五月病を防ぐ|コロナうつや更年期うつを悪化させない対策とは
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
新型コロナウイルスの状況が読めない中、五月病の季節がやって来てしまいました。新緑の美しい春なのに、なぜか気分が落ち込みがちになる五月病には、環境的なストレスと自律神経が大いに関連しますが、とりわけストレスフルな今年の五月は特に注意が必要です。
コロナうつ気味の方や普段から更年期うつに悩む方は、特にストレス耐性が弱いと思われるので、ここでしっかり底上げしていきたいところです。
1.五月病とは何か?【チェックリスト】
五月病とは何かを、まずは理解しましょう。
1-1.五月病とは何か?
「五月病」は、特に医学用語ではありませんが、あえて病名をつけるなら「適応障害」に当たります。
生活環境・職場環境に馴染むことができず、持続的なストレスによって心身にストレス障害が起きた状態です。
まずは、チェックしてみましょう。
1-1-1.これって五月病?チェックリスト
ストレス状況が続き、こんな症状が出ている人は、ブレイカーが落ちてしまった可能性があります。
1. 朝起きられない
2. 夕方以降にやっと元気になる
3. とにかく疲れやすい・疲れが取れない
4. 気力・体力が持たずエネルギー不足と感じる
5. 集中力が切れやすい
6. 頭がフラフラ・ぼーっとする
7. 全てが虚しいように感じる
8. 普通にできていたことをするにも苦痛を感じる
9. ちょっとしたストレスに対応できなくなった
10. カフェインがないと元気が出ない
3つ以上当てはまれば、リスクありです。
1-1-2.例年の五月病はこう発症する
例年であれば新年度は、新生活、新しい人間関係、新しい職場、新しい挑戦など、「新」のオンパレードです。
新しいスタートは、良い刺激になる前向きな「良いストレス」とも言えますが、良くも悪くもストレスはストレスとして、精神に緊張を強いて、自律神経のうち交感神経を刺激します。
四月は緊張感と同時に、やってくるゴールデンウィークへのワクワク感によって、何とか乗り切ることができます。
でも、ゴールデンウィーク明けの五月になると、ダルい・起きられない・ヤル気ない・ウツウツなどの無気力状態になるのがいわゆる例年の「五月病」です。
新入社員や職場の異動など新しい環境で新しいチャレンジを強いられている人に起こります。
1-1-3.コロナストレスによる五月病
ところが、今年は、例年と様子が違います。
新型コロナウイルスの影響で、日本全体、世界全体が同時に強いストレスに晒されています。
病原性のウイルスの蔓延、生活の変化、行動の制限、メディアから流れる不安や恐怖を増強させる情報、経済的な不安などの様々なストレスがやって来ます。
その上、ストレスフリーで落ち着く場所であるはずの家庭も、在宅ワークや休校などにより一人のマイペースな時間が極端に減ってしまいストレスになっている人も増えているようです。
ちょうど4月からスタートした外出制限ですが、すでに「コロナうつ」などの言葉も出始めており、上手く状況に適応出来ない人が増えているようです。
4月中続いたストレスに心身が悲鳴をあげることで、これ以上頑張れなくなると、五月病にスライドしてしまうことになりそうです。
1-1-4.五月病はブレイカーが落ちるようなもの
五月病は、頑張り続けた心身のスイッチが急に切れてしまい、スイッチが入らない状態になることに伴い症状が出ます。
ストレス状況下では、自律神経のうち、闘争モードである交感神経が発動しています。
交感神経は、副腎を刺激し、闘争モードのスイッチを押すアドレナリンやストレスに対応するコルチゾールなどのホルモンを分泌して、状況に対応しようとします。
ただし、このモードは、心身に火がついているようなもの。カーッと燃え上がりますが、燃え続けると心身を消耗させてしまうので、危険です。
過剰な電流が流れるとブレイカーが落ちるように、過剰に交感神経が働くと、生体防御のために、ブレイカーが落ちてしまいます。
家に設置されているブレイカーであれば、スイッチをオンにすれば簡単に復旧しますが、自律神経のブレイカーはそうもいきません。
心身の過剰な活動を停止させるべく、副交感神経モードに急にスイッチが切り替わり、交感神経にはしばらくスイッチが入らなくなります。
無理な活動を防ぐ、体の安全装置のようなイメージです。
1-1-5.なぜ五月なのか?自律神経と季節の関係
なぜ、五月なのか?
についてですが、これは、日本に四季があることで、環境の変化に伴い自律神経のスイッチが切り替わることに関連しています。
通常、寒い季節は、体温を維持するために自律神経のうち交感神経が活発になります。
暑い季節は、体が緩み、副交感神経が活発になります。その間の季節は、切り替えのシーズンです。
つまり、
・冬:交感神経モード
・春:交感神経から副交感神経への切り替え
・夏:副交感神経モード
・秋:副交感神経から交感神経への切り替え
季節の変わり目に体調を崩しやすい人は、春や秋に不調を感じがちです。これは、自律神経の切り替えが上手ではないから。
春は、緊張からリラックスへと切り替わる季節です。春とは言え、まだ肌寒い四月に新生活のストレスも加わり、交感神経モードが極まると、暖かくなり緊張が緩む五月に一気に切り替えが起きてしまうことになります。
雨が多く低気圧と高温多湿の影響でさらに副交感神経モードとなる六月に発症する人も多いことから、最近は五月病ではなく六月病とも言われることがあるようです。
1-1-6.更年期うつの女性は注意したい
自律神経を乱す原因として、女性が避けて通れないのは、更年期です。
更年期に起きる抑うつ状態「更年期うつ」は、女性ホルモンの急激な減少により、気分に関わる神経伝達物質・セロトニンの減少と共に、自律神経が乱れることが原因です。
ホルモンの変化という内的変化により起こる更年期うつですが、これに更に外的環境の変化によるストレスが加わると、更に状態を悪化させる可能性があります。
ただでさえ繊細な更年期ですから、ストレスは極力避けたいものですが、現状はそうもいかないのが辛いところです。
▼“更年期うつ”についての詳しい解説はこちら
でも、同じストレス状況下でも、ストレスに強い人、弱い人がいます。
この違いは、何なのでしょうか?
その秘密を探りながら、マインド、食事などライフスタイル面からの対策をお伝えしたいと思います。
2.五月病を乗り切る知恵と工夫
2-1.マインド編
五月病になりやすい性格傾向があります。うつ病になりやすい人ととても似ています。
2-1-1.五月病になりやすい性格傾向とは
・完璧主義である
・生真面目である
・責任感が強い
・普段周囲に合わせがち
・自己主張が苦手
・自分より他人を優先しがち
A型気質のthe日本人的とでも申しましょうか。
私自身も、本来はこれに当てはまってしまう性格で、ストレスに大変弱いことを自覚しております。
一度、ストレス障害で倒れて働けなくなった時から、この性格を意図的に手放そうと努力してきました。
もちろん、小さい頃から身につけた性格傾向を手放すのは大変であることは、私自身も経験から重々承知していますが、これは後々の心身の健康のために大変重要です。
2-1-2.「ちゃらんぽらん」を許す
「完璧にやらなきゃ」「真面目でなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」といった自己暗示。
これは逆に言えば「完璧でない自分」「不真面目な自分」「ちゃんとしていない自分」を許せず、他人からも認められないし、嫌われると思い込んでいる為に起こります。
ダメな自分であっても、他人から嫌われることはないし、キャラクター全てを愛されるということが心底信じられていれば、「ダメな自分を他人に見せても大丈夫」と思うことができ、ダメな自分を許すことができます。
要するに、自分が自分を許せない為に起こる訳ですが、これには「自己愛」が関わっています。
自分を認めて愛することは、自分を労わるヘルスケアにおいてもとても大切なマインドです。
詳しくは、『「愛」を上手にするためのレッスンSTEP1』をご参考になさってください。
2-1-3.「甘える」を許す
真面目な完璧主義を手放せないでいると、職場でも「完璧な仕事」をし、自宅でも「理想の妻」「理想の親」であることを貫こうとしてしまいます。
在宅でのテレワークが基本の今、従来通りの仕事を家に持ち込み完璧にこなしながら、三度三度の食事に掃除、子育て。
これらを全てこなそうとすると、当然ながらパンクします。
「ごめんね!」とウインクしながら、家族に甘えられる人は良いのですが、「完璧でなければならない!」と思い込んでいると、甘えることができません。
上手に甘えられることは、ダメな自分を相手にさらけ出すことにも繋がります。
「ダメな自分でも愛される」。だから、「甘えても大丈夫」。
2-1-4.喧嘩を許す
運命共同体であるパートナーに強がっていると、関係性が持続しません。ダメな自分もこれを機にさらけ出してしまいましょう。
他人に合わせがちな人は、家庭でもパートナーと喧嘩にならないように自分を殺しがちです。でも、自分の本質を歪めることは、ストレスになります。
一旦喧嘩になる可能性もありますが、進歩には痛みがつきものです。本音と本音をぶつけられる関係性は健全で、ストレスなく続けられるものになります。
2-1-5.強さよりも弱さを受け入れる勇気
同じストレス状況下にあっても、その人の感じ方によって影響が変わります。
強い心を持つというよりも、これまで「ダメだ!」とブロックしていたことを許容してみることが大切ですが、自分を変えるには少しの勇気が必要です。
これまでの自分を変えることは、安定を手放すことになり、恐れを伴いますが、勇気を持って取り組んでみてください。
2-2.食生活・栄養バランス編
ストレスがかかり続ける状況で、心と体のバランスを保つ為には、神経伝達物質やホルモン、体内酵素の分泌が十分である必要があります。
それらは、口から摂取する栄養素を原材料に作られますので、栄養素を十分に摂取することが大切になります。
2-2-1.タンパク質
神経伝達物質や酵素の原材料は、タンパク質です。
また、ストレスに対応する副腎皮質ホルモンや更年期において女性の心身のバランスを保つ為に必要な女性ホルモンは、コレステロールを原材料にして作られますが、原料となるコレステロールを肝臓から副腎に運搬するには、タンパク質が必要です。
肉、魚、卵、豆製品などのタンパク源は、ストレス状況下では必須の栄養素です。
ストレスで胃の働きが悪くなると消化不良になり吸収率が落ちますので、しっかりよく噛んで食べるようにしましょう。
2-2-2.ビタミンC
実は、副腎はビタミンCを最も必要とする臓器です。副腎でホルモンの生産・代謝をするには、ビタミンCが必須の栄養素です。
ストレスがかかるとビタミンCはすぐに消費されてしまう為、ストレス状況下ではニーズが増します。
柑橘類やキウイフルーツ、キャベツ、ブロッコリー、大根、パプリカなどに豊富です。
こまめに摂る場合は、サプリメントで補給することも効率が良いでしょう。
2-2-3.ビタミンB群
副腎がストレスホルモンを分泌する際には、ビタミンB群も必要です。副腎には特に、B5(パントテン酸)が豊富で、代謝にはナイアシン・B6も必要です。
また、ミトコンドリアのエネルギー代謝やセロトニンなどの神経伝達物質の分泌にも必須です。
ビタミンBは、単独ではなく連携して働く為、ビタミンB群(Bコンプレックス)として摂取する必要があります。
葉酸は、その名の通り葉物野菜に含まれていますが、それ以外のビタミンB群は、動物性の食品に主に含まれています。
こちらもなかなかバランスよくは摂取しづらい必須ビタミンである為、ベースサプリメントとして摂取するのも効率が良いでしょう。
2-2-4.マグネシウム
副腎のホルモン代謝を回す為に必須なのがマグネシウムです。また、こちらもミトコンドリアのエネルギー代謝や神経伝達物質の分泌をサポートします。
カルシウムと共同で働く為、両方摂ることが必要です。
海藻類には、両方が含まれています。
これらも必須ミネラルであり、サプリメントで補給する場合は、Ca:Mg=1:1~2:1が理想のバランスです。
2-2-5.亜鉛
亜鉛は、自律神経とホルモン分泌の脳の中枢である視床下部や下垂体と、副腎を繋ぐネットワークの機能維持に不可欠です。
また、ミトコンドリアのエネルギー代謝、さらにストレスによって体に増える活性酸素を消去する酵素には亜鉛が不可欠です。
亜鉛が不足すると、体はサビついて動かなくなります。
ストレスがかかると摂取が増えがちなカフェインやアルコールでも消費されるので、注意しましょう。
亜鉛が豊富な食品といえば、とにかく牡蠣がダントツです。ナッツやチョコレート、納豆などにも含まれます。
2-2-6.鉄
特に、月経のある女性でストレスに弱い人は、鉄不足に注意する必要があります。
貧血と診断されていなくとも、体の中の鉄の貯金である貯蔵鉄が不足する「隠れ貧血」は、月経のある女性の7割とも言われています。
鉄は、セロトニンなどの神経伝達物質の合成や活性酸素を消去する酵素の合成に不可欠です。
「隠れ貧血」かどうかは、こちらのチェックリストを試してみてください。
効率的な鉄の補い方もご参考に。
2-3.ライフスタイル編
ストレス状況下では、通常、交感神経を休めて副交感神経を高める方法が推奨されます。
ただし、五月病の場合は、交感神経が刺激され過ぎて、副交感神経にスイッチが振り切れている状況です。
その為、単純に副交感神経を高めてリラクゼーションをしようとするますます怠さが増長する可能性があります。
かといって、交感神経は仕事をし過ぎて過労で倒れているようなものですから、ここにはっぱをかけるのも逆効果です。
過労状態の交感神経を休めながら、交感神経と副交感神経のリズムを取り戻すことが必要です。
2-3-1.自分が負担に感じるものをやめる
まず、交感神経を刺激するストレス源を一旦は排除することが必要です。
決まったものはなく、自分自身が「やりたくない」「できない」と感じていることをやめ、「楽しくできる」「これならできる」と感じるものは継続しても大丈夫です。
あれはできるがこれはできないという基準が人によって違う為、他人から見るとあたかもサボっているように感じられてしまうかも知れません。
でも、決してそうではなく、それが、適応障害としての五月病です。
自分にとってのストレス源こそが、元凶になりますので、自分の基準で選択しても良いのです。
家事であれば、家族に理解をしてもらえば可能かも知れませんが、仕事においてはそうもいかないケースが多いと思います。
身近に相談に乗ってもらえる上司や同僚に相談したり、場合によっては産業医に相談をして、職場環境を整えてもらうことも必要です。
一人で抱え込むことが最も悪化させる原因になりますので、ここでも、早めに誰かに甘えることです。
2-3-2.生活リズムを整える
自律神経は、活動する昼間は交感神経モード、リラックスする夜間は副交感神経モードに切り替わるというリズムがあります。
ストレスがかかり続けて、交感神経モードが続き過ぎた結果、副交感神経モードに完全に切り替わってしまった状態が、五月病です。
このリズムを優しく整えるには、睡眠のリズムを整えて体内時計を乱さないことです。
しんどいからと、日中に眠り続けてしまうと体内時計が狂ってしまい、リズムが完全に狂ってしまいます。
簡単な体内時計の整え方は、まず、朝しっかりと起きて明るい日差しを浴びること。次に、日が暮れたら頭を使う作業を一切やめ、ゆったりして眠りにつくことです。
2-3-3.スマホやパソコン、テレビをオフ
ストレスの原因として、メディアから流れてくるストレスフルな情報があります。
不安や恐怖を増長するような情報は、意図的に遮断して、心を守りましょう。
その代わり、小説を読んだり、映画を観たりして、現実世界から離れましょう。
スリル満点のサスペンスやホラーは、交感神経を刺激して逆効果です。
コメディや幸せな恋愛もの、ワクワクするファンタジー、ハートフルなホームドラマなどがオススメです。
今は、とてもストレスフルな状況ですが、この状況を乗り切るには、ストレスに対する適応能力が必要不可欠です。
私自身も自分の性格からストレスには弱いタイプである為に、マインドセットを変え、栄養素を不足なく補い、ライフスタイルを整えることに日々集中しています。
意識して続けることで、ストレスに対して以前よりも強くなり、大変な状況下でも心身を保つことができるようになりました。
人生においてストレスは腐れ縁の悪友のようなものです。
上手い付き合い方を身につければ、人生が楽になりますから、これを機にぜひ、取り組んでみてくださいね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか