皆さま、こんにちは。
医師で腸のスペシャリストの城谷昌彦です。

皆さんは電車などでの移動中や、大事な会議の途中で急にお腹が痛くなってトイレに駆け込んだりすることはありませんか? あるいは普段からお腹の張りを感じていたり、下痢や便秘を繰り返していませんか?

これまで、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome : IBS)の原因は「不明」とされてきました。

欧米で広く活躍する自然療法医(Naturopathic Doctor)たちは人の持つ自己治癒力に注目し、全人的(ホリスティック)な観点から治療をする医師のことを指します。彼らはIBSにもこれまであまり知られていない根本原因があると考えています。

そこで今回はこれまで日本ではあまり知られてこなかった自然療法医たちの考えるIBSの5つの原因についてご紹介します。

もしあなたが従来の治療でなかなか良くならないお腹の不調をお持ちなら、一度これらの原因を疑ってみてもいいかもしれません。

1.自然療法医という存在

1-1.自然療法とは?

自然療法ホメオパシー

自然療法(Naturopathy)とは、伝統的治療法と19世紀にヨーロッパで普及していた健康法を統合した医療体系で、主に食事やライフスタイルに関する指導を行いますが、時には伝統的なハーブやサプリメント、ホメオパシーなども用いながら、クライアントを全人的(ホリスティック)に診ていきます。

1-2.アメリカでの自然療法医

自然療法を実践する医師のことを自然療法医(Naturopathic Doctor)と呼びます。

通常アメリカの自然療法医は、自然療法教育委員会(アメリカ政府公認の認定組織)から認定を受けた北米の自然療法医科大学を卒業し、免許交付のための試験に合格する必要があります。

州により事情は若干異なりますが、基本的に患者は従来の西洋医学のみならず、自然療法医による治療を自由に選択できる環境があり、その治療には医療保険が適用される場合もあります。
西洋医学と自然療法がお互いに補完し合いながらうまく棲み分けが実現しています。

自然療法医たちは病気の治療に際して従来の医療に比べてより根本原因(root cause)にアプローチし、クライアントの自己治癒力を引き出しながら症状の根本的な改善を目指します。

2.過敏性腸症候群とは?

過敏性腸症候群

2-1.現代人の多くが悩むお腹の不調

慢性的に腹痛・不快感・腹部膨満感・便秘や下痢など便通の異常を来たす過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome : IBS)は、日本では人口の約10~12%程度に認めると言われていますから、約1200万人もの方が日常的にお腹の不調で悩んでいるということになります。

症状を緩和させる目的で幾つかの薬剤が使われていますが、IBS患者の多くは治療効果にはあまり満足していないとされています。

2-2.IBSの診断基準

IBSの診断は簡単ではありません。最新の診断基準では、炎症性腸疾患や逆流性食道炎などの明確な疾患が否定され、下記症状が当てはまる場合、IBSの可能性があります。

最近3ヵ月間、月に4回以上腹痛が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上があること。
1.排便と症状が関連する
2.排便頻度の変化を伴う
3.便性状の変化を伴う

なお、期間としては6ヵ月以上前から症状があり、最近3カ月間は上記基準をみたすことがIBS診断基準となります。

言葉にするとなんだか難しい基準ですが、要は下痢や便秘などの便通異常や腹痛を長期に渡り繰り返している場合にはまずIBSを疑います。

2-3.男性は「下痢型」、女性は「便秘型」が多い

IBSでは便の形状により「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」 に分類されますが、男性は下痢型、女性は便秘型が多い傾向があります。

あなたはどのタイプでしょうか?

以前は腹部膨満感や放屁(おなら)の症状のめだつ「ガス型」と呼ばれるIBSも分類に入っていましたが、最新の診断基準では含まれていません。

特に最近の若い世代の間でIBSが増加傾向にあるとも言われており、中高生のアンケートによる調査では、IBSの罹患率は18.6%と高いことがわかりました。

2-4.IBSに合併しやすい「睡眠相後退症候群」

過敏性腸症候群で睡眠相後退症候群

先ほどの中高生へのアンケート調査で分かったことの一つに、IBSに慢性的な睡眠リズムの障害が合併しやすいということが挙げられます。

「睡眠相後退症候群」とは、慢性的に睡眠のタイミングが遅くなり、概日リズムの関与する睡眠障害の一種と考えらています。

睡眠の質が下がると自律神経のバランスを崩しやすくなり、IBSの症状を悪化させることにもなります。

3.自然療法医の考える5つのIBSの根本原因

最近までIBSはストレスが原因とされる心身症として扱われることが多かったのですが、今ではれっきとした胃腸障害として扱われることが増えてきました。

もちろんストレスによる影響も大きいのですが、ストレス以外では自然療法医たちは次の5つをIBSの原因と考えます。

3-1.腸内細菌のバランスの乱れ(dysbiosis)

腸内細菌バランス

近年、細菌の遺伝子を調べる「メタゲノム解析」と呼ばれる技術が進化し、腸内細菌の遺伝子情報が明らかになってくると、IBSは腸内細菌の乱れが原因の一つという説が有力になってきました。

 IBS患者の最大73%に腸内細菌のバランスの乱れがあることが知られています。

具体的には、乳酸桿菌やビフィズス菌などのいわゆる「善玉菌」の数が減少し、大腸菌やクロストリジウムなどの有害菌の数が増加している傾向があります。

また別の研究では、IBS患者の腸内では乳酸菌やバイヨネラ菌という細菌が有意に増加していることを認めました。
ファーミキューテス門とバクテロイデス門(2つの主要な細菌クラス)の比率が増えることもよく観察される所見です。 

これらの観点より、プレバイオティクスやプロバイオティクスがIBS治療に一定の効果をもたらすとされています。IBSに効果があるとされる菌は次のようなものが知られています。

・B. アニマリス
・L. ラムノサスGG
・B. インファンティス
・B. ロンガム
・L. アシドフィルス 

腸内細菌たちが餌として利用するプレバイオティクスも、有益な腸内細菌を育てるのに役立ちます。 

3-2.SIBO(small intestine bacterial overgrowth)

小腸内細菌異常増殖症(Small Intesitine Bacterial Overgrowth : SIBO)も腸内細菌のバランスの乱れの一亜型と考えられています。本来はあまり細菌の数が多くはない小腸内に異常な数の細菌が増殖した状態のことを指します。小腸で細菌が異常増殖すると、食物の消化や吸収が妨げられる場合があります。ある研究によるとSIBOはIBS患者の約80%に合併するとされています。

小腸は胃や十二指腸で消化された食べ物をさらに分解して栄養素を吸収する働きを持ちますが、SIBOの状態では炭水化物およびビタミンB12をはじめとする栄養素を異常増殖した細菌が消費してしまいます。これによってカロリー欠乏とビタミンB12欠乏が引き起こされます。

SIBOの診断方法では、内視鏡を使い空腸液を吸引して細菌を培養する方法が標準とされていますが、これはやや侵襲的な方法であるため、呼気の中の水素ガスやメタンガスを測定する「SIBO呼気検査」が代わりによく使われています。

プロトン・ポンプ・インヒビターと呼ばれる胃酸抑制剤は胃潰瘍や逆流性食道炎の治療薬として広く使われていますが、長期に使うと胃での殺菌能が低下することにより、SIBOの原因となることが知られています。

SIBOがある場合、いわゆる「腸活」に良いとされる食材がかえって症状を悪化させる場合があります。これは発酵食品や食物繊維の豊富な食材が、小腸内の細菌たちの餌となり発酵によるガスを発生させるためです。IBSに中でもSIBOを伴う場合はまずは低FODMAP食と呼ばれる食物繊維や発酵食品を少なくした食事療法が推奨されます。

また、一部の抗生物質がSIBOの症状改善に効果があることも知られていますが、抗生物質が腸内細菌のバランスを乱す原因になる可能性もあり注意が必要です。

SIBOの治療ハーブ

自然療法医たちは抗菌作用のある様々なハーブを使ってSIBO治療に効果を上げています。

自然療法医がSIBO治療にによく使うハーブ(成分)は次のとおりです。

・オレガノ
・シナモン
・タイム
・ホロピト
・カプリル酸
・ベルベリン
・ニーム
・レモンバーム
・セージ
・ザクロ
・ウバウルシ

▼【医師解説】腸活が逆効果になる腸内フローラの異常「SIBO(シーボ)」の原因と対策

https://wellmethod.jp/sibo/

3-3.リーキーガット(腸漏れ)症候群(leaky gut syndrome)

消化管は食物を消化・吸収するだけでなく、病原体や毒素を体内に侵入させないようにするためのバリアの機能を併せ持っています。腸粘膜の上皮細胞が様々な原因で障害されると腸のバリア機能が低下し、リーキーガット(腸漏れ)と呼ばれる状態になります。リーキーガットでは消化されていないタンパク質分子や病原体、毒素がバリアを容易に通過してしまいます。その結果として免疫反応と全身の炎症を引き起こすようになります。

IBSに悩む人々の12~50%にリーキーガットを原因とする慢性の炎症が存在するという報告もあります。

私は腸のバリアを修復する目的でボーンブロスをよくお勧めしています。
また、自然療法医が好んでよく使う栄養素(食材)は次のとおりです。

・L-グルタミン
・MSM
・ケルセチン
・N-アセチルグルコサミン
・ムチン
・カモミール
・キャッツクロー

▼医師推奨|身体が喜ぶ癒しのスープ「ボーンブロス」

https://wellmethod.jp/bone-broth/

3-4.腸管感染(infectious enteritis)

これまでにも食中毒(感染性腸炎)を起こした後にIBSを発症する例が多いことが知られていました。最近の研究によると病原性の細菌に感染すると細菌の出す毒素B(CdtB)に対する抗体(抗CdtB抗体)が産生されます。この抗体に対して交差反応を起こして抗vinculin抗体が産生されると腸管蠕動が阻害され、IBSの症状を引き起こすことが判明しました。

つまりこれまであまり知られていませんでしたが、腸の感染症もIBSの原因と考えられるようになりました。

ストレスが高く、偏った食生活をし、漫然と薬物を摂取しているような現代人のライフスタイルでは、腸内細菌のバランスの乱れを引き起こし、病原菌感染の機会を増やしてしまいます。特に長期にわたり胃酸分泌を強力に抑制する薬剤を摂取していると、胃酸の殺菌作用を低下させ、病原菌感染のリスクを高めることが明らかになっています。

3-5.食物不耐症(food intolerance)

食物不耐症

食物不耐症は一見食物アレルギーのような症状を認めますが、厳密にはアレルギー反応とは異なり、特定の食物をうまく分解できないことで起こる症状です。食物を完全に消化できないと、部分的に消化されたタンパク質や糖分が残ることになり、体はこれを異物と認識し、様々な慢性炎症の原因となると考えられています。

欧米では特に小麦に含まれるグルテンの不耐症がよく知られており、グルテン摂取後に脳に霧がかかったようにボンヤリしたり、倦怠感などの症状を伴います。

日本人の成人の多くは牛乳に含まれる乳糖に対する不耐症を持っているとされています。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしたり、下痢をする人は乳糖不耐症が疑われます。

青魚を摂取するとじんましんが出るケースではヒスタミン不耐症が原因のことも多く、食物に含まれるヒスタミンを腸でうまく消化できない場合にじんましんをはじめとする様々なアレルギーに似た症状を呈します。

IBS患者ではしばしば次のような食物に対しての不耐症を伴います。

・乳製品
・小麦
・卵
・ピーナッツ
・魚介類
・酵母
・大豆

これまでの研究によりIBSの原因の一つに食物不耐性の存在が認識されるようになりました。

なお食物不耐性が、IBSのみならず、これまでに挙げたSIBO、腸管感染症、リーキーガットなどと深い関連があることは注目すべき点です。

4.それでもやっぱりストレスの影響は大きい

過敏性腸症候群はストレスの影響が大きい

IBS患者では内臓感覚が過敏になっていることが知られています。特に幼少時に慢性的ストレスに晒されると、脳と腸の間で情報のやり取りをする神経の働きが過敏になると言われています。

また、不安や緊張が強いと自律神経の働きが悪くなり、腸の蠕動に影響を及ぼしやすくなります。

心理カウンセリングや瞑想がIBSに有効という報告も多くあり、日頃からストレスマネジメントは心がけたいものですね。

参考)
Chris Kresser, “5 Causes of IBS Your Doctor May Not Be Looking For.”
内藤裕二, 「消化管(おなか)は泣いていますー腸内フローラが体を変える、脳を活かす」(ダイヤモンド・ビジネス企画)

この記事の執筆は 医師 城谷 昌彦先生

【医師】城谷 昌彦
医師

城谷 昌彦

監修医

消化器病専門医・消化器内視鏡専門医・認定内科医・認定産業医
ルークス芦屋クリニック院長
腸内フローラ移植臨床研究会専務理事
NPOサイモントン療法協会理事
ヒュッゲ・ラボ株式会社代表取締役

主な所属学会

日本内科学会・日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会・日本抗加齢医学会・日本統合医
療学会・日本先制臨床医学会 など

東京医科歯科大学医学部卒業。
神戸大学病院内科、京都大学病院病理部、兵庫県立塚口病院(現・尼崎総合医療センター)消化器科医長、城谷医院院長などを経て、2016年ルークス芦屋クリニック開設。
消化器病専門医でありながら、自ら潰瘍性大腸炎発症によって大腸全摘術を経験。
西洋医学はもとより、東洋医学、心理学、分子栄養学、自然療法等の見地からも腸内環境を健全に保つことの大切さを改めて痛感し、腸内環境改善を柱とした根本治療を目指している。
2017年からは腸内フローラ移植(便移植)による治療を開始。腸内細菌が人体に及ぼす多大な機能改善力に着目し、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患だけでなく、うつ、自閉症、自己免疫疾患、がんなど多岐にわたる疾患の治療を行なっている。

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著作・監修一覧

  • ・『腸内細菌が喜ぶ生き方』(海竜社)
  • ・『骨スープで楽々やせる!病気が治る!』(マキノ出版)
  • ・『専門医伝授「アミノ酸豊富!骨だしスープで腸内フローラを再生」』(WEB女性自身)