腸内細菌が健康を左右する! 腸を整える“シンバイオティクス”という食事法のすすめ
こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。
新型コロナウイルスの影響もあり、最近特に健康管理について関心が集まっています。
コロナに打ち勝つためにも、腸内における免疫力を高めることは重要です。
基本的に腸内細菌を整えるには、乳酸菌をはじめとした有用菌を積極的に摂ることが大切です。ドラッグストアには、乳酸菌やビフィズス菌といったサプリメントなどがたくさん売られており、それらを利用している人も多いでしょう。
ただ、腸内細菌を整えるには、サプリメントだけに頼るのではなく、普段から生活習慣や食生活に気をつける必要があります。では具体的にどうすれば良いのでしょうか?
今回は、腸内細菌の重要性や、腸内を整えるために有効な食材やライフスタイルにおけるポイントなどを詳しく解説します。
1.腸内環境は体の健康にとても大切
私たちの腸内には、驚くほどの細菌が生息しています。およそ1,000種類、数にして100兆個以上もの細菌が存在しており、顕微鏡でみると植物が群生しているようにみえることから、別名「腸内フローラ」とも呼ばれています。
この腸内フローラは、次のような健康に関わる役割を持っています。
・消化しにくい食べ物を体に吸収しやすい形の栄養素に作り変える
・腸のバリア機能を高め、病原体などの侵入を防ぐ
・免疫や代謝、精神、認知など人の体内の様々な働きをサポートする
腸の調子が悪いと、腹痛が起きたり便秘気味になったりしますよね。お腹の調子が悪いと、1日中元気がなくなることもあるでしょう。腸内環境を整えることは1日の元気にもつながり、結果的にその人の健康を維持することにもなるのです。
▼【医師が解説】若さと健康のカギは菌の「多様性(ダイバーシティ)」にあり
https://wellmethod.jp/diversity/
1-1.健康な人の腸内環境は良好なことが多い
私たちが持つ腸内フローラには個人で違いがあり、腸内環境が全く同じ人というのは存在しません。ただ、肥満気味の人と、健康体でスリムな人の腸内細菌の種類やバランスは全く異なるというデータがあります。
以前は、いわゆる「善玉菌」「悪玉菌」のように腸内細菌を完全な善悪で分けて考えていました。
もちろん、「善玉菌」であるビフィズス菌や乳酸菌などは、腸内環境の健康に必須であり、病原菌の感染予防や腐敗産物を抑制する効果があります。
病原性の大腸菌やウェルシュ菌、クロストリジウム菌などは、増え過ぎると腸炎や生活習慣病、精神・神経疾患などと関連することがわかっています。
ところが、最近では、善玉菌であっても増え過ぎると異常であり、悪玉菌であっても腸内環境全体のバランスが取れていると特に悪さはしないばかりか必要な働きがあることなどもわかってきました。
健康な体を手にするためには、腸内環境を整えることがとても大切です。
1-2.更年期の悩みも腸内環境がポイントになる
ちなみに、40~50代の女性に多い更年期障害のトラブルも、腸内環境を整えることで辛い症状を軽減できることがあります。更年期障害が起きる原因はホルモンバランスの乱れですが、腸内環境を整えることで、女性ホルモンの働きをサポートすることができます。
女性ホルモンの働きをサポートしてくれる「イソフラボン」は有名であり、定期的に摂取することで更年期障害の辛い症状を軽減してくれることもあります。
また納豆や味噌、豆乳ヨーグルトといったイソフラボンを多く含む発酵した大豆製品を食べることは、納豆菌、乳酸菌やビフィズス菌などを摂ることにもなり、結果的に腸内環境を整えることにもつながります。
お腹の調子が悪く、そのうえ更年期の症状に悩んでいるという女性は、積極的に大豆を中心とした発酵食品を食べてみましょう。腸内環境を整えつつ女性ホルモンへのサポートもできるので、腸活をしながら更年期の症状を改善できる可能性もあります。
2.腸内細菌を整えるということは、どういうことか
腸内細菌を整えることは、健康的な体をつくるうえでとても大切です。しかし、具体的にどうやって腸内細菌を整えていけばいいのか、分からない人もいるでしょう。
またスーパーやドラッグストアには「腸に効くサプリメント」や「乳酸菌入りヨーグルト」といった商品が売られています。一見すると、それらの商品を購入して定期的に摂取すれば、腸内細菌が整うといった風にも見えます。しかし、実際にはそう簡単にはいかないのです。
ここからは、より良い腸内環境を整えるために、腸内細菌にはどのようなものがあるのか、その理想のバランスはどのようになっているのかなどを詳しく見ていきましょう。
2-1.腸内には主に3つの細菌が存在する
腸内環境を整えるには、まず腸内にある菌について知っておく必要があります。腸内には100兆個以上もの細菌がありますが、それらは大きく分けて3つの菌に分類されます。
本来、明確に善悪では分類できないものですが、分かりやすく表現する為にこのように分類されます。
・有用菌(善玉菌)
・悪玉菌
・日和見菌(ひよりみきん)
有用菌は乳酸菌の一種であり、ヨーグルトやチーズ、ぬか漬けといった発酵食品に含まれています。体に有用な働きをし、病原菌などを排出してくれる役割を持っています。
そして悪玉菌は名前の通り、増え過ぎると体にとってあまり良い働きをしません。しかし、悪玉菌と呼ばれる細菌であっても、適正なバランスの中にいれば、必要な働きを担っていると考えられるのです。腸内は、多様な個性を持った菌がそれぞれに助け合っている「多様性=ダイバーシティ」が保たれていることが最も健康的です。
日和見菌は、有用菌と悪玉菌、どちらにも属さない菌です。ただ、腸内環境によって有用菌をサポートしたり、反対に悪玉菌と一緒になって腸内環境を荒らすこともあります。腸内にはこの日和見菌が最も多く生息しています。
2-2.腸内環境を整えるには各菌のバランスが大切
腸内には大きく分けて、有用菌、悪玉菌、日和見菌の3つが存在します。そして、健康的な腸内環境としては「有用菌2割:悪玉菌1割:日和見菌7割」のバランスが良いとされています。
(人によっては、悪玉菌に分類される菌がほとんど見られないさらに優秀な人もいます。)
人によって違いはありますが、1割程度の悪玉菌は問題ではなく、それ以上に善玉菌が多く、日和見菌が味方についていれば、全体的に「良い腸に環境」です。
どの種類の菌であれ、単一の菌が極端に増えたり、比率が極端に変わってしまうと腸内環境は乱れ、健康面に影響が出てしまいます。
腸内では、日々多くの菌が協力しながら人の働きをサポートしています。お腹の調子が良いときは有用菌が優先して腸内に多く生息し、反対にお腹の調子が悪いときは、悪玉菌が優先的に腸内環境に住みついている、と考えられます。
3.腸活に有効な栄養素とは
腸内環境を整えるには、腸内に存在する菌のバランスを整える必要があります。自分で腸内における菌のバランスを整えるにはシンバイオティクスという食事方法を積極的に取り入れることが大切です。この章では、シンバイオティクスについて、詳しく見ていきましょう。
3-1.シンバイオティクスの食事に切り替える
シンバイオティクスとは、腸内環境を整えるために欠かせないプロバイオティクスと、プレバイオティクスの両者を組み合わせて摂取することです。
プロバイオティクスとは、有用菌自体を含む食品のことを指します。
しかし、そもそも私たちの腸内は、有用菌だけを摂り続けてもあまり効果が得られません。
なぜなら、腸内環境は弱酸性の状態が健康であるからです。
腸内を弱酸性にするためにはまず、大腸に共生する常在の有用菌に有機酸を作ってもらう必要があります。
(有機酸とは:腸内代謝物(常在の有用菌にエサを与えると、その菌が「うんち」のようなものを分泌する。その分泌物のこと)の一種を指す)
有機酸は、腸内を弱酸性に保ってくれる役割があるため、まず腸内代謝物を生み出す必要があるのですが、そのためには腸内の有用菌にエサを与え、腸内で発酵を起こす必要があります。
そのエサとなりうるのが、食物繊維・オリゴ糖などであり、それらが含まれる「プレバイオティクス」食品を摂取することが重要です。
ですので、腸内を弱酸性に保つためには、有用菌自体を含むプロバイオティクス食品だけでなく、有機酸となる腸内代謝物を生み出すエサとなるプレバイオティクス食品を摂取すること、つまり2つを組み合わせた「シンバイオティクス」の食事法が重要なのです。
https://wellmethod.jp/intestinal_environment/
3-2.プロバイオティクス
シンバイオティクスを積極的に摂るには、プロバイオティクスとプレバイオティクスの栄養が欠かせません。
主なプロバイオティクスは、納豆や味噌など、日本古来の発酵食品で摂れることが多いです。
・納豆
・キムチやぬか漬けなどの漬物
・味噌や塩麹などの発酵調味料
・ヨーグルト
・乳酸発酵飲料、甘酒、コンブチャ など
3-3.プレバイオティクス
プレバイオティクスは、食物繊維を含む食材やオリゴ糖、難消化性デンプン(レジスタントスターチ)を指します。
・海藻類
・イモ類
・豆類
・リンゴやプルーンなどの果物
・根菜をはじめとした野菜
・オリゴ糖(100%のもの)
・難消化性デンプン(レジスタントスターチ)
食物繊維には「水溶性」と「非水溶性」の2種類があります。まずは、これらの違いについて詳しく見ていきましょう。
3-3-1.水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は、名前のとおり水に溶ける性質のある食物繊維です。食べても人体では消化されず吸収もされないのですが、摂取することで大腸まで届き、有用菌全般における大好物なエサとなります。水溶性食物繊維が多く含まれる食品は次のようなものです。
・リンゴや柑橘類、プルーンなどの果物
・イモ類
・キャベツや大根などの野菜
・昆布やワカメなどの海藻類
・麦を中心とした穀物
・大豆 など
イモ類や果物には糖質が多くカロリーがあるものの、その他の水溶性食物繊維はダイエットにも向いています。腸内環境を整えつつカロリーコントロールもできるので、体形が気になる人は積極的に食べていきたい食材です。
3-3-2.非水溶性(難溶性)食物繊維
非水溶性食物繊維は水に溶けることがなく、水分を吸収する食物繊維です。摂ることにより腸の運動が活発化するため、便秘がちな人には特におすすめしたい栄養です。非水溶性食物繊維が多く含まれる食品は次のようなものです。
・未精製を中心とした穀類
・豆類
・ゴボウ、にんじんなどの根菜類
・クロレラ・スピルリナといった微細藻類
非水溶性食物繊維は、常在細菌のエサにはならないものの、常在細菌が育ちやすいような環境を作ってくれます。野菜や大豆類には水溶性、非水溶性の食物繊維が両方含まれていることも多いので、毎日意識して摂るようにしましょう。
4.食生活以外での腸活ポイント
ここまでは主に食生活における腸内環境の整え方について紹介してきました。しかし、「腸は第二の脳」ともいわれるように、私たちの心身と密着した関係があります。緊張するとお腹が痛くなるのは、腸が自律神経と大きな関わりを持っているからです。
腸内環境を整えるには、食べるものだけに注意していればいいというわけではありません。ここからは、日常生活でできる腸内環境を整える方法について見ていきましょう。
4-1.自律神経を整えることが大切
腸の働きを大きくコントロールしているものに「自律神経」があります。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、この2つが私たちの体のリズムをサポートしています。
交感神経は、基本的に日中の活動時間に優勢になります。交感神経が働くことにより、集中して働けたり、激しく運動ができたりします。そして副交感神経はリラックスを促す自律神経です。基本的には夜間優勢になり、体がリラックスすることにより、しっかりとした睡眠をとることができます。
胃腸は、自律神経のうち、リラックスする方の副交感神経によって働いています。現代人はどちらかというとストレスの影響で、交感神経が過剰働いており、胃腸の動きが抑制されています。
この二つの神経のバランスがよければ、腸の動きも安定し、腹痛や便秘といったトラブルが起きることも少ないです。しかし、ストレスや過労などが原因で自律神経が乱れて「寝たいのに眠れない」「働きたいのに体がだるい」といった状態になると、腸の弛緩・収縮が乱れ、腹痛などを引き起こす要因となってしまうのです。
4-1-1.質の良い睡眠をとることが大切
自律神経の乱れを防ぐためには、まず質の良い睡眠をとることが大切です。寝ている間は副交感神経が優位に立ち、活動時間である昼間には抑えられていることが理想です。
しかし、睡眠不足の状態では、常に交感神経が過剰に働いており、腸の動きが抑制されてしまうため、便秘や下痢や、精神的なイライラを引き起こしてしまいます。
つまり、良質な眠りが自律神経を整え、結果的に腸内環境を整えることになります。普段から眠りが足りないと感じる人は、睡眠時間を確保するための努力をし、深い眠りにつけるよう、適度な運動を心がけることが大切です。
4-1-2.ストレスをためない
自律神経が乱れる大きな原因に、ストレスがあります。現代社会を生きる上でストレスは避けられないものですが、過度なストレスは不眠や食欲不振などを引き起こし、腸内環境を激しく乱すことにもなります。
食生活は整っているのに胃腸の調子が悪い、という場合は、自分のライフスタイルを見直してみましょう。自分にとってのストレス解消を見つけ、たまには1日ゆっくり休むといった工夫をすることで、胃腸の調子が整うケースもあります。
5.腸内細菌が自分の健康を左右する
腸内細菌はバランスが整うことでお腹の調子を整え、私たちの健康にも大きな影響を及ぼすことが分かりました。ここ最近、便秘などでお腹の調子が悪い、という人は、自分の腸内にいる悪玉菌が優勢になっているのかもしれません。
ヨーグルトや乳酸菌サプリメントなどを摂取するのもいいですが、女性の味方である大豆イソフラボンや、腸内細菌をサポートする食物繊維をさらに意識して摂ることもおすすめです。
また筆者の場合、疲れてストレスがたまるとお腹の調子も悪くなることが多いです。そんなときは家事や仕事をいったんやめて、1日のんびり過ごすとお腹の調子が良くなることもあります。
腸内環境を整えるには、食事内容に気を付けることも大切ですが、日々の生活のストレスを解消できるよう、たまにはのんびりと過ごしてみるのもおすすめです。
まずは自分のライフスタイルを見直し、腸にとって良いことは何か、できることから挑戦してみましょう。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか
和重 景
主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。