皆さま、こんにちは。
医師で予防スペシャリストの桐村里紗です。

フェムテックやフェムケアがヘルスケア分野において一つの地位を確立してきた昨今。
でもまだ「更年期・閉経(menopause/メノポーズ)」というキーワードは、世界の女性たちにとってネガティブで触れたくない話題の一つに位置づけられているようです。

更年期から閉経期をメノポーズと言いますが、合わせて「メノ期」と呼びましょう。
そんな中、自身のメノ期の体験や価値観を積極的に発信する著名人が増えています。

最近は、ハリウッド女優が起業して自身のライフスタイルブランドを立ち上げる例が増えていますが、中でもグウィネス・パルトロウは、「閉経」の地位向上に積極的。
「閉経」をネガティブなワードにしたくないと自身の立ち上げているライフスタイルブランド“Goop”で、自身のメノ期の体験について積極的に、更年期以降の世代の女性のためのサプリメントなども展開しています。

がん予防という名目で卵巣と卵管を摘出し、医療的に40代前に閉経したアンジェリーナ・ジョリーは、「閉経は(女性にとっての)終わりではない」と言い、むしろ女性としてこれから成熟していくことの期待をインタビューで語っています。
彼女の大胆な選択には、いつも驚かされ、賛否が分かれますが、常に自分の決断に自信と責任を持ち、揺るがない姿を示すことで、多くの女性に勇気を与えているのも事実です。

メノ期の諸症状は、多くの人にとって不快で、QOL(生活の質)の低下につながります。
QOLを保ちながら、メノ期をポジティブに過ごすためのヒントについて考えてみます。

1.更年期から閉経期:メノ期のQOLとライフスタイル

卵

卵巣機能が停止して、排卵しなくなることは生物として避けようのないプロセスです。
出産年齢を終えるということを意味しますが、女性として終わりなわけではありません。

生殖を終えると死んでしまう生き物もいますが、人間は違います。
人間は、生殖のためだけでなく、コミュニケーションや愛情表現、楽しみとして性を楽しむことができる高度に文化的な生き物です。
日本は恥じらいやタブー意識が強く消極的ですが、欧米では、高齢者も十分にセクシャルライフを楽しんでいます。

ですから、女性として終わりだと嘆く必要はありません。
むしろ、月経という煩わしさからも解放され、毎月のホルモンの乱高下からも解放され、心身が安定することを喜ぶ人もいます。

一方で、気をつけたいのは、更年期のホルモンの乱高下による自律神経の諸症状、そして女性ホルモンの低下による諸症状。
ここをケアすれば、QOLの低下を防ぐことができます。

1-1.更年期から閉経期の諸症状

メノ期には、色々な症状や疾患リスクが高まります。

女性ホルモンの作用自体が低下することと、女性ホルモンの乱れによって自律神経が乱れることによって起こります。
更年期障害と閉経後の症状は重なる部分もあります。

1.更年期症状

・ほてり、のぼせ、発汗、ホットフラッシュ
・めまい
・動悸
・胸の締め付け感
・頭痛
・肩こり・腰痛・背部痛
・関節痛
・冷え
・痺れ
・疲れやすさ
・抑うつ感
・イライラ感
・不眠
・もの忘れ

肩こりの女性

2.閉経期:女性ホルモン低下による症状・疾患

・動脈硬化:高血圧・狭心症・心筋梗塞・脳梗塞
・コレステロール上昇
・骨密度低下
・排尿障害
・膣や外陰部の乾燥・痒み・灼熱感・痛み
・太りやすさ
・抑うつ感
・不眠
・もの忘れ
・皮膚の乾燥・シミ・シワ・たるみ

2.QOLとは何か?

QOL(Quality of life)とは、生活の質を意味します。
人生の質といっても良いでしょう。
ただ、生きるだけでなく、人はより良く生きることで幸せを感じるものです。

肉体的、精神的、社会的、経済的など人生を取り巻く全てにおいて、QOLが保たれていることが大切です。
様々な原因によってQOLが低下することが幸福度の低下、ウェルビーイングの低下につながります。

原因は様々ですが、身体的、精神的に不調があることで、生活や仕事がままならなくなることはQOLの低下に直結します。

更年期障害や閉経後に起こる様々な心身の変化がQOLの低下を引き起こすと、人生の彩りが失われてしまいます。

3.働く世代に関連するQWLとは?

QWL 働く女性

また、最近では働く女性も多く、定年が60歳とすると、更年期から閉経期は、まだまだ現役の時期です。

職業生活の質のことを、QWL(Quality of Working Life)と言いますが、更年期から閉経期にかけての諸症状によって、QWLが低下する可能性も大いにあります。

やりがいを持って働いていても、心身がアンバランスとなっては十分に自身の能力を発揮して活躍ができません。

QWLは、人生の充実度や自己肯定感などにも大いに関連します。

QOL、QWLを保つためには、症状に振り回されず、安定した心身を保つことが大切です。
閉経させないようにすることはできませんが、乱高下したり低下する女性ホルモンの影響を小さくする工夫を日々積み重ねていくことが大切です。

4.メノ期こそ食生活を整える

卵巣機能の停止は避けられませんが、その影響を小さくするために、また誤った食生活による悪影響を避けるために、食生活を整えることは重要です。

4-1.メノ期にNGの食生活

NG食生活をまず避けましょう。

女性ホルモンの影響で乱れる自律神経をさらにアンバランスにするような食生活。
そして、動脈硬化の影響を悪化させるような食生活はNGです。

注意すべきは、以下。

1.高糖質

大盛りご飯

血糖値の乱高下は、自律神経の乱れを悪化させます。
ただでさえ動悸がするのに、血糖値の乱高下で動悸や発汗が起こることもあります。
砂糖を含む甘いものは控えめに。
野菜やタンパク質などのおかずをしっかり食べて、ご飯は最後に、軽くお茶碗1杯程度ずつが目安です。
血糖値の上昇は動脈硬化にも影響します。

2.質の悪い脂質

脂質は、摂取してはダメということはありません。
細胞の膜の原料となるので、質の良い油はむしろ積極的に摂取しないと細胞が老化します。
一方で、現代人は質の悪い油を摂りすぎ。これが細胞の老化や動脈硬化を悪化させます。

加工食品に含まれる加工油脂・植物性油脂、マーガリン、ショートニングなどは劣化していると考えて控えましょう。
オメガ6系脂肪酸であるサラダ油、ひまわり油、コーン油、紅花油、大豆油なども控えたい油。

オメガ3系脂肪酸を多く含むえごま油、あまに油、麻の実油、また天然の魚の脂(EPA/DHA)を積極的にとることで動脈硬化を予防しましょう。

これらを多く含む加工食品やインスタント食品、ファストフードなども当然ながら控えたい食品です。

カップヌードル

4-2.メノ期の基本の食生活

以上のものは控えるとして、メノ期に重要なのは、腸内環境を整える食生活と豆類を積極的にとることです。

1.豆類を日常的に

メノ期をサポートする代表食は、豆類です。
豆類に含まれるイソフラボン・ダイゼインは、腸内のエクオール産生菌によってエクオールに転換させられることで女性ホルモン様作用を発揮して、体内の女性ホルモンの乱高下や低下というゆらぎを防いでくれます。

大豆だけでなく、小豆やその他の豆類を日常的に取り入れましょう。

2.腸内環境を整える食生活

味噌

これは、いつの時期にも普遍的に大切なことです。
腸内環境は全身の健康の土台になります。腸内環境が乱れると、炎症が起こり、全身が酸化し、老化します。動脈硬化を悪化させる原因になります。

腸内環境の悪化は、体内のエクオール産生菌の活動を低下させる可能性があります。大豆製品だけでなく、腸内の有用菌をサポートしてくれる発酵食品や食物繊維を多く含む食品をバランスよく食べましょう。
また、骨密度を保つには、カルシウム代謝に関わるビタミンDが必要ですが、腸内環境が悪いと体内のビタミンDの活性が低下することも分かっています。

腸内環境を良好に保つことで、ミネラルの吸収も良くなります。

腸内環境を整える食事は、和食の基本と言われる方程式。
ま・ご・わ・や・さ・し・い・(こ)です。

ま:豆類
ご:ゴマなど種子類、ナッツ類
わ:ワカメなど海藻類
や:野菜 根菜類をアップリ
さ:魚 EPA・DHAは腸内の炎症も抑える
し:しいたけなどキノコ類
い:芋類
こ:穀類 精製されたものではなく主に雑穀や分づき米を

その他、骨密度に重要なコラーゲンの原料であるタンパク質やビタミンCなどもバランスよく摂取しましょう。

4-3.メノ期をサポートするサプリメント

食生活だけでは難しいところは、日常的なサプリメンテーションをお勧めします。

特にコロナ禍にビタミンDの血中濃度が激減している人が増えていますし、エクオールの産生は原料となる豆類を毎日食べても腸内のエクオール産生菌の活躍次第。安定供給には外から補うことが良いですね。

1.ビタミンD/K・カルシウム/マグネシウム

カルシウムとマグネシウムは、ブラザーミネラルと言われ、骨の形成にはいずれもがバランスよく必要です。2:1~1:1で含まれたサプリメントを選びましょう。
カルシウムの吸収にはビタミンDが不可欠、骨への定着にはビタミンKが不可欠です。最近のサプリメントはこれらがバランスよく含まれているものがあります。

2.エクオール

エクオールは、更年期障害に対し多くのエビデンスを持つサプリメントで、全国の婦人科や整形外科などでもメノ期の患者さんに対して勧められています。
閉経を迎えた​​​​50〜55歳の60人に対して行われたエクオール10mgとレスベラトロール25mgを投与した試験(※)では、プラセボ群との比較で、膣の乾燥、心臓の不快感、性的問題について有意な改善、また、12週目には、仕事と活動において有意な改善が認められ、QOLの改善が確認されたと報告されています。
※ Maturitas 96 (2017) 77–83

5.まとめ

更年期のQOLの向上 自然の中で深呼吸をする女性

メノ期をポジティブに乗り切るには、症状に振り回されない基本的な生活の工夫を怠らないこと。
その上で、閉経をネガティブに捉えず、閉経後の人生を楽しむつもりでポジティブに意識をシフトすることです。
世界中の女性が経験することですから、みんなで乗り切りましょう。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか