地球にも魚にも大きな影響が? 海洋汚染が懸念されるマイクロプラスチック
こんにちは、WELLMETHODライターの和重 景です。
皆さまはサスティナブルという言葉をご存じでしょうか?
サスティナブルとは「持続可能な」という意味があり、最近よく耳にする「SDGs(エスディージーズ)」の頭文字の「S」はこのサスティナブルを意味します。
SDGsとは2015年に国連総会で採択された持続可能な17の開発目標のことで、私たちの日常生活においてもその取り組みが行われています。
一番身近な取り組みとして挙げられるのは、プラスチックゴミの削減ではないでしょうか。
私たちの生活の中でもレジ袋の有料化やコーヒーショップやコンビニ・カフェでもテイクアウト用のドリンクカップなどに使われるプラスチックの使用を減らそうというアクションが始まっています。
いまこのプラスチックゴミが海洋汚染をはじめ、海洋生物や人にも大きな影響を与えるのではないかと世界的に懸念されています。
この環境問題への取り組みは企業だけではなく、消費者である私たちにもできることがあるように思います。
一人一人がサスティナブルな社会のためにできることは、どのようなことがあるのでしょうか。
今回は、私たちの生活に密接な関わりがあるマイクロプラスチックが与える影響と私たちがいまできる取り組みについてご紹介します。
目次
1.マイクロプラスチックとは
マイクロプラスチックとは、紫外線や波の影響で劣化したプラスチックのうち、5mm以下のサイズになったプラスチックのことをいいます。
私たちの生活をより便利なものにしてくれるプラスチック製品は、丈夫であることや低コストで簡単に製造することができることから、さまざまな分野で使用されています。
しかし便利で手軽であるがゆえに、次々と製造され使い捨てにされているという現状があります。
海に遊びに行くとプラスチックゴミが落ちていたり、中には海外から漂流してきたゴミを目にしたりすることがあると思います。
プラスチックゴミは、自然分解されにくいため遠く離れた海まで流されていったり、何十年も前のプラスチックごみが海底から見つかったりしています。
これらは世界的に大きな環境問題となっており、さまざまな影響を与えていると考えられています。
1-1.マイクロプラスチックの種類
マイクロプラスチックは二つの種類に分けることができます。
まず一つ目はよくニュースなどでも取り上げられることが多い「2次マイクロプラスチック」です。
2次マイクロプラスチックは大きなプラスチック製品が分解されてできたもので、ゴミとして投棄される場合もあれば、プラスチック製品が劣化することで排水として海に流れ出ることもあります。
二つ目は「1次マイクロプラスチック」です。
1次マイクロプラスチックとは、私たちが毎日のように使う化粧品などの基材に元々含まれるマイクロプラスチックのことで、主にスクラブ入りの洗顔料やメイクアップアイテムに含まれています。
2.マイクロプラスチックによる環境への影響
マイクロプラスチックが海や川に流れていくことでさまざまな影響があるといわれていますが、どのような影響があるのか明確になっていないのが現状です。
しかしながら、プラスチックが魚の臓器から見つかったというニュースや海に大量のプラスチックゴミが漂流していることから、プラスチックやマイクロプラスチックが環境問題に大きな影響を与えていることは明らかです。
2-1.海洋汚染
プラスチックゴミを直接海に投棄するケースだけでなく、ゴミ置き場の管理が不十分であったり、街にポイ捨てされたプラスチックゴミや人工芝などが飛散し、河川から海に流れるケース。また、海上の貨物や漁具などのプラスチックが紫外線や潮に曝されて劣化し、マイクロプラスチックとなることで、海洋汚染につながる可能性があります。
17あるSDGsの目標の14番目は「海の豊かさを守ろう」です。
これは地球に暮らす人だけではなくすべての生物に影響を与え、世界的に取り組むべき大きな環境問題となっています。
私たちが海で目にするプラスチックはごく一部で、その多くは海底に溜まっていることもわかってきています。
2-2.生物への影響
海には数多くの魚をはじめとする生物が生息しています。
プラスチックが体にひっかかり身動きがとれなくなくなる生物やプラスチックを誤って飲み込んでしまい死んでしまう動物もあとを絶ちません。
大型のプラスチックが問題になるだけでなく、マイクロプラスチックも海洋生物に影響を与えます。
マイクロプラスチックには、ダイオキシンやDDTなどの有害化学物質が吸着しやすいことがわかっています。
私たちが食べる魚は、海の中の生物を餌として成長していきます。
マイクロプラスチックを含むプランクトンを小魚が食べ、中型の魚が小魚を食べ、大型の魚が中型の魚が食べ、体内でどんどん有害化学物質が濃縮し、蓄積していきます。
有害化学物質の蓄積により、生態系に影響することが懸念されています。
2-3.人への影響
私たちは食事として海に生息する魚などの魚介類を食べています。
マイクロプラスチックには有害化学物質を吸着する性質があり、そのマイクロプラスチックを体内に取り込んだ魚を私たちは食べていることになります。
マイクロプラスチックを体内に取り込んだ魚を食べることによる人体への影響はまだ明らかにはなってはいませんが、内分泌撹乱、つまり「環境ホルモン」として影響することが懸念されています。
3.マイクロプラスチックは身近なものにも
マイクロプラスチックには2種類あるとご紹介しましたが、2次マイクロプラスチックは大型のプラスチックの海への流出を防止することによって改善することが可能だと言えます。
しかし1次マイクロプラスチックは、無意識に使用し、排水と一緒に流していることが多いのが特徴です。
そのため気づかないうちにマイクロプラスチックを大量に海に流してしまわないためにも、どのようなものに多く含まれているのか知ることが大切です。
3-1.日用品
毎日食器などを洗う際にナイロン素材のスポンジを使う方も多いのではないでしょうか。
使っていくうちに形が変形したり劣化したりすることで、スポンジの削り取られた部分がマイクロプラスチックとなり排水として流れていく可能性があります。
3-2.衣類
私たちが着用する衣類にはさまざまな素材が使われています。
コットンやウールのような天然繊維のものもあれば、ポリエステルやナイロン・アクリルなどのような合成繊維のものや天然繊維と合成繊維の混合されたものなどその種類は多くあります。
天然素材100%の衣類であればプラスチックは含まれていませんが、合成繊維で作られた衣類には繊維状になったプラスチックが多く含まれています。
合成繊維の衣類を洗うと気づかないうちにマイクロプラスチックが発生し、排水として流れていってしまうのです。
3-3.化粧品
毎日のように使うメイクアップアイテムやスキンケアアイテムの多くには、マイクロプラスチックが基材として使われています。
先にご紹介したスクラブ剤の他にも、化粧下地や日焼け止め・ファンデーション・アイシャドーや口紅など驚くほどたくさんのアイテムに使用されているのです。
表示成分にはマイクロプラスチックとは記載されておらず、ナイロン・アクリル・シリコンなどと記載されており、それがマイクロプラスチックを含んだ成分です。
これらの成分は化粧品の伸びを良くしたり、紫外線を攪乱するために用いられています。
肌にやさしいからという理由ではなく、使い心地を重視しての配合と考えられます。
これらが配合されたメイク用品を毎日のようにクレンジングで洗い流すことで、マイクロプラスチックを排水として流しているのです。
4.プラスチックリサイクルの課題
プラスチックの海洋汚染の問題は日本のみならず、世界各国で改善への取り組みが行われています。
プラスチックをごみとして廃棄するのではなくリサイクルをして新たな製品として活用することも海洋問題改善の取り組みの一つです。
しかし、このプラスチックリサイクルにも課題が残されています。
4-1.日本のプラスチックリサイクル3つの課題
日本のプラスチックリサイクルの課題は大きく3つあります。
1.廃プラスチック輸出の限界
日本は、使用後のプラスチック製品をアジア諸国を中心に輸出していましたが、輸出先であった中国や台湾・東南アジアなどが2017年以降より輸入制限を決めました。
そのため日本ではプラスチックゴミを国内で資源として循環させる体制が必要となっています。
2.材料・ケミカルリサイクルの限界
プラスチックのリサイクルには他の樹脂製品にリサイクルしたり、ペットボトルから再度ペットボトルを作る「材料リサイクル」と廃プラスチックを化学反応させて、油化やガス化など組成変換したあとにリサイクルする「ケミカルリサイクル」があります。
どちらもリサイクルするのにコストや品質の面で課題があるといわれています。
3.熱回収の限界
熱回収はサーマルリサイクルとも呼ばれる処理方法で、燃やしたときに発生する熱量を利用することをいいます。
この方法はリサイクルには分類されません。
また焼却をすることで温室効果ガスとなる二酸化炭素を排出することになるため、海洋汚染とは違った環境課題が生じてしまうことが指摘されています。
こうした問題は日本だけではなく、地球全体の課題として取り上げられています。
平成28年にはG7(アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・日本・カナダ・イタリア)の先進7カ国が参加した「G7・伊勢志摩サミット」でもプラスチックの発生抑制・削減に対する認識を再確認されています。
また同年、富山県で開催されたG7環境大臣会合でも海洋ごみ問題に対処するための行動計画や重要性について再確認されています。
日本政府は、2020年10月に「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」こと、そして、2021年4月に米国主催の気候サミットにて、日本の2030年度の温室効果ガス削減目標を「2013年度から46%削減し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていく」と宣言しています。
4-2.世界各国で行われている脱プラスチック対策
現在、世界各国で脱プラスチック対策が行われています。
参考)
https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-01/y031201-2x.pdf
使い捨てプラスチック対策は、上記以外のさまざまな国で取り組まれており、世界全体で脱プラスチック対策が行われています。
5.わたしたちにできることとは
人が快適に生活を送ろうと考えたとき、自分の周りの環境を整えるだけでは快適に生活することはできません。
また私たちの次の世代のためにも、地球全体が直面している問題の解決に向けて一人一人ができることを行うことが大切です。
人と地球を一体と考え、全体の健康を実現する、「プラネタリーヘルス」のために私たちができることは決して難しいことではありません。
ゴミを減らす対策は3つのRを意識することが大切です。
・Reduce(リデュース):ゴミを減らす、ゴミを出さない
・Reuse(リユース):繰り返し使う
・Recycle(リサイクル):資源として再利用する
この3つのRの中でもとくにわたしたちがいますぐできるのは、ゴミを減らす・出さない「Reduce」です。
さらに、最近では、もう1つの「R」=Renewable(リニューアブル)を加えた「3R+Renewable」と言われています。
「Renewable」とは、再生可能・持続可能な資源に変えることを意味しています。
環境省も、使い捨てのプラスチックから、バイオプラスチックやバイオマスプラスチックへの切り替えを推進しています。
5-1.プラスチックの使用削減
多くの企業がプラスチックゴミを削減するために、プラスチック容器の使用を中止したり、マイクロプラスチックを使用しない商品開発を行っています。
メイク用品もその一つです。
とくにメイク用品はプラスチックそのものが目に見えるわけではないため、プラスチック製品を使用しているという意識があまりないかもしれません。
しかし、環境問題に取り組んでいるメーカーではすでに、マイクロプラスチックに変わる素材を開発し、スキンケアアイテムやメイクアップ用品に使用しています。
またプラスチックの使用削減は企業だけが取り組むべき問題ではありません。わたしたち個人でもプラスチックの使用削減を意識した行動が大切です。
・マイボトルやマイバッグを持参する
・ゴミは自治体のルールを守り、分別を行う
・過剰包装ではない商品を選ぶ
5-2.環境にやさしい商品選び:エシカル消費
個人でできる取り組みとしてもっとも期待できるのが、消費者が地球環境に配慮した商品を選ぶことです。
これを、エシカル消費と言います。
個人が商品を選ぶ際に、商品選びの基準を決めておくと良いでしょう。
・使い捨てのプラスチック製品を選ばない
・木や紙など天然素材であっても森林伐採のリスクがある為、責任ある森林管理を示す森林認証制度:FSC®認証のついた製品を選ぶ
・過剰包装ではない商品を選ぶ
・フリースなどのような化学繊維でできている素材の衣類を購入しない
・オーガニックコットンなど持続可能な原料に由来した衣類を選ぶ
・すぐに購入するのではなく修理やリメイクしたりしてものを長く使う
企業努力によって、マイクロプラスチックよりも伸びが良い天然素材から作られた新素材を使用して商品を開発しているメーカーも存在します。
肌にも環境にもやさしい商品を選ぶことで、プラネタリーヘルスに貢献することができます。
筆者は子どもが高校生のときにSDGsについて学んできたことをきっかけに、関心をもつようになりました。
いまはメイクアップアイテムやスキンケアアイテムを選ぶときには、マイクロプラスチックを使用していないものを選ぶようにしています。
またスキンケアではオールインワンゲルを使用するシンプルケアを行うことで、スキンケアアイテムを多く持つ必要もなく、プラスチックゴミの削減にもつながっています。
肌にやさしい商品は地球にもやさしい商品であることに気づきました。
6.一人一人のちょっとした行動の変容がプラネタリーヘルスへとつながる
年齢を重ねてきたからこそ、本当に自分にとって必要なものは何かがわかるようになってきたと感じます。
若いときは洋服を選ぶときに着心地よりもデザインを重視したり、スキンケアやメイクアップアイテムを選ぶときはパッケージや発色など見た目を重視したりすることが多かったなと感じます。
決してそれは悪いことではありませんが、40代になり人にも地球にもやさしい商品を選ぶようになりました。
それがいまの自分にできるプラネタリーヘルスへの取り組みだと思います。
サスティナブルな社会への関心と自分らしさを大切にできる大人の女性って素敵ですね。
この記事の監修は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
- 桐村 里紗の記事一覧
- facebook
https://www.facebook.com/drlisakirimura - Instagram
https://www.instagram.com/drlisakirimura/ - twitter
https://twitter.com/drlisakirimura
著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか
和重 景
主に、自身の出産・育児やパートナーシップといった、女性向けのジャンルにて活動中のフリーライター。
夫と大学生の息子と猫1匹の4人暮らし。
座右の銘は、「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」。