【医師解説】女性ホルモンと口臭リスク!歯周病菌やカンジダリスクが増加
皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。
新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書) がご好評をいただいております。新しい時代を生きるヒントになれば幸いです。
さて、腸の手前には、口があります。
口からお尻の穴までが1本の消化管ですから、口はとっても大切です。
女性の皆さん、「自分は口臭には無縁」「歯周病には無縁」と思っていませんか?
いえいえ、女性は、歯周病を起こしやすいんです。
妊娠期の方やピルを常用している方、多嚢胞性卵巣症候群などホルモン異常がある方など、歯周病を起こしやすく、またカンジダ菌などを増やしやすくなっていますよ?
今日から、口腔ケアをお勧めします。
目次
1. 女性ホルモンと歯周病
口臭とは無縁と思っている女性の皆さん。
自分の両親のことを考えてみて下さい。
ある程度の年齢を重ねると、母親からだって口臭はしていませんか?
日本人にとって歯周病は国民病ですし、女性ホルモンは歯周病を起こしやすいんです。
2. 日本人歯周病は8割以上なのに無自覚
厚生労働省「平成23年度歯科疾患実態調査報告」によると、日本人の15歳以上では7割、35歳以上では8割が、なんらかの程度の歯周のトラブルを抱えていることが報告されています。(出血あり、歯石あり、4〜5mmのポケットあり、6mm以上のポケットありを総合)
それにも関わらず、オーラルプロテクトコンソーシアムの2015年の<オーラルケアの実態に関する調査> では、約9割が「自分は(口臭要因の1つである)歯周病ではない」と回答し、口臭の1つの要因である歯周病について、多くの日本人に自覚がないことが明らかになりました。
そうです、日本人は「歯周病」に対して全く無意識なのです。
虫歯になると病院に行きますが、歯茎から出血してもなかなか病院に行きません。
2-1. 病的口臭の原因は歯周病
口臭には、唾液が不足することなどによって起こる生理的口臭と、何らかの病因で起こる病的口臭があります。
病的口臭のうち、8割は歯周病由来と言われています。
その匂いは、主にメチルメルカプタンという腐肉やドブのような臭いと言われており、酷い悪臭です。
2-2. 24時間続く口臭ほど気づけない
でも、人は、普段嗅いでいる臭いに対して鈍感になる「順化」という働きがあります。
そのせいで、24時間持続するような強烈な口臭の持ち主ほど、自分の口臭に気づくことができなくなるというパラドックスがあります。
悪気がなくても、口臭によって人を不快にさせている上に、自分自身の不健康の原因になっているかも知れません。
歯周病は、高齢者の病気ではなく、若い時から始まっていますから、ぜひ、今日からケアしたいものです。
3. ホルモンと口腔内細菌・歯周病
さて、今日は、性ホルモンと口腔内細菌・歯周病についてお話ししたいのです。
妊娠、出産にも関連する大切なお話です。
3-1. 性ホルモンと口腔内環境
性ホルモンは、血液中だけでなく、唾液中にも分泌されて口腔内に入り、口腔組織に影響を与えています。
女性ホルモンである、エストロゲン、プロゲステロン、それから男性ホルモンのアンドロゲンはいずれも唾液中にも分泌されています。
それによって、歯肉の炎症や出血を起こしたり、特定の口腔内細菌を増やしたり減らしたりします。
唾液中の性ホルモン濃度は、思春期、月経周期、妊娠などの内的なホルモン変動による影響、そして、経口避妊薬の使用、ホルモン補充療法などの薬剤によって変化する可能性があります。
男性ホルモンは、1ヶ月のうちにはほとんど変動せず、年齢と共に徐々に減少します。
それに対して女性ホルモンは、1ヶ月のうちにエストロゲンとプロゲステロンがダイナミックに上下し、更年期を経て閉経を機にガクンと減少します。
そのため、女性の方が口腔内環境が変化しやすいのです。
3-2. 代表的な歯周病菌は女性ホルモンで増殖する
歯周病菌の代表である、フソバクテリウム・ヌクレオタムやプレボテラ・インターメディア、P.ジンジバリス、T.フォーサイシス。
さらには、口腔内、腸内、膣内いずれでも過剰に増殖すると炎症を起こすカンジダ菌は女性ホルモンで増殖します。
※Front. Cell. Infect. Microbiol., 29 September 2021
3-3. 妊娠は歯周病のリスク
妊娠・出産経験のある方は、妊娠中に歯茎が腫れたとか、出血が起きたなどの経験があるかも知れませんね。
エストロゲンは、出産まで着実に増加し、通常の月経周期の卵胞期の0.1 ng / mLから妊娠後期には6〜30 ng / mLに上昇します。
プロゲステロンは、卵胞期の1 ng / mL未満から妊娠成熟期には100〜300 ng / mLに上昇します。
妊娠中、ホルモンレベルの急上昇は口腔組織による反応を引き起こし、女性の30〜100%が炎症や出血の増加などの歯肉の変化を経験するとされています。
※ Periodontol. 2000 32, 59–81.
特に、プロゲステロンは炎症を促進し、妊娠中期から後期には、10〜30倍歯周病が増え、「妊娠歯周病」と呼ばれています。
早期低体重出生の危険率は、歯周病は高齢出産の7倍。妊娠中の飲酒よりも圧倒的にリスクが高いことが知られています。
※ Periodontol. 1996 67:1103-1113
炎症があると妊娠もしづらいことから、私が行っていた妊活外来では、血液検査で慢性炎症を見つけたら、歯周病がないかどうか歯科受診を勧めていました。
3-4. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と歯周病リスク
ホルモンが乱れる、多嚢胞性卵巣症候群も、歯周病リスクが高まります。
1.月経異常
2.多嚢胞卵巣
3.血中男性ホルモン高値
または LH(黄体形成ホルモン)高値かつFSH(卵胞刺激ホルモン)正常
これらを満たす場合、診断されますが、有病率は15〜20%で、歯周病を発症するより高い有病率とリスクがあると報告されています。
先ほどご紹介した歯周病菌はいずれも、明らかに増加するとされています。
※Clin. Epidemiol. 6, 1–13
3-5. 性ホルモン剤の使用と歯周病リスク
ピルの使用も、当然ながら、歯周病リスクを増やします。
ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2つの女性ホルモンが配合されている薬剤です。
エストロゲンの量によって、高用量ピル、中用量ピル、低用量ピル、超低用量ピルに分類されています。
一般的によく使用されるのが、低用量ピルです。
低用量と言いながら、ホルモン量はホルモン補充療法と比較すると高用量です。
この使用によって、P.ジンジバリス菌、プレボテラ・インターメディアといった歯周病菌。
さらには、若年性で急激に進行する歯周病を起こす、A.アクチノミセテムコミタンスが増加することが報告されています。
※J. Periodontol. 81 (7), 1010–1018.
3-6. 性ホルモン剤の使用とカンジダ菌のリスク
さらに、3年間の使用で、カンジダ菌を増加させることも報告されています。
※ Clin. Oral. Investig. 18 (6), 1579–1586.
カンジダ菌は口腔内で増殖するだけでなく、腸内で増殖すると腸内環境を悪化させます。
有用菌が暮らしづらく、腐敗菌が増えやすい環境に。
また、炎症を誘発し、腸の防御壁を壊し、腸漏れ症候群・リーキーガット症候群を誘発し、アレルギーリスクを高めます。
さらに、カンジダの分泌物は、ミトコンドリアのエネルギー代謝をブロックしたり、低血糖を引き起こしたりすることで、慢性的な疲れやすさの原因になります。
分泌される毒素・アセトアルデヒドが、重要な代謝酵素をブロックするため、解毒・免疫・神経伝達物質の産生・遺伝子の調整、神経の保護など様々な働きを阻害する要因になります。
避妊目的や月経前症候群(PMS)、子宮内膜症の治療目的などで使用されるピルですが、こうしたリスクもある前提で必要時に使うべきでしょう。
更年期障害の治療に使われるホルモン補充療法(HRT)については、ピルよりもホルモンが低用量です。研究によるとまだ、歯周病菌を増やすことは明らかになっていませんが、今後も慎重に議論すべきとされています。
4. オーラルケアの基本は「F.B.I」
歯周病対策の理想は、「F.B.I」と言われています。
フロッシング、ブラッシング、イリゲーションの3つの頭文字を取って歯周病のF.B.I.です。
4-1. ブラッシング
歯ブラシについては、日本人は比較的熱心な方だと思います。
食後には必ず歯磨き。オフィスでも歯磨きをする人も多いと思います。
ただし、歯ブラシだけで落とせる歯垢は、61.2%と、4割の歯垢を磨き残します。
歯垢は、歯周病の原因菌が暮らす住処です。
4-2. フロッシング
だから、歯間ケアとして、デンタルフロスを使うと79%、歯間ブラシを使うと84.6%の歯垢が落ちます。
でも、まだ2割残っていますね。
4-3. イリゲーション
そこで、イリゲーションと呼ばれる水流洗浄です。
水流洗浄機は、アメリカでは比較的家庭に普及していますが、日本ではほぼ普及していません。
高圧洗浄機のように、フロスや歯間ブラシでも届かない、歯周ポケットの中まで洗い流します。
これでようやく、9割がたの歯垢が洗い流されます。
食後に使うと、驚くほどよく食べかすや汚れがとれてびっくりします。
一度使うと手放せませんし、歯茎が全てはれて口臭が酷かった実家の父は、大学病院の先生に褒められるほどの優等生になり、娘(!)との会話も弾むようになりました。
※日本歯科保存学雑誌,48,722(2005)
これで、日常のケアは完結。
4-4. 歯科での定期検査とクリーニングも忘れずに
F.B.Iを日常的にしっかりと行った上で、かかりつけの歯科医院で。年1、2度の口腔内チェックとクリーニングをしましょう。
残した1割の歯垢を放置すると、歯周病に発展します。
歯石をとるには、プロの技術が必要です。
ブラッシングやフロッシングについては、正しい方法を歯科医師や歯科衛生士から指導してもらいましょう。
5. まとめ
日本人にとって、盲点になっているのは、歯周病です。
歯が抜ける原因にもなりますし、日常の口臭の原因にもなります。
口は、体の入り口ですから、最近では、腸内フローラへの影響や全身疾患との関連も様々にわかっています。
口の衰えは、全身の衰えの始まりです。
今から、しっかりケアしていきましょう。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか