こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。

「あれ? 財布が見当たらない。どこに置いたかな・・・」
「あ! 約束の時間を忘れていた」

みなさまはこのような経験、ありませんか?

筆者は40代になってから物忘れが多くなったように感じます。

家族に指摘されると「そうだった!」と思い出すのですが、年齢的にたまにそんなこともあるよねと楽観視してしまうことがあります。

物忘れと聞くと「認知症」をイメージする方も多いのではないでしょうか?

日本は超高齢化社会に突入したこともあり、認知症を発症する高齢者の方が増加傾向にあります。

しかし認知症は高齢者の方だけに発症する病気ではありません。

近年、働き盛りの年代で発症する「若年性認知症」が大きな社会問題となっています。

今回は若年性認知症の症状やその原因、予防のために心がけたいことを詳しく解説します。

自分でできるチェック法もご紹介していますので、日頃の自分の言動をチェックしてみましょう。

1.若年性認知症とは?

若年性認知症の症状

認知症とは脳の認知機能障害によって日常生活に支障をきたすようになった状態をいいます。

厚生労働省の定義では、「若年性認知症」とは65歳未満で発症する認知症のことです。

日本認知症学会では、18~39歳までを「若年期認知症」、40~64歳までを「初老期認知症」、65歳以上は「老年期認知症」と分類しています。

2017年度~2019年度に日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業が実施した「若年性認知症の調査」によると、若年性認知症を発症した方の総数は3.57万人と推計され、18歳~64歳までの人口10万人当たりの若年性認知症有病率は50.9人と発表されました。

参考)
https://www.tmghig.jp/research/release/cms_upload/20200727.pdf

1-1.症状

若年性認知症の症状は、高齢者で見られる認知症とほとんど変わりはありません。

認知症の症状は中核症状と周辺症状・随伴症状の2つに分けることができます。

1.中核症状

中核症状とは脳の変性や損傷などによって起こり、認知症と診断された方であれば必ず現れる症状です。主に以下のような症状が現れます。

認知症の症状

2.周辺症状・随伴症状

周辺症状・随伴症状は中核症状に伴い出現する症状ですが、必ず現れるものではありません。

認知症の症状

1-2.若年性認知症と高齢者の認知症との違い

認知症の違い

若年性認知症と高齢者の認知症の症状には大きな違いはありませんが、高齢者の認知症は女性に多く、若年性認知症は男性と女性の割合は6:4とやや男性の方が多くなっています。

また進行のスピードも若年性認知症の方が早い傾向があります。

また相違点でとくに重要視しなければいけないことは、本人を取り巻く環境や対応の仕方に大きな違いがあるということです。

若年性認知症は働き盛り・子育て世代という重要な役割を担っている時期でもあるため、就業が困難になることによる経済的な問題や認知症の親を持つ子供のケアなど家庭内の課題が大きくなります。

また40代以降は子育て以外にも親の介護を担う年代でもあります。

介護を担う家族にとっては若年性認知症を発症した家族の介護以外に親の介護も担う必要があり、一人の介護者にかかる負担が大きくなることが考えられます。

高齢者の認知症と比較すると、若年性認知症の初期症状はその他の疾患と区別がつきにくく、診断がしにくいという特徴があります。

またいつもと違う言動が見られる場合でも、若年性認知症の認知度の低さや周囲の理解不足により受診が遅れてしまうということも少なくありません。

2.若年性認知症の原因となる病気とは?

若年性認知症とは、65歳未満で発症した認知症であると1章でお伝えしましたが、認知症には複数の種類があり、若年性認知症の原因となる疾患もさまざまです。

若年性認知症の原因疾患の割合は「若年性認知症の調査」によると以下のように報告されました。

・アルツハイマー型認知症:52.6%
・血管性認知症:17.1%
・前頭側頭型認知症:9.4%
・頭部外傷による認知症:4.2%
・レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症:4.1%
・アルコール関連障害による認知症:2.8%

参考)
https://www.tmghig.jp/research/release/cms_upload/20200727.pdf

2-1.アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は大脳の広範囲で神経細胞に変性が起こり、働きを失うことで物忘れなどさまざまな症状が現れます。

前兆としては嗅覚の低下が起こり、初期症状としては、次第に物忘れが多くなり同じことを何度も聞いたり、大事なものを置き忘れたり、物を片づけた場所を忘れるなどの記憶障害が起こります。

病状が進行していくと、日付がわからないなどの見当識障害などさまざま症状が現れます。

2-2.血管性認知症

血管性認知症は脳梗塞や脳出血など脳卒中が原因となる認知症です。

生活習慣病との関連性が高く、脳卒中の後遺症として体の麻痺やしゃべりにくさなどの身体症状を伴うことが多く、ダメージを受ける部位によっては、感情や意欲が乏しくなることもあります。

この場合は、ダメージを受けた部位以上に病変が進行することはありませんし、自分に認知症状があるという意識(病識)が保たれるのが一般的です。

血管性認知症では、脳卒中の再発予防がとても重要です。

2-3.前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症 脳

前頭側頭型認知症は脳の前方側頭部の障害によって起こり、他の認知症とは異なる症状が見られます。前頭葉は、脳全体から集まった情報を処理する高度な機能を司っています。
人の社会性を司っている部分でもあります。

感情のコントロールができなくなり、その人らしさや人間らしさが失われてしまいます。

本人は病気という自覚はなく、身なりや周囲のことに対して無関心になることや同じことを繰り返し行う「常同行為」が現れます。

その他、部位によって、気分や感情表現、考え方、社会的な関わりなどに影響を与えるため、怒ったり泣いたりする、暴言や暴力が増える、身なりや周囲のことに対して無関心になることや同じことを繰り返し行う「常同行為」が現れます。場合によっては、万引きなど反社会的な行動をしてしまうこともあります。

2-4.レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は初期症状では物忘れや判断力の低下などはあまり目立ちません。

しかし、幻視や小刻み歩行などのパーキンソン症状・睡眠時の異常行動など特徴的な症状が見られます。
パーキンソン病と認知症が合わさったような病態で、最新の研究では原因も同じではないかと考えられています。

2-5.アルコール性認知症

アルコール性認知症とは、アルコールの過剰摂取によってアルコール依存症になり認知症を発症することです。

アルコール依存症に見られる低栄養やビタミン欠乏が要因となり、特にビタミンB1の欠乏により、意識障害や眼球運動障害、健忘などの症状が現れるウェルニッケ脳症を発症しやすくなります。

ウェルニッケ脳症発症後には、見当識障害やなかったことをまるで本当のことのように話す作話などの症状が見られるコルサコフ症候群を引き起こします。

3.早期発見が大切! 若年性認知症のチェックリスト

認知症チェックリスト

若年性認知症は進行が早く、また発症することによりこれまでの生活に大きな影響を与える可能性が大きい病気です。

そのため早期発見・早期対応が大切です。

以下のような状態に思い当たることがないかチェックしてみましょう。

・物の名前が出てこない
・置き忘れやしまい忘れが目立つ
・簡単な計算の間違いが多くなった
・仕事にミスが増える、約束を忘れてしまう、期限までに処理ができなくなる
・通勤経路や慣れた道でも迷ってしまうことがある
・些細なことで怒りっぽくなった
・仕事や家事など趣味に関する意欲が減退し、話しかけても生返事しか返ってこない
・季節に合った服装ができない
・いつも使っている電話機、パソコンなどの操作が困難なことがある
・ゴミ出し・レジでの順番待ちなどの社会的ルールが守れなくなった
・会話がかみ合わなくなり、的外れな答えが返ってくる
・ATMや券売機の操作がわからなくなった

上記の項目に複数当てはまる場合は、医療機関を受診することをおすすめします。

4.若年性認知症の治療

若年性認知症の治療

医療機関で行われる若年性認知症の治療は2つに分けることができます。

4-1.薬物療法

若年性認知症を根本的に治すことは、現在の医療では難しいとされています。

しかし薬物を使用することによって、認知症の進行を遅らせることやさまざまな症状を軽減することは可能です。

アルツハイマー型認知症に対しては、アセチルコリン伝達(※)を改善する薬剤、塩酸ドネペジル(アリセプト)が長く使用されてきましたが、これに加えて平成23年の春からはガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどの3種類の薬が使用できるようになりました。

ガランタミンとリバスチグミンはアリセプトと同様、アセチルコリン伝達を改善する薬剤ですが、リバスチグミンは貼付剤なので吐き気や嘔吐などが少ないとされています。

またガランタミンは、アリセプトが効かない人に有効とされています。

一方、メマンチンはこれらとは作用が異なり、アリセプトとの併用も可能です。

平成26年9月からはレビー小体型認知症に対してもアリセプトが使用できるようになりました。

これらの薬剤は病気の進行を緩やかにするもので、根本的な治療法ではありませんが、早期発見・早期治療をすることを進行を遅らせることができる場合があり、日常の生活もしやすくなる可能性があります。

人により副作用が出たり、長期の使用で症状が悪化することもあるため、主治医と相談しながら使用することが必要です。

認知症の薬

参考)若年性認知症支援ガイドブック
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/guidebook_2020.pdf

(※)アセチルコリン(acetylcholine:ACh)とは
代表的な神経伝達物質で、副交感神経や運動神経の末端から放出されます。
アルツハイマー病においては、脳内のアセチルコリンの活性が低下しており、認知障害などの症状を引き起こす原因になると考えられています。

4-2.非薬物療法

非薬物療法とは薬物を使わずに行う治療法です。

デイケアに通所してさまざまプログラムに参加し、治療を行う方法もあります。

また昔から慣れ親しんだものを思い出す回想法や馴染みのある音楽などを聞いて楽しむ音楽療法などの心理療法を行うことで、症状の安定を図ります。

ただし効果には個人差があり、一律に同じ効果が得られるものではありません。

4-3.家族や介護者の対応

認知症の症状は、基本的に周囲の対応によって悪化もしますし、落ち着きもします。

私たちとは同じ世界を見ても認識が違うものの、認知症患者さんたちは、理由があってその言動をしています。
人格を尊重し、無理に押さえつけたり、否定したりせず、周囲の家族や介護者が寄り添っていく姿勢が重要です。

共にどうすれば、不安や恐怖がなく、日々を穏やかに過ごすことができるかを考えていくことがとても大切です。

薬剤が逆効果となり興奮したり、抑制がかかりすぎていることもしばしばありますので、介護者が十分に変化を観察し、主治医と連携しながら薬剤を調節していくことも必要です。

家族や介護者が、患者さんにとって最大の理解者となることができれば、認知症を持ちながら、ご本人が安心して人生を送ることも不可能ではありません。

家族によるケア

5.若年性認知症を予防するために心がけたいこと

若年性認知症の原因疾患としてもっとも多いアルツハイマー型認知症を予防するために心がけたいことをご紹介します。

アルツハイマー型認知症の発症には、アミロイドβというタンパク質が脳に溜まり、それが神経を障害して脳の萎縮を引き起こすと考えられています。

症状が出る約10~15年前からアミロイドβの蓄積を抑えたり、除去することができればアルツハイマー型認知症を予防することができる可能性があります。

40歳を過ぎたら認知症予防に取り組みましょう。

5-1.質の高い睡眠をとる

睡眠の質が低いほど脳内にアミロイドβが蓄積されるという報告がされており、睡眠効率が低いとアルツハイマー型認知症の発症リスクが高くなると考えられています。

アルツハイマー型認知症を予防するためには、睡眠時間を7時間以上とることも大切ですが、それだけではなく質の良い睡眠をとることがポイントといえます。

5-2.歯周病ケア

歯周病ケア

アルツハイマー型認知症と歯周病は関係ないように思われるかもしれませんが、歯周病の代表的な原因菌であるジンジバリス菌の毒素がアルツハイマー型認知症の方の脳内で検出されるなど、重度の歯周病とアルツハイマー型認知症の関連性が注目されています。

歯周病は国民病といわれるほど多くの方が罹患しています。

歯周病ケアは、歯ブラシだけではなくフロスや歯間ブラシを使用しましょう。

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https://wellmethod.jp/periodontal-disease/

6.若年性認知症予防のために生活習慣を見直しましょう

生活改善で若年性認知症を予防する女性

若年性認知症は、誰にでも起こる可能性があります。

また認知症は、高齢の方だけに発症するものではありません。

仕事や子育てが一段落したときに、趣味や挑戦したいことを楽しむためには、体も心も健康であることが大切です。

より素敵に年齢を重ねるためにも日頃から自分の言動を振り返りながら、毎日の生活習慣を見直していきましょう。

この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか

和重 景

【ライター】

主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。

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