皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

読者の方からのお悩みを頂きましたので、私自身の知識と経験からお答えしたいと思います。

Q:サプリメントを選びたいのですが、ネットや本などたくさんの情報があり過ぎて、何が正解か、どれが自分に合うのか分かりません。

今回は、こんなご質問をいただきました。
確かに、情報はたくさんあり過ぎますし、全く真逆の方法を専門家たちが各々勧めている場合もよくありますから、何が正解か全く分からないですよね。

A:体感を重視し、エビデンスやデータで補完する。

エビデンスがあることはもちろん大切ですが、エビデンスは全てではありません。
「1000人のうち、99%の人に効果あり」というエビデンスがあっても、自分は残りの1%かも知れません。

ヘルスケアにとって何よりも大切なのは、自分としっかりと向き合い、自分の心身の反応を観察することです。
体感を無視して、他の人に良い方法を続けていても、逆効果になる可能性もありますよ。

鏡を見てサプリの効果を体感する女性

1-1.エビデンスは大事だけど盲信しない

ヘルスケアやダイエットは一大産業なので、世の中には広告宣伝ばかり派手で、実はちっとも有効成分が入っていなかったり、むしろ危険な成分が含まれているサプリメントもたくさんあります。

過去には、「ダイエットに効果あり!」と銘打って、日本では許可されていない甲状腺ホルモンが配合されている中国製の「痩せ薬」で、肝障害や肝障害、死亡例などが出たこともありました。

成分表示がされていなかったり、されていても自分で判断できないサプリメントを選ぶことで、思わぬ健康被害が出る可能性もあります。

1-2.医薬品レベルのエビデンスはないと思うべき

医療用サプリメント

ただし、医薬品と違い、サプリメントなどの健康補助食品は、医薬品レベルのエビデンスのあるものはほとんどないと言っても過言ではありません。

それは当然で、製薬会社のような巨大資本が開発する医薬品は、十分な研究開発費がある上に、それを治験として検証する大学や医療機関との連携システムが構築されているものです。

医薬品と同じようなエビデンスを求めようと思っても、資本やシステムがなければできません。

そして、サプリメントは、あくまでも日本では、健康補助食品、つまり「食品」としての位置付けですから、販売にあたって、医薬品のような厳重な検証を求められていません。

1-3.医療用は安心だがハードルも高い

私たちのように、代替・補完医療や分子栄養療法を行う医師は、医療用の安全で効果的なサプリメントを選択し、血液検査や尿検査、腸内フローラ検査などをもとに、それぞれの人に必要な種類、必要な量のサプリメントを処方できます。
もし、何かしらの不調があるのであれば、自費診療ではありますが、これらを扱う医療機関で医師に相談の上、選んでもらうと安心でしょう。

ただし、明らかな不調がなく、健康増進やダイエット目的であれば、病院を受診するのは、なかなかハードルが高いですよね。

一般販売されているものは、どう選べば安全でしょうか。

1-4.エビデンスのあるものを安全に選びたいなら

サプリメントの選び方

一般にエビデンスがある成分を安全に使用したいと思うのであれば、「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」の表示があるものを選ぶと良いですね。

どんなに効果的であると考えられる成分が入っていても、日本の場合は、この制度を利用しない限りは、効果=機能性を表示することができません。

・特定保健用食品(トクホ)
健康の維持増進に役立つことか科学的根拠に基づいて認められれ「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品。
表示されている効果や安全性 については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可している。

・機能性表示食品
事業者(企業)の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品。
販売前 に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが゙消費者庁長官へ届け出られたものです。
消費者庁は、届出資料に不備が無いかどうかの確認をするが、特定保健用食品とは異なり、消費者庁長官の個別の許可を受けたものではないという違いがある。

国内メーカーの商品で、これらの表示がある製品であれば、個人輸入のサプリメントのように、日本で未承認の成分をうっかり口にすることはありません。

1-5.ベースサプリメントには必須栄養素を

必須栄養素のサプリ

また、人間にとって必ず食品から摂取しなければならない必須栄養素であるビタミン類やミネラル類は、生理学・生化学的な作用が明らかです。
つまり、過不足なく摂る必要があることも、明らかです。

何か必須のサプリメントを選ぶとすれば、ベースサプリメントとして、普段の食事や生活で不足しがちな必須ビタミン・ミネラルが配合されたマルチビタミン・ミネラルをお勧めしたいと思います。

ただし、ビタミンやミネラルの中には、人工的に分子の構造を変化させて製造された原料である「合成原料」と、野菜や果物、酵母などから作られた「天然由来の原料」があります。
(合成か天然かの定義は明確ではありませんが、ここではこのように定義します)

合成原料の場合は、成分的に安定で、特定の成分のみを配合できるというメリットがあります。

一方、天然由来の場合は、より食べ物に近い形で、特定の成分以外の栄養素や生理活性物質も含むため、総合力によって働くと考えられています。

栄養療法を行う場合には、より安全に食べ物に近い形で働く天然由来のものを使用することが推奨されています。

1-6.「GMP」規格が製造の安全性を保証する

サプリメントの表示

ただし、どんなに必要な成分が配合されていると表示されていたとしても、製造工程が不明瞭・不適切で、表示通りの成分が含まれていない場合もあり、飲んでも無駄な場合もあります。

「GMP(適正製造規範)」に基づいた管理体制の工場であれば、信頼がおけるでしょう。
原材料の受け入れから、製造、出荷に至るまで、すべての工程について、製品が安全につくられ、一定の品質が保たれるように、必要な要件をクリアしたものです。
日本においては、医薬品には、必須ですが、サプリメントについては必須ではありません。

パッケージに表示がある場合もあります。
ただし、このマークの付与のためには申請料金もかかるためすべての対象商品にマークがあるわけではありません。

確認したい場合には、以下のような方法があります。

その商品がどこで作られたかは、多くの加工食品の場合「製造所」や「製造者」という表示で会社名や工場名、住所が記載されています。機能性表示食品の場合は、消費者庁のサイトから当該商品の届出資料を閲覧すると、GMP認定のある工場で製造しているかどうかを確認することもできます。
また、各製造会社のホームページなどでもGMP認定の有無などをチェックできます。

但し、複数の工場で作る場合がある製品は、「製造者」の代わりに「販売者」のみが表示され、製造所の代わりに「製造所固有記号」というものが使用されていることもあります。しかし、現在の法律ではこの固有記号について問い合わせを受けた場合に、表示責任を担う「販売者」は、工場名や所在地を開示しなくてはいけない決まりになっていますので、気になる方はメーカーに問い合わせしてみると良いでしょう。

1-7.知恵と経験に基づく伝統医療の応用

エビデンスに乏しいからと言って、効果がないとも限りません。同時に、エビデンスがあったとしても、副作用がないとも限りません。

伝統的に使われてきた生薬やハーブなど、エビデンスには乏しくとも歴史の中で知恵と経験をもとに使用されてきたものがたくさんあります。

伝統的に使われてきた生薬やハーブ

漢方薬については、医療機関で保険で処方できることもあって、製薬会社によって十分に検証されています。

最近アメリカでは、「アダプトジェン」と呼ばれる、精神やストレスに作用する天然のハーブ類を配合したサプリメントが人気ですが、これは、インドの伝統医学・アーユルヴェーダや中国伝統医学で歴史的に使用されていたハーブや生薬の知恵が基になっています。

ただし、日本では「医薬品」扱いのハーブを使用していることが多いため、日本国内で一般販売はされていません。つまり、それだけ作用があるということです。

が、作用があるということは、同時に副作用の可能性もあります。

1-8.どんな食品も作用・副作用は人それぞれ

サプリメントを選択して飲む女性

どんな食品であっても、それぞれの人の消化・吸収・代謝、また腸内環境によって、含まれる成分がその人に及ぼす作用、そして副作用は全く異なります。

特に、アレルギー反応はどんな食品にも起こる可能性がありますから、全ての食べ物は万人に安全ではありません。

消化・吸収の状況が違えば、必要量も違います。
腸内環境が悪いと、どんなにミネラル系のサプリメントを摂っても、腸内の腐敗菌に奪われて全く血液の状態が改善しない場合もあります。
植物性の食品に含まれるポリフェノール類などの栄養素は、腸内細菌の代謝を経て活性化します。

例えば、大豆に含まれるイソフラボン。イソフラボンのサプリメントを摂取しても、腸内にそれをエクオールに変えるエクオール産生菌がいなければ、活性化されず、あまり効果がありません。

さらに、吸収された後には、肝臓に運ばれて肝臓で代謝され、場合によっては解毒されます。この体質の遺伝的な違いで、ある人にとっては薬となる成分が、ある人にとっては毒となり、肝障害を引き起こす可能性もあります。

1-9.体感をしっかり観察する

サプリメントの選び方

成分の消化・吸収・代謝に関わる遺伝的な体質や腸内フローラがもっともっと解明されて、遺伝子検査や腸内フローラ検査に基づいて、個々人の体の状態に応じてオーダーメイドの治療やサプリメントの選択ができるようになるとされていますが、それが現実的になるのは、もう少し先です。

だから、今は、自分の体感をしっかりと観察しましょう。

そのサプリメントを飲んで、
・胃腸の調子はどうか?
・お通じは良いか?悪いか?
・倦怠感や疲労感はとれたか?増したか?
・体重は痩せたか?太ったか?
・むくみはとれたか?増したか?
・顔色は良いか?悪いか?
・お肌の状態は改善したか?悪化したか?
・精神的には良いか?悪いか?
などなど

観察すべきポイントはたくさんあります。

例えば、私の場合、一般的にリラックス系に働き、よく眠れるはずの成分で、逆に交感神経が刺激されて「覚醒」に働く場合があります。
ネガティブに働く場合、1日でわかる場合もありますが、数日飲んでみて、どうなるか。
もし、ここでおかしいと思えば、お金がもったいないと思わずに迷わず中止すべきです。

継続できそうであれば、1ヶ月。
さらに継続可能な場合には、3ヶ月程度は観察すると良いでしょう。
ポジティブに働いており、安心して使えそうであれば、さらに継続して変化をみると良いでしょう。

ただし、数ヶ月や数年継続したところで、急にネガティブな反応が出ることがありますから、体の観察は毎日継続することです。

サプリの効果を体感しようとする女性

自分の心身の観察は、ヘルスケアの基本です。
サプリメントに関わらず、食べた食事による反応やその日にあった出来事との関係を観察すれば、自分に合う食べ物、モノ、人がよく分かって、余計なストレスから離れることができますよ。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか