【医師解説】健康にとって良い食事があなたの腸を狂わせる??
皆さんこんにちは。
医師で腸のスペシャリストの城谷昌彦です。
さて、あなたが健康に良いと思って毎日口にしている食材が、実は腸内環境を乱しているとしたらどうしますか?
2018年に出版された 『The Plant Paradox (邦題「食のパラドックス」)』で、著者の医学博士スティーブン・R・ガンドリー氏は、玄米や蕎麦、大豆、豆腐、トマトなどのように、一般的に健康に良いとされている食材が、実は肥満や糖尿病、認知症、自己免疫疾患などの原因となっていること、そしてその原因がこれらの植物が生み出すタンパク質「レクチン」であると言う説を紹介しています。
もし、あなたが慢性的な不調で悩んでいるのなら、このレクチンを除去する食事療法「レクチンフリー・ダイエット」にチャレンジしてみるのも良いかもしれません。
実際に私の患者さんのなかにも、長年の尋常性乾癬(皮膚の難病)をこのレクチンフリー・ダイエットで皮膚の症状を劇的に改善させた方がいらっしゃいます。
でもいったい「レクチン」とはどんな食材に含まれているのでしょうか?またその有毒な「レクチン」を避けて食事をするにはどうすればいいのでしょうか。
今回はこの本に紹介されている「レクチンフリー・ダイエット」の具体的な取り組み方について解説します。
目次
1.レクチンとは?
レクチンは余り馴染みのない言葉かもしれません。レクチンは概ね大きなタンパク質の総称で、動植物の体内に認められ、1884年に血液型の研究をされている際に発見されました。
レクチンは穀物や豆類、ナス科やカボチャ類の野菜など、それも特に外皮や種に多く含まれており、もともと植物が捕食動物から自らの身を守るために産生する物質で、捕食されると動物の体内で特に多糖類やシアル酸に結合します。この働きにより、捕食動物の体内で細胞間の結合を阻害して、炎症などの有害な反応を起こすとされています。
レクチンは植物の中だけでなく、牛などの動物がレクチンたっぷりの豆やトウモロコシを食べると、乳や肉にも移行します。また、同じようなことがレクチン豊富な餌で育った鶏や養殖魚などでも起こります。
最近ではグルテンフリー食でよく知られるようになった「グルテン」も、実は数千種類もあるこのレクチンの一つなのです。ということは、グルテンだけを除去しても症状の改善が見られないという場合は、レクチンを排除する食事療法「レクチンフリー・ダイエット」に切り替えてみることが必要なのかもしれません。
2.レクチンを食べると何が起こるのか?
では私たちがレクチンが多く含まれる食品を摂ると、体の中で何が起こるのでしょうか?
まず、腸管の粘膜からレクチンが体内に入り込みます。その仕組みを著者のガンドリー博士は次のように説明しています。
2-1.腸壁を破壊する
レクチンは、腸管を覆っている粘膜細胞の間のタイトジャンクション(密着結合)をこじ開けることが知られています。
腸管の表面積はテニスコート1枚分もありますが、表面の粘膜はわずか細胞1つ分の厚さしかありません。そんな非常に薄い腸壁が1枚の細胞の層で体の中と外を隔てる、いわば「バリア」を形成しています。つまり腸壁の細胞はビタミン、ミネラル、脂肪、糖、単純なタンパク質は吸収できますが、レクチンのような比較的大きなタンパク質は吸収できない構造になっています。
ですので腸管の粘膜が健康ならば、レクチンは腸粘膜細胞の間を通過しません。しかし胃腸の状態が悪いと多くのレクチンが腸壁に到達し、粘膜細胞を傷つけます。レクチンがいったん粘膜細胞の間のタイトジャンクションを破壊すると、いわゆる「リーキーガット」と呼ばれるような腸粘膜の透過性が亢進した状態となり、さまざまな異物が体内に取り込まれてしまうことになります。するとレクチンは腸管周囲の組織、リンパ節、分泌腺、血流など、本来いるはずのない場所に到達し、そこで異種タンパク質として振る舞い、身体の免疫機構による攻撃を引き起こしてしまいます。
2-2.「分子凝態」によって免疫機構を混乱させる
レクチンは人体中の他のタンパク質とそっくりに振る舞う「分子凝態」という方法で捕食者から身を守っています。そのため、身体の免疫機構をすり抜けてしまいます。またあるいは細胞の受容体に結合してホルモンのように振る舞ったり、ホルモンを遮断したりして体内の情報伝達を妨害し、混乱を引き起こします。
そして、レクチンはレクチンとよく似た構造を持つ重要な組織をもろとも免疫細胞に攻撃をさせます。この様に免疫機構が活性化されると腸管や、脳、関節、唾液腺、皮膚、血管などの臓器が炎症を起こし、これらの慢性炎症は、体重増加やがん、糖尿病、自己免疫疾患などの発症基盤になるとガンドリー博士は説いています。
3.なぜ今レクチンが注目されるようになったのか?
では、なぜ最近になってレクチンが注目されるようになったのでしょうか?理由は様々ですが、私たちを取り巻く環境が急速に変化したことも一因のようです。
ガンドリー博士は、環境の変化が私たちの腸内環境を乱れさせたことが大きな要因と考えています。
日本でも戦後急速に加工食品の割合が増えました。また、食事の構成内容も激変し、トウモロコシや大豆、小麦などのレクチンが豊富な食材が加工食品に多く使われるようになりました。
さらには除草剤や殺虫剤、肥料、食品添加物などは腸内細菌叢を撹乱し腸内環境を乱してきたと考えられます。
また、近代的な農業手法に伴い農薬を使う機会も多くなり、土壌中の細菌のバランスを乱れさせ、農作物の質を変化させたということも遠因と考えられます。
結局、私たちの腸内環境は私たちの生活を取り巻く環境に大きく依存しているため、腸内環境のみならず、土壌環境や地球環境といった多元的な理由により、レクチンの問題が表在化してきたと言っても良いでしょう。
4.レクチンフリー・ダイエット
このレクチンの特徴を踏まえ、極力レクチンを減らした食事療法が、「レクチンフリー・ダイエット」です。
ガンドリー博士は、レクチンフリー・ダイエットを「食べてはいけない食品」「食べていい食品」のリストをもとに、フェーズ1~3の三段階で構成しています。
4-1.レクチンフリー・ダイエット:食べてはいけない食品
乳製品、穀物、雑穀、果物、種、卵、豆類全般(もやしのようなスプラウトもNG)、カシューナッツ(ナッツではない)、チアシード、ナス科の植物(トマト、ナス、ジャガイモ、ピーマンなど)、キュウリ、カボチャ、メロン、トウモロコシ、キャノーラ油などのオメガ6系の植物油……など、牛肉などの畜肉もNG
4-2.レクチンフリー・ダイエット:食べて良い食品
1.野菜
アボカド、ナッツ全般、栗、ココナッツ(ミルクやクリームもOK)、オリーブ、ダークチョコレート、海藻類、キノコ類、アブラナ科の野菜類(ブロッコリー、白菜、キャベツなど)、オクラ、玉ねぎ、葉菜類、サツマイモ、サトイモ、こんにゃく、柿、味噌、キムチ……など。ただし過敏性腸症候群やSIBO(小腸内細菌異常増殖)がある場合は生野菜は避けて加熱調理したものを選びましょう。
2.タンパク質
1日に天然魚(魚介類全般)なら約200g以下、放牧鶏なら約100g以下に限ること。
3.脂肪と油
アボカドやオリーブは良質の脂肪を含み、しっかり摂取してもOK。油は、アボカドオイル、ココナッツオイル 、ごま油、エキストラバージンオリーブオイル、亜麻仁油、エゴマ油、MCTオイルなど
4.薬味や調味料
新鮮なレモン果汁、お酢、マスタード、ブラックペッパー、海塩などはいずれもOK。加工度の高い市販のサラダドレッシングやソース類はできるだけ避けましょう。
5.飲み物
グリーンスムージー、ミネラルウォーター(グラス8杯程度)、緑茶、紅茶、コーヒーはOK。甘味のある飲料は避けましょう。
5.実際にチャレンジしてみましょう
5-1.フェーズ1
まず、3日間のプチ断食で傷ついた腸粘膜を回復させ、腸内微生物叢の善玉菌を育み、悪玉菌を減らします。この期間は牛や豚の畜肉を避け、代わりに野菜と少量の魚や放牧鶏など摂取するようにします。
5-2.フェーズ2
いよいよプログラムの核心となりますが、フェーズ2は6週間にわたる腸の修復および再建をする期間になります。
1.腸の穴を塞ぐ
腸粘膜の透過性が亢進した状態を改善させるためには以下の方法が推奨されています。まず、砂糖や人工甘味料を排除し、油は大豆油やヒマワリ油、グレープシード油などを避け、MCT油やエゴマ油、アマニ油などにしましょう。アボカド油は発煙点(油を劣化させていく温度)が高いので、高温でも使用できる理想の油とされています。
動物性タンパク質は1日に200グラムまでに抑え、軽食には少量のナッツやアボカドを摘みましょう。
2.善玉菌を育む
レジスタントスターチ類と呼ばれる炭水化物の一種は腸内細菌叢のバランスを整えるとされています。腸内細菌はレジスタントスターチをエネルギーとして利用できる短鎖脂肪酸に変換してくれます。レジスタントスターチは、冷やご飯おにぎり、プランティンバナナ(調理用バナナ)、里芋、しらたき、菊芋、マンゴー、パパイヤなどに含まれます。
また、フラクトオリゴ糖も腸内細菌のエサになり腸内環境改善に一役買います。これは、菊芋、オクラ、玉ねぎ、ニンニク、きのこ類などに多く含まれます。
さらに、レモン果汁やお酢は胃酸分泌を促し消化を助けてくれます。ポリフェノールを大量に含むピスタチオ、くるみ、マカダミアなどのナッツ類も腸内細菌のバランスを整えるため適宜間食として摂るのもいいでしょう。
3.腸にとっての外敵を避ける
制酸剤を漫然と使う場合、食物の消化に重要な胃酸が不足するリスクがあります。また、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)も胃腸の粘膜を傷つけるリスクがあるため注意が必要です。これらの薬剤はレクチンフリー・ダイエットにチャレンジする際にはできるだけ避けておきましょう。
4.重要なサプリメント
DHA、ビタミンD、乳酸菌などのプロバイオティクス、L-グルタミン、ピクノジェノールなど腸内環境を強化するサプリメントも適宜活用してみましょう。
5-3.フェーズ3
これまでの取り組みの成果を享受するフェーズです。
実際この食事療法でうまく行った人たちは、レクチンフリー・ダイエットは単なる食事療法ではなく「ライフスタイル」だとも言います。
このフェーズでは、動物性タンパク質の摂取を段階的に減らし、断続的に断食することが推奨されています。1日でも断食するのが難しい方も少なくないと思いますが、そんな方は週1回程度、できれば16時間は食べないで水かスープのみにする「プチ断食」でも良いでしょう。また、様子を見ながら、1週間に一つずつ「食べてはいけない食品」にチャレンジしてレクチンが大丈夫かどうかを試してみても良いでしょう。日本人の食事に欠かせない豆なども、圧力鍋を使って調理すれば大丈夫とされています。ただし、小麦や大麦、ライ麦などの麦類は圧力鍋でもレクチンが破壊できないので注意が必要とされています。
ここまで、レクチンフリー・ダイエットの概略を紹介しました。もし興味があれば、ぜひレクチンフリー・ダイエットにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
(医師により治療目的で特別な食事制限を指示されている場合等は医師とご相談の上実践してください)
参考
「食のパラドックス 6週間で体がよみがえる食事法」スティーブン・R・ガンドリー著 翔泳社
この記事の執筆は 医師 城谷 昌彦先生

城谷 昌彦
監修医
消化器病専門医・消化器内視鏡専門医・認定内科医・認定産業医
ルークス芦屋クリニック院長
腸内フローラ移植臨床研究会専務理事
NPOサイモントン療法協会理事
ヒュッゲ・ラボ株式会社代表取締役
主な所属学会
日本内科学会・日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会・日本抗加齢医学会・日本統合医
療学会・日本先制臨床医学会 など
東京医科歯科大学医学部卒業。
神戸大学病院内科、京都大学病院病理部、兵庫県立塚口病院(現・尼崎総合医療センター)消化器科医長、城谷医院院長などを経て、2016年ルークス芦屋クリニック開設。
消化器病専門医でありながら、自ら潰瘍性大腸炎発症によって大腸全摘術を経験。
西洋医学はもとより、東洋医学、心理学、分子栄養学、自然療法等の見地からも腸内環境を健全に保つことの大切さを改めて痛感し、腸内環境改善を柱とした根本治療を目指している。
2017年からは腸内フローラ移植(便移植)による治療を開始。腸内細菌が人体に及ぼす多大な機能改善力に着目し、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患だけでなく、うつ、自閉症、自己免疫疾患、がんなど多岐にわたる疾患の治療を行なっている。
- ルークス芦屋クリニックHP
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著作・監修一覧
- ・『腸内細菌が喜ぶ生き方』(海竜社)
- ・『骨スープで楽々やせる!病気が治る!』(マキノ出版)
- ・『専門医伝授「アミノ酸豊富!骨だしスープで腸内フローラを再生」』(WEB女性自身)