意外と少なくない女性の“甲状腺機能低下症”のメカニズム
こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。
皆さんは、体のだるさや疲労感を感じたり、無気力になったりしたことはありませんか?
私は、最近疲れがとれにくくなったと感じます。むくみや肌の乾燥に悩まされることも増えました。
体がこのような状態になった場合、様々な原因が考えられます。その一つが、甲状腺機能の低下です。
甲状腺は首筋の喉ぼとけのやや下あたりに左右にまたがるように位置しており、体にとって重要な役割を果たすホルモン(甲状腺ホルモン)を出しています。
ですが、甲状腺機能低下症になると、体に様々な影響を及ぼすのです。
今回は、女性がなりやすい甲状腺機能低下症の症状や原因、治療方法などについて紹介していきます。
目次
1.甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症とは、血液の中の甲状腺ホルモンが不足している状態を指します。
甲状腺ホルモンは「やる気ホルモン」とも呼ばれており、代謝を促す働きをもっています。甲状腺ホルモンが十分に分泌されることで、汗をかいたり体温を調節したりすることができるのです。
私たちが元気に活動して生きていくには、甲状腺ホルモンの働きが必要不可欠。
何らかの原因によって甲状腺機能低下になると、体や心に様々な症状が現れます。
2.症状について
甲状腺機能低下症には、見た目や体の変化から分かるもの、気持ちや心の変化によるものまで、様々な症状があります。
もちろん、人それぞれ現れる症状が異なるので、一概には言えませんが、症状が軽い場合には見落としがちにもなるので、個人で知っておくことも必要だと考えます。
2-1.甲状腺ホルモンの働き
甲状腺ホルモンには、主に3つの働きがあるとされています。
・代謝(※1)を活発にする
・自律神経(交感神経)を刺激する
・成長ホルモンの働きを促す
甲状腺ホルモンの働きによって、活動するために必要なエネルギーがつくられているのです。しかし、甲状腺ホルモンが不足して代謝が低下すると、体の様々な機能も低下してしまいます。
(※1)代謝とは、エネルギーを産生したり、古い細胞が新しい細胞に生まれ変わること
2-2.甲状腺ホルモン減少時に起きる症状
実際に甲状腺ホルモンが減少することで起きる症状をご紹介します。
2-2-1.見た目や体に現れる症状
甲状腺ホルモンが減少して代謝が低下すると、下記のような症状が現れます。
・顔や全身のむくみ
・毛髪の脱毛
・かすれ声
・皮膚の乾燥
・体重増加(食欲がないのに)
2-2-2.別の疾患に間違われやすい症状
また、別の疾患と間違われやすい症状として、下記のようなものが挙げられます。
・便秘
・月経異常
・肩こり
・脈が遅くなる
2-2-3.心や気持ちに現れる症状
病気として認識されにくい心や気持ちの変化にも、甲状腺機能低下症の症状が現れることがあります。
・無気力
・疲労感
・抑うつ
・ねむけ
・記憶力の低下
2-3.早期発見のポイント
むくみや肌の乾燥、便秘などの症状は、健康な女性であっても生活習慣や食生活などが原因で起こる可能性があります。
また、月経異常は婦人科系、無気力は精神科系の病気で起こる可能性もあります。
つまり、これらの症状だけで甲状腺機能低下を疑うことは難しいです。
こうした症状で診察を受けて異常がない場合には、甲状腺の病気の可能性もあることを理解しておくことで、早期発見に繋がることがあります。
甲状腺機能低下症を疑う場合は、甲状腺について相談できる医師がいる病院を受診することをおすすめします。
「症状はあるけれども異常はないから」と、何もしないままでいると病気が進行してしまうケースがあることを覚えておきましょう。
3.原因について
甲状腺機能低下症を発症してしまう原因は、大きく2つに分けることができます。
一つは、甲状腺そのものが何かしらの病気を発症している場合です。このケースは「原発性甲状腺機能低下症」と呼ばれています。
もう一つは、脳にある脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が不足する場合です。このケースを、「中枢性の甲状腺機能低下症」といいます。
それぞれの原因について詳しく解説していきます。
3-1.原発性甲状腺機能低下症
原発性甲状腺機能低下症は、甲状腺そのものが病気になることで起こります。具体的には、次のような原因が挙げられます。
3-1-1.橋本病(慢性甲状腺炎)
甲状腺機能低下症を発症する原因として多いのが、橋本病です。橋本病は、免疫が誤って自分の甲状腺を攻撃することによって起こります。
自己の甲状腺細胞を攻撃する抗体ができる自己免疫疾患で、この攻撃によって甲状腺が炎症を起こすと、甲状腺全体がはれて大きくなってしまうことがあるのです。このはれ(甲状腺腫)は、表面が硬くてゴツゴツしています。
橋本病は成人の女性に多い病気で、原因は明らかでないものの遺伝や体質が関係しているといわれています。
橋本病でも甲状腺ホルモンが低下していない人もいますが、時間と共に甲状腺機能が低下していく可能性があるため、経過観察する必要があります。
3-1-2.亜急性甲状腺炎
比較的に緩やかな速度で甲状腺に炎症が起きる病気です。亜急性甲状腺炎は、ウイルスや細菌に感染することによって、甲状腺が炎症を起こすことで発症します。
甲状腺が炎症し続けると、分泌される甲状腺ホルモンの量が減っていってしまうのです。
3-1-3.海草(ヨウ素)の過剰摂取
甲状腺に何らかの異常をもっている方が、海草に含まれているヨウ素を過剰摂取すると、甲状腺の働きに悪影響を与えることがあります。
ヨウ素の過剰摂取による影響で、甲状腺ホルモンの量が減ってしまうと、甲状腺機能低下症に繋がる可能性があるのです。
3-1-4.バセドウ病の治療
甲状腺機能低下症は、バセドウ病の治療(アイソトープ治療や外科的治療)の影響で起こることがあります。アイソトープ治療や外科的治療は、体内で増えすぎてしまった甲状腺ホルモンを正常にするために行われます。
しかし、アイソトープ治療後に、副作用で甲状腺機能低下症になることがあるといわれているのです。
3-2.中枢性の甲状腺機能低下症
脳にある脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が減ることで、甲状腺機能低下症になってしまうケースもあります。これは「続発性甲状腺機能低下症」とも呼ばれています。
原発性甲状腺機能低下症のように、甲状腺ホルモンの分泌が低下するのですが、発症する確率は原発性甲状腺機能低下症より低いと言われています。
下垂体腫瘍などが原因になります。
4.治療方法について
甲状腺機能低下症の治療方法ですが、無症状であったり、症状があっても軽度だと診断された場合には、治療はせずに経過観察とされています。
症状や検査の結果で治療が必要となった場合には、2つの治療方法があります。
4-1.甲状腺ホルモンを補充する
甲状腺機能低下症の治療は、減少した甲状腺ホルモンを補充することを目的とした薬の服用になります。
症状の程度がひどい場合や回復が見込まれない場合には、長期的な服用が必要となることがあります。
服用に関してですが、薬を併用して服用することで効果を妨げてしまう場合もあるので、治療を開始する前には、服用している薬を担当医に伝えておくことをオススメします。
4-2.その他の治療
その他の治療ですが、ヨウ素の過剰摂取だと診断された場合には、海藻類を過剰に摂取しないように注意が必要となります。
海藻の中でも特に昆布はヨウ素の含有量がとりわけ多いため、普段昆布だしをとる人は注意が必要です。甲状腺に元々問題がない人の場合は、特に問題になることはありませんので、安心して下さい。
また、サプリメントにもヨウ素が含まれている場合があります。特に、海外のマルチビタミン・ミネラルやマルチミネラルサプリには、ヨウ素も含まれる場合があります。
日本の土壌にはヨウ素が多く、海藻もよく食べるため必要ありませんが、欧米の土壌や食品にはヨウ素が不足しているため、ヨウ素が強化してあることが多いのです。
サプリメントを摂取されている方は、担当医に相談して継続するかを決めてください。
また、脳の下垂体に腫瘍ができることで起きる「下垂体性甲状腺機能低下症」の治療では、手術を行うことがあります。
5.注意と予防について
甲状腺機能低下症は、エネルギー代謝が落ちる為、脂質異常症などの生活習慣病を合併する場合があります。
長い期間放っておくと、動脈硬化や心筋梗塞に繋がる恐れがあります。また、強い倦怠感や精神症状を伴う為、寝込みがちになり、社会生活が送れなくなる可能性もあります。
放置せずに医師の指示に従って治療を続けることかが大切です。
また、甲状腺機能低下症を予防するなら、ヨードを含むうがい薬を毎日続けて使用しないようにしましょう。ヨードを含むうがい薬を毎日使用すると、ヨウ素過剰となり甲状腺の機能が低下することがあるといわれています。
因みに、医療現場では、高濃度のヨードを使用した消毒は、粘膜障害性の為に近年使用されなくなってきています。
うがいに使用する場合でも希釈が不十分であれば粘膜を痛める懸念がありますし、ヨードを含むうがい薬よりも塩素を含む水道水の方が風邪予防効果が高いことも報告されています(※1)。
ウイルス感染予防の観点で行ううがいは、水道水でも十分と考えられています。
※1 「American Journal of Preventive Medicine」29(4) 302-307,2005,Nov.
6.小さな症状にも敏感に察知して体を大切に
甲状腺機能低下症の症状は、女性なら一度は経験したことがあるものが多いです。
ですが、むくみや肌の乾燥、月経異常などが起きても、すぐに「甲状腺が低下してるかも」と気づく女性は少ないのではないでしょうか。
私は、今まで肌の乾燥やむくみ、肩こりを感じたことはありますが、「甲状腺に異変が起きている」と疑ったことは一度もありませんでした。
甲状腺機能低下症のことを学んだことで、今後これらの症状が現れたときに、無気力や体重増加など他の症状はないか確認して、医師に相談しようと思えました。
甲状腺機能低下症は、放置してしまうと動脈硬化といった怖い病気に繋がってしまう恐れがあります。
気になる症状が現れたときは「これぐらい大丈夫」と思わずに、病院を受診して医師に相談することが大切です。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか