【医師解説】抑うつ改善「幸せホルモン」セロトニンを高める必須の3つの栄養素
こんにちは。
医師で、予防医療スペシャリストの桐村里紗です。
梅雨が早まった今年、社会的な情勢と相まって、閉塞感が漂いますね。
気分がうつうつとしている人も多いのではないでしょうか?
同じストレス状況でも、ポジティブに乗り切れるのと、ネガティブに陥ってしまうのでは、全く生活が変わってしまいますね。
ネガティブになっている場合、ちょっと食べ物を見直してみて頂きたいのです。
何気なく食べている食べ物によって、セロトニンが上手に作られずにうつうつした気分を作り出している可能性もありますよ。
目次
1.セロトニンを増やす栄養素
うつうつ気分の原因の一つとされるのが、脳内で分泌される神経伝達物質セロトニンです。
「幸せホルモン」とも呼ばれています。
(正確にいうとホルモンと神経伝達物質とは少し違いますが。)
セロトニンは、心のバランスをとり、安定させる役割で、自律神経を整える働きもあります。
女性の場合は、女性ホルモン・エストロゲンがセロトニン分泌に影響を及ぼしているため、更年期から閉経期には、セロトニンが減少してうつうつ気分を起こしやすいことも、以前にお伝えしましたね。
▼これって更年期うつ? 女性のライフステージとうつの本当の関係
https://wellmethod.jp/lifestage/
2.セロトニン分泌に関わる栄養素
食べ物と気分なんて関係ない!
なんて、思わないでください。
体の全ては、栄養素で作られ、栄養素によって機能しています。
ですから、不足なく栄養素を摂取することはとても大切なことです。
2-1.セロトニンの合成過程
まず、セロトニンの原料となるのは、タンパク質です。
これを胃腸の消化力によって、アミノ酸であるL-トリプトファンにまでしっかりと分解し、小腸から吸収します。
そして、酵素の働きによって、セロトニンを合成するのですが、この酵素の働きには、鉄やビタミンB群(葉酸・ナイアシン・ビタミンB6)のサポートが不可欠です。
さらに、睡眠ホルモンのメラトニンは、セロトニンから合成されるので、セロトニンが少ないとメラトニンも不足して不眠になってしまいます。
2-2.タンパク質不足
まず、主原料であるタンパク質の不足があれば、セロトニンは十分に作られません。
パンやパスタなど、炭水化物中心の食生活をして単純にタンパク質が不足している場合と、肉や魚、豆製品などタンパク質を十分に食べているにも関わらず、タンパク質の消化吸収が悪い場合があります。
1.単純な摂取不足
単純に摂取不足の場合は、食事のタンパク質量を増やしましょう。
成人の場合1日当たり体重1kgにつき1~1.5g程度のタンパク質が必要といわれます。例えば、体重50kgの人は1日約50~75gのタンパク質が毎日必要になります。
ストレスが強い場合や運動量が多い場合は、必要量も増えます。
2.消化吸収力の低下
食べているにも関わらず、消化吸収力が低下している場合もあります。
まず、咀嚼不足。歯でしっかりすりつぶすことが必要なので、30回以上よく噛んで食べることです。
次に、胃の働きです。タンパク質の最初の消化は、胃酸と消化酵素の働きが必要です。
ストレスによって胃腸の機能は低下しますから、ストレスをリリースすること。
それから、消化酵素自体もタンパク質でできていますから、タンパク質不足の場合は、ますます消化力が弱ってタンパク質が食べられないという悪循環に陥りがちです。
この場合、消化力が回復するまでは、消化酵素を補いながらタンパク質を食べる。また、消化しやすいよう、塊の肉ではなく、ミンチ肉を使うなど、工夫しながら食べると良いですね。
大根おろしやパイナップルなどのタンパク質消化酵素を含む食材と一緒に食べるのもマルです。
ヘリコバクター・ピロリ菌の感染があると、胃の細胞が萎縮するため、消化力が落ちます。タンパク質だけでなく、ビタミンやミネラルの吸収などにも関連するため、生涯の栄養吸収という点では、除菌も検討すると良いでしょう。
2-3.閉経前の女性に多い鉄不足
タンパク質は十分足りているのに、その次の反応が上手くいかなければ、セロトニンを作ることができません。
1.月経に伴う出血による鉄不足
女性にとって致命的になりやすいのが、月経に伴う鉄不足です。
鉄欠乏性貧血と指摘されていなくても、隠れ貧血は閉経前の女性の多くに起こりうることを繰り返しお伝えしてきました。
いわゆる貧血は、血液中のHb(ヘモグロビン)が女性で12 g/dl未満になることを言います。
Hbが正常でも、体内の鉄が不足している状態を「隠れ貧血」と呼びます。
体内に貯蔵されている鉄は、「フェリチン」という数値で確認します。
この数字が30ng/ml未満であると、重度の鉄欠乏状態で、うつうつした気分などを引き起こすリスクが十分にあります。
平成18年の国民健康・栄養調査によると、20〜49歳までの閉経前の女性では、69.5%もの人がフェリチン30ng/ml未満の重度のかくれ貧血であることがわかっています。
約30%は10ng/ml未満というかなりの枯渇状態であり、女性の多くが実はセロトニン分泌が減少するリスクを抱えていると言えます。
2.摂取不足
ただでさえ、月経により出ていく鉄ですが、摂取不足が加わると致命的です。
食品に含まれる鉄には、2種類あります。ヘム鉄と非ヘム鉄です。
肉や魚など動物性食品に含まれるものを「ヘム鉄」、ひじきやほうれん草、プルーンなど植物性食品に含まれるものを「非ヘム鉄」といいます。ヘム鉄の方が圧倒的に吸収率がよくなっています。
また、農作物は、農薬を使用することで、土壌が痩せ、植物がミネラルを上手に吸収もできなくなるため、昔に比べてミネラル含有量が減っています。
また、非ヘム鉄は、吸収率が悪い上に、お茶やコーヒーに含まれるタンニンや玄米や豆に含まれるフィチン酸によって吸収率がさらに低下することがあります。
動物性食品と一緒に摂取したり、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収力がアップします。
鉄鍋を使って調理をすると、吸収率の高い鉄が摂取できますのでおすすめです。
鍋まで買い替えるのは大変という場合は、卵形の鉄の塊を調理の際に鍋に入れるだけで鉄が溶け出すという便利なグッズもあります。
また、食品だけで追いつかない場合は、ヘム鉄のサプリメントを補給する方が確実です。
しかし、鉄は過剰にあると活性酸素を発生させ、細胞の毒になります。
閉経後の女性や月経のない男性では、一般的には鉄は食事だけでも補給ができますので、サプリメントは不要です。ただし、ランナーの方では、赤血球が壊れることでランナー貧血になることもありますので、一概には言えません。
3.腸内環境が悪化している
腸内環境の悪化による、鉄吸収不足も考えられます。
腸内環境が悪く、アルカリ性に傾いていると、ミネラル吸収が低下します。
乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌など、有用菌は、いずれも有機酸を分泌して、腸内を弱酸性に保ちます。
また、カンジダ菌が増殖すると、鉄を奪ってしまうため、人への吸収を阻害します。
食物繊維をしっかり摂取するため、野菜や海藻、こんにゃく、きのこ類、豆類、雑穀類を取り入れば、水溶性も非水溶性も両方摂取することができます。
また、カンジダ菌が好きな高糖質な食事を控え、砂糖の代わりに、有用菌を増やすオリゴ糖を使うのもおすすめです。
また、ラクトフェリンもおすすめです。
ラクトフェリンは初乳に含まれる鉄と結合する糖タンパク質で、人への鉄吸収率を高めてくれます。
また抗菌活性も持ち、カンジダなど真菌の活動性を低下させます。その一方で、有用菌を増やす働きがあり、腸内環境の悪化を改善してくれます。
2-4.ビタミンB群不足
こちらも、現代人に多くみられます。
ミネラルと並び、ビタミンB群は食品だけでは不足しやすい栄養素です。
ビタミンB群に属する栄養素には、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンB12、葉酸などがあります。
体内で様々な代謝を起こす酵素に必要な補酵素で、ビタミンB群は互いに助け合いながら働きます。
1.摂取の不足
ビタミンB群の不足は、加工食品や精製度の高い食品を普段からよく食べている人に特にリスクがあります。
例えば、穀物にはもともとビタミンB群が多少なりとも含まれていますが、精製した白い米や小麦にすることで、ビタミンB群が減ってしまいます。
2.腸内環境の状態
食品を発酵させると、ビタミンB群やミネラルが増えます。
それと同じように、腸内のビフィズス菌などの有用菌は、ビタミンB群を産生する力があります。
しかし、腸内環境の悪化や元々の常在菌の種類によって、ビタミンB群の産生が不得意な種類が多いと、食品からせっせと摂取しなければ供給が追いつきません。
葉酸以外のビタミン B群は、動物性食品の方が摂りやすいものですが、腸内環境次第で、体内に供給されるビタミンB群の量は全く違ってしまいます。
抗生物質を長期間期間飲んでいる人は、腸内の細菌バランスが乱れ、ビタミンB群が腸内で合成できなくなっている可能性があります。
3.消費の増加
ビタミンB群は、体の中のあらゆる代謝に必須になります。
エネルギーの合成やホルモン・神経伝達物質の合成、解毒などの働きでで消費されていきます。
そのため、過剰なストレス、過度のアルコール摂取や薬剤の長期摂取、運動、過食などがある人では、どんどん消費されていきますので、その分の供給が必要です。
また、妊娠、授乳期も、消費が多くなります。
葉酸は、野菜にも多く含まれます。
それ以外のビタミンB群は、動物性食品、また、発酵の過程でもビタミンB群が合成されるので、発酵食品にも含まれます。
ビタミンB2が体内に充足していると、尿が黄色っぽくなってきます(脱水で濃縮しているのとは別)。
そのため、運動後や強いストレスがかかった後などに、尿が完全に透明になっているとするならば、体内でビタミンB群が不足しているのでは?と考えて補給した方がベターです。
エネルギー代謝にも必須なので、無駄な脂肪を蓄積しないためにも必須です。
必須栄養素であるため、ベースサプリメントとして、ビタミンB群のサプリメントを摂取することもおすすめします。
ストレスフルな状況の今を乗り切るために、せめてセロトニンの原料となる栄養素はしっかりと補給しておきたいものです。
心の状態にも、毎日の食事を丁寧にすることがとても大切ですよ。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか