こんにちは。
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。

更年期と閉経期、合わせて「メノ期」。
この時期に目立ち始める頻度の高い症状が「もの忘れ」です。

覚えているはずのモノの名前がすぐに思い出せない。
ドラマに出てくる芸能人の名前がパッと出てこない。
ふと、「あら? 何しに来たのかしら?」とやることを忘れる。

こんな症状は、更年期症状の一環かも知れませんが、場合によっては病的なもの忘れの可能性も。
今日は、気になるもの忘れのお話をしましょう。

1.メノ期のもの忘れ

メノ期の物忘れ メモ

記憶力は、メノ期の初期、つまり更年期が始まる頃から落ち始め、閉経を機にさらに落ちる傾向があります。
その原因として、エストロゲンとの関連が指摘されています。

もの忘れの症状があると「認知症かな?」と不安になることもありますが、実際には更年期に病的な認知症を発症することは稀で、ほとんどが加齢に伴う変化の一貫です。
しかし、女性ホルモン・エストロゲンの低下は、アルツハイマー病のリスクを高めることも指摘されています。

1-1.メノ期のもの忘れの特徴

メノ期に特徴的なもの忘れは、いわゆる「ど忘れ」です。
人の名前やモノの名前が急に出てこなくなるという経験は多くの人が持っていると思います。

「あれあれ、あの人」
「あそこあそこ」
「それそれ」

特定の名前が出なくなり、会話にあれやそれが増えてくるのが、メノ期の会話の特徴です。

そのほかにも、
・今朝何を食べたか忘れてしまう
・用があって部屋に入ったら、何をするのか忘れてしまった
など、日常的な細かなもの忘れやど忘れが積み重なります。

大抵は、後になれば、フッと思い出したり、何か一つのエピソードから芋づる式に記憶が引きずり出されるなど完全に記憶が抜け落ちていることはほとんどありません。

でも、私生活のちょっとしたもの忘れだけでなく、仕事上の大事なシーンで大きなミスをしたり、完全に重要な案件をすっぽかすなど、重大な出来事につながると、自信を失ってしまいます。

メノ期の物忘れ うっかり忘れる女性

1-2.メノ期のもの忘れの原因は?

メノ期のもの忘れには、加齢現象と同時に女性ホルモン・エストロゲンの減少、ストレスや精神状態、生活環境などが多層的に絡み合っていると考えられています。

1.エストロゲンの減少

実は、女性ホルモン・エストロゲンは、神経細胞の保護や記憶を司る海馬の神経細胞でコレステロールから合成され、記憶力の増強に関わることも明らかになっています。

アルツハイマー型認知症の発症率には性差があり、女性の方が男性に比べて3倍程度多いとされています。エストロゲンは、アルツマイマー病における神経細胞の変性や細胞死の抑制、アミロイドβタンパクの抑制などに関わっていて、その作用が失われるからと考えられています。

・エストロゲンの脳機能への作用

エストロゲンの脳機能への影響はさまざまなものがあります。

1.神経細胞の保護
 抗酸化作用と神経細胞死の抑制
2.神経栄養作用
 神経栄養因子の増加と神経細胞の成長
3.神経伝達物質の活性化
 セロトニン、ドーパミン、記憶にも関わるアセチルコリン系の活性
4.脳血流の増加
5.脳内のアミロイドβタンパクの抑制
 アルツハイマー型認知症の発症リスクとなるアミロイドβタンパクの沈着

これらの働きの低下によって、メノ期には脳機能も低下するリスクがあります。
それが、メンタルヘルスやもの忘れにもつながっていると考えられています。

2.動脈硬化に伴う脳機能低下

メノ期には、女性ホルモン・エストロゲンのもつ抗酸化作用の低下や脂質代謝の機能が低下することで、動脈硬化も進行しやすくなります。
それに生活習慣の乱れが加わり、生活習慣病が加わることで年代的にも動脈硬化から脳血流が悪化し、血流が低下した局所の機能が低下します。

生活習慣病の予防、動脈硬化の予防も、もの忘れの予防には必要です。

3.更年期うつ病・抑うつ

メノ期にうつ病を発症したり、ホルモンバランスの崩れから抑うつ状態になると、集中力が低下します。
ものごとに集中ができないと記憶することができないため、もの忘れに繋がります。

先にお伝えしたようにエストロゲンは、神経伝達物質の作用にも関連しているので、セロトニンの機能低下から抑うつ、ドーパミンの機能低下からやる気の低下に繋がります。

4.不眠

不眠 枕とアロマとひつじ

不眠は、記憶力を低下させる大きな要因になります。
日中の集中力の低下や脳内での情報整理力が低下し、もの忘れに繋がります。

睡眠ホルモン・メラトニンは、セロトニンを原料にして分泌されますので、セロトニン不足はメラトニン不足に繋がり、メノ期には不眠になりやすくなります。

5.更年期症状

更年期の不快な症状も、もの忘れにつながります。

頭痛や肩こり、めまい、ホットフラッシュ、倦怠感などの不快な症状があると、症状に気を取られてしまいます。
するとものごとに集中できず、記憶力が低下し、もの忘れに繋がります。

更年期症状を緩和させ、なるべく不快感なく過ごすことも大切になります。

6.加齢に伴う脳萎縮

その他、加齢に伴って、脳も自然に萎縮傾向となります。
脳の容積も減少し、全体的に脳機能が低下します。

1-3.メノ期のもの忘れにできるセルフケア

メノ期には、もの忘れの原因になる色々な条件が重なります。
加齢による生理現象は避けられない部分がありますが、工夫次第で対策も可能です。

1.メモをとる

メモをとる手

まずは、メモを取ることです。
何気なく過ごして無意識にルーティーン化すると脳が鍛えられません。

食べたもの、読んだ本、テレビの感想など、何気ない日常生活であっても意識をしてメモをとる習慣をつけてみましょう。
それが刺激になって認知機能を維持することに繋がります。

2.日記をつける

思い出すことで、脳の前帯状皮質(ACC)という海馬の記憶を活性化する領域を鍛えることができます。
夜に1日の出来事を振り返って、なるべく思い出すようにして、日記をつけてみましょう。

3.スマホに頼りすぎない

スマホを操作する女性

スマホを使いすぎることで若い世代にももの忘れが増えています。

スマホからは膨大すぎる情報が脳に入り、脳の情報処理が追いつかず、記憶力低下につながることが指摘されています。
また、覚えなくてもスマホを見れば答えが提示されることが当たり前になると、記憶することを怠ってしまいます。

一日中スマホを眺めてSNSや検索に明け暮れていると、もの忘れに繋がります。
スマホと離れる時間を作り、アナログの生活に集中するようにしましょう。

4.生活習慣病を予防・改善する

生活習慣病である糖尿病や脂質異常症は、動脈硬化の原因になります。
血流の悪化はもの忘れにつながるので、これを予防することは必須です。

高糖質高脂質低食物繊維という現代的な食事や加工食品、ファストフード、インスタント食品、コンビニ食の日常的な食べ過ぎが生活習慣病に繋がります。

砂糖たっぷりの甘いものや精製された穀物、植物性油脂や加工油脂、マーガリン、ショートニング、動物性脂肪などのとり過ぎに注意して、食物繊維が豊富な野菜・海藻・豆類・キノコ類・芋類・雑穀類を意識してとりましょう。

それだけでなく、身体を動かすことも大切です。
身体を動かすことで、エネルギーとして糖質や脂質は燃焼します。
有酸素運動は、セロトニンやドーパミンの分泌にも繋がり、睡眠を促す働きもあります。

5.豆製品の摂取やエクオールの摂取

大豆製品 豆腐の味噌汁と納豆

女性ホルモン・エストロゲンの低下に伴い、この作用を補うものとして、植物性のフィトエストロゲンがあります。
大豆などの豆類に含まれるイソフラボンは、腸内のエクオール産生菌によって活性の高いエクオールに転換され、体内で活用されます。

エクオール産生菌の機能は、腸内環境の悪化や豆製品の摂取の少なさから低下している場合もありますので、豆製品を日常的に摂取することです。
ただし、エクオール産生機能がどのように戻るかは十分にわかっていません。

安定的にエクオールを摂取するために、産婦人科や整形外科などでもエクオールを推奨する施設が増えています。

6.更年期障害の治療を受ける

更年期障害を十分にコントロールすることも重要です。
ライフスタイルを工夫しても、更年期の症状がコントロールできない場合は、婦人科に相談することです。

ホルモン補充療法であっても、合成ホルモンだけでなく、体内のホルモンに似せた天然ホルモン(ナチュラルホルモン)という選択や、漢方薬やエクオールなどのサプリメントなど希望や状態に合わせた提案をしてくれると思います。

1-4.病的なもの忘れの見分け方

物忘れをしている女性

今後の経過観察を要する認知症に伴うもの忘れと、メノ期に伴うもの忘れの見分け方についてお話ししたいと思います。

認知症と言っても、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症など種類によって症状は様々ですので、詳細な診断は専門医への受診が必要です。

大まかな目安についてお伝えします。

物忘れと認知症の違い

以上のように、経過観察や治療が必要な認知症は、明らかに周囲が異常に気づきます。
本人の自覚はないことがほとんどですが、脳血管性認知症の場合は、本人にも自覚があります。

初期は単純なもの忘れと見分けがつきにくいものですが、周囲が明らかに違和感を持った場合は、老年科や神経内科など専門医を受診して検査を受けることをお勧めします。

2.まとめ

日記を書く女性の手

メノ期のもの忘れは、多くの人が経験します。
あまりにも日常的になったり、大失敗につながるとすっかり自信を失ってしまう可能性もあります。

でも、工夫次第で、予防や改善は不可能ではありません。
気になる場合は、今から、日常の対策をお勧めします。

この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

【医師/総合監修医】桐村 里紗
医師

桐村 里紗

総合監修医

内科医・認定産業医
tenrai株式会社代表取締役医師
日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属

愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。

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著作・監修一覧

  • ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
  • ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
  • ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
  • ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
  • ・「解抗免力」(講談社)
  • ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)

ほか