新型コロナの冬、インフルエンザとの見分け方や発熱時の対処法は?
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
新型コロナウイルスの流行で、今年は「がまんの冬」となりそうです。
冬といえば、インフルエンザウイルスの流行も気になるところですね。
実際には、2020年はインフルエンザ感染症を含め、手足口病や夏かぜ症候群などのウイルス感染症が激減しています。
目次
1.例年に比べインフルエンザは激減
厚生労働省の発表(12月1日時点)によると、2020年47週(11月16日~22日)までの時点で、インフルエンザの報告者数は、例年に比べて激減しており、1%未満に止まっています。
47週では、2019年には15,390人だったところが、2020年にはたったの46人です。
46週では、9,107人だったところが、23人でした。
例年では、この時期から1週間に数千人単位で患者数が増えていくところが、数十人しか増えていません。
現状では、極端に少ないのが実際のところです。
2.今年の南半球の冬もインフルは流行せず
新型コロナウイルスとの同時流行があり得るかどうかの判断として、2020年の6~8月に冬を迎えた南半球のオーストラリアでは、検査数が増えたにも関わらず、4月以降のインフルエンザの陽性率はほぼゼロだったと報告されています。
WHOや各国の発表(Influenza surveillance report)によると、その他の南半球の国でも例年に比べて流行が激減したことが報告されています。
※:AUSTRALIAN INFLUENZA SURVEILLANCE REPORT No. 10, 2020
3.感染対策が功を奏した可能性
この理由について、ウイルス感染においては、あるウイルスに感染して免疫ができると、その他のウイルスについても感染が起きづらくなる「ウイルス干渉」という免疫の作用の可能性も指摘されています。
例えば、風邪をひいて治ったら、しばらくその他の感染症にかかりづらくなるという経験があると思います。
ただし、新型コロナウイルスに曝露された人数が諸説ある中で、ウイルス干渉だけでは説明できないとされています。
今年は、各国が厳格な感染症対策を行っているために、人と人との接触が極端に減っています。インフルエンザウイルスに対しても曝露される人数が減ったことが、流行が起きなかった理由だろうというのが、妥当な推測と考えられています。
4.インフルエンザ1ヶ月で1600人死亡
でも、油断は禁物で、数十名の報告があるということは、そこから流行の可能性も否定はできません。
特に、今は、医療機関が新型コロナ対応で大変な状況であるため、インフルエンザ対応にも追われることになるとさらなる混乱をきたすリスクもあります。
治療薬があるはずでも、インフルエンザは、今の新型コロナウイルス以上に、毎年死亡者を出しています。
厚生労働省の発表によると、2019年1月だけで全国で1,685人死亡しています。
それでも、外出自粛などぜず、私たちは毎年、その流行の中で当たり前のように毎日学校に行き、通勤し、日常生活を送っていたのですよ。
新型コロナウイルスのニュースはとてもセンセーショナルではありますが、その数字に惑わされず客観的に捉え、粛々と、対策をしていくことが賢明だと思います。
5.インフルエンザと新型コロナの違い
インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの違いについては、日本感染症学会によって以下のように報告されています。
インフルエンザウイルス | 新型コロナウイルス | |
症状の有無 | しばしば高熱を呈する | 発熱に加えて、味覚障害・嗅覚障害を伴うことがある |
潜伏期間 | 1-2日 | 1−14日(平均5.6日) |
無症状感染 | 10% | 数%〜60% |
ウイルス排出期間 | 5-10日(多くは5-6日) | PCRでは長期間遺伝子を検出するものの、感染力のあるウイルス排出期間は10日以内 |
ウイルスの排出ピーク | 発病後2,3日後 | 発症日 |
重症度 | 多くは軽症から中等症 小児から高齢者まで脳炎や肺炎など重症化の可能性 |
若年者では無症状や軽症が多いが、特に基礎疾患ありや高齢者では重症化しうる |
致死率 | 0.1% | 3-4% |
ワクチン | あり 季節毎に有効性は異なる |
開発中 2020.10.1時点で有効なワクチンは存在しない |
治療 | あり | 軽症例については確立された治療薬はなく、多くの薬剤が臨床治験中 |
ARDSの合併 (急性呼吸促迫症候群) |
少ない | しばしばみられる |
※一般社団法人日本感染症学会提言「今冬のインフルエンザと COVID-19 に備えて」より改変
6.インフルエンザは発症2日目以降に陽性化
例年、高熱が出て「明らかにインフルだろう」と思って病院に行って、インフルエンザ迅速検査をしても、陰性の判定で、「まだ24時間たっていないから、陽性にならないですね〜」と言われたことはありませんか?
翌日、再受診して再検査をしたら、案の定、陽性になって「やっぱり」となったことは。
インフルエンザウイルスは、発症1日目から気道にウイルスが存在するものの、ウイルス量が少なく感染力が弱く、2日目からウイルス量が増加し、迅速検査も陽性化するのが一般的です。
インフルエンザの場合は、発熱があれば、患者を隔離すれば良いということになります。
一方で、新型コロナウイルスは、無症状であっても気道ウイルス量が多い場合があり、発症直前に最大量となるため、症状が出た時点で隔離してもすでに周囲は曝露されている可能性があるとされています。
7.実際には症状だけで鑑別困難
実際には、症状だけでは鑑別することはできません。
それに普通の風邪、細菌性の肺炎などの呼吸器感染症なども同様の症状を呈します。
医師でさえも、検査に頼らないことには見分けがつきませんから、自己判断しようとは思わない方が良いですね。
8.発熱があったらどうしたら良い?
この冬、なるべく予防に努めたいところですが、発熱があっても慌てず対処することが大切です。
新型コロナウイルス感染症が疑われる場合は、病院への直接受診はできません。
8-1.新型コロナウイルスを疑う場合
まず、地域や周囲で流行があるか、感染者との接触があったかどうかが重要です。
もし、流行地で自分を含めて家族の誰かが人の集まる場所に出歩いている場合。
また、会社、学校などで感染者が出ている場合。
濃厚接触した場合。
これらの場合に、4日以上発熱が継続しているのであれば、新型コロナウイルスを疑った方が良いでしょう。呼吸苦が出ている場合には、発熱期間が4日未満であっても、受診を検討しましょう。肺炎になっている可能性があります。
この場合は、帰国者・接触者相談センターに連絡をして、外来受診の相談をしましょう。
かかりつけ医がある場合は、普段からこんな場合にどうすれば良いか、相談しておくと安心です。
8-2.インフルエンザを疑う場合
インフルエンザが周囲で出た場合、接触した場合には、インフルエンザを疑って検査する必要があります。
この場合は、近所のクリニックや普段のかかりつけ医に受診の上で検査が可能です。
また、インフルエンザの場合には、脳炎を引き起こす可能性もあります。
この場合、急に言動が普段とは違って噛み合わなくなったり、意識がぼんやりしたりします。
入院治療が必要になりますが、特に新型コロナウイルスのリスクがある現在では、普段かかりつけでない総合病院には直接の受け入れを拒否される場合が多いでしょう。
普段から、近所のかかりつけ医を作っておくと、こんな場合に相談に乗ってくれ、サポートしてくれるはずです。
8-3.どちらか迷う場合
どちらか迷う場合、どちらも疑われる場合は、現時点では、新型コロナウイルスを疑って、帰国者・接触者相談センターに連絡をしましょう。
9.予防が一番肝心と心得よう
新型コロナウイルスの影響で、その他の病気で重症化した場合になかなか救急車が受け入れられず、死亡例も報告されているのが現状です。
とにかく、予防を心がけることが身を守るための最善策だと思います。
全員で、乗り切っていきましょうね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか