WELLMETHOD監修医の桐村里紗です。

これといって理由がないのに、何となく気力がわかなかったり、ちょっとしたストレスに対応できずにどっぷりと落ち込んでしまったり。
「私って、精神的に弱いなぁ」と感じている方は少なくないのではないでしょうか。

実は、男性と比べて、女性のうつ病にかかる率は、約2倍とされています。
特に、思春期、産褥期、そして更年期。

この時期に特にメンタルの不調が現れやすく、日常的にも月経前になると常に気分が変化する人も少なくありませんね。

女性ホルモンや女性のライフステージって、何となくメンタルと関係ありそうだと感じていると思います。

一方で、全て女性ホルモンのせいとも限りません。
実は、男性と違い、月経のある女性に不足しがちなある栄養素や乱れた食生活による腸内環境の乱れが抑うつなどメンタルの不調の原因になっている可能性があります。

この場合、日常の食事の工夫次第で改善も可能です。

「これってうつ病?」と考えて病院に行く前に、まず日常でできることがあります。
今日は、女性のライフステージとうつの関係を深掘りし、その対策について考えてみたいと思います。

1.セロトニンと抑うつ

憂うつな気分が続き、何に対しても感動がなくなり、人生に色彩が失われる。
今まで簡単にできていたことに対しても気力がなくなり、とにかく億劫になる。

側から見ると、やる気がなくなりサボっているように見えてしまい、家族の理解も得られない。

抑うつ症状は、成人女性では10人に1人が悩まされ、「心の風邪」と言われるくらい、誰にでも起こりうるものとされています。

私自身も外来で女性の方々の相談を多く受けてきましたが、「娘が中学生になってから精神的に不安定になって学校に行けなくなった」「1人目を出産した後から、ずっと気分が晴れない」「更年期に差し掛かり、月経が乱れると共に落ち込みやすくなった」など、各ライフステージに精神的な不調を感じるというそれぞれの悩みがあります。

この抑うつを引き起こすと考えられているのが、神経伝達物質であるセロトニンです。

1-1.セロトニンと腸の関係

セロトニンといえば、気分を左右するものというイメージがあると思います。

実は、気分に関わるセロトニンは、主に脳内で分泌されるもので、全体の2%とされています。

セロトニンの90%は腸の神経から分泌されており、こちらは腸の動きに関わっています。

腸内環境

脳には、血液脳関門と呼ばれるバリアがあり、腸で作られたセロトニンは、これを通ることができないとされています。
ですから、腸で作られたセロトニンが、気分に直接的に関わっているとは考えられていません。

一方で、最近では「腸脳相関」と言って腸と脳が密にコミュニケーションをとり、腸の状態に脳の働きが大きく影響を受けて、気分をも左右することが明らかになりました。

脳内で分泌されるセロトニンの分泌には、腸内細菌の役割が大きく、腸内環境が乱れてしまうと、脳内でのセロトニン分泌が低下してしまうことが分かっています。

ですから、腸内環境を整えることも、やるべきことの一つに違いないのです。

1-2.幸せホルモンと呼ばれるセロトニン

脳内で分泌されるセロトニンは、最近巷で「幸せホルモン」とも呼ばれています。

正確にいうとホルモンと神経伝達物質とは少し違うのですが、言い得て妙なので、理解のためにはこの認識でも良いのではないかと考えます。

セロトニンは、心のバランスをとり、安定させる役割で、自律神経を整える働きもあります。
セロトニン分泌が減少してしまうことで、心が不安定になり、抑うつを引き起こすのですが、ここですぐに「お薬をもらおう」ではなく、「どうしてセロトニンが減ったのか?」とまず考えてみてほしいのです。

薬によって一時的に気分が上がったとしても、根本的な解決にはなりません。

2.セロトニンが減る根本原因

2-1.女性ホルモンの乱れ

女性にとって、セロトニンの分泌を脅かす原因として、女性ホルモンが大いに関わっています。

女性ホルモンのうち、エストロゲンは、脳内のセロトニンを合成する酵素を活性化し、セロトニンの分泌を促進することが分かっています。

その為、エストロゲンの分泌が減少する月経前の時期、通常の100倍のエストロゲン濃度が分娩後に一気に低下する産後の時期、そして、閉経によってエストロゲンが低下する更年期から閉経期。
ここのエストロゲンが減少する時期に、セロトニン分泌が低下して、抑うつが起こりやすくなるのです。

性ホルモンが安定している男性と女性の違いは、ここにあります。

2-2.月経による慢性的な鉄不足「かくれ貧血」

もう一つ、女性にとって致命的なのは、毎月の月経による出血で、必ず鉄が体から出て行ってしまうことです。

2-2-1.月経のある女性の約7割は重度のかくれ貧血

「別に、貧血とは言われていないわ」という人も無関係ではありません。

貧血とまではいかない状態でも、隠れた鉄不足である「かくれ貧血」があれば、セロトニン分泌が低下して抑うつを引き起こすリスクになるのです。

いわゆる貧血は、血液中のHb(ヘモグロビン)が女性で12 g/dl未満になると指摘されます。ただし、Hbが正常でも、体内の鉄が潤沢とは限りません。

体内に貯蔵されている鉄は、「フェリチン」という数値を測定しないと判断ができません。

この数字が30ng/ml未満であると、重度の鉄欠乏状態で、抑うつなどを引き起こすリスクが十分にあります。

貧血の女性

平成18年の国民健康・栄養調査によると、20〜49歳までの閉経前の女性では、69.5%もの人がフェリチン30ng/ml未満の重度のかくれ貧血だったのです。

このうち、約30%は10ng/ml未満という枯渇状態であり、女性の多くが実はセロトニン分泌が減少するリスクを抱えていると言えます。

2-2-2.鉄が減りやすいライフステージ

女性のライフステージで、特に鉄が減りやすいのは、月経開始直後の思春期と産後です。
この時期の抑うつは、まず、鉄不足を疑ってみましょう。

更年期であっても、月経が減るだけでなく、ホルモンのアンバランスにより月経量が増える場合もあります。
閉経までは、鉄が増えることはまずないと考えましょう。

2-2-3.栄養素がセロトニンを作る

セロトニンは、鉄を含む栄養素がないと合成ができません。
どんなに女性ホルモンが潤沢にあっても、原材料不足であれば仕方がありませんね。

セロトニンの原料は、トリプトファンというアミノ酸です。アミノ酸はタンパク質が分解して作られるので、まずタンパク質不足が致命的になります。

そのトリプトファンを原料に、酵素の働きによりセロトニンが合成されます。

この酵素の働きに不可欠なのが、鉄とビタミンB6、ナイアシン、葉酸などのビタミンB群です。

特に、女性は月経により鉄が毎月失われるため、男性に比べて鉄不足が致命的なセロトニン不足を引き起こしやすいのです。

2-3.腸内環境の悪化

うつ病の人は、下痢や便秘など腸の不調を合併していることが多いのですが、腸内環境の乱れは、心も乱すことが分かっています。

脳と腸は、神経やホルモン、また腸内細菌が分泌する代謝物などを使って、双方向にやり取りしており、腸の状態が、ストレスへの耐性や心の状態に関与しています。

腸内細菌をゼロの状態にしたマウスでは、脳内のセロトニン濃度が減ることや、腸内細菌が食物繊維を食べて作り出す代謝物が神経の栄養因子となり、抗うつ効果を発揮することなども分かっています。

食生活が乱れて、腸内環境が悪化していることを放置したまま、お薬で解決という訳にはいきませんね。

3.セロトニンをサポートする対処法

原因を見つけたら、次は対処です。
まずは、病院に行く前に日常的にできる対処法から考えてみましょう。

3-1.女性ホルモンをサポートする

女性ホルモン・エストロゲンの分泌を整え、更年期にかけては減少をサポートすることが必要です。

エストロゲンの分泌を低下させる原因を解決するには、

3-1-1.ストレスリリース

ストレスホルモン・コルチゾールとエストロゲンは、同じ原材料で作られています。
ストレスがかかり、ストレスホルモンの分泌に熱心になると、代わりにエストロゲンの分泌が低下します。

日常的にストレスをリリースするために、リラクゼーションや有酸素運動などを取り入れることを意識してみましょう。

3-1-2.エストロゲン合成に不可欠な栄養を摂る

エストロゲンの原料は、コレステロール。そして、コレステロールを原料として使うには、タンパク質の働きも欠かせません。

ですから、極端に油や肉や卵、魚、大豆製品などのタンパク源が不足したりすると、エストロゲンの合成がうまくいかなくなります。

卵

コレステロールは体に悪いというイメージが昔はありましたが、大切なエストロゲンの原材料です。

卵や大豆は、良質なタンパク源であると同時にコレステロールも含むため、バランスよく食べることは女性をサポートしてくれます。

3-1-3.植物由来のエストロゲンを食べる

植物に含まれエストロゲンのような作用をするものをフィトエストロゲンと言います。

大豆や小豆に含まれるイソフラボンや雑穀や豆類、ゴマ、亜麻仁、かぼちゃの種などに含まれるリグナン。これらは、腸内細菌によって活性化され、人の体内で女性ホルモンをサポートする働きがあります。

その他、ホルモンバランスを整える方法については、これらの記事も参考にしてください。

ホルモンバランスを整えるためにはどうすればいい? 対処法を紹介

女性ホルモンのバランスを保つことが鍵! いつまでも美しく在るための7つのケア

3-2.栄養をサポートする

3-2-1.鉄を効率的に補う

月経がある女性は、日常的に鉄を補給することが必要です。

ただし、鉄は過剰になっても体に悪いため、安全のために腸からの吸収率はあまり良くないのです。

ほうれん草や小松菜、海藻類に含まれている植物性の鉄は、吸収率5%以下。
一方で、赤身の肉や魚に含まれている動物性の鉄は、吸収率20%です。

その吸収率をさらに上げるには、鉄鍋が効果的。鉄鍋を使うことで溶け出す鉄は、吸収率が抜群です。トマトなど酸があるものを調理すると鉄が溶け出しやすいので、トマト入りのスープなどを鉄鍋で作ると効率的です。

サプリメントを選ぶなら、吸収率が高く胃に負担のない「ヘム鉄」と表示されたものがお勧めです。

3-2-2.タンパク質を摂る

セロトニンの原料であるアミノ酸・トリプトファンは、タンパク質から作られます。
エストロゲンの合成にも欠かせないため、肉や卵、魚、大豆製品などのタンパク質は日常的にしっかり摂りましょう。

一番悪いのは、女性がやりがちな、「パスタだけ」「パンだけ」「おにぎりだけ」のような炭水化物オンリーメニューです。

おかずもしっかり食べましょう。

3-2-3.ビタミンB群は腸内細菌が作り出す

鉄と同じく、セロトニン合成をサポートするビタミンB6、ナイアシン、葉酸などのビタミンB群。
葉酸は、葉物野菜に多く含まれますが、その他のビタミンB群は動物性食品に多く含まれます。

それだけでなく、腸内のビフィズス菌などの善玉菌は、ビタミンB群を作り出すことができます。

腸内環境が悪化すると、これらの合成が減るだけでなく、食事からの栄養を悪玉菌が奪うことで、鉄の吸収率も低下します。

腸内環境の改善は、その意味でも重要なのですね。

3-3.腸内環境を改善する

腸内環境を改善し、ストレス耐性を強くし、気分を安定させる為には、とにかく腸内の善玉菌を育てる餌を与えてあげることが重要です。

3-3-1.一にも二にも食物繊維

腸内のあらゆる善玉菌を育むのは、まず食物繊維です。
水溶性食物繊維をエサに、非水溶性食物繊維を寝床にします。

水溶性食物繊維を善玉菌が食べて作り出す酪酸という物質は、神経を栄養する因子となり、抗うつ効果を発揮することが分かっています。

野菜や海藻、こんにゃく、きのこ類、豆類、雑穀類をしっかり摂れば、水溶性も非水溶性も両方摂取することができます。

とにかく、これらをモリモリ食べることで、良い子の菌を喜ばせることができます。

3-3-2.砂糖よりもオリゴ糖

もう一つ、善玉菌の大好物は、オリゴ糖です。

砂糖がカンジダ菌などを増やし、腸内環境を悪化させる要因になる一方で、オリゴ糖は、善玉菌を増やして腸内環境を改善します。

オリゴ糖は、玉ねぎやバナナなどに含まれる天然の甘みです。

玉ねぎ

オリゴ糖のシロップやパウダータイプの甘味料は、自然な甘みで癖がないのが特徴です。スーパーなどでも販売されていますので、砂糖の代わりに使ってみてはどうでしょうか。

この時の注意事項は、裏の原材料表示をしっかり見ること。
オリゴ糖の甘味料として販売されていても、ショ糖やブドウ糖・液糖、アスパルテームなどの人工甘味料が混ざっている可能性があります。

これらは避けましょう。

3-3-3.発酵食品を食べる

有用微生物によって発酵された発酵食品を食べることで、腸内の善玉菌が喜んで増えますので、日常的に食卓に取り入れましょう。

特に、大豆の発酵食品である納豆。
大豆タンパク質や植物性コレステロール、フィトエストロゲンであるリグナンやイソフラボンも同時に摂取することができるのでお勧めです。

1日1パックを習慣にしてみましょう。

4.医師はパートナーと考える

まずは、日常生活を見直して、できることをやってみるのがファーストステップではないかと思います。
このベースを整えることができるのは、自分自身です。

ベースが乱れた状態では、いくら外から薬を補っても一時しのぎにしかなりません。

医師や病院に依存して全て「お任せします」と委ねてしまうことはやめましょう。

専門家は、自分の体を整える上でのパートナーとして、良きアドバイザーになってもらいましょう。

4-1.過多月経であれば必ず受診を

必ず受診が必要なのは、月経量が多く、月経が重たい場合です。

子宮筋腫やポリープ、子宮内膜症などが隠れている可能性があります。
この場合、いくら鉄を補給しても、鉄不足は解決しませんので、お金と時間の無駄になります。

4-2.更年期はホルモン補充療法の検討も

いくら生活習慣を整えても、加齢現象に伴い卵巣機能が衰えて起こるエストロゲンの低下は免れない現象です。

食生活やストレスなどの問題を解決しても、若い頃と同じレベルのエストロゲンに戻すことは困難です。

フィトエストロゲンを補うことで、エストロゲンをサポートすることも可能ですが、その上で尚、更年期障害が辛い場合は、婦人科にてホルモン補充療法を行うという選択肢もあります。

欧米などの先進国では積極的に行われており、日本でも保険適応で治療を受けることが可能です。

ホルモン補充療法についての詳しい内容はこちら

体調が悪いのは女性ホルモンが原因? 海外期待の“ホルモン補充療法”という可能性

4-3.精神科は最後の砦と考える

うつ病といえば、まずは精神科と考えがちですが、「うつ病」のような症状を引き起こす原因には、色々あることがお分り頂けたかと思います。

女性の場合、女性特有の月経やライフステージと関連がある場合は、婦人科に相談してみましょう。

その上で、本格的なうつ病が疑われた場合に、精神科へ紹介してもらうことがスムーズです。抗うつ剤を飲む前に、できることがあります。

5.必要なことは家族の理解

抑うつ症状で最も辛いのは、家族や周囲の理解が得られにくいことです。

どうにもこうにも気力がなくなることで、普段当たり前にできていたことが簡単にはできなくなりますが、これを「ただ単にサボっている」と誤解されてしまうことは、本人にとってとても辛い状況です。

本人の怠け心でも、心が弱いからでもなく、どうしようもなくそのような心の状態に苦しんでいることをまずは理解することです。

その上で、無理な励ましは禁物です。

本人は、十分に頑張っていますから、もうこれ以上励ましても頑張れないのです。

根本解決のために、食生活やライフサイクルを整えること、病院に相談することをしたいと思っても、その気力すらない状態になり兼ねない本人をサポートできるのは、家族や周りの人たちです。

心に寄り添い、チームとして一緒に取り組む心づもりで、サポートして欲しいのです。

抑うつ状態は、改善しうるものと考えて、できることから実践してみてくださいね。