「マスク口臭」8割はリスクあり?危険なニオイと原因別の対策とは?【医師解説】
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
マスク着用時間が圧倒的に増えている今、口臭が気になっている人も多いかも知れません。
口臭には、原因別の種類があって、ニオイにも違いがあります。中には、心筋梗塞や脳梗塞、アルツハイマーの原因になる危険なものも潜んでいますよ。
拙著、『日本人はなぜ臭いと言われるのか〜体臭と口臭の科学』(光文社新書)でもご紹介したように、35歳以上では、8割は危険な口臭リスクありと思うべきです。
口臭の場合、嗅覚が麻痺しやすいため、自分は全く感じないという人ほど、強烈な口臭の持ち主である可能性もあります。
目次
1.マスク口臭の原因と対策
口臭は、普段気づきにくいものですが、常時マスクをしている今、自覚する人が急増しているようです。
口臭がする場合、「内臓が悪いのかな?」などと心配になることもあるでしょうし、「周りに気づかれないかな?」と対人関係の心配もするようになります。
一口に口臭と言っても、様々な原因、様々な種類があり、簡単な対処ですぐに改善するものから、歯科医院や病院に行く必要があるものまで様々です。
1-1.口臭の種類とは?
まず、大きく分けて、口臭には、2種類あります。
1.病的口臭
2.生理的口臭
病的口臭とは、何かしらの疾患が原因で発生する口臭。
生理的口臭とは、疾患がなく、24時間誰にでも発生しうる生理現象としての口臭です。
日本人の成人の7割、35歳以上には、ある原因で病的口臭のリスクがあります。
また、マスクを着用していると、生理的口臭の発生リスクも増えますよ。
1-2.ニオイで嗅ぎ分ける病的口臭
まず、病的口臭についてです。
原因は、口腔内から咽頭・喉頭、さらに全身の病気まであります。
この中には「ドブ臭い」とか「ザリガニ臭い」などと呼ばれる激臭も含んでいますから、要注意です。
口腔内 |
歯周病(歯肉炎・歯周炎)・口腔粘膜の炎症・舌苔・がんなど |
咽喉頭 | 副鼻腔炎・咽頭・喉頭の炎症・がんなど |
全身疾患 | 糖尿病・肝疾患・腎疾患など |
1)ドブ臭・ザリガニ臭・腐肉臭
タンパク質=肉が腐敗したようなニオイで、硫黄を含む独特のツンとしたニオイになります。
病的口臭の原因のほとんどは、歯周病です。
いずれの場合も、24時間発生するため、自分では慣れてしまって気が付きにくいのが問題です。
1.歯周病(歯肉炎・歯周炎)
歯周病菌が歯周ポケットの中でメチルメルカプタンという臭気ガスを発生。
2.鼻炎や扁桃炎など喉の炎症
細菌が原因で炎症や膿を伴う疾患(鼻炎や扁桃炎、副鼻腔炎など)
3.口腔・咽頭・喉頭のがん
がんによって組織が破壊されるために腐肉臭が発生。
歯周病(歯肉炎・歯周炎)
「歯周病」と聞くと、自分は縁遠いと思うかも知れませんが、調査によると20歳以上7割、35歳以上の8割が何らかの程度の歯周病(歯肉炎・歯周炎を含む)です。
※厚生労働省.歯科疾患実態調査.https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17.html
成人以上で、定期的に歯科受診をしておらず、歯ブラシのみで歯間ケアや歯石ケアを行っていない人は、十分リスクがあります。
日常的なケアとしては、歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシでの歯間ケアを行い、定期的な歯科受診をしてしっかりケアしましょう。
歯周病があると、どんなに食事やライフスタイルでヘルスケアを行っても、健康にはなりません。
歯周病菌は、慢性炎症を起こし、簡単に血管内に入り込み、血管を通じて全身に散らばります。
歯周病菌が原因となる全身疾患には、
・動脈硬化:高血圧・脳梗塞・心筋梗塞
・アルツハイマー型認知症
・食道がん・大腸がん
・糖尿病
・早産
・誤嚥性肺炎
などがあります。
しっかりケアしたいところです。
喉の炎症やがん
慢性的な扁桃炎や蓄膿などがあると、炎症が原因で口臭が発生します。
また、場合によっては、口腔内から咽頭・喉頭にかけてのがんが原因でニオイが出ている場合もあります。
特に、喫煙者はいずれのがんの発生にも注意が必要です。
耳鼻科や口腔外科などで検査や診断、治療ができます。
2)温泉臭・タマゴ臭
硫黄臭い温泉や卵のニオイです。
硫化水素と呼ばれる、硫黄系の温泉で発生するニオイと同様のガスが発生します。
虫歯
この原因は、主に虫歯です。
軽度の虫歯ではすぐに口臭になることはありませんが、複数の歯に及ぶ虫歯や歯の奥深くまで壊疽した酷い状態では、口臭の原因に。
成人の場合は、詰め物の下の虫歯や歯周病により下がった歯根に発生する歯根の虫歯などで発生しやすくなります。
痛みが出るならばよほどの状態です。
迅速な歯科受診をおすすめします。
3)生ゴミ臭・腐ったキャベツ臭
よく言われる「胃が悪いから口臭がする」場合には、生ゴミ臭や腐ったキャベツ臭と同じニオイが発生しています。
こちらは、ジメチルサルファイドと呼ばれる臭気ガスによるものです。
消化器の異常
胃や腸の機能、腸内環境が悪い場合に発生します。
胃から直接上がってくるのではなく、胃が悪くて不消化になった食べ物の影響で、腸内で食べ物が腐敗し、その腐敗臭が体内で代謝され、血流に乗り、肺から呼気となって口臭として現れるものです。
4)甘酸っぱい臭・ケトン臭
こちらは、悪臭ではありませんが、アプリコットのように甘くて鼻をくすぐるニオイです。
これは、いわゆる「ケトン臭」と呼ばれるもの。
糖質をエネルギーに使えない場合、脂質をエネルギーとして燃焼する場合に、ケトン体が発生して、体臭や口臭からこのニオイがします。
重症の糖尿病
病気で起こる場合は、重症の糖尿病です。
急激に発生した重症の糖尿病や、発症してから長期間経ち、痩せてしまうほどの重症の場合に起こります。
コントロール不良の血糖値をいち早くコントロールしないと、糖尿病性ケトアシドーシスという重症の状態になって意識障害を引き起こして救急搬送されるリスクが高いと言えます。
飢餓状態
極度の飢餓状態となり、脂肪が分解されても、ケトン体が発生します。
例外として、病気でなくとも起こる場合があります。
それは、意図的に糖質をかなり制限するケトジェニックダイエットや厳格な糖質制限ダイエットを行なっている場合。
あえてケトン体を発生させて、ケトン代謝にスイッチさせるのが狙いなので、この場合は病気ではありません。
5)納豆臭・足の裏臭
こちらは、イソ吉草酸という納豆や足の裏のニオイとして発生する成分のニオイ。
肝疾患
肝臓に極度に負担がかかっている場合、肝硬変など肝不全がある場合に発生しやすくなります。
肝臓は、体内で発生したニオイ成分を分解し、無臭化する場所ですが、その機能が低下した場合にリスクがあります。
アルコールの飲み過ぎにも注意したいところです。
6)尿臭・アンモニア臭
アンニモニアは、タンパク質を代謝する過程で発生し、肝臓で無毒化され、腎臓から尿として排泄されます。
腎不全・肝不全
アンモニアが体内に蓄積する状況としては、かなりの腎不全や肝不全の状態です。
ただし、疲労が起きると肝臓の働きが低下して、汗にアンモニアが混ざりやすいことがわかっています。
アンモニアは毒ですので、よほどの状態と考えるべきです。
基礎疾患の治療が必要です。
2.生理的口臭はすぐに対処できる
生理的な口臭は、老若男女で24時間発生しうるもので、対処ができます。
2-1.生理的口臭の原因は?
生理的な口臭の原因として考えられるのは、2つです。
1.唾液の減少
2.ニオイのある食べ物
1.唾液の減少
口腔内には、常在細菌として数百種類の細菌が、数千億から1兆個も暮らしています。
それを洗い流し、細菌が増えすぎないようにしているのが、唾液です。
唾液が乾くと、誰にでも口臭が発生しやすくなると考えてください。
唾液が減少する原因としては、
1.加齢現象
2.空腹
3.ストレス・緊張
4.口呼吸
などがあります。
特に、マスクをするストレスがあったり、マスクをすることで正常な鼻呼吸ではなく、口呼吸になっていると発生しやすくなります。
年齢と共に唾液を分泌する細胞も働きが低下するため、口が乾きやすくなります。
口が乾いていると感じたら、水を含んで口を潤すこと。
また、咀嚼をすることで唾液分泌が高まるため、一時的にはガムを噛む(ガム法)ことで唾液分泌が促されます。
普段からよく咀嚼すること、よく喋って口を動かすことも大切です。
2.ニオイのある食べ物
ニンニクやネギなどの薬味などを食べたら、誰にでも口臭が発生します。
これらのニオイ成分・アリシン(硫酸アリル)は、揮発性で拡散しやすく、体内で強烈なニオイ成分に変化します。
口腔内からは3時間程度でなくなるものの、消化管から吸収され、血流に乗って全身に拡散し、毛穴や呼気を通して体臭や口臭として発生します。
長くて48時間程度は残留することがあります。
歯磨きや舌みがきで一時的に口臭が消えても、呼気として発生するものは消えるまで待つことになります。
大切な予定から逆算して、食べるのを控えるなどした方が無難かも。
3.ニオイを客観的に測定するなら
ニオイを客観的に測定するのであれば、簡易的には、口臭チェッカーを使うこと。
本格的に原因を見極めたいなら、口臭外来で口臭検査を受けることです。
3-1.口臭チェッカーで簡単検査
最近では、簡単に口臭が発生しているかどうかを判定する口臭チェッカーが発売されています。
スマホと連動しているタイプや体臭も測定できるタイプなどもあります。
他人に気づかれる程度の口臭が発生しているかどうかは分かりますが、口臭の原因別の分類はできません。
日常的な自己管理として使用すると良いですね。
3-2.口臭外来で口臭検査をする
全国の口臭外来では、口臭検査によって病的口臭の3種類を見分け、程度を判定することができます。
歯周病由来のドブ臭「メチルメルカプタン」、虫歯や清掃不足に由来する温泉臭「硫化水素」、消化器の異常に由来する生ゴミ臭「ジメチルサルファイド」の測定ができます。
しっかりと原因を知りたい方は、口臭外来で検査を受けてみてはいかがでしょうか。
一口に口臭といっても、ニオイの種類と原因は様々です。
病的口臭の多くは、歯周病で、それ以外では、唾液不足による生理的な口臭が多いと考えられますが、その他にも様々な原因があります。
それぞれに対策が違いますし、場合によってはリスクがある口臭もあります。
口臭の原因としっかり向き合ってみると、自分の体を労るきっかけにできるかも知れませんよ。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか