皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

8月は猛暑、9月も残暑が長引くと予測されている今年、マスク着用で息苦しさを感じている方も多いと思います。

地球温暖化に伴い、毎夏、熱中症による死者は増加しています。

総務省・消防庁の発表によると、7月20日~7月26日までのたった1週間の全国の熱中症による救急搬送人員は、3,073人とのことです。
新型コロナウイルスについては、発生してからこれまでの約7ヶ月で、日本での陽性者数36,081人のうち(無症候も含む)、9,427人が入院し、うち1,010人が死亡したという報告です(8月2日現在)。
単純に比較できるものではありませんが、熱中症のリスクも決して無視できるものではありません。

熱中症は重度になると意識障害から死亡するリスクもある重大な疾患のため、新型コロナウイルス対策をしながらも、熱中症対策を同時に行う必要があります。

バランスの良い対策は、とても難しいところですが、新型コロナ感染症以上に誰にでも日常的に起こりやすいのが熱中症です。市中では、マスク着用が必要でないシーンでも、マスクを着用している方も見かけます。

厚生労働省も「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイントをまとめていますので、こちらを紹介しながら、この夏をどう乗り切るか、考えていきましょう。

1.マスクを正しく着用しよう

マスク着用による熱中症のリスク

まず、マスクの役割を明確にしましょう。

マスクをしていれば、とにかく安心!という方も多いと思いますが、不適切なマスクは熱中症リスクを高めて身を危険に晒します。

1-1.マスクはなぜ必要?

マスクの役割は、自らの身を守るためではありません。
自分が唾液などの分泌物の中にウイルスを持っていた場合に、咳やくしゃみによって飛沫を飛ばし、ウイルスを拡散し、他人にうつさないようにすることが目的です。

厚生労働省も、マスクは「飛沫の拡散予防に有効で、「新しい生活様式」でも一人ひとりの方の基本的な感染対策として着用をお願いしています」と、述べています。

全く無症状の人がマスクをするべきかどうかについてですが、感染症の専門家の間でも、世界的に議論の最中です。

全くウイルスを持っていない無症状の人は、本来、マスクをつける必要は全くありません。

ただし、ウイルスを持っている無症状の人と見分けがつかない為に、疑わしきは罰せよ!という観点で、全員マスク着用を呼びかけられているのです。

新型コロナウイルスの場合、無症状にも関わらず、ウイルスに感染している「不顕性感染者」と呼ばれる人達が他人に感染させるリスクは、実は極めて少ないかも知れないと言われています。一方で、中国では、不顕性感染者が不特定多数の人にウイルスをばら撒く、いわゆる「スーパースプレッダー」の存在が確認されており、エレベーターに乗っただけで71人に拡散したということも明らかになっています。

ただし、日本では、この存在は確認されていません。概ね、無症状であれば、感染は拡大しないだろうと考えられています。

そのため、いわゆるソーシャルディスタンスと呼ばれる距離、つまり他人との間に2メートル以上の距離がとれる場合は、熱中症予防のために、マスクは外しておいた方が良いというのが、概ねの感染症の専門家、また医療の救急現場の意見です。

1-2.マスク着用と体の負担

熱中症による頭痛

マスク着用は、体に負担をかけます。
誰もが、息苦しさを体感していると思います。

マスクを着用している状況では、ある程度、口から吐いた息を吸い込むことになります。
当然、酸素濃度も足りませんし、温まった空気を吸い込むことになります。
通常の大気の酸素濃度は21%ですが、呼気の酸素濃度は15%程度です。

大気と混ざり合う為、もう少し酸素濃度は上がることになりますが、通常よりも低い酸素濃度となる可能性があります。

その為、マスクを着用していない場合と比べると、心拍数や呼吸数、血中二酸化炭素濃度、体感温度が上昇するなど、身体に負担がかかることがあります。

その結果として、

・頭痛
・吐き気
・倦怠感
・心拍数の増加
・息苦しさと呼吸数の増加
・集中力低下

などの症状を引き起こす可能性があります。

1-3.通気性の良いマスクを選ぶこと

医療用のN95マスクのように密閉されたマスクを着用する必要はありません。

新型コロナウイルスは、唾液などの分泌物と混ざり合う「飛沫」となって飛ぶ為、一般的なサージカルマスクやガーゼマスクのフィルターを通り抜けてしまうことはありません。

N95マスクは、密閉性が高い為、長時間の着用には全く向きませんし、熱中症リスクを高めてしまいます。

特に夏は、通気性を重視して、マスクを選ぶことです。

一般的なガーゼを使った布マスクは、古典的ですが、通気性の観点から二重丸です。

最近は、各メーカーから通気性も重視したマスクが発売されています。

ちなみに、発売日に行列ができたことで話題になったユニクロのエアリズムマスク。実際にこれを使用した栗本編集長の談では、確かに汗はよく吸い取られ乾きやすく、肌との接触面(内側のエアリズム素材)は肌さわりが良くベタつきはないものの、比較的しっかりした3層構造のため、階段を駆け上ったりするとやはり息苦しさやあるとか。外側には飛沫をブロックする高性能フィルターがついているために、肌着のイメージほどの通気性はないようです。

また、皮膚に籠る熱を抑えるため、「接触冷感」機能がついたマスクもお勧めです。

私自身は、ランニング用のネックゲイターをマスクの代わりに使用しています。夏場のランニング時に、紫外線防御にも使えるアイテムです。鼻上から首元まですっぽりと布で覆われますが、マスクのような密閉性はなく、息苦しさはありません。

肌への接触感や通気性など、ご自身が心地よいと感じられるマスクを探すのもよいかもしれませんね。

1-4.厚労省推奨、熱中症予防にマスク着脱のタイミング

厚生労働省は、『「新しい生活様式」における熱中症予防行動のポイント』として、マスク着脱のタイミングを公表しています。

厚労省は、「屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう」と提言しています。

基本的には、外出時にマスクを持参するとしても、高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあります。

自分自身で賢明に判断し、マスクを外しましょう。

1-5.専門学会やWHO「運動時はマスクを外して」

運動時はマスクを外す

特に、この夏、屋外で運動する際に、マスクを不用意に着用するのは熱中症にとってリスキーです。

2020年6月15日、日本感染症学会と日本環境感染学会は、「ジョギングする場合にはマスクは必ずしも必要ではありません」と提言しています。

また、6月16日WHO(世界保健機関)も、「運動時にはマスクを着用すべきでない」と提言をしました。

基本的に、通気性の良い屋外は、感染リスクが低い場所です。
フィットネスジムでのクラスターが発生した事例がありますが、こちらは、屋内です。
コロナ禍の健康維持のために屋外で運動することは、積極的に推奨されています。

屋外でソーシャルディスタンスがとれる状況では、基本的にマスクは着用せず、他人とすれ違う場合や混み合う場所を走る場合に一時的に着用する方が良いでしょう。

基本的に、ソーシャルディスタンスがとれない場合や「3密(密集、密接、密閉)」の状況では、マスク着用が勧められています。

夏本番のこれからは、特に熱中症対策をしっかり行いながらマスクを上手に着用することが必須になってきます。

2.マスク着用と熱中症対策

熱中症の症状をいち早く察知するために、熱中症症状についても知っておきましょう。

2-1.熱中症とは?

熱中症は、外気温や湿度が高い状況で、体温を十分下げることができず、体に熱がこもることで起こります。

人は、汗をかき、それが蒸発する際に発生する気化熱によって体温を下げていますが、湿度が高いとかいた汗が乾かず、体温が下がりません。
また、普段から汗をかきづらい人も、体温調節が難しく熱がこもりやすくなります。

2-2.熱中症の症状は?

熱中症には段階があり、軽度の段階で無理をせず、しっかりと対処をすることが大切です。
軽度の症状から順にお伝えします。

1.熱ストレス(熱失神・熱けいれん)

熱中症

この状態であれば、まず涼しいところに移して体を冷やし、水分と電解質をしっかりと補給することが必要です。
マスクは、すぐに外しましょう。

・熱失神・・・めまい、立ちくらみなどの症状で脳血流が低下したために起こる
・熱けいれん・・・こむら返り・筋肉痛で、発汗と同時に塩分が欠乏しているために起こる
・手の痺れ・気分の不快感

2.熱疲労

体がぐったりして力が入らなくなり、周囲から見て「いつもと違う」感じがする程度の意識障害が起こることがあります。

この状態で、自力で水分がとれない場合は、救急搬送が必要です。

・頭痛
・吐き気・嘔吐
・倦怠感・虚脱感

3.熱射病

意識障害と全身症状がさらに悪化した状態。
呼びかけへの反応が低下したり、全身けいれんを起こしたり、真っ直ぐ走ることができなくなったりします。
触ると、明らかに暑く、救急搬送が即必要なほど、差し迫った状態です。

・意識障害
・けいれん
・手足の運動障害
・高体温
・肝機能・腎機能障害・血液凝固障害(DIC):病院で診断される

2-3.熱中症になりやすい条件は?

こうならないために、熱中症になりやすい条件を作らないことが大切です。

1.熱中症になりやすい環境

強い日差し

熱中症になりやすい環境は、以下の通りです。
夏の屋外だけでなく、室内でも熱中症患者は発生します。

・気温が高い
・湿度が高い
・風が弱い
・日差しが強い
・閉め切った室内
・エアコンを使わない室内
・気温の急上昇
・熱波の襲来

2.熱中症になりやすい人

体温調整機能が低下している人では、熱中症リスクがあります。

・高齢者
・肥満者
・乳幼児
・寝たきり状態
・発汗しづらい
・持病(生活習慣病、心疾患、腎疾患など)がある
・低栄養状態
・脱水状態
・体調不良(睡眠不足、二日酔いなど)

3.熱中症になりやすい活動

運動や作業によっても、熱中症リスクがあります。

・激しい運動
・急な運動
・長時間の屋外作業
・水分補給をせず運動や作業をする

これらの悪条件が重なった場合に、熱中症になりやすくなります。
今年は、これにマスク着用が加わりますので、例年熱中症を経験したことがない方も注意が必要です。

2-4.脱水を避け、水分・電解質の補給を

水分補給

脱水は、熱中症リスクと重症度を高めますので、必ず避けたいところです。
発汗が増える夏は、汗と共に塩分などのミネラル分も奪われます。
特に、普段から汗をかかない人ほど、塩分濃度の高い汗をかくため、体から水分と塩分の両方が減りがちです。

喉の渇きを感じる頃には、すでに体は2%ほどの水分を失っており、運動機能も低下します。これを放置すると血流も低下し、全身の臓器への血流も低下するため、大変危険です。

水分と電解質を両方補給できるスポーツドリンク系の飲料には、血糖値をあげるブドウ糖やショ糖を多く含みます。清涼飲料水の約半分ほどです。そのため、たくさん摂りすぎると、急に糖尿病を発症したり、血糖値の乱高下で不調が起きる可能性もあります。

生活習慣病で塩分制限を指導されている方以外で、「健康のために薄味を」と塩分を控えがちな方は、夏はあえて減塩をせず、食事から塩分をとりながら、こまめに水分補給をすることをお勧めしています。

私自身、患者さんには、普段家で使う塩は、血圧を上げやすい精製塩(99%以上が塩化ナトリウム)ではなく、カリウムやマグネシウムなど血圧を下げるのに役立つミネラル類も多く含む自然海塩をお勧めしています。

2-5.マスク着用時の熱中症対策は?

熱中症対策

ソーシャルディスタンスがとれる屋外では、適宜マスクを外すことが勧められていますが、マスク着用時にできる熱中症対策があります。

厚労省が進める具体的な方法は、以下の通りです。

1.強い負荷の作業や運動を避ける

まず、マスクを着用する場合には、強い負荷の作業や運動は避けることが推奨されています。
仕事で行う場合は、定期的に休憩をとり、マスクを外す時間を作ることです。

2.暑さを避ける

外出時は暑い日や時間帯を避け、涼しい服装を心がけることが推奨されています。
日傘や帽子で直射日光を浴びないようにもしたいところです。

8月、9月は例年以上に気温が上がることが予測されていますから、日が高い時間帯は注意したいですね。

3.喉が乾いていなくても水分補給

水分と塩分の補給

喉が渇いていなくてもこまめに水分補給を心がけることが推奨されています。
喉が乾いた時には、すでに脱水は始まっていますから、これでは遅いのです。
水分は、一気飲みせず、こまめに飲むことで、水分を体に保持しやすくなります。

具体的には、

・1日 1.2リットルを目安に
(ペットボトル500mlを2.5本分、コップ6杯分が目安)
・1時間にコップ1杯ずつこまめに飲む
・入浴時や起床時は一番水分を失う時間なのでまず水分補給
・大量に汗をかいた時には、水分だけでなく塩分も

さらに、付け加えるなら、運動や作業で大量に汗をかいたなら、1.2リットルどころではなく、かいた分だけ水分と塩分を補うことです。

4.エアコン使用中もこまめに換気

一般的な家庭用エアコンは、室内の空気を循環させるだけで換気ができないので、換気を行うようにしましょう。換気後は、エアコンの温度をこまめに再設定することです。

窓とドアなど、2カ所を開けて、扇風機や換気扇も併用しながら、風を流しましょう。

5.暑さに備えた体づくりと日頃の体調管理を

ウォーキング

これはすでに時すでに遅しと言ったところですが、暑さに備えて、暑くなりはじめの時期から無理のない範囲で運動をすることが推奨されています。

来年に備えて念のためお伝えしますが「やや暑い」と感じる環境で「ややきつい」と感じる程度の有酸素運動を毎日30分行うこととされています。

心拍数が120回/分程度に上がり、軽く息が上がり、会話ができる程度の運動です。

暑くなってしまった時期から、普段運動しない方が急に暑い屋外で運動することはお勧めしません。体を動かしたいなら、日が高くなる前や日が沈んだ後、「涼しい」と感じる程度の気温であれば、早歩き程度から始めてみてはいかがでしょう。

エアコンの効いた屋内でできるフィットネスもお勧めです。最近は、リモートレッスンも盛んですから、自分が楽しく続けられそうな方法で身体を動かしてみてください。

そして普段から、体温や血圧を測るなど体調チェックをして、自分の健康状態を知っておきましょう。

2020年の夏は、かつて、誰も経験したことのない異例の夏。一致団結しなければ、乗り切ることはできないのではないでしょうか。

それは、決して、マスクを着用していない人をパトロールすることでも、パトロールを怖がって、わかっていながら不適切なマスク着用をすることでもないと思います。

どちらかというと、多くの人が怖がっているのは、新型コロナウイルスというよりも、他人の目ではないかと感じるのは、私だけでしょうか。
でも、それによって、熱中症リスクを高めているとしたら、本末転倒です。

適切な知識を持って、適切な対処をして、健康に、この夏を乗り切りましょう。

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詳しくは→ https://wellmethod.jp/present/

医師

桐村 里紗

【総合監修医】
tenrai株式会社代表取締役医師
愛媛大学医学部医学科卒。
臨床現場において、生活習慣病から在宅医療、分子栄養療法やバイオロジカル医療を用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。「ヘルスケアは、カルチャーへ」というコンセプトを掲げ、ヘルスケアの「意味」を再定義し、様々なメディアでの発信やプロダクト監修を行っている。
ニオイ評論家としてフジテレビ「ホンマでっか!?TV」「とくダネ!」などメディア出演多数。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか~口臭と体臭の化学』(光文社新書)ほか多数。

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