【医師解説】膣内・子宮内フローラって何? 不妊とも関連する常在細菌と改善するための3つの対策
皆様こんにちは。
医師で、予防医療スペシャリストの桐村里紗です。
フジテレビ「ほんまでっか!?TV」に、腸内環境評論家として登場させて頂いています(以前は、「ニオイ評論家」でした)。
私自身、腸内細菌だけでなく、全身の常在細菌全て、環境の共生菌全てを大切にしたいと考えています。
最近、ホットなトピックスは、これまで「無菌」と考えられていた子宮内にも子宮内フローラがあるということ。また、それが妊娠率などにも関連していることです。
これまで、膣内を乳酸桿菌(ラクトバチルス属)の一種が守っていることはわかっていましたが、子宮内にもいるとは驚きです。
今日は、女性の健康に欠かせない子宮内フローラについてご紹介しましょう。
1.子宮内フローラ・膣内フローラとは?
フローラとは、細菌がお花畑のように集まっている(細菌叢)のことを意味します。
腸内フローラは有名ですが、人に常在するフローラは、人にとっての外界と体内の境界面にびっしりと張り巡らされています。
1-1.穴という穴には全て常在細菌がいる
ですから、皮膚はもちろん、口から肛門までの消化管の全て、鼻から気道、さらには肺。目。耳。尿道から膀胱。そして、膣から子宮まで。
穴という穴の全てには、常在細菌がいるのです。
肺や膀胱、子宮は、これまで感染症にならない限りは無菌と考えられてきましたが、実際には常在細菌がいるということがわかって、業界が震撼したのです!
2.膣内フローラとは?
2-1.乳酸桿菌(ラクトバチルス)の働き
女性のおりものがちょっと酸っぱいニオイなのは、腟内フローラである乳酸桿菌群(ラクトバチルス)が守っているからです。乳酸菌の一種なので、乳酸を出すことで酸っぱいニオイになります。
乳酸桿菌が膣内の分泌に含まれるブドウ糖を分解して乳酸を産生し、腟内は弱酸性に保たれます。腸内と同じで、膣内も弱酸性は、有用菌が生きやすい環境。酸が減り、pHが上がるとカンジダ菌や炎症を起こす細菌が増えてしまいます。
おりもののニオイにもつながりますから、女性としては悩んでしまいますね。
2-2.膣の自浄作用を担う膣内フローラ
この乳酸桿菌の働きは、腟の自浄作用と呼ばれます。
エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンは、膣の細胞に糖であるグリコーゲンをため込む働きをします。これが、乳酸桿菌のエサである糖の供給源となります。
膣内の分泌物には、糖が含まれるため、乳酸桿菌が増えて膣内を清浄に保ってくれるのです。
閉経やストレスなどによって、膣の粘膜が萎縮したり、分泌物が低下してしまうと、乳酸桿菌が増殖できなくなります。
すると、腟内フローラが乱れることで、細菌性の膣炎や酵母カビによるカンジダ、さらにはウイルス性のHIV感染や子宮頸癌のリスクも高くなることがわかっています。
3.子宮内フローラとは?
子宮内はこれまで無菌とされていましたが、2015年、アメリカのラトガース大学の研究で、子宮内にも乳酸桿菌(ラクトバチルス属)がいることが報告されました。
3-1.不妊にも関連する
さらに、2016年にはアメリカのスタンフォード大学から、子宮内フローラの乱れによって体外受精の成功率が低下することを明らかにしました。
乳酸桿菌が多いほど、妊娠率や継続率が高く、これによって、実は、子宮内フローラが不妊と関連していることが示唆されたのです。
受精卵が生着するには、女性側の免疫がそれを異物として排除せずに受け入れる必要があります。乳酸菌は免疫の働きを抑える一方で、その他の菌の割合が増えると炎症が起こり、免疫が受精卵を異物として攻撃してしまうと考えられています。
3-2.日本の女性の子宮内フローラは?
日本でも研究が進みました。
日本の女性の子宮内もアメリカと同様に乳酸桿菌が多く、やはり子宮内フローラのバランスが不妊にも関連していそうです。
健康な人では、子宮と膣内の乳酸桿菌の割合が、子宮内:99.50 %と膣内:99.80 %とほぼ乳酸桿菌で占められていました。
一方で、体外受精まで必要な不妊患者では、子宮内:63.90 %と膣内:65.21%と乳酸桿菌の割合が少ないことがわかりました。
※Reprod Med Biol. 2018 May 6;17(3):297-306
3-3.子宮内フローラ異常ではほとんど出産まで至らない
さらに、スペインの研究では、子宮内フローラが乱れている人では、妊娠率が33.3%、妊娠継続率が13.3%、生児獲得率が6.7%と実際に赤ちゃんを出産できるに至る人が極めて少ないこともわかりました。
一方で、子宮内フローラが正常であれば、妊娠率が70.6%、妊娠継続率が58.8%、生児獲得率が58.8%と実際に赤ちゃんを出産できる人が半数以上になります。
全く違ってしまいますね。
4.膣内・子宮内フローラ検査を受けるには?
4-1.膣内フローラ検査キット:Ubu
女性向けのヘルスケアサービスを提供するMEDERIが提供する膣内フローラを自宅で簡単にチェックできる検査キット「Ubu Check kit」
妊娠準備や女性器の健康、おりものの臭いに悩む人などが気軽に受けられるサービスです。
販売価格:2万4000円(税・送料別)
4-2.子宮内フローラ検査:Varinos
現在、国内では、Varinos(バリノス)が提供する子宮内フローラ検査を、全国の婦人科・産婦人科を通して受けることができます。
結果は2週間ほどで、自費検査となり、費用は医療機関によって違いますが、4~5万円程度が相場となっています。
同社は、2021年春には、自宅で膣内検体を採取することで、簡易に子宮内フローラを調べるキットを販売する予定とのことです。
5.膣内フローラ・子宮内フローラを改善するには?
5-1.膣内フローラには女性ホルモンの維持が大事
膣内フローラの維持には、女性ホルモンの働きによる膣の粘膜機能の維持が不可欠です。
ストレスによって女性ホルモンの分泌が乱れると膣の潤いが低下し、乳酸桿菌のエサとなる分泌物が低下するため、膣内フローラも乱れます。
ストレスを上手にリリースし、膣の潤いを保つことが大切です。
5-2.腸内環境・エクオール産生菌も大切
閉経後には、生理的に膣粘膜の萎縮や分泌の低下は免れませんが、腸内細菌のうちエクオール産生菌がしっかりと働いていると女性ホルモンの働きを補ってくれます。
イソフラボンを含む大豆製品だけでなく、腸内環境全体を改善することが必要です。
シンバイオティクスな食生活を心がけましょう。
エクオール産生菌がいない人、また働きが低下している人は、膣の萎縮も含めて更年期や閉経後の不調が出やすくなります。
この場合、安定的にエクオールとして成分を補うのも一考かと思います。
5-3.ラクトフェリンの可能性
海外では、膣錠など、膣内に挿入するタイプのプロバイオティクス製品も販売されているものの、日本では薬機法の関係で、膣錠を一般販売することができません。
そこで、内服することで子宮・膣の粘液の免疫を強化することができる「ラクトフェリン」が注目され、不妊治療を行うクリニックを中心に使用され始めています。
ラクトフェリンは、初乳に含まれる免疫物質です。膣内分泌物を含め、全身の粘膜を守る粘液に含まれ、外部からの細菌の侵入を守っています。
臨床研究として、子宮内フローラにおける乳酸桿菌の割合が正常より低下している不妊女性に、抗生剤投与後、腸溶のラクトフェリン製剤を1日300mg投与し、2ヶ月後に子宮内フローラを検査したところ、全症例において乳酸桿菌の割合が9割以上に回復したという報告もあります。
※Reprod Med Biol. 2018 Oct 25;18(1):72-82.
子宮内フローラは、まだまだ発見されたばかりで未知数ではありますが、不妊だけでなく、女性の健康にとって様々な重要な役割が明らかになってくるだろうと考えて、期待しています。
腸内フローラだけでなく、女性の健康にとって欠かせない膣内・子宮内フローラにもこれから注目していきたいですね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか