりがある方は内科、特に、内分泌専門医の受診をするようにしましょう。
1-1.橋本病の原因
橋本病は、いまだ原因は特定されていませんが、自己免疫疾患の一つとされています。
自己免疫疾患とは、細菌やウイルスなどから自分の体を守るための免疫機能がうまく働かなくなり、自分の臓器や細胞を攻撃しまう病気のことをいいます。
免疫異常によって甲状腺を持続的に免疫細胞が攻撃することで慢性的に炎症が起こるため、「慢性甲状腺炎」とも呼ばれています。
また、慢性的な免疫の攻撃によって甲状腺の組織が少しずつ破壊されることにより、甲状腺ホルモンが作られにくくなり、甲状腺機能低下症(※)を発症します。
(※)橋本病による甲状腺機能低下症は、甲状腺そのものによる疾患のため、「原発性甲状腺機能低下症」に分類されます。
▼その他の甲状腺機能低下症を招く要因はこちらから
https://wellmethod.jp/hypothyroidism/
1-2.甲状腺の役割
甲状腺は蝶々が左右に羽を広げたような形をしており、のどぼとけのすぐ下に位置している重さ10~20gの小さな臓器です。
甲状腺からは甲状腺ホルモンが分泌されています。
甲状腺ホルモンには心臓や肝臓・腎臓・脳など全身の臓器に作用して代謝を活発にする大切な役割があります。
1-3.橋本病になると必ず甲状腺機能低下症になるの?
橋本病になったからといって、必ず甲状腺機能低下症になるわけではありません。
橋本病は甲状腺に慢性的な炎症が見られますが、炎症の程度が軽度であれば甲状腺機能は正常であることが多いです。
しかし炎症が進行すると甲状腺の働きが悪くなってしまうため、その結果、甲状腺機能低下症を引き起こしてしまいます。
甲状腺の細胞が破壊されている初期には、細胞から甲状腺ホルモンが溢れ出るため、逆に甲状腺機能が高くなりすぎることもあります。
この場合、代謝が上がりすぎて、動機・息切れ・体重減少・発汗などの症状が起こります。
しかし、やがて細胞が荒廃すると、機能が低下してきます。
https://wellmethod.jp/hypothyroidism/
2.橋本病の症状は?
橋本病の症状として、甲状腺の腫れや首の圧迫感・違和感などが生じることがあります。
橋本病であっても甲状腺機能が正常な場合は自覚症状はない場合がほとんどですが、甲状腺ホルモンの分泌が低下してくると甲状腺機能低下症となり、全身の代謝活動が低下することで、体にさまざまな症状が現れます。
・無気力
・疲れやすさ
・倦怠感
・全身のむくみ
・寒がり
・皮膚の乾燥
・抜け毛の増加
・便秘
・かすれ声
・抑うつ
・もの忘れ
・筋力の低下
・肩こり
またコレステロールが高くなったり肝臓機能に支障が出たり、女性の場合は月経過多になったりすることもあります。
3.橋本病の診断・検査方法
橋本病の診断方法として用いられる基本的な検査は2つです。
検査結果によって、橋本病や甲状腺機能低下症を発症しているかどうかを診断することができます。
また必要に応じて、その他の検査を行うこともあります。
3-1.血液検査
橋本病の診断で行われる血液検査では、甲状腺ホルモンの測定に加えて、甲状腺の自己免疫異常があるかを検査します。橋本病の診断目安になる検査項目は以下のとおりです。
1.抗サイログロブリン抗体(TgAb)
サイログロブリンとは甲状腺ホルモンをつくり貯蔵する上で欠かせないタンパク質のことです。
抗サイログロブリン抗体とは、そのサイログロブリンに対する自己抗体のことをいいます。橋本病ではTgAbの数値が高くなります。
2.抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)
ペルオキシダーゼとは甲状腺細胞に含まれており、ヨードに働きかけ甲状腺ホルモンをつくる酵素のことです。
抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体とは、ペルオキシダーゼに対する自己抗体のことをいいます。橋本病ではTPOAbの数値が基準より高くなります。
3.甲状腺ホルモン(FT3・FT4)
FT3とFT4はどちらも甲状腺ホルモンのことです。
ホルモンの基本骨格にヨードが3つついているものをFT3、4つついているものをFT4と呼びます。
F=FREEを意味しています。一般的に甲状腺ホルモンが分泌されるとそのほとんどはタンパク質と結合し、血液内に存在するのですが、結合せずに血液内に存在しているものをFT3・FT4といいます。
甲状腺の炎症が進み、甲状腺機能低下症を発症した橋本病では、FT3・FT4ともに基準値以下の数値になる可能性が高くなります。
4.甲状腺刺激ホルモン(TSH)
甲状腺刺激ホルモン(TSH)は脳下垂体から分泌され、甲状腺を刺激する役割があります。
TSHの値を調べることで、FT3・FT4の過不足や脳下垂体の機能が正常に働いているかを調べることができます。
甲状腺機能低下症を発症している橋本病ではFT3・FT4が低下しているため、脳下垂体がFT3・FT4の量を少ないと判断し、TSHの分泌量を増やします。そのため、TSHが高値になる可能性があります。
橋本病の診断基準にFT3・FT4の低下、TSH高値は必須ではありませんが、他に原因が認められないにも関わらず、無気力や疲労感などの臨床症状があり、かつFT3・FT4の低下、TSHの上昇が認められる甲状腺機能低下症の状態である場合は、慢性甲状腺炎(橋本病)の可能性を含むため、自己抗体を測定します。
保険診療の場合、全ての検査を一度にすることができないため、医師が必要な検査項目を選択し、診断を行います。
また、FT3・FT4が正常でTSHが高い場合は「潜在性甲状腺機能低下症」と判断されます。
この場合、定期的に甲状腺の検査をして経過をみていきます。
3-2.超音波検査
超音波検査では、甲状腺の腫れや腫瘍・嚢胞(のうほう)の有無など甲状腺内部の状態を確認します。
超音波検査は体の表面から人の耳には聞こえない音波を当て、組織や臓器にぶつかって跳ね返ってきた超音波を画像にして確認する検査方法です。
痛みなどの苦痛がないため、体の負担はほとんどありません。
3-3.その他の検査
医師が必要性を認めた場合、心臓の状態を観察するために心電図検査を行うことがあります。
また超音波検査の結果、甲状腺に腫瘍などが確認された場合は、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)を行う場合があります。
穿刺吸引細胞検査とは、腫瘍がある部分に針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で細胞の性質を判断する検査のことです。
4.橋本病の治療
橋本病の治療は、検査結果によって大きく2つの方法にわけられます。
4-1.経過観察
橋本病の自己抗体が陽性であっても甲状腺の機能が低下していない場合は、治療の必要はなく経過を観察していきます。
定期的に血液検査などで甲状腺の状態を確認していきます。
4-2.内服治療
甲状腺機能の低下がある場合は、甲状腺ホルモン剤の服用が必要となります。
適正量での内服ではほとんど副作用はみられませんが、過剰に内服すると動悸や手足の震え・発汗などの甲状腺ホルモンが過剰分泌されたときにみられる症状が出現することがあります。
4-3.妊娠中の方や妊娠を希望する方の注意点
甲状腺機能低下症・潜在性甲状腺低下症がある場合、不妊、流産や早産・妊娠高血圧症のリスクが高くなるといわれています。
治療をすることで、それらのリスクを改善することができることが明らかになっているため、妊娠を希望する方、妊娠中の方は治療することが大切です。
橋本病の治療中で、妊娠を希望する場合は主治医と事前に相談しておくようにしましょう。
妊娠すると甲状腺ホルモンがの必要量が妊娠前の約1.3~1.5倍に増えます。
妊娠の週数に応じて甲状腺機能のチェックや調整が必要となります。
また橋本病の場合、約4~6割の方が産後無痛性甲状腺炎を起こすことで甲状腺機能が変動しやすくなるといわれているため、産後も甲状腺機能をチェックすることが大切です。
5.橋本病の方が日常生活で気をつけること
自覚症状や内服治療の有無にかかわらず橋本病と診断された方は、日常生活で気をつけたいことがあります。
橋本病は長期的な治療が必要になることもありますが、体に負担なく過ごすためにも以下の3つのことに注意しましょう。
5-1.海藻類をとり過ぎない
昆布などの海藻類に含まれるヨウ素をとり過ぎると甲状腺機能に影響を及ぼす可能性があります。
特に含有量が多いのは昆布で、橋本病など甲状腺機能低下の素因がある人が昆布や昆布出汁を毎日摂取することは、ヨウ素過剰になるため、摂りすぎないようにしましょう。
ヨウ素の摂りすぎを止めると自然に回復します。
海藻類は摂りすぎないように注意しながら、栄養バランスの良い食生活を心がけるようにしましょう。
また食事ではありませんが、うがい薬にヨウ素が多く含まれているものもあります。
毎日ヨウ素が含まれているうがい薬でうがいをしている方は、ヨウ素をとり過ぎてしまう可能性があるためヨウ素入り以外のものに変更しましょう。
うがい薬でうがいをする習慣のある方は主治医に相談してみましょう。
5-2.無理をしない
甲状腺機能低下症によって倦怠感などの症状が強い場合は、治療によって甲状腺ホルモンが正常値になるまでは体に負担がかからないようにしましょう。
とくに頑張り過ぎる性格の方は、体を休めることを意識することが大切です。
またこれまで自覚症状がない方でも、疲れやすくなったりむくみや体重増加により体が重たいなど不調が続くことがあれば早めに医療機関を受診しましょう。
また内服治療をしている方も、これまでと違った症状が現れたときは主治医に相談しましょう。
5-3.定期的な通院を忘れない
自覚症状の有無にかかわらず、医師より定期的な通院が必要といわれている方は忘れずに通院しましょう。
自覚症状や甲状腺の腫れなどが見られない場合であっても、甲状腺の大きさやホルモンの分泌量チェックのために年に1~2回受診するようにいわれることがあります。
6.橋本病は怖くない! 自分の体のSOSを見逃さないで
人は誰しも年齢を重ねていくものです。
若いときと比べると体力の低下や体にさまざまな不調が起こることも多くなります。
だからといって若いことがすべてにおいて良いわけではありません。
年齢を重ねてきたからこそ、自分の体が発するSOSを敏感にキャッチできるのではなでいしょうか。
筆者は橋本病の疑いがあるといわれたことをきっかけに、生活習慣を見直すようになりました。
また、体がしんどいな、無理をしているなと感じたときは、「何もしないデー」と決め、自分のしたいことだけをする時間を作ったり、びっくりするくらい早い時間に寝ることもあります。
橋本病になったことで、自分を労わることができるようになりました。
健康な体が一番ですが、病気になったからといってすべてが終わってしまうわけではありません。
無理や我慢は、これまでの人生でたくさんしてきたからこそ、40代以降は自分らしく好きなことに挑戦していきたいものです。
何をするにも健康な体が大切です。
もし病気になったとしても、その病気と上手に付き合いながら自分らしい人生を送りたいものですよね。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか