皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書) がご好評をいただいております。

『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』

https://amzn.to/3iOpEY2

人と環境は一体であると考える時、私たちは、季節の移ろい、天体の運行などによるリズムと共に生きています。
私たちは、そのリズムとシンクロするように、自律神経系や内分泌系などを調整して、環境に最適化しています。

今日は、女性にとって大切な「インフラディアン・リズム」についてお話ししましょう。

1. インフラディアン・リズム

私たちの生体リズム(バイオリズム)には、主に3つのリズムがあります。

1-1. 3つのバイオリズム

バイオリズム

・ウルトラディアン・リズム:24時間未満のリズム
心臓の拍動周期、レム睡眠とノンレム睡眠の周期などのリズム。

・サーカディアン・リズム(概日リズム):約24時間のリズム
地球の自転の周期と同じ周期の1日・24時間のバイオリズム。
睡眠と覚醒、睡眠ホルモン・メラトニンなどのホルモン分泌、体温調節など

・インフラディアン・リズム:24時間を超えるリズム
1週間周期、1ヶ月周期、1年周期など周期
女性の月経周期、動物の繁殖、冬眠など

睡眠パターンを調節する自然な24時間のバイオリズムである、サーカディアン・リズムについて、聞いたことがあるかも知れません。
24時間の1日のリズムに合わせて、活動したり休眠したりするために、とても大切なリズムです。

2. インフラディアン・リズムとは?

インフラディアンリズム 時計

でも、インフラディアン・リズムについては、聞いたことがないのではないでしょうか?
「インフラ」とは、「超えた」という意味なので、「ディアン」=1日を超えたリズムを意味しています。

基本的に、インフラディアン・リズムは、24時間を超え、人体で自然に発生するサイクルです。

特に、女性においては、月経リズムが重要です。この自然なリズムに合わせることで、より健康的で幸せな、バランスの取れた生活を送ることができると考えられています。

3. インフラディアン・リズムを作るホルモンの働き

インフラディアンリズム 月経周期

女性の月経周期においては、分泌されるホルモンがインフラディアンのリズムを作り出しています。

脳の下垂体から放出される「卵胞刺激ホルモン(FSH)」と「黄体形成ホルモン(LH)」
そして、それらに刺激された卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン」と「プロゲステロン」があります。

これらのホルモンは、毎月の排卵を起こし、妊娠に備えるため約1ヶ月の中でリズムを作っています。
正常でも、このリズムには、25~36日間の幅があります。リズムが乱れている場合は、短かったり長かったりと不安定になります。

月経周期の4つの主要な段階は、これらのホルモンによって生み出されるリズムです。

・月経期:妊娠に備えた子宮内膜をリセットして次の妊娠に備える
・卵胞期:卵子が放出される前の準備期間
・排卵期:卵子が放出される期間 
・黄体期:卵子が放出された後の期間

これらの期間の長さは人によって異なります。

4. インフラディアン・リズムと心身への影響

インフラディアンリズム 月経周期

インフラディアン・リズムに応じて、私たちの心身は変動します。

・代謝
・免疫系
・気分など精神の状態

月経が終わって排卵までの卵胞期は、エネルギーに満ち、食欲は適正化され、水分が排泄されるため、体重は減り、むくみも解消します。
免疫系も十分に働いて、気力も充実して、外に出かけようという気持ちになります。

一方で、排卵後から月経開始までの黄体期は、安静時の代謝が高まる時期ですが、その分食欲が増します。また水分も溜まるためむくみやすくなります。
体が重だるく、緩慢になり、イライラ・うつうつとして、色々なことが億劫になりがちです。

月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)が起こりやすいのもこの時期です。

5. インフラディアン・リズムとメンタルヘルス

月経周期を通して変化するホルモンによって、気分に大きな影響を与える可能性があります。
この気分の変動は、人により、全くもって影響されない人もいれば、毎月月経前になると激しく落ち込んだり、イライラして周囲に八つ当たりしてしまう人もいます。

インフラディアン・リズムを知ることで、自分が今どんな心理状態になりやすいかを知っておくと、自己管理しやすくなります。

インフラディアンリズム やる気の出ない女性

5-1. 月経期のセロトニン減少

月経期は、エストロゲンとプロゲステロンの分泌ががくんと減るため、セロトニン分泌も減少しやすくなります。

セロトニンは、気分を安定させることに必須で、減少すると抑うつ状態になります。
セロトニンから睡眠ホルモン・メラトニンが作られるため、睡眠障害も起こしやすくなります。

5-2. 月経前不快気分障害(PMDD)

また、黄体期、特に月経開始の7〜10日前には、月経前不快気分障害(PMDD)を起こしやすくなります。
月経前不快気分障害(PMDD)は月経前症候群(PMS)のうち、精神症状が強く出るケースです。

診断基準より抜粋すると、

以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する
(1)著しい感情の不安定性
(2)著しいいら立ち、怒り、または対人関係の摩擦の増加
(3)著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
(4)著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚

さらに、以下の症状のうち1つ以上が存在し、上記基準の症状と合わせると、症状は5つ以上になる

(1)通常の活動(仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
(2)集中困難の自覚
(3)倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
(4)食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
(5)過眠または不眠
(6)圧倒される、または制御不能という感じ
(7)他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加

これらの症状によって明らかな苦痛があったり、仕事、学校などの社会活動や他者との関係を妨げたりするものの、月経開始から数日以内に軽快し始め、月経が終わる頃にはすっかり改善してしまいます。

こうした場合に、月経前不快気分障害(PMDD)と診断されます。

6. インフラディアン・リズムに応じた過ごし方

6-1. ストレスをかけない計画

インフラディアンリズムに合わせたスケジューリング

月経リズムに応じて、心身に不調が出ると予測される場合、特に、月経期と黄体期には過密なスケジュールや無理な仕事を避け、なるべくゆったりとしたスケジュールをたてるようにしましょう。

イライラしがちな黄体期には、ストレスとなる人間関係を可能な限り避けると、互いの精神衛生を保つために良いでしょう。
不要な摩擦を避けられます。

6-2. 運動の強度を調節する

月経期には、無理な運動はご法度です。
穏やかなヨガやストレッチ程度が良いでしょう。

月経が終わると、エストロゲンとエネルギーレベルは増加し始めます。卵胞期に向けて、ワークアウトの強度を上げ始めると良いでしょう。

エネルギーレベルは排卵期に向かって上昇し続けますから、ジョギングやスポーツなどの有酸素運動、筋トレにも向いています。

黄体期には、代謝はピークを迎えますが、月経に向けて、徐々にエネルギーが低下してきます。この期間は、強過ぎる運動よりも、心地よいと感じる継続的な有酸素運動をすると良いでしょう。

6-3. 睡眠の質を高める

月経期と黄体期は、睡眠の質が低下しやすい時期です。
また、月経不順がある人も、睡眠の質がよくない傾向があります。

月経期と黄体期には、特に夜間は無理をせず、リラクゼーションに努めるようにします。
携帯電話やパソコン作業は日中にして、静かに読書をしたり、ゆっくりと入浴し、好きなアロマを嗅ぐなど無理なく過ごしましょう。

読書をする女性

6-4. 栄養不足を是正する

盲点になるのが、栄養不足です。
特に、タンパク質が不足している人では、ホルモンの原料となるコレステロールがうまく肝臓から運搬できず、月経不順などの原因になります。

また、鉄やビタミンB群は、セロトニン・メラトニン・ドーパミンなどの分泌に不可欠なので、特に不足なく十分に補給しておく必要があります。

これらを補うだけで、月経周期に関わらず、心身ともに元気に過ごせるようになることも珍しくありません。

7. まとめ

インフラディアンリズムに合わせたスケジューリング

月経のある女性にとって、インフラディアン・リズムの1つである月経サイクルを意識しながら生活し、計画を立てることはとても役に立ちます。
心身のエネルギーレベルが低下しているとわかっている日に、無理な予定を入れてしまうと、その日になって「しまった!」と思うことになり兼ねません。

リズムというのは、アップダウンがあって当然ですから、「ずっと元気でいなきゃ!」「毎日がんばらなきゃ!」と思う必要もありません。
エネルギーが充実している日には集中的にがんばり、電池切れしそうとわかっている日には、無理せず休む。

そんな風に労わりながら、持続可能な心身を保つことが賢明ではないかと思います。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

続きを見る

著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか