【医師解説】味噌汁の健康と科学|1日1杯のススメ
医師で予防医療スペシャリストの桐村里紗です。
味噌汁、飲んでますか?
味噌汁は、戦国時代から武士の活躍を支え、貧しい時代にも庶民に栄養を与えてくれた、我が国が誇る伝統の発酵食品です。
以前は、「塩分過多になる」と敬遠する風潮がありました。
その後の研究によって「味噌(汁)は血圧上昇には影響しない」ということも明らかになり、さらに、含まれる多くの機能性成分によってむしろ積極的に食べたい食品と改めて光があたった感があります。
伝統の麹菌が生み出す多数の健康成分を含む味噌は、スーパーフードと言えます。
今日は、毎日食べる1杯の味噌汁がどれだけ有難いかを改めて見直していきたいと思います。
目次
1.味噌汁の健康と科学
1-1.「御御御付」読めますか?
突然ですが、「御御御付」という漢字、読めますか?
正解は、
「おみおつけ」
そう、味噌汁のこと。
味噌汁は、「御御御付(おみおつけ)」とも呼ばれ、何と、敬称である「御」が3つもつく料理です。
由来としては、室町時代の宮中の女房言葉で、味噌のことを「御味(おみ)」と呼び、「御味御付(おみおつけ)」だったものが、尊敬の接頭語「御御(おみ)」と混同されたとの説が有力だそうです。
いずれにせよ、日本語の中に「御」が3連発するのは、「御御御付(おみおつけ)」のみ。
名は体を表すと言いますが、味噌汁は、その効果効能から「御」3つに十分値するのではないかと思います。
1-2.味噌は戦国時代のプロテインバー
日本において記録に残る限り、味噌は平城京の頃にはすでにあったとされています。
日本の風土に適した麹菌がどこかの時点で発見され、味噌や醤油、酒作りに応用されたようです。
戦国時代には、戦いに行く武士の栄養食として携帯されていた味噌。
発酵しているため、腐る心配がなく長期保存ができ、吸収の良いタンパク源である味噌は、今でいうところの「プロテインバー」のような存在であったと思われます。
日常からの一汁一菜の食生活は、鎌倉武士から確立したとされていますが、一菜の内容はバリエーションがあれども、一汁は、ずっと味噌汁のまま現代まで受け継がれてきました。
2.味噌の種類
2-1.麹の種類による分類
味噌は、原材料の麹の種類の違いによって、米麹の場合は米味噌。麦麹の場合は麦味噌。豆麹の場合には豆味噌と呼ばれます。
2種類以上の麹を合わせると合わせ味噌となります。
さらに、大豆、米、麦、塩の配合の違いと、気候風土の違いによって、全国津々浦々に様々な個性的な味噌があります。
・米味噌(米麹): 生産量の8割。全国的。
・麦味噌(麦麹): 生産量の約1割。主に、中国地方、四国、九州、関東北部。
「田舎味噌」と呼ばれる。
・豆味噌(豆麹):豆麹を使った「赤味噌」。愛知、三重、岐阜の三県が中心。「八丁味噌」が有名。
2-2.色による分類
仕上がりの色の違いによって、「白味噌」「淡色味噌」「赤味噌」に分けられます。
味噌は、発酵・熟成の過程でだんだんと色が濃くなり、白から淡い褐色、赤褐色に変化していきます。
これは、主にアミノ酸と糖が反応する「メイラード反応」によるもので、この際に強力な抗酸化作用がある「メラノイジン」という褐色の物質ができます。
この影響で、色の濃い味噌は、大豆そのものよりもはるかに高い抗酸化力をもつことになります。
発酵によってあらゆる味噌には、様々な機能性成分が生まれていますが、特に、色の濃い味噌は、抗酸化力に優れています。
発酵の長さが短いと味噌は甘く、長いとより熟成が進み、甘みがなくなり、辛口となります。
3.味噌の栄養と機能性
大豆のタンパク質は、一般的な調理法では消化吸収が悪いのが特徴です。
ところが、味噌は、酵素によって消化されているため、約30%がアミノ酸にまで分解され、約60%が吸収の良い水溶性に変わっているとされています。
消化吸収に優れた栄養食品と言えます。
3-1.味噌の主な栄養成分・機能性成分
味噌には、大豆に含まれる栄養成分以上に、麹菌の発酵によってさらにたくさんの栄養成分・機能性成分が含まれています。
・大豆タンパク質
60%が水溶性となり吸収率がアップし、30%はさらに吸収の良いアミノ酸に。
大豆をそのまま食べるよりもよほど利用効率が高まります。
・大豆イソフラボン
抗酸化作用、女性ホルモン様作用があり、イソフラボンのうちダイゼインは、腸内のエクオール産生菌の働きでエクオールになるとさらに高機能に。
大豆に含まれるイソフラボンは、味噌として熟成すると、吸収の良いアグリコン型となり、利用効率が高まります。
この成分があるため、閉経後の女性にとっては、最高の老化予防食品になります。
・大豆レシチン
レシチンは、細胞の原材料として不可欠です。血管の動脈硬化の予防にも役立ちます。コレステロールの吸収も抑制します。
・大豆サポニン
抗酸化作用があり、便通改善、脂質の吸収抑制、脂質異常症の改善など。
・ミネラル
カルシウム:マグネシウムは、理想値の2:1〜1:1。微量の鉄や亜鉛も含みます。
・ビタミン
微生物が発酵過程で分泌するビタミンB1やB2、ナイアシン、葉酸などを含みます。味噌の使用量は少量のため、微量ではありますが、これらが複合的に働くことで、発酵食品を摂取することには意味があります。
・有機酸
微生物が生み出す有機酸は、旨味を生み出すだけでなく、体内に吸収されるとエネルギー代謝にも役立ちます。
味噌には、乳酸、酢酸、クエン酸、コハク酸などが含まれます。
3-2.味噌とがんのリスク
1.胃がん
国立がんセンター研究所が発表した『みそ汁を飲む頻度と胃がんの死亡率との関係』によると、「味噌汁を飲む人と飲まない人の死亡率には、男女とも有意な差があり、男女ともに、味噌汁摂取頻度が高くなるほど、胃がん死亡率が低かった」ことなどが報告されています。
2.乳がん
厚生労働省研究班「多目的コホート研究(2003)」が、4県14市町村に暮らす40~59歳の2万人を超える女性を対象に、味噌汁や豆腐、納豆などの大豆製品の摂取量と乳がんの発生率の関係を10 年間にわたって調査したところ、
「乳がんの発生率が、味噌汁1日1杯未満の人に比べて、2 杯は26%、3 杯以上は40%減少」
「味噌汁を飲めば飲むほど乳がんになりにくいという傾向がある(乳がん関連の他の因子の影響を除く)」
「大豆イソフラボン摂取が多いほど、乳がんになりにくい」
ことなどを報告しています。
味噌の働きとして、がんなどの原因となる遺伝子の変異を抑制して、細胞・遺伝子修復作用を高めるためと考えられています。
3-3.生活習慣病への効能
生活習慣病についても、様々な効果が研究されています。
これらは、含まれる栄養成分・機能性成分による働きと考えられています。
・血糖値の改善(耐糖能改善)
・コレステロール上昇抑制
・抗酸化作用による老化予防(抗酸化作用による)
・骨粗しょう症予防
・更年期障害の症状予防
・血圧抑制
生活習慣病の予防にとって、味噌汁は毎日の食卓に欠かせない食べ物ではないでしょうか。
3-4.味噌汁は血圧を上げない?
血圧について、以前には「味噌(汁)には塩分が含まれているので、高血圧に悪影響」と考えられ、敬遠される傾向がありました。
ところが、多くの研究が「味噌(汁)の摂取は血圧の上昇に関与しない」ことを示し、見直される様になりました。
血圧上昇の原因として、塩分は一つに過ぎません。
味噌に含まれるペプチド成分が、血圧を上昇させるホルモンの生成系をブロックすること。
血圧の上昇に関わる酵素アンギオテンシンⅠ変換酵素(ACE)を強く阻害することがわかっています。
また、具沢山の味噌汁にすることで、海藻や様々な野菜に含まれるカリウムやマグネシウムが、塩分を排泄し、血管を緩める作用を持つことで、塩分が血圧を上昇させる作用を相殺することなどが考えられています。
3-5.糖いりの味噌に注意
毎日摂りたい味噌汁ですが、味噌を買うときには原材料表示を確認してください。
特に、注意すべきは「白味噌」。
白味噌の甘みは、本来発酵由来のものですが、最近では、「水あめ」「砂糖」「甘味料」などを添加して甘みをつけたものが多いのです。白味噌ラバーの地域の方は、成分表示をしっかり確認してみてください。
そもそも、白味噌の甘みは発酵過程で生まれるブドウ糖。
ブドウ糖は吸収が良く、血糖値を上げる原因になります。
血糖値の急上昇を抑制するには、食物繊維の多い具沢山味噌汁にして、血糖値の上昇をなるべくゆっくりにすることがポイントです。
また、血糖値が気になる人は、白味噌を控え、辛口の味噌に切り替えて工夫してください。
我が家では、味噌汁は常に具沢山です。
わかめ、あおさのり、豆腐、玉ねぎ、きのこ類、ゴボウ、大根、人参、小松菜など、あるものを放り込むスタイル。
さらに、擦ったエゴマをふりかけたり、酒粕を入れたりして、さらに高機能化を目論むこともあります。
具沢山の味噌汁があれば、一汁一菜でも十分なボリュームになりますし、バランスもパーフェクトになります。
こんなに時短なのに美味しくて美容と健康にも良い料理を発明するなんて、日本のご先祖様は偉大だなと、朝から手を合わせたくなるわけです。
ありがたやありがたや。
両手を合わせて、今日も、御御御付を
「いただきます」
参照:
「お味噌の効能」 醸 協,105(11) ,2010
「味噌の科学と食塩」五明 紀春(女子栄養大学)
「味噌の有機酸について」生活衛生9-4
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか