更年期に太るのはなぜ? ホルモンバランスの乱れの整え方と生活習慣改善のすすめ
こんにちは、WELLMETHODライターの廣江です。
更年期に入ると、なぜ若い頃に比べて太りやすくなるのでしょうか。
「若い頃に買ったスーツを着たらパツパツになっていた」
「ノースリーブを試着したら二の腕が部分からお肉がはみ出ている」
「背中をみたら、下着がお肉に食い込んでいる」
「パンツはついゴムのものを選びがち」
など…若い頃は想像もしていなかった体の変化を、筆者自身もこの年になり経験することがありました。
生活習慣は昔から変わらないはずなのに…と思いつつも、あの頃に効果のあったダイエットもやってみたりしますが、いまとなっては効果はイマイチ。
むしろ体重増加が止まらない、なんてこともあります。
「女性は、更年期になると太りやすくなるもの、仕方ない」
なんて、よく言われますが、いくつになっても体型をキープできている女性をみると素敵だな、自分もそうでありたいな、と思いますよね。
更年期だからといって、この太りやすさは本当に諦めていいのでしょうか。
「更年期太りはいつまで続くの?」
「太っているのではなくむくみなの?」
「更年期太りを解消するためにはどんな方法があるのだろうか」
など、悩みは尽きませんよね。
実は、更年期と太りやすさは密接な関係があります。
また、諦めずに工夫することで、太ることを防止することは可能です。
今回は体型変化が気になる女性に、太る理由や適切な対処方法についてご紹介します。
1.女性は更年期に太りやすい
更年期は女性の人生の中でも、とても太りやすい時期の一つといわれています。
一般的に更年期は閉経を挟んで前後5年間の計10年間のことを指します。
閉経の平均が50歳ころなので、その前後5年間の45~55歳頃が更年期とされています。
下のグラフは、「平成30年国民健康・栄養調査」による30代、40代、50代の平均身長と体重を示しています。
30代から50代になるにつれて平均の体重が増加しており、更年期の女性は太る傾向にあることが読み取れます。
参考)
https://www.mhlw.go.jp/content/000681200.pdf
2.更年期の太りやすさの原因とは
では、更年期になるとなぜ、太りやすくなるのでしょうか?
更年期の太りやすさについて、明確なメカニズムは解明されていませんが、いくつかの複合的な要因により、肥満の要因となっていると考えられています。
2-1.加齢や閉経による運動量の低下や筋力の低下
運動機能は、日常の活動度や性別などによる個人差がありますが、一般的に、加齢に伴い運動機能の低下がみられます。
また、筋肉量も加齢とともに減少しやすくなります。
日本人筋肉量の加齢による特徴の報告(※)では、女性において20代と80代を比較した際、もっとも筋肉量の低下がみられるのは下肢で、次に全身、腕、上腕の順に減少がみられます。
参考 老年医学学会第47巻1号より「日本人筋肉量の加齢による特徴」
2-2.エネルギーの摂取と消費のアンバランス(摂取量>消費量)
私たちが呼吸をする・体温を保つ・心臓を動かすときなど、何もせずじっとしていても消費されるエネルギーを基礎代謝といいます。
この基礎代謝量は、18歳がピークで、その後徐々に低下していき、50代からは老化による筋肉量の低下とともに、平均体重の増加にも関わらず減少が目立ってきます。
そのため、食事量や運動量が変わらないように見えても、中高年になると基礎代謝量が落ち、消費されるエネルギーが少なくなり、閉経するとその傾向は著明に進みます。
摂取エネルギーが多く、消費エネルギーが少なくなると、余ったエネルギーは体脂肪となり体に蓄積されます。
そのため、更年期は、摂取と消費されるエネルギーバランスが崩れて、更年期太りにつながりやすくなります。
2-3.エストロゲンと肥満の関係
エストロゲンには、E1(エストロン)、E2(エストラジオール)、E3(エストリオール)の3種類があります。
エストロゲン(主にE2)は、脂肪蓄積・塩分水分貯留を促進する作用があります。
一方、プロゲステロンはエストロゲンを抑制する作用があります。
更年期のほか、生活環境因子、食習慣、運動不足が原因で、プロゲステロン低下またはエストロゲン過剰を引き起こすことで、エストロゲン優勢状態になります。
更年期に入ると、閉経に向いエストロゲンが減少することが知られていますが、プロゲステロンの分泌も減少し停止します。
このプロゲステロンの分泌不全は、閉経前のエストロゲンの減少より前に起こり、一時的に「エストロゲン優勢」が起こります。
その結果、プロゲステロンの影響を受けないエストロゲン優勢の状態では、脂肪の蓄積と水分貯留を促進することとなります。
また、エストロゲンの優勢状態は、甲状腺ホルモンの働きを妨げるほか、細胞内酵素活性を低下させ、Naと水分貯留の促進、血栓症のリスクにもつながります。
これらはすべて、代謝と血流を悪化させるため、肥満やむくみを引き起こす要因となります。
エストロゲンは、余った脂肪を皮下脂肪として蓄える役割を果たしているため、エストロゲン優勢の場合には、下腹部や太ももに脂肪がつきやすく、洋ナシ型体形になりやすい傾向があります。
エストロゲンにはコレステロールの値を正常化する働きがあり、閉経後エストロゲンが減少すると、悪玉コレステロールが上昇しやすくなり、脂質代謝異常と内臓脂肪の蓄積がおきやすくなります。
また、レプチンという「抗肥満ホルモン」は、脂肪細胞から分泌され、脳の満腹中枢に作用し食欲を抑制します。エストロゲンはレプチンの分泌を促進しますので、閉経するとレプチンは減少し、食欲が増し間食がやめられなくなったりしている可能性があります。
2-4.男性ホルモンの相対的高値
更年期の女性のエストロゲン・プロゲステロンの分泌は急激に減衰しますが、男性ホルモン(テストステロン)は緩やかな下降を示すため、テストステロンが相対的に高いホルモン環境になります。
テストステロンの相対的高値になることで、性ホルモン結合グロブリン(Sex Hormone-Binding Globulin; SHBG)(※)が次第に低下していきます。SHBGは肥満に対し保護的役割があると考えられているため、肥満を助長する事になります。
テストステロンは、男性の活力の源とされており、性欲やバイタリティーだけでなく、自信を与え、心臓病、肥満、アルツハイマー病を予防し、女性にとっては美肌や性欲、バイタリティーを保つ作用があります。
しかし、女性にとってテストステロンが高値の場合には、短気や顔ひげ、多毛あるいは男性型脱毛症、にきび、不安、不眠などの症状が出やすいとされています。
ほか、インスリン抵抗性や甲状腺機能低下、多嚢胞性卵巣症候群につながる可能性もあります。
そのため、テストステロン優勢となると、内臓脂肪型肥満、つまり男性に多いとされるリンゴ型体形になりやすくなる可能性を考える必要があります。
(※)性ホルモン結合グロブリンとは:
主に肝臓で合成され、血中に分泌される糖蛋白。
従来、性ホルモンのキャリアとして働くとされているが、近年ではSHBGの血中濃度が肥満や糖・脂質代謝と関連し、糖尿病や脂質異常症の病態マーカーとして有効であり、SHBG自体にも糖・脂質代謝調整作用がある可能性が示唆されている。
2-5.自律神経の乱れ
更年期に体重が増える原因として、自律神経の乱れの影響が考えられます。
自律神経の乱れはイライラを感じるなど、精神的に不安定になりやすくなります。
そのため、さらに甘いものを欲する、食欲にムラが出る、過食気味になるなど、食生活も乱れやすくなり、その結果、ますます太りやすくなります。
3.自律神経の乱れを悪化させる生活要因
肥満を招く自律神経の乱れですが、この自律神経の乱れは生活要因も大きく影響しています。
日常生活の中でどのようなことが更年期太りに影響するのか、ご紹介します。
3-1.食生活の乱れ
健康的な体づくりのためには、規則的でバランスのとれた食生活が重要です。
そのため、多忙だからといって1日3回の食事を取ったり取らなかったり、時間もバラバラなどといった食生活を続けていると、体のリズム自体も崩れ、自律神経も乱れがちになります。
3-2.寝る前のスマホ
就寝前にベッドの中でのスマホを触ると、スマホの明るい光により脳の交感神経が刺激され、頭が冴え、眠りづらくなります。
なかなか眠れなくなると朝もすっきり起きられなくなり、寝ても疲れがとれない、昼夜逆転の生活などになり、自律神経の乱れにつながります。
自律神経だけではなく、睡眠時間が不足すると、食欲を刺激するグレリンというホルモンが増え、満腹を知らせるレプチンが減り、肥満に繋がります。
3-3.人間関係のストレス
周囲との人間関係のストレスも自律神経の乱れにつながります。
仕事・介護・子育て・近所づきあい。ママ友付き合いなど、人間関係はさまざまですが、知らず知らずに疲れがたまっていることもあります。
また最近では、直接の付き合いではなく、SNSを通したやり取りによっても疲労が生じるSNS疲れという言葉もあります。
4.更年期に太らないための対策
更年期は太りやすくなる時期ですが、太らせないためには食事や運動、ストレス対策などの生活習慣の見直しが大切になります。
4-1.起床後は朝日を浴びる
更年期太りを防止するためには、自律神経の調子を整えることが大切です。
そのためには日々の生活習慣の見直しが大切です。
起床後はまずカーテンをあけて日光を浴び換気をしましょう。
朝の日差しを浴びることで、体内時計がリセットされ、自律神経を整えるホルモン「セロトニン」が活性化します。
朝、日差しを浴びるためには良質な睡眠をとることも大切です。
夜更かしをしないように気を付けること、朝起きてカーテンを開ける習慣を身に付けましょう。
4-2.食べ方を工夫して、脂肪を蓄積する「糖化」をSTOP
糖化とは、体の中であらゆる働きをするタンパク質に、糖がキャラメルのようにくっつき、タンパク質の働きを疎外してしまうことをいいます。
このAGEs(最終糖化産物)は老化だけではなく、肥満を招きます。そのため、甘味料つまり「糖」の選び方を工夫する必要があります。
1.果糖の取りすぎには注意する
果糖とは、ブドウ糖と同じく「単糖類」の一種です。
ブドウ糖はエネルギーとして利用される一方、果糖のほとんどは肝臓で代謝され中性脂肪に変わり、余ったものは脂肪や内臓脂肪として蓄積されます。
果糖の糖化のしやすさはブドウ糖の10倍以上といわれているため、肥満になりやすくなるだけではなく、肌のくすみの原因になるなど取りすぎには注意が必要です。
2.砂糖の使用はなるべく控える
砂糖や黒砂糖・きび砂糖・てんさい糖、果糖はカンジタ菌の好物であるため、過剰に摂取することでカンジダ菌が腸内で増殖してしまい、腸内をアルカリ性の環境にします。
その結果、善玉菌が減少し悪玉菌が増えやすい環境となり、腸内環境を悪化させます。
また砂糖は、摂取することで脳の快楽物質である「ドーパミン」が分泌され、依存と中毒を引き起こすため、なるべく控えるようにしましょう。
3.オリゴ糖・羅漢果糖で甘みをプラスしましょう
甘みをプラスする際は、腸内細菌のエサとなるプレバイオティクス食品のオリゴ糖やカロリーゼロの天然甘味料の羅漢果糖で甘みを取るようにしましょう。
ただし、「イソマルトオリゴ糖」は小腸で消化されるためオリゴ糖の効果が半減してしまいます。オリゴ糖を選ぶ際は、イソマルトオリゴ糖は避けるようにしましょう。
また、羅漢果糖は、天然のゼロカロリー甘味料で、抗酸化力が高く、美容や健康にも効果的です。
▼キッチンに砂糖は不要!医師が実践するシュガーフリー生活ってどうやるの?
https://wellmethod.jp/sugar-free/
4-3.夜はシャワーではなく湯船につかる
忙しいと、ついついシャワーですませがちなお風呂ですが、湯船に浸かることが大切です。
湯船は浸かるだけで体がリラックスし、良質な睡眠をとることができるようになります。
お湯は熱すぎるよりも少しぬるめの38~40度程度のお湯にゆっくり浸かると効果的です。
4-4.深呼吸をする
朝起きてから夜寝るまでの生活習慣の改善も大切ですが、どんなに忙しくても深呼吸を行うことはおすすめです。
3秒で息をすって7秒でゆっくりはく。
深呼吸をすることで、自律神経が整い、幸せホルモン「セロトニン」の分泌量も増加します。
良質な睡眠、食べ過ぎの防止、入浴の相乗効果など、深呼吸は体の調子を整えるためにも効果的です。
お気に入りの香りと一緒に深呼吸するのも良いでしょう。
4-5.運動をする(とくに有酸素運動)
更年期太りでは、内臓脂肪の蓄積が大きな原因となります。
内臓脂肪は生活習慣を改善することで、皮下脂肪よりも減らしやすいといわれています。
そのため、普段の生活環境の見直しは大切です。
さらに、有酸素運動は皮下脂肪より内臓脂肪を先に燃焼するといわれており、効果的です。
主な有酸素運動として代表的に以下のようなものがあります。
・ウォーキング
・軽いジョギング
・サイクリング
・水泳
有酸素運動でなくても、体への負担が少ないヨガやストレッチなどの軽い運動も有効です。
体を動かすだけでも全身の血の巡りが良くなり、イライラを緩和するなどの手助けになると考えられています。
有酸素運動はちょっと…と思う方は、まずはゆっくり呼吸をして無理のない範囲で、ヨガやストレッチを行いましょう。
4-6.食生活を見直す
更年期世代になると、これまでよりも基礎代謝量が減るため、今までと同じ量の食事をとっていると太りやすくなります。
しかし、だからといって更年期前よりも食事量を極端に減らせばいいというものではありません。
カロリーを減らしすぎると、骨や筋肉の生成に必要な栄養分が不足することがあり、基礎代謝がますます落ちやすくなることがあります。
つまり、更年期世代は良質な栄養素を意識して食事を取ることが必要です。
そのためにもぜひ積極的に取ってほしいおすすめの食材についてご紹介します。
取り入れられそうな食材をみつけて、今夜の食卓にプラスしてみてはいかがでしょうか。
1.良質なタンパク質
動物性タンパク質には筋肉の合成を促すアミノ酸ロイシンが含まれています。
肉や魚など積極的に取りましょう。
脂質の少ない赤身の部分が効果的です。
また、女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンを含む植物性タンパク質(豆乳や大豆製品など)を取り入れることも有効です。
2.イライラを抑える食材
・アロエ
・セロリ
・トマト
イライラなどの精神的に不安定になる状態は太る原因を助長します。
アロエは漢方の世界では蘆薈(ろかい)と呼ばれ、体に溜まった余分な熱を冷まし、イライラした気持ちを落ち着かせる働きがあるとされています。
また、セロリも漢方の世界では芹菜(きんさい)と呼ばれ、アロエと同じようにイライラを緩和し精神状態を安定させる働きがあります。
とくにセロリは香り成分であるアピインやセネリンが精神を安定させる効果があるといわれています。
トマトは抗酸化作用があるリコピンとして有名ですが、体にたまった熱を冷まし、イライラを緩和し気持ちを和らげる作用があるといわれています。
トマトは加熱するよりもサラダやマリネなど生で食べることがおすすめです。
5.生活習慣の見直しは肥満防止につながります
私たち40~50代は、仕事や育児・家事、介護などさまざまな問題を抱えて多忙な日々を過ごしています。
これまで通りの生活をしているはずなのに気づくと太ってしまっていることはちょっとショックですよね。
「痩身エステでも行ってみようか」など考えたりするかもしれません。
しかし、まずはご自身の生活環境について一度見直してみましょう。
生活習慣・運動習慣・食生活を見直すことは、体の自律神経が整い、「太りにくい体づくり」を作ることができます。
筆者自身も多忙でダイエットする余裕すらない! と思う日でも、朝起きたらカーテンをあけて朝日を浴びる、夜は湯船につかる、寝る前にストレッチをするということは欠かさずに行っています。
毎日続けることで、自分の体のコンディションとも向き合うことができ、体調も安定しやすくなりました。
毎日の積み重ねが、将来の健康へとつながります。
これからも生き生きと輝く毎日を過ごしていけますように。
この記事の監修は 医師 藤井 治子先生

藤井 治子
監修医
産婦人科専門医・医学博士
医療法人ハシイ産婦人科副院長
奈良女子大学非常勤講師
資格
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本抗加齢医学会認定医
国際認定ラクテーション・コンサルタント
乳癌検診超音波検査判定医師A判定
マンモグラフィー撮影認定診療医師B判定
日本母体救命システム認定ベーシックインストラクター
臨床分子栄養医学研究会認定医
所属学会
日本産婦人科学会医会
日本女性医学学会
日本生殖医学会
日本産婦人科乳腺医学会
日本東洋医学会
日本超音波医学会
日本ラクテーションコンサルタント協会
学歴
高知大学医学部医学科卒業京都大学大学院医学研究科卒業
大学卒業後産婦人科一般診療に従事し、大学院では胚着床メカニズムについて研究。
現在は地域医療を担う分娩施設で妊娠・出産を支えつつ予防医療にも力を注ぎ、
思春期から更年期まで全てのライフステージにおける女性特有の症状に、分子栄養療法や漢方療法を取り入れ診療を行なっている。
- 藤井 治子の記事一覧
- ハシイ産婦人科HP
https://hashii-hp.jp/