【医師解説】更年期骨粗しょう症問題 “カルシウム”だけじゃダメ!? 骨を育む必須栄養素と運動法
皆さま、こんにちは。
医師で予防医療のスペシャリスト・桐村里紗です。
更年期から気にかかることといえば、閉経後の骨粗しょう症ではないでしょうか?
「カルシウムをとらなきゃ!」
「カルシウムをとっているから大丈夫!」
と思っている方も多いようですが、カルシウムだけをとっても、骨粗しょう症は改善できないばかりか、動脈硬化や関節痛の原因を作ってしまっている場合もあります。
更年期からの骨粗しょう症予防に、やるべきことをご紹介しましょう。
1.骨粗しょう症とはどんな病気?
1-1.骨粗しょう症とは
1.骨粗しょう症の定義
「骨粗しょう症」とは、骨の量が減り、質が低下することで、骨の強度が減って骨折しやすくなる状態です。
2.骨粗しょう症の症状
特に痛みを感じることはありませんが、転倒したりぶつけたりすることで簡単に骨折します。
また、体を支えることで普段から大きな力がかかっている脊椎の骨が自然に骨折することがあります。
転倒したはずみに尻もちをついて起こる場合もあります。
これを、圧迫骨折と言いますが、痛みを伴う場合と痛みを伴わない場合があり、1つずつ潰れていくことによって背中が丸くなったり、腰が曲がったりします。
骨粗しょう症は、運動器(骨や筋肉、関節など)の障害から歩行困難となり、運動機能が低下する「ロコモティブシンドローム」と切っても切り離せません。
筋力が弱くなると運動がしづらくなり、骨密度が減り、骨粗しょう症によって骨折が起こると、ますます筋力が落ちて歩行ができなくなるという悪循環を引き起こします。
生涯元気に活動するためにも、骨粗しょう症を予防することでロコモティブシンドロームを防ぐことはとても大切です。
3.骨粗しょう症のメカニズム
他の体の部分と同じように、骨にも新陳代謝があります。
骨が新しく作られる(骨形成)と同時に、古くなった骨が壊され(骨吸収)ながら、骨が形作られています。
骨形成よりも骨吸収が盛んになると、骨がスカスカになり、脆くなることで、骨粗しょう症になってしまいます。
4.骨粗しょう症の原因
骨粗しょう症は、男性よりも女性に多く、特に閉経後の女性に多いのが特徴です。
女性ホルモンと骨粗しょう症の関係は、後に詳しくご説明しますね。
その他には、偏食や極端なダイエット、喫煙、過度の飲酒、それに、ほとんど運動をせずデスクワークが多い人もリスクが高くなりますので要注意です。
その他、甲状腺機能亢進症や副甲状腺機能亢進症などのホルモン異常、ステロイド剤の長期的な内服、胃の切除、糖尿病などの病気なども、二次的に骨粗しょう症の原因となります。
1-2.女性ホルモンと骨粗しょう症の関係
女性は、閉経後にガクンと女性ホルモン・エストロゲンが減少すると同時に、急激に骨粗しょう症化が進むことが知られています。
女性ホルモン・エストロゲンには、以下のような作用があります。
・骨吸収抑制:骨の破壊を抑制する
・骨形成促進:骨を作ることを促進する
骨を壊すのは、「破骨細胞」という細胞の働きですが、閉経後に女性ホルモン・エストロゲンが十分に作用しなくなると、この細胞の抑制が効かなくなって、過剰に働くようになります。
骨を作るよりも壊す方の働きが強くなり、どんどんと骨が壊れていってしまうのですね。
男性においては、男性ホルモン・アンドロゲンが、骨の維持に働いているため、男性においても徐々に骨粗しょう症は進んでいきますが、女性のような急激な閉経を迎えることがないため、通常は穏やかに進んでいきます。
2.更年期からの骨粗しょう症予防
更年期からは、女性ホルモンが乱れ始めますから、閉経に備えて、骨量をしっかりと上げ、維持することがとても大切です。
カルシウムだけではない、必要となる栄養素と骨粗しょう症を防ぐ運動のポイントをお伝えしましょう。
2-1.骨密度だけでなく骨の質が重要
まず、大切なことは、骨粗しょう症を防ぐには、骨密度だけ増やせば良いわけではないということです。最近では、骨の質が低下することも骨粗しょう症の原因だと考えられています。
方程式は、
「骨密度」+「骨質」=「骨強度」
です。
骨は、硬いコンクリートのような部分だけでなく、強度を保つために、鉄筋のようなタンパク質の繊維が張り巡らされています。
コンクリートの部分が、骨密度に影響を与え、主にカルシウムやマグネシウム、リンなどのミネラル分で作られます。
鉄筋部分は、コラーゲン繊維でできています。
骨の50%は、実はコラーゲン繊維なのです。
コラーゲンといえば、お肌のイメージですが、骨や血管の弾力にも欠かせません。
骨は、このコラーゲン繊維に、ミネラル分が均一に沈着して構造化されることで、骨密度と骨質が維持され、骨強度が維持されます。
骨の強度を保つには、硬いだけではなく、しなやかさも大切なのです。
2-2.骨に必要な栄養素や食品
1.骨質を改善するコラーゲンの素
・コラーゲンを含む食品やサプリメント
体の中のコラーゲンを増やすために、「コラーゲンを摂らなきゃ!」と思われるかも知れませんが、コラーゲンは、タンパク質なので、胃や腸で一旦消化され、ペプチドやアミノ酸にまで分解されます。
そのため、コラーゲンが含まれる動物や魚の皮やコラーゲン鍋などを食べても、全てが体のコラーゲンになるわけではありません。
タンパク質は、消化酵素の働きによって、胃でペプチドになり、腸でアミノ酸にまで分解されます。
以前は、アミノ酸にまで分解されてしまうため、タンパク質であるコラーゲンを食べても、タンパク質補給にしかならないと考えられていました。
ただし、最近の研究結果では、コラーゲンの一部はアミノ酸に分解されずに、コラーゲンペプチドの状態で腸から吸収されるということがわかってきました。
腸で吸収されたコラーゲンペプチドは、骨や皮膚、血管、など全身で活用されます。
私自身は普段、主にタンパク質補給の目的で、コラーゲンプロテインを摂取していますが、コラーゲンを増やす目的であれば、「コラーゲンペプチド」と表示してあるサプリメントを選ぶと利用効率が良いですね。
・体内でコラーゲン合成を助ける鉄とビタミンC
コラーゲンを体内で効率よく、合成するのに欠かせない栄養素があります。
まず、原材料となるアミノ酸。
タンパク質を含む食品をしっかり摂取することです。
それから、コラーゲン合成の触媒として欠かせないのが、鉄とビタミンCです。
ビタミンCは、コラーゲンの構造も強くします。
ビタミンCはストレスで簡単に消費されてしまいますから、毎日、食品やサプリメントで、こまめに摂取することです。
閉経前の女性に多い「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)」は、コラーゲン合成の低下の大きな原因となります。
ぶつけた覚えがないのに、足に青痣ができる女性はかなり多いと思いますが、これは鉄不足によって毛細血管のコラーゲンが低下してしまい、少々ぶつけただけで内出血してしまう状態です。
これは、鉄欠乏のサインであると同時に、骨粗しょう症リスクありと考えて、鉄不足を改善しましょう。
「隠れ貧血」について詳しくは、こちらの記事もご参照ください。
https://wellmethod.jp/indefinitecomplaint_hiddenanemia/
2.骨密度に必要なミネラル兄弟
骨を作るミネラルは、カルシウムだけではありません。
カルシウムとリン酸のハイドロキシアパタイト、そして、カルシウムのブラザーミネラルと呼ばれるマグネシウムも不可欠です。
ブラザーミネラルと呼ばれるマグネシウムが不足すると、カルシウムの値も同時に下がってしまいます。
特に、カルシウムだけを摂取して過剰になってしまうと、ブラザーミネラルであるマグネシウムの吸収を妨害してしまうため、バランスが大切です。
さらに、リンは、骨に必要な栄養素ながら、加工食品やインスタントフードに含まれるリン酸塩系の添加物として摂取すると、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を排泄してしまうため、ミネラル不足を加速させてしまいます。
日本は、火山灰が積もってできた地層のため、土壌自体にカルシウム、マグネシウムなどの重要なミネラル分が不足しています。そのためその土からできる野菜にも、それらのミネラル分が不足しがちとされています。
・カルシウム
カルシウムは吸収の悪いミネラルですが、乳製品には、CCP(カゼインホスホペプチド)というカルシウムの吸収を促進するタンパク質も含まれていますので、腸管からの吸収率が高まります。ただし、牛乳が体質的に合わない場合に、無理に牛乳からカルシウムを摂取する必要はありません。
小魚やいりこ出汁、干しエビ、また、小松菜やチンゲンサイなどの葉物野菜も重要なカルシウム源です。
・マグネシウム
マグネシウムを含む食品としては、海藻類、大豆、ナッツ類、魚介類などがあります。
さらに、海の塩を煮詰めて作った自然海塩、にがりで固めた本格的な豆腐などにも含まれます。
カルシウムとマグネシウムを含むサプリメントは、通常、最も効率的に働くとされる2:1~1:1の割合で配合されています。
3.骨密度に不可欠なビタミンDとビタミンK
骨密度の維持に不可欠なビタミンといえば、ビタミンDとビタミンKです。
ビタミンDは、カルシウムの吸収を促し、ビタミンKは骨形成を促します。
・ビタミンD
太陽のビタミンと言われるように、皮膚に紫外線B波が当たることで体内で合成されます。
食品からは、サケ、ウナギ、サンマなどの魚、また、干し椎茸などに含まれます。
日光を避ける生活では不足しがちになりますので、食品からしっかりと摂取することが大切です。
・ビタミンK
ビタミンKは腸内細菌からも合成されます。
納豆、小松菜やほうれん草などの緑黄色野菜にも含まれますので、不足しがちにはなりません。
4.女性ホルモンのサポートに豆製品
閉経に伴う女性ホルモン・エストロゲンの急激な減少は止めようがないものですが、女性ホルモンのサポートをする働きがある植物性のエストロゲン(フィトエストロゲン)を含む食品が注目されています。
特に、有名なのは、大豆のイソフラボンですね。
大豆以外にも、小豆などの豆類には、イソフラボンが含まれています。
イソフラボンは、腸内のエクオール産生菌の働きによってエクオールに転換されることで、より効率的に働くことがわかっています。
腸内環境を改善するシンバイオティクス食品を摂取しながら、豆製品を摂取することが大切です。
私は、おかずとして味噌汁や納豆を日常的に食べていますし、おやつには洋菓子の代わりに小豆を茹でたりしています。
残念ながら、腸内環境が悪化するとエクオール 産生菌を保有しながら、それが機能していない人も多いのですが、その際は、エクオール自体をサプリメントとして補う方法もあります。
エクオール産生菌についての詳細は、こちらをご参照下さい。
https://wellmethod.jp/equol-producing_bacteria/
2-3.運動しないと骨はサボる
どんなに栄養素を補っても、運動しないことには骨は強くなりません。
私は患者さんに「運動しないと、骨もサボりますよ!」とお伝えしています。
骨は、日常的に負荷をかけていると「強くならなければ折れる!」と考えて、強度を高めます。
その一方で、日常的に運動をせず、負担を感じないと、「まぁ、これぐらいでいいかっ!?」と仕事をさぼってしまうのです。
長期間無重力状態で生活する宇宙飛行士は、骨粗しょう症のリスクが高くなることが知られています。
1.骨が刺激を感じる運動を日常に
要するに、物理的に骨が刺激を感じることが大切なのです。
浮力のかかる水泳ではなく、パワーウォーキングやジョギング、ダンス、テニスなどのスポーツ、トレッキングなど、自分の好きな方法で良いですから、足腰をしっかりと使い、骨が刺激を感じる運動を日常に取り入れてみましょう。
骨密度が低い人が、急激に負荷がかかる運動をすることは、骨折や関節炎などを引き起こして危険ですから、運動不足の人は、負担の少ないウォーキングなどからスタートして徐々に強度を高めていきましょう。
2.柔軟性を高めることも重要
同時に、骨折を予防するには、柔軟性も大切です。
ストレッチやヨガなどを行い、筋膜や腱を十分に伸ばしてしなやかさを高めましょう。
本当の強さは、硬いだけではなく、しなやかさがある状態です。
頑固な人よりも、しなやかで柔軟な人の方が、実際には変化やストレスに強いですよね。
骨格や筋肉も同じで、硬さだけでなくしなやかさを併せ持つことで、本当の強さを発揮します。
更年期以降は、硬さと同時にしなやかさも意識しながら、本当に強い心身を作っていきたいですね。
この記事の執筆は 医師 桐村里紗先生

桐村 里紗
総合監修医
・内科医・認定産業医
・tenrai株式会社代表取締役医師
・東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座 共同研究員
・日本内科学会・日本糖尿病学会・日本抗加齢医学会所属
愛媛大学医学部医学科卒。
皮膚科、糖尿病代謝内分泌科を経て、生活習慣病から在宅医療、分子整合栄養療法やバイオロジカル医療、常在細菌学などを用いた予防医療、女性外来まで幅広く診療経験を積む。
監修した企業での健康プロジェクトは、第1回健康科学ビジネスベストセレクションズ受賞(健康科学ビジネス推進機構)。
現在は、執筆、メディア、講演活動などでヘルスケア情報発信やプロダクト監修を行っている。
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」には腸内環境評論家として出演。その他「とくダネ!」などメディア出演多数。
- 新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)』
- tenrai株式会社
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著作・監修一覧
- ・新刊『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)
- ・『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』(光文社新書)
- ・「美女のステージ」 (光文社・美人時間ブック)
- ・「30代からのシンプル・ダイエット」(マガジンハウス)
- ・「解抗免力」(講談社)
- ・「冷え性ガールのあたため毎日」(泰文堂)
ほか