皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

更年期障害といえば、閉経前後の10年間の更年期に起こる不調で、50歳の前後5年間に起こることが一般的です。

ところが、最近では、40代前半、早ければ20〜30代のまだまだ女性機能が十分であるはずの世代に起こる「若年性更年期障害」と呼ばれる不調が増えています。

月経の乱れや停止に加え、ホットフラッシュやのぼせ、疲れやすさ。イライラやうつうつといったメンタルの不調といった更年期障害特有の症状が起こると、「この年齢でどうして?」と不安になるでしょう。

更年期障害は、通常、子孫を繁栄する生殖年齢が過ぎ、卵巣が役割を終えて、排卵が終わり、閉経を迎えることで起こるものです。

ところが、卵巣がまだピチピチのはずの20〜30代に更年期障害のような症状が起こることは、ある意味「非常事態」で、体にとっては危機的な状況です。

最近増加傾向とされる若年性更年期障害の隠れた原因とその対策についてお伝えします。

若年性更年期障害の詳細やセルフチェック、対策については、以下の記事もご参照ください。

20~30歳代に起こる若年性更年期症状の原因を解説

若年性更年期セルフチェックと30代からはじめる女性の健康のつくり方

1. 若年性更年期障害の原因は?

若年性更年期障害の本体は、以下の2つです。

1. 卵巣機能低下
2. 自律神経失調

これらは、切り離して考えることはできず、密接に関連しています。

現代的な生活が、原因になっています。

ラベンダーの花

1-1. 卵巣機能低下が起こる原因は?

いわゆる更年期の卵巣機能低下は、年齢に伴って、卵子の残り数が徐々に減少し、自然に低下する加齢現象です。

ある意味、不可避であり、閉経年齢を過ぎてもまだまだ排卵をし続けることは、生物として異常とも言えます。

子孫を繁栄した後は、もう生殖活動を終えましょうという自然の摂理です。

一方で、まだ生殖年齢であるにも関わらず、卵巣が機能を低下させるには、それなりの理由があります。

1-2. 子孫繁栄をストップ!卵巣が判断する理由

野生動物について想像してみましょう。

子孫を繁栄する状況、生殖活動ができる状況とは、どんな状況でしょうか?

天敵がおらず、世界が平和な状況です。

ライオンが襲ってきそうな時、もしくは山火事などで環境が脅かされた時に、悠長に生殖活動をしていたら、すぐにやられてしまいますね。

ライオン

この時には、卵巣を含む生殖器や、食事に関わる消化器、排泄に関わる泌尿器などの臓器の機能は低下します。

人間に置き換えてみると、ライオンとは、日々のストレスです。
嫌いな人との会話、山積みの仕事、静かにしてくれない子ども達。それに、新型コロナウイルスの拡散のように社会的なストレスも。

これらは、いずれも、ライオンです。
この天敵に立ち向かうために、卵巣は機能を落とさざるを得なくなります。

1-3. ストレスは女性ホルモンの分泌を抑制する

ライオンと立ち向かう時、人間を含む動物は、自律神経のうち交感神経を活発に働かせます。一方で、リラックスしている時に活発に働く副交感神経はスイッチが切れた状態になります。

交感神経の刺激で、手足の筋肉はグッと緊張し、臨戦態勢に。
肩や顎にも力が入りますから、人間であれば、肩が凝ります。

この時活動する臓器は、副腎です。
副腎皮質ホルモン・コルチゾールは、ストレスホルモンとも呼ばれ、ストレス時に全身の臓器が連携して動けるように指令を送っています。

その一方で、低下するのは、女性ホルモンです。

実は、女性ホルモン・エストロゲンと、ストレスホルモン・コルチゾールは、同じコレステロールから作られる一連のホルモンです。

ストレス状況下では、ストレスホルモンの量産態勢に入らないといけませんから、女性ホルモンの分泌は後回しになり、分泌が低下してしまうのです。

そのため、様々なストレスが、卵巣機能低下の最大の原因になります。

1-4. 自律神経失調の最大の原因はストレス

ストレスによる反応は、自律神経のうち交感神経を刺激します。

野生動物の場合、ライオンが去れば、すぐさま草をはむ行動に戻ることができます。

ウサギ

でも、人間は、もっと複雑な生き物です。

ライオンが去っても、くよくよと襲われたことについて考え続けてしまったり、またいつライオンが襲ってくるか不安になりシュミレーションしたりと、脳内の止まらぬ思考がストレスとなります。

また、パソコンやスマートフォンなどの使用や過剰な情報を受け取り過ぎてしまうテクノストレスもあります。

睡眠時間や食事時間などライフサイクルが乱れることも、生体にとってはストレスになります。

こうして、現代人は、副交感神経の出番がないままに、交感神経ばかりが活発になり、自律神経のバランスを崩してしまい、更年期障害のような症状を伴う自律神経失調が起きてしまうのです。

1-5. 栄養失調が女性ホルモン低下のリスクに

それだけではありません。

栄養バランスの偏りや無理なダイエットによる栄養失調も、女性ホルモンの分泌を脅かします。

先ほど、ストレスホルモンや女性ホルモンの原材料は、コレステロールとお伝えしました。

コレステロールと言えば、悪者のような気がしてしまうかも知れませんが、実はホルモンの原材料として不可欠な脂質です。

月経が乱れがちな女性の血液検査を行うと、時に総コレステロールが基準値より大幅に少ない「低コレステロール」の人を見つけることがあります。

コレステロールが低い食事をしているかと言えば、そうでもありません。

実は、コレステロールは食事から摂取するものと、肝臓で作るものがありますが、肝臓で作る割合の方が多いのです。

タンパク質

肝臓で作られたコレステロールが血液中に運ばれ、ホルモン合成に使われるためには、タンパク質の乗り物で運搬される必要があります。

その為、タンパク質が少ない食生活をしていると、コレステロールが上手く運搬されず、ホルモン合成が上手くいかなくなってしまうのです。

1-6. 過激なダイエットが無月経と男性化を引き起こす

あまりに過激なダイエットで体重が減り過ぎてしまうと、生命が危機を感じて、子孫繁栄活動である生殖活動を停止する為、無月経になります。

また、皮下脂肪が極端に減ることもリスクです。
女性ホルモンは、主に卵巣で分泌されていますが、一部は皮下脂肪でも分泌されています。また、脂肪細胞が分泌するレプチンは、ホルモンの中枢に働きかけて、月経を起こす手伝いをします。

これらの機能が低下することで、女性ホルモンの働きが極端に落ちてしまう為、極度にやせた女性は、ヒゲが濃くなるなど男性化してしまいます。

2. 若年性更年期障害を防ぐライフスタイル

若年性更年期障害を予防、改善するカギは、

1. ストレスリリース
2. 栄養バランスの良い食事

これが重要です。

2-1. ストレスリリースに日々できることを

ストレスは、あらゆる不調の原因になります。

現代的な生活は、常に、ライオンの横で暮らしているようなもの。交感神経が過度に働き過ぎて、副交感神経が働く暇がありません。

特に、放っておくと交感神経が優位になり過ぎる為、意図的に副交感神経を高め、リラクゼーションに努めることが重要です。

バスタイム

入浴や睡眠、運動などは、当然、基本として大切です。
こちらの記事で紹介していますので、ご参照ください。

若年性更年期セルフチェックと30代からはじめる女性の健康のつくり方

それは分かってるけど、ストレスリリースって難しい!と考えている人も多いのではないでしょうか。

それ以外にも色々な方法がありますから、とにかく自分に合った方法で日々ストレスリリースに努めましょう。

2-1-1. 1)スマホをオフ!情報を遮断

社会情勢が不安定で、テレビやスマホから不安な情報がどんどん入ってくる時には、意図的に情報を遮断し、情報断食しましょう。

もちろん、日々変わる情報を収集しておくことは大事ですが、1日中眺めることは良くありません。

見る時間を決めて、後は、意図的にシャットアウトすると、ストレスから切り離されます。
睡眠の妨げにもなりますので、私自身は、寝室には絶対に持って入らないようにしています。

2-1-2. 2)オンオフをしっかり切り替える

在宅ワークが増えて、仕事とプライベートの境界線が曖昧になることも良くありません。
プライベートというオフの中に仕事というオンを持ち込むことで、ライオンを家の中に入れてしまうことになります。

ティータイム

時間を区切る、家での作業スペースを区切るなどして、オンとオフをしっかり切り替えましょう。
日が暮れたら、体は交感神経のスイッチをオフにして、副交感神経モードになることが自然です。
「夕食後は仕事しない!」と決断すれば、何とか終わらせようと集中力も高まります。

2-1-3. 3)コメディやお笑いをみる

ストレスで交感神経モードになった体を一瞬で副交感神経モードに切り替える為に、最も簡単なスイッチは、笑うことです。

笑うことで、一瞬にしてストレスリリースが可能です。
今、観るべきは、ニュースサイトよりも、コメディやお笑いです。

深刻な時こそ、笑いある生活を。

これは、困難な歴史を乗り越えてきた人類の知恵です。

2-1-4. 4)愛する人とハグをする

愛する人とのハグは、最高の癒しになります。

カップル

パートナーや子どもをぎゅっと抱きしめることで、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌されると、ストレスホルモンのレベルがぐっと下がります。

もちろん、パートナーとの愛あるセックスも副交感神経モードの大切なスイッチとなります。

2-1-5. 5)動物を愛でる

人でなくとも、ペットの動物を撫でたり抱きしめたりすることも、同じくオキシトシンの分泌を促します。

恋人と違い、そこに常にいてくれるペットの方が、裏切られてストレスになるリスクが少ないかも知れませんね。

2-1-6. 6)好きなアロマを嗅ぐ

アロマセラピー

嗅覚が判断する「快」と「不快」は、自律神経にダイレクトに作用します。

自分にとって快い香りは、副交感神経を刺激して、リラクゼーションをもたらします。

この場合、特定のアロマが万人に良いというよりも、自分にとって快い香りかどうかがポイントになります。

天然のアロマオイルの香りでなくとも、好きなフレグランスの香りであったり、好きな人の体臭であっても、それが自分にとって快ければ、リラクゼーション効果があります。

一方で、フレグランスなどの強い香りは、他人に不快感を与えてしまい「香害」のリスクとなります。他人にストレスを与えないように配慮をしたいものです。

2-2. 栄養バランスを整える

栄養バランスを整えることは、若年性更年期障害対策としては盲点になっているところだと思います。

そのポイントとなるのは、五大栄養素である糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルはいずれも、女性ホルモンの合成や自律神経に作用します。

2-2-1. 炭水化物オンリーや砂糖たっぷりはNG

女性が大好きなパンやパスタなどを中心にした炭水化物オンリーランチ。また、砂糖たっぷりのスイーツや甘いドリンクは、血糖値の乱高下を招くことでストレスとなりストレスホルモンの分泌を促します。

また、おにぎりやパンなどのランチに、サラダやわかめスープを組み合わせることで食物繊維をプラスすると、血糖値は上がりにくくなるものの、タンパク質は不足です。

タンパク質は、前述のようにコレステロールから女性ホルモンを合成する際に必要なサポーターです。

2-2-2. タンパク質の効果的な加え方

「お肉は苦手」という理由から、炭水化物と野菜のみのメニューになっている女性も多いかもしれません。
ランチであれば、おにぎりの具をシャケにする。ゆで卵や豆サラダをプラスするなどの工夫をしてみましょう。

肉や卵、魚、豆類などをバランス良く摂りましょう。
おやつをケーキの代わりに小豆入りの和菓子にすることもタンパク質補給になります。

小豆に含まれるイソフラボンは、腸内細菌に代謝されてエクオールになることで、女性ホルモンをサポートしてくれます。

小豆

また、例えば、スーパーフードであるヘンプシードの50%は、タンパク質です。
私自身は、おにぎりにヘンプシードを混ぜて握っています。クセもなく美味しいですよ。

2-2-3. オイルカットはしない方が良い

「油は不健康」「油は美容の敵」という考え方は、昔の話です。
全身のあらゆる細胞の細胞膜の原料になるのは、必須の油ですから、油がないと細胞機能は低下し、卵巣機能も低下します。

皮下脂肪も女性ホルモン、月経を維持するために不可欠ですから、女性らしい曲線はキープしたいものです。

上質な油の取り方は、以下の記事をご参照ください。

美しい肌と細胞を作る為に選ぶべき上質な食べ物とは?#ドクターLISAのウェル・メソッドvol.6

2-2-4. ビタミンCは副腎に不可欠

ビタミンCは、最もビタミンCを必要とする臓器です。ストレス状況下であれば、ビタミンCは常に副腎に消費されると考えましょう。

また、ビタミンEは、卵巣の細胞膜に入り込み、ストレスによる細胞の酸化から守るために重要です。

これらは、人に合成できない必須のビタミンです。食品から摂ることも大切ですが、ストレスが強い場合には、サプリメントとして補給するのも手軽です。
ビタミンCのような水溶性のビタミンは、尿に排泄されますので、1日数回に分けてこまめな補給が基本です。

ビタミンEのような脂溶性のビタミンは、食後に1日1回摂ることで血中濃度が維持できます。

サプリメント

2-2-5. ストレスに立ち向かうミネラル

ストレスがかかると体内では活性酸素が発生します。卵巣を含めた全身の臓器を攻撃して、ダメージを与えてしまいます。

活性酸素を消去する抗酸化酵素の活性に不可欠なのが、亜鉛や鉄です。
また、マグネシウムは、ビタミンCと同じく副腎に不可欠です。

2-2-6. 7大栄養素は全て大切

これらに加えて、食物繊維や野菜の色や香りの成分・ファイトケミカルを含めた7大栄養素は、いずれも必要不可欠です。

食物繊維は、腸内の有用菌のエサになり、栄養吸収を改善します。

ポリフェノールなどのファイトケミカルは、いずれも抗酸化作用を発揮し、ストレスのダメージからカラダを守ります。

卵巣機能がプログラムとして停止してしまう閉経前後の更年期と違い、若年性更年期は、自分次第で解決ができるものです。

頑張り屋さんほど、ストレスを抱えやすいもの。

時に自分を甘やかせて、優しくいたわることが大切です。
体の悲鳴とも言える状態ですから、自分のカラダを無視せずしっかりと向き合ってあげましょう。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか