こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

義理チョコという昭和バブル期からの文化が消えて無くなりそうな2021年。
今年は、圧倒的に「おうちバレンタイン」派が多数です。

お菓子作り通販サイトcotta(コッタ)が15~49歳の男女700人を対象に行った「2021バレンタイン意識調査」によると、2021年のバレンタインを「本命の相手」と過ごしたい人は、約1割(14.4%)と少なかった代わりに、「家族」で過ごしたい人が約4割(44.9%)と最多に。
「チョコは家で渡したい」と思う人は81.5%と、多くがおうちバレンタイン派であったそうです。

チョコレートは、実は伝統的でヘルシーな発酵食品。
でも、現代的なお菓子に加工されることで、「体に悪いおやつ」になってしまっています。

自分と家族のためを考えるなら、ぜひ、カカオの健康効果が得られるヘルシーな“本物の”チョコレートを選んでいただきたいと思います。

1.「神様の食べ物」カカオの健康効果

チョコレートの原材料であるカカオの木の学名は「テオブロマ・カカオ」。
「テオブロマ」とは、「神様の食べ物」を意味しています。

1-1.歴史的にカカオは薬だった

カカオ

カカオの栽培はおよそ2400年前から1万3000年前のどこかの時点で、中南米で始まり、マヤ・アステカ文明では、宗教儀式や通貨としても珍重されていたものでした。

アステカ文明では、カカオ豆をすりつぶしてドロドロにしたものにスパイスを加え「不老長寿の薬」として飲んでいたとされています。
ただし、カカオは大変に高価なものなので、王族など限られた人のための「秘薬」であったようです。

そもそものカカオ豆は大変苦いので、まさに「良薬は口に苦し」を体現したような飲み物であったと思われます。

1-2.カカオの栄養素

カカオやカカオの含有量が多いハイカカオチョコレートには、多くのベネフィットもあります。
まずは、そのベネフィットを確認しましょう。

1.食物繊維やミネラル分が豊富

カカオやカカオ含有量が多いハイカカオチョコレートには、かなり栄養価が高い食品です。

ココアパウダー

ピュアなココアパウダー100gあたり、

・食物繊維:23.9g
・カリウム:2800mg
・カルシウム:140mg
・マグネシウム:440mg
・鉄:14mg
・亜鉛:7mg
・銅3.8mg
(文部科学省 食品成分データベース)

と、特に、食物繊維が多く、ミネラルが豊富に含まれていることがわかります。

(食品データベースには、健康的な「ハイカカオチョコレート」や「ダークチョコレート」の栄養解析がありませんでしたので、ココアパウダーを参考にしています。)

2.カカオバターはむしろ体に良い

カカオニブ

そうは言っても、脂質が多くて体に悪いと思われるかも知れませんが、そもそものカカオ豆の脂肪分・カカオバターは、むしろ体に良い働きがあります。

カカオバターは、常温で固形となる飽和脂肪酸(ステアリン酸・パルミチン酸)とオレイン酸(オリーブオイルにも含まれる一価不飽和脂肪酸)を多く含みます。

一般的に飽和脂肪酸は摂り過ぎると、コレステロール値を上昇させ、動脈硬化のリスクを高めるとされています。ただし、カカオバターに含まれる飽和脂肪酸は、消化管から吸収されにくく、血圧やコレステロール値を低下させる働きがあることが分かっています。

3.抗酸化作用のあるファイトケミカルが豊富

ハイカカオのチョコレートには、カカオポリフェノールやカテキン、テオブロミンなどのファイトケミカルが豊富です。
いずれも、抗酸化作用があり、ハイカカオのチョコレートには、ブルーベリーとアサイベリーを含む他のどの果物よりも、抗酸化作用、ポリフェノールが多いことも報告されています。
※Chemistry Central Journal volume 5, Article number: 5 (2011)

カカオの持つ化合物には特別な働きがあります。

・カカオポリフェノール
 抗酸化作用に加え、コレステロールの酸化抑制、動脈硬化抑制など。
・テオブロミン
 カカオの苦味成分。集中力・記憶力を高め、疲労回復にも。

1-3.カカオの健康効果

そうした栄養素の働きで、カカオには様々な健康効果が報告されています。

カカオ豆

1.血流を改善し血圧を下げる

ハイカカオチョコレートに含まれるカカオポリフェノールは、動脈の内皮を刺激して、一酸化窒素(NO)を産生します。
高血圧や動脈硬化に注目の物質である一酸化窒素(NO)は、動脈に信号を送ってリラックスさせることで、血圧を低下させる働きがあります。

2.コレステロールを改善する

コレステロール

悪玉として働くLDLコレステロールを酸化から守ります。
研究によると、カカオパウダーが男性の酸化LDLコレステロールを大幅に減少させることがわかりました。また、高コレステロール血症の人のHDLを増加させ、総LDLを低下させることも報告されています。

※J Nutr. 2007 Jun;137(6):1436-41. 

3.インスリン抵抗性を改善する

インスリン抵抗性とは、血糖値を下げるホルモン「インスリン」が効きにくい状態のことです。
肥満状態やストレスで起こりやすく、心疾患や糖尿病などの多くの生活習慣病の危険因子です。

ハイカカオチョコレートは、インスリン抵抗性を低下させることも報告されています。

※J Nutr. 2008 Sep;138(9):1671-6.

4.心疾患・動脈硬化のリスクを下げる

チョコレートを週に2回以上食べると、動脈に石灰化したプラークができるリスクが32%低下することが報告されています。ただし、この研究では、チョコレートをあまり頻繁に食べても効果はありませんでした。
※Clin Nutr. 2011 Feb;30(1):38-43.

別の470人の高齢男性を対象とした研究では、カカオは心疾患による死亡リスクを15年間で50%も減らすことが報告されています。
※Arch Intern Med. 2006 Feb 27;166(4):411-7.

5.脳機能を改善する

脳機能を改善する可能性もあります。

研究によると、健康な人がカカオポリフェノールの多いココアを5日間摂取すると、脳への血流が改善されることが示されました。
※J Cardiovasc Pharmacol. 2006;47 Suppl 2:S215-20.
一酸化窒素(NO)の作用も考えると納得ができます。

高齢者の認知機能、言語の流暢さなどの改善も報告されています。
※Hypertension. 2012 Sep;60(3):794-801.

6.皮膚を紫外線ダメージから守る

紫外線

カカオポリフェノールは、紫外線ダメージから皮膚を保護し、皮膚の血流を改善し、水分量を高める働きがあることが報告されています。

※J Nutr. 2006 Jun;136(6):1565-9.

カカオは、紫外線が豊富な地域の作物ですから、カカオ豆が紫外線から身を守るためにカカオポリフェノールなどのファイトケミカルを身に付けます。
それが、人にも紫外線保護として働くのですね。

2.本当に体に良いチョコレートの選び方

古来から秘薬として使われてきたカカオですが、これを現代風にチョコレートとして加工する過程で、むしろ健康に悪い加工食品となってしまっているのが現状です。

健康的なチョコレートを選びたいところですが、むしろ避けるべきものを先に知りましょう。

2-1.不健康なチョコレートを避ける

実際問題、日本のコンビニエンスストアやスーパーマーケットで並ぶチョコレートは、カカオの恵みを受けるよりも、不健康な原料の害を避けることが重要です。

1.「準チョコレート」は選ばない

準チョコレートの菓子

チョコレート加工品の裏の原材料表示をみると「準チョコレート」と書いてあるものが多いことがわかります。
「準チョコレート」は、「チョコレート」よりもカカオの含有率が低いもので、カカオバターの代わりに、パーム油やコーン油を原料とする加工油脂をプラスしています。

これらは、加工用の安価な油脂で、動脈硬化やアレルギー、認知症などの原因となるオメガ6系脂肪酸の摂りすぎの原因になります。

2.原材料の「植物性油脂」「加工油脂」を避ける

「準チョコレート」ではなく、「チョコレート」であっても、原材料に「植物性油脂」「加工油脂」とあれば、加工用の安価な油脂が使用されているということです。

日本のコンビニやスーパーの店頭では、これが入っていないチョコレート加工品を見つけることは本当に難しい!
ダークチョコレートであっても、入っているものがほとんどで、日本製のものでは1つ見つかれば御の字。

輸入品の方が入っていないものが多いので、輸入食品店などで探してみる方が早いと思います。

3.砂糖が入っていることを忘れずに

チョコレート加工品には、砂糖が入っていないものはほとんどありません。

血糖値が上がりにくいマルチトールやステビア 、オリゴ糖を使用している製品も、数は少ないですが販売されています。
(コンビニで販売されているオリゴ糖含有のチョコレート加工品は、「植物性油脂」が入っていますので、100%おすすめとは言えません)

ハイカカオのチョコレートであっても、多くは砂糖が入っていますので、食べ過ぎは禁物であり、少量(2〜3かけ程度)を楽しむ嗜好品と考えた方が良いですね。

4.カビ毒が含まれる可能性も

実は、チョコレートには、カビ毒(アフラトキシン)が含まれる可能性が高い食品の一つです。
チョコレートは、カカオ豆を発酵させて作るため、この発酵過程をしっかり管理しないと簡単にカビが発生します。

カビ毒は、ナッツ類やコーヒー豆などにも含まれ、隠れた健康被害の原因になっています。
カカオの歴史は、奴隷制の歴史を含みますが、未だに発展途上国の生産地では低賃金長時間労働が劣悪な条件で行われることとも多く、安価なカカオ原料は品質が低いものである可能性があります。

原産国の表示のないチョコレート加工品に使われるチョコレート原料は、消費者にとって、その「由来」がわからないものですが、安さの裏には、生産国の過酷な労働や低品質が隠れている可能性があります。

そして、世界的大手の高級トリュフブランドであっても、途上国の児童労働問題に加担している企業もありますので、問題は根深いのです。

2-2.少量を楽しみたい健康に良いチョコレートは?

おうちバレンタインとして、また、自分と家族の健康のためにこれから習慣にしたいチョコレートとしておすすめなのは、「ハイカカオのビーントゥバー」です。

1.ハイカカオとは?

ハイカカオチョコレート

カカオの含有量が多いチョコレートのことで、一般的には、70%以上のチョコレートを「ハイカカオチョコレート」といいます。
原材料もほとんどは、シンプルです。

チョコレート加工品の裏の原材料表示をみると、10種類以上のチョコレート以外の原料がずらずらと並んでいることがほとんどです。

一方で、ハイカカオチョコレートであれば「カカオマス」「カカオバター」、それに加えて砂糖などの甘味料。原材料は3つ程度を必要最低限として、数個並んでいる程度です。
無駄がなく、シンプルなカカオの恵みを受け取れます。

2.ビーントゥバーとは?

ビーントゥバーとは、Bean to Bar(Bean=カカオ豆、Bar=チョコレートバー(板チョコ))を意味しており、カカオ豆を仕入れて焙煎・粉砕するところから、板チョコレートになるまでの全ての製造工程を、一人の作り手、一つの工房で一貫しておこなうことです。

主に単一産地(シングルオリジン)のカカオ豆で作られるので、産地表記があり、ワインのように、各産地や作り手によって全く個性の違う風味を楽しむことができます。

「ナッツのような」「ハーブのような」「カシスのような」など、様々な風味表現があります。

作り手が哲学を持って、なぜ、その産地のカカオ豆を選ぶのかなどのストーリーが明確です。しっかりと厳選したカカオ豆を使っているため、安心して食べることができます。

こだわったビーントゥバーブランドでは、農園(FARM)から関わるところも増えています。

農園の生産者と十分なコミュニケーションを持ち、農業指導やカカオ豆の発酵過程などの指導を行うことで、品質を向上するだけではありません。
生産者に敬意を払って、生産者の日々の仕事条件や生活条件をも向上することを目指すことで、エシカルなチョコレートの流通に寄与します。

2-3.オンラインでも選択肢がたくさん

オンラインでおうちバレンタイン

今年は、各百貨店がバレンタイン向けチョコレートの通信販売を強化しています。
ニューヨークやパリの人気ショップが手がける、各産地のハイカカオチョコレートもたくさん並んでいますので、風味を比べてみるのも楽しいですね。

日本で店舗を構える人気のビーントゥバーショップ
「Minimal」
「green bean to bar chocolate」
「Dandelion Chocolate」
なども公式サイトから購入ができます。

自分のため、家族のために、本当に健康なチョコレートを楽しむことを習慣にすることは、日常をより豊かにしてくれますよ。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか