皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。

「男性更年期」という言葉を、聞いたことがあるかも知れません。
女性の更年期障害のように、疲労や倦怠感、抑うつなどのメンタルの不調、さらに性欲の減退などが、働き盛りの男性に起こり、日常生活だけでなく、仕事、キャリアにも支障をきたし、家族をも巻き込んで、人生を狂わせてしまうこともあります。

女性の更年期障害よりも新しい概念で、本格的に認知され、治療が開始されたのは10年ほど前からになります。

本人だけでなく、家族など近しい人の理解も必要な男性更年期障害について詳しくお話しします。

1.男性更年期障害:LOH症候群とは

男性更年期障害は、年齢と共に男性の元気の源である男性ホルモンが減少することに伴って、身体や精神、そして性機能低下など諸々の症状が現れる疾患です。

1-1.男性更年期障害の定義

具合の悪い男性男性更年期障害は、正式には、「加齢男性性腺機能低下症候群」(LOH 症候群:late onset hypogonadism)と呼ばれています。

加齢に伴い、男性ホルモン・テストステロンの低下と、それに伴う典型症状があり、生活の質(QOL)を著しく損ない、多臓器にわたる機能不全を起こす症候群とされています。

大切なのは、適切な対処で、男性のヘルシーなエイジング、健康的な加齢を実現することです。

1-2.男性更年期障害の10の典型症状

男性更年期障害の典型的な症状は、以下のようなものです。
「年のせい」と片づけられやすい症状は、実は、男性更年期障害の一環かも知れません。

通常、男性においては、女性の閉経のように、急激な性ホルモンの低下を起こしづらく、徐々に減少することが一般的で、顕著な症状が出づらいことも多いのですが、ストレスや生活習慣の乱れなどによる急激な変化で症状が出やすくなります。

1.性欲が減退し、勃起しづらい。夜間睡眠時や朝の勃起が起こらなくなった。
2.知的活動、認知機能等の低下、および、抑うつ、短気などに伴う気分変調 
3.疲労感や倦怠感が抜けない
4.睡眠の質と量の低下
5.筋肉量と筋力の低下
6.内臓脂肪の増加、メタボ体型
7.体毛が減り、皮膚がたるむ
8.骨粗しょう症と骨折リスクの増加
9.関節痛、筋肉痛、頭痛などの痛み
10.発汗やほてり、手足の冷え

更年期障害に悩む男性

2.男性更年期障害のセルフチェック

男性更年期障害については、Aging malesʼ symptom(AMS)スコアという質問表が用いられます。
一度、セルフチェックしてみてください。

ハイネマンのAMSスコア
ID        名前           様     才
症状 ない 軽い 中程度 重い 非常に重い
点数 1 2 3 4 5
1

総合的の調子が思わしくない
(健康状態、本人の感じ方)

1 2 3 4 5
2

関節や筋肉の痛み
(腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み)

1 2 3 4 5
3 ひどい発汗
(思いがけず突然汗が出る、緊張)
1 2 3 4 5
4 睡眠の悩み
(
寝付きが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが早い、疲れが取れない、浅い睡眠、眠れない)
1 2 3 4 5
5 よく眠くなる、しばし疲れを感じる 1 2 3 4 5
6 いらいらする
(当たり散らかす、些細なことにすぐに腹を立てる、不機嫌になる)
1 2 3 4 5
7 神経質になった
(緊張しやすい、精神的に落ち着かない、じっとしていられない)
1 2 3 4 5
8 不安定
(パニック状態になる)
1 2 3 4 5
9 身体の疲労感や行動力の減退
(全体的な行動力の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分をせかさないと何もしない)
1 2 3 4 5
10 筋力の低下 1 2 3 4 5
11 ゆううつな気分
(落ち込み、悲しみ、涙もろい、食欲がわかない、気分むら、無用感)
1 2 3 4 5
12 「人生の山は通り過ぎた」と感じる 1 2 3 4 5
13 力尽きた、どん底にいると感じる 1 2 3 4 5
14 ひげの伸びが悪くなった 1 2 3 4 5
15 性的能力の衰え 1 2 3 4 5
16 早期勃起(朝立ち)の回数の減少 1 2 3 4 5
17 性欲の低下
(セックスが楽しくない性交の欲求が起こらない)
1 2 3 4 5
合計 点   

 

2-1.合計点の評価

・問題なし:17〜26点
・軽度:27〜36点
・中等度:37〜49点
・重度:50点以上

気になる症状が続き、AMSスコアの合計点が37点以上と中等度以上の場合は、病院に受診して相談をしてみましょう。
泌尿器科の分野ですが、特に「メンズヘルス外来」「男性更年期外来」などの専門外来を設けている医療機関の受診をお勧めします。

3.男性更年期障害:LOH症候群の診断

カルテと聴診器

男性更年期障害の診断は、男性生殖器の機能評価から始まります。

3-1.ホルモン検査

・遊離型テストステロン(フリーテストステロン)
男性更年期障害を疑う場合、まずは、血液検査で遊離型テストステロン(フリーテストステロン)という男性ホルモンを調べます。
遊離型テストステロンは、20代を境に、年齢と共に減少します。

・副腎ホルモン
加齢によって低下するDHEAやDHEAsという副腎から分泌されるホルモンを老化の指標として測定します。

・視床下部・下垂体ホルモン
性ホルモンは、脳の中枢部から分泌される性腺刺激ホルモンの指令によって分泌されています。
視床下部や下垂体の腫瘍や外傷、薬物などの影響で、分泌が低下すると、男性ホルモンの分泌も低下します。
また、プロラクチンという乳汁分泌ホルモンも男性ホルモンを低下させます。

3-2.その他の血液検査

重篤な内科疾患やその他のホルモン異常を伴う疾患、前立腺疾患(前立腺肥大や前立腺がん)が無いかどうかの診断に使います。
生活習慣病を伴っているケースも多いため、身体の状態の全般的な把握に使用します。
一般的な血液・生化学検査や前立腺の腫瘍マーカーPSAなどを測定します。

また、 ホルモン補充療法(ART)に伴う治療前、治療経過の評価のためにも参考にします。

3-3.泌尿器科的検査

前立腺や外陰部などの男性生殖器、体毛などの状態を触診やエコーなどの画像検査で評価します。

3-4.その他の検査

骨塩量の検査や、内臓脂肪量の評価などを行うこともあります。

病院で検査を受ける

3-5.うつ病との鑑別

男性更年期障害に伴う抑うつ症状と、うつ病は、精神症状は似通っており、密接に関連しています。
大切なことは、「うつ病だ!」と断定して、抗うつ薬の投与のみで治療を行なっても、男性ホルモンの低下に伴って精神症状が出ている場合には、根本的な解決にならないということです。

そのため、男性更年期障害が起こりうる年代で、抑うつ症状が起こったら、「男性更年期障害では無いかな?」という疑いを持ち、必要な検査を受けることです。

男性更年期障害の診断には、泌尿器科受診が必要ですが、抑うつ症状を伴う場合は、精神科とも連携して治療が進められることもあり、ケースバイケースです。

4.生活習慣の改善

深呼吸をする男性

投薬治療を行う前に、必須で行うべきことは、生活習慣の見直しです。
ストレスや生活習慣の乱れは、女性と同じく、繊細な男性のホルモン分泌に影響を与えます。

4-1.ストレスを溜めない

女性と同じく、男性にとってもストレスによる自律神経の乱れは、男性ホルモン分泌を乱す最大の原因です。
自律神経の中枢と性ホルモン分泌の中枢が近いため、影響を受けやすいのです。
仕事にストレスはつきものですが、意図的に、ストレスリリースを毎日行うようにしましょう。

4-2.睡眠リズムを整える

睡眠リズムを整えることは、自律神経を整えるために何よりも重要です。
夜の付き合いなど、仕事上、どうしても避けられない場合を除いて、なるべく夜はゆったりと自宅で過ごし、仕事を持ち帰らないことをお勧めします。

スマホやパソコンのブルーライトは、覚醒を促すため、睡眠の大敵です。

4-3.亜鉛やタンパク質をしっかりと摂取する

性ホルモンの分泌に亜鉛は欠かせない栄養素です。
牡蠣にダントツで多く、肉類にも含まれますが、加工食品やファストフード、インスタント食品に含まれるリン酸塩系の添加物は、亜鉛を腸から排泄し、亜鉛不足を引き起こす原因になります。
こうした食品を避けることも重要です。
栄養バランスが取れない場合は、サプリメントで亜鉛を補給するのも一つの手です。

性ホルモンが十分に働くためには、タンパク質のサポートが欠かせません。
タンパク質を含む肉類や卵、魚、豆製品などをバランスよく摂取しましょう。

4-4.運動で筋肉を刺激する

筋肉を刺激すると、筋肉を増やす働きがあるテストステロンの分泌が増えます。
ゆったりとしたウォーキングなどは、リラクゼーションには良いですが、テストステロンの分泌のためには、筋肉に負荷をかける筋トレや、ややハードな運動も必要です。

5.男性更年期障害の治療

薬

男性更年期障害の治療として、まずは、男性ホルモン補充療法(ART)があります。
治療を受けるには、条件があります。

まず、40歳以上の男性であることが第一条件です。
その上で、遊離型テストステロンの血中濃度により、適応が決められます。

・遊離型テストステロン:8.5pg/ml未満の場合
心身の不調が顕著であれば、男性ホルモン補充療法(ART)を第一選択に行います。

・8.5〜11.8pg/ml未満の場合
症状や状態の重症度を踏まえ、リスクとベネフィットを考慮した上で、治療の選択の一つとして考える。

・11.8pg/ml以上の場合
男性ホルモン補充療法(ART)は行わないで、症状に応じた治療を行う。

5-1.男性ホルモン補充療法(ART)

保険適応となるのは、注射剤ですが、外用剤もあります。

上記の条件を満たすことに加えて、前立腺がんがないこと、前立腺腫瘍マーカー(PSA)の値が低いこと、重度の肝機能・腎機能障害を有さないことなどの諸条件を満たしていることを専門医が確認してから、本人の同意を得た上で、治療の適応を判断します。

5-2.その他の治療

男性ホルモン補充療法(ART)と併せて、それぞれの症状に応じて治療を行います。

・性機能症状:
ED治療薬を投与する場合があります。

・精神症状:
精神神経科医・心療内科医と相談しながら、抗うつ薬・抗不安薬を投与します。

・身体症状:
骨粗鬆症に対しては薬物療法。
また、筋力低下に対しては、適度な運動などの生活習慣の改善を行います。

6.家族や周囲の人のサポートが不可欠

手をつなぐ家族

女性の更年期障害と同じくですが、男性更年期障害においても、家族や周囲の人のサポートと理解が欠かせません。

普段と同じ生活をしているはずなのに、肉体的な疲労感や倦怠感が抜けず、やる気や集中力も減退します。
仕事の能率も下がる上に、家でも家事の分担や休日の外出、旅行なども億劫になります。

本人にとっては、心身が辛い状態ですが、家族や周囲の人から見て「サボっている」「非協力的」などと誤解されかねません。

そうした誤解を避けるために、家族や周囲の人の理解が不可欠ですし、適切な診断を受けて必要な生活習慣の改善や治療を受けていくことも大切です。
症状がすぐに改善するとも限りませんし、治療の過程では、家族や職場の仲間のサポートが必要になります。

本人もコントロールが効かない状況で、十分理解やサポートが得られないことで、余計に精神的に抑うつ的になってしまいがちです。

女性も男性も、更年期障害は、誰にでも起こりうるもので、相互理解と協力が欠かせません。
お互いを思いやる心が大切ですね。

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医師

桐村 里紗

【総合監修医】
tenrai株式会社代表取締役医師
愛媛大学医学部医学科卒。
臨床現場において、生活習慣病から在宅医療、分子栄養療法やバイオロジカル医療を用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。「ヘルスケアは、カルチャーへ」というコンセプトを掲げ、ヘルスケアの「意味」を再定義し、様々なメディアでの発信やプロダクト監修を行っている。
ニオイ評論家としてフジテレビ「ホンマでっか!?TV」「とくダネ!」などメディア出演多数。著書に『日本人はなぜ臭いと言われるのか~口臭と体臭の化学』(光文社新書)ほか多数。

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